軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

501 受難のセーラー服

五百一

「なんてこった……。そんな重要そうな人物の姿を激写してしまうなんて……私はもしや、運命に愛されているのでは!?」

ミラの話を聞き終え、写真に写った女性がどういう存在だったのかを概ね理解したアストロは、次の瞬間に歓喜していた。

オカルトなどに興味を持つきっかけとなった心霊写真。その結果、幽霊船調査にて精霊王ですら理解しきれていない幽霊と遭遇。しかもその成仏にまで立ち会う事が出来た。

すると今度は、きっかけの心霊写真の方にも、またとんでもない偶然が秘められていたというではないか。

ただの心霊写真ではない。そこに写っていたのは、どこの誰ともわからない浮遊霊ではなかった。なんと精霊王が知っている遠い過去に生きた存在だった。これほどの偶然など、そうありはしないというものだ。

だからこそアストロは余計に興奮し、もしかしたらまだあるかもしれないなどと言い出した。そして自身が撮影した分なのだろう展示された心霊写真を一枚一枚手にしては、「この人物はどうだろうか?」と確認するよう差し出してくる。

「ふーむ……特にこれといって、じゃな」

先ほどのような偶然もあったのだ。もしかしたらと念のために付き合うミラ。とはいえ、心霊写真の展示コーナーから漂う不穏な気配は相変わらずであるため、ミラは受け取らずにそのまま覗き込むように見やった。

一枚、十枚、二十枚。「あれ……? もう一枚あったはずなんだが」なんて心霊写真の一枚がどこかに消えてしまいながらも、精霊王達と共に確認した残りの写真。けれどそこにはもう、これといって気づくような何かはなかった。

ただただ、不気味だったり寒気がしたり危機感を覚えたりと、不可解な現象に見舞われただけだ。

(何か……見るたびに近づいてきているような気がするのじゃが!?)

薄らと写っていたり、はっきりと写っていたり。見るたびに変化しているように感じられるものや、よく見なければわからないもの、もはや写真全体に現れているものまで。アストロが見せてきた心霊写真は、それこそ多種多様だった。

しかも中には、格別に気味の悪いものもあったりするのだから大変だ。

「まあ、もういいじゃろう! そもそも偶然がそう何度も起きたりはせぬよ。ではわしは戻るのでな。さらばじゃ!」

もうこれ以上、写真を見るのは止めた方がいい。そして早くここから立ち去りたい。心のどこかで何かが警鐘を鳴らすのを感じたミラは、口早にそう言って心霊写真の展示コーナーより逃げ出した。

「神殿跡の確認……っと」

画像技術総合研究開発部を後にしたミラは、そのままもう寄り道はせずに自分の部屋に戻った。そして今後の予定表に新しい項目を追加してから、部屋でも出来る研究に没頭し始める。

セーラー服を脱げない今だからこそ、この期間を穏便に過ごすための引きこもりだ。

「──しかしまた何というか……やはり可愛いのぅ」

少し休憩と立ち上がったミラは、部屋の片隅に置かれた姿見の前に立ち、改めて自身のセーラー服姿をじっくり観察する。

美少女とセーラー服。経緯だ何だという細かい事を考えなければ、正しく最上級の組み合わせであろう。

色々な角度から自分自身を眺めるミラは、その圧倒的ともいえる完成度に、これはもはや芸術の域ではないかとご満悦だ。

「──ああ、青春じゃのぅ……」

そして完璧過ぎたからこそミラの頭は自然と理想を描き始め、妄想の思い出が脳内に浮かんでいく。

セーラー服、通った女子校、仲良しの親友、汗が飛び散る部活動、学校で一夜を明かした文化祭前夜。儚かった現実の青春時代を頭の隅に追いやって妄想するのは、夢の花園な百合色ライフ。

女子だらけの学園生活を過ごせていたら、どんなに楽しかった事だろう。現実のそれを知らぬからこそ、ミラの頭の中では男が理想とする女子校ライフが繰り広げられていった。

「──ほほーぅ。このスカート、ポケットが一つしかないのじゃな。はて、なぜじゃろうか」

めくるめく夢想の世界に浸りながらも、その最中にミラはセーラー服のあれこれを確かめていた。思えばセーラー服をこれだけじっくりまじまじと見られる事などあり得なかったからだ。

そこで気づいたスカートのポケット。プリーツの向きという理由でポケットは片方だけだが、特に詳しくないミラは何でだろうと首を傾げる。

「お、ここもポケットか」

考えるものの、どうしても気になるというほどではないのか、ミラの目線は続き胸元にあるポケットに移った。

胸元のポケットといえば、懐中時計だ。そしていざという時に銃弾や凶刃を防ぎ助かったというのが定番だが、果たして女子はここに何を入れるものなのか。

「ん、何か入っておるぞ?」

そんな事を考えながら何気なくポケットに手を入れてみたところ、特にこれといって入れていないはずが何かあると驚くミラは、いったい何がと覗いてみる。

もしかしたら、検査のために必要な何かかもしれない。そう思い慎重に確認したところ、次の瞬間に「……え?」と、まるで狐につままれたかのような声を上げた。

そして次にはこれまでと一転して、その顔に焦りと緊張を浮かべながら、ポケットに入っていたそれを取り出し──

「ほああああっと!」

思わずそれを投げ捨てた。そして妄想の世界から一気に現実に戻ってくると、恐怖に似た感情を目に宿しながらひらりと落ちるそれを見据える。

「いったい、いつじゃ!? どのタイミングで入れられた!?」

警戒しながらミラが見つめるそれは、一枚の写真であった。

しかし、ただの写真ではない。一目で異常だとわかるものがありありと写し出された、見紛う事なき心霊写真だったのだ。

もしも普段であったならば、驚きはするものの、怯えるというほどまではいかなかった事だろう。

けれど少し前に心霊写真が集められた場所で気味の悪い体験をしていたため、今回のそれはミラにとってのクリティカルヒットとなった。

「悪戯のつもりで最初からか……? それともわしを驚かせようとして、写真を見ていたどこかのタイミングで……?」

なんて性質の悪い悪戯なのだろう。ミラは床に落ちたそれを警戒しながら、いったい誰が犯人なんだと推察する。

容疑者の一人は、このセーラー服を作ったオペミトランだ。セーラー服完成後、そっと写真を忍ばせて驚かせようなどと思ったのかもしれない。

だが、彼が固執しているのは学園絡みだけだ。このような悪戯をするとは考え辛い。

次に浮かぶのはセーラー服と一緒にメッセージを残していたミケだが、彼女にもこういった悪戯を仕掛ける趣味はない。

加えて、いつこれをミラが見つけるのかわからないのだから、そのリアクションを楽しむという理由であった場合、このやり方はあまりにも杜撰過ぎる。よって最強装備制作者陣に犯人がいるとは考え難かった。

そこでもう一人思いつくのはアストロだ。そもそも心霊写真など、あの場所にしかないだろう。

しかし、胸ポケットに何かを入れられたりでもしたら気づきそうなものだ。加えてアストロもまた、そのような悪戯で喜ぶようなタイプには見えなかった。

ではいったい、そのようなものがなぜセーラー服の胸ポケットに入っていたのか。

と、そこでミラの脳裏に、ふとアストロが口にしていた言葉が甦った。呟くように言っていた、『あれ……? もう一枚あったはずなんだが』という言葉が。

「もしや……」

これがその一枚だったりするのではないか。そこに思い至ったミラは背筋をぞくりと震わせながら、一歩二歩と更に写真から距離をとる。

もしも誰かが仕掛けた悪戯ではなかったとしたら。それが自らポケットに忍び込んでいたのだとしたら。

「いやいや、まさかそんな事あるはずもないじゃろう」

それこそ、完全にオカルトだ。そう実に馬鹿げた想像だと笑うミラだが、そんなオカルト染みた現象をこの短期間で数度目にしていた。

ならば心霊写真が独りでにというのも、十分にあり得るのではないだろうか。

「いったい、なんのつもりじゃ……!?」

そこに思い至ってしまったミラは、思わずといった様子で心霊写真に話しかける。だが当然ながら返事などなかった。そしてその沈黙が、余計に不気味さを際立たせていく。

ミラはその沈黙に耐えかねて、次の瞬間に召喚術を行使していた。

そして喚び出したのは──。

「どんな不思議もにゃにゃっと解決! 心霊探偵事務所、所長。猫目屋にゃ門の登場ですにゃ!」

軽快ながらもちょっぴりシリアスな表情でやってきた団員一号は、梵字の描かれた着物を纏い、手首には数珠、そして首に注連縄のようなものを提げていた。加えて、ほんのりとお香のような匂いまで漂わせている。

いったい今度は何に影響されたのか。先日までの幽霊船調査が原因か。すっかりオカルトに浸かった状態の団員一号は、こうして威風堂々と降り立った。

「……まあ、丁度よい! 今こそ出番じゃぞ!」

どこでそれらの衣装を調達してきているのか。さりげなく団員一号のその辺りも謎に包まれているが、今はそれよりも目の前の心霊写真だ。

たまに人には見えていないものが見えているような行動をする猫。そして前回の調査で、その一端を覗かせた団員一号。だからこそ今回も何かわかるのではないかと、こうして召喚したわけだ。

「小生が、ズバッと解決してみせますにゃ!」

前回の活躍ぶりもあってか、それはもう自信満々に答えた猫目屋にゃ門は、いざ今回の調査対象を調べるべく振り向いた。

床に落ちている心霊写真。そちらに目を向けた直後──。

「ひにゃっ!?」

猫目屋にゃ門は、それこそ猫の如き俊敏さでもってミラのセーラー服の中に飛び込んでしまった。

「おおっと! 何じゃどうした!?」

襟から覗いてみたところ、猫目屋にゃ門は怯えた目でこう言った。「あれは、駄目なやつですにゃ……」と。

いったい何が見えたというのか。お気楽でお調子者な団員一号を、ここまで怯えさせるものとは何なのか。猫目屋にゃ門がこの状態では、もはや何もわからないが、この時点でやる事は一つ。

ミラは一も二もなく脱兎の如く部屋から飛び出した。

夕食の時間、ミラの姿は食堂に向かう廊下にあった。なお部屋に放置した心霊写真については解決済みだ。

やはり予想通り、その心霊写真はアストロが言っていた『もう一枚』だった。よって「こんな事もあるんだな」と気楽な言葉と共にアストロが持ち帰ってくれたため、もう安心だ。

なおその際に猫目屋にゃ門が、急におどろおどろしい感覚がなくなったと発言していた。そして、もしかしたら団長に嫉妬したのではないかといった推理を披露した。

心霊写真に写った何かは、アストロを好いていたのかもしれないと。だからこそ親しげに近づいたミラに、あれほどの敵愾心を燃やしたというわけだ。

「うむ、大丈夫……」

あくまでもそれは、考えられる数多の推測の一つであり、それが真実とは限らない。

何といっても精霊王ですら把握しきれていないオカルト現象だ。どのような意図があって付いてきて──憑いてきてしまったのかは闇の中である。

ただ念のために、あれから何度かセーラー服のポケットを確認しているが、今のところまたこっそり入っている事はなかった。ミラはその都度胸を撫で下ろしては、二人の関係を邪魔する気なんて微塵もありませんと祈るのだった。