軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

487 アジト調査

四百八十七

団員一号と特別魔導調査隊が洞窟に入って行ってから二十分ほどが経過。調査の段取りだなんだを決めていたところで団員一号より調査完了の報告が届いた。

表の偽装術式に余程の自信があったのか。それとも別に何かあるのか。アジト内に危険そうな罠の類は仕掛けられていなかったそうだ。用心のためか、幾つか鳴子のようなものが設置されていた程度だったという。

「では、行こう」

「うむ」

「いよいよだね!」

アストロが勢いよく立ち上がると、ミラとアノーテもそれに続いた。

特別魔導調査隊プラス団員一号が帰還したところで、皆が動き出す。

それぞれの役割分担については決まった。またストルワートドールのスキャン機能によって、アジト内のマップも概ね取得出来ている。

後は各自がやる事をやるだけだ。

幽霊船調査船が太陽の輝く空の下から秘密の洞窟内に進入していく。船首から少しずつ影に呑み込まれていくかのように見える光景は、僅かな不安と見果てぬロマンへの入り口のようだ。

「これまたなんとも、実にらしいではないか!」

洞窟の中に広がっていたのは大きな空間だった。周りから何から岩に囲まれたそこは、一見するとただの空洞だ。

けれど、その脇を見ればすぐに違うとわかる。既にボロボロで朽ちてはいるものの接岸用の桟橋跡が残っており、そこから更に奥へと続く穴があるのも確認出来た。

下調べによるとこの洞窟は港であり、海賊のアジトの中枢は、その穴の奥にあるそうだ。

桟橋跡の傍まで接岸した調査船より、スロープが渡される。そしてアストロを先頭にして上陸し、そのまま穴の奥へと進んでいった。当然ながらミラも一緒だ。「いったい何があるのじゃろうな!」と、アストロの次に続くくらいの張り切りぶりだ。

穴の幅は、人一人が通れる程度の狭いものだった。ただ、そこまで長く続きはせず、十メートル程度進んだところで少しだけ広い場所に出られた。

「この辺りは、たぶんアジトのエントランスみたいなものだったと推察出来ますにゃ」

そのように解説するのは団員一号だ。当然のように同行している彼は、そのように推論を披露する。

いわく、この場所で合言葉やらといったやり取りを交わしていたのではないだろうかと。

「確かに、その可能性は高そうだ」

そんな団員一号の言葉に同意するのは、アストロだ。

見てみると、このエントランスとされる部屋の奥は、また人一人分ほどの狭い穴になっていた。そしてその近くには崩れ落ちた扉の残骸が散らばっている。

その扉が健在だった頃は、きっと向こう側から覗き込んで相手を確認してから開けていたのだろう。そんなよくある光景が思い浮かぶほど、そこには想像を掻き立てられる何かが存在していた。

しかも、唯一見つけた鳴子のような仕掛けというのも、ここにあったという。

床の一部が感圧板になっており、扉の向こうにある装置と連動していた事が確認出来ているようだ。

「おお、このあたりか?」

好奇心に駆られたのか、試しにといった様子でアストロがその辺りを踏む。

ただ何も起きる事はなかった。やはりというべきか、今はもう動かない。アストロは、とても残念そうだった。

そうしてミラ達は、過去に思いを馳せながらエントランスとなる部屋を抜けた。

「いやはや、こいつは驚いた……」

「これまた、想像以上の光景じゃな……」

目の前に広がったのは、海賊『ヴェイパーホロウ』のアジト。その景色を前にしたミラ達は、一様に感嘆の言葉を口にする。

そこは、海賊のアジトといって思い浮かぶ情景とは少し違っていた。

そこにあったのは空まで広がる空間であり、だからこそ太陽の光が差し込む大地でもあったのだ。

季節は冬でありながら、一面に見えるのは色とりどりの花畑。見渡せば見渡すほど、岩の合間より差し込む光と煌めく花畑が幻想的に映り、思わず魅入ってしまうほどだ。

ここは、岩場に囲まれた海賊のアジトというより、忘れ去られた楽園とでもいったような場所だった。

「うわぁ、すっごいね」

その景色を見回しながら、感嘆したように声を上げるアノーテ。また他の調査員達も、この場所を目にするなり圧倒されたかのように息を呑む。

既にアジトとして使われなくなってから数百年と経っている事もあってか、そこは植物に埋め尽くされていた。

けれど、ここは確かに『ヴェイパーホロウ』のアジトであったのだろう。そこかしこに生活の痕跡などが見て取れる。

当時はきっと小さな村のような光景がここにあったはずだとわかる痕跡だ。しかし今は、自然に覆い隠された遺跡とでもいった状態だった。

「あれとか、あのあたりとか、なんか凄い気になる……」

そんな中マノンが注目するのは、そこら中に点在する建造物。石造りの小屋が、長い年月の過ぎ去った今でも存在していたのだ。

自然に覆い尽くされた中にある人工物というのは、なぜこうもときめくのか。全員の興味が、その小屋に集中する。中はどうなっているのか、『ヴェイパーホロウ』のお宝とかが残っていたりするのか、当時の史料になる何かでも残っているのか。

多くの希望と願望が渦巻く中、そこに一石を投じたのは団員一号だった。

「あの小屋には、色々なものが残っていましたにゃ!」

そのように内部の状況を口にしたのだ。

先行調査にて罠の有無を調べていた際、小屋にも踏み込んでいた団員一号。だからこそ、どのような状態になっているのかは把握していた。

しかし、その時は罠を中心に調べていたため、どのようなものが置かれているのかまでは、しっかり見てはいなかったという。

というよりは、むしろあえて見ないようにしていたそうだ。皆と一緒に一喜一憂したかったらしい。だからこそか、さあ調べに行こうとやる気満々だった。

「よし、行ってみるとしようか」

そこに何があるのかについては、さっぱりわからない言葉だったが、あの小屋に何かがあるのは確実となった。であれば優先的に調べるべきだろうとアストロが言ったところ、調査員達は直ぐチームごとに分かれた。

実に慣れたものである。

見る限り、小屋はあちらこちらに存在していた。よって複数のチームに分かれた調査員達は、ジャンケンでどのあたりの小屋を担当するか決めていった。

「ふむ、いかにもな感じじゃな! ようやった!」

「今日は、勘が冴えわたっていた気がする!」

ミラ達のチームは、ジャンケン女王アノーテの奮闘により中央付近の小屋の調査を担当する事に決まった。

見るとそこには、他よりも立派に見える小屋がある。中央というのは中央だけあって大切なものが集まりそうだという事で、中央調査担当の争奪戦は激しいものだった。だからこそ見事に勝ち抜いたアノーテといったら、それはもう得意げだ。

なお二番手となったアストロのチームは、もう一つの重要そうな地点である、入り口から見て一番奥を勝ち取っていた。そちらもまた何かと集まりそうな場所だ。

そうしてそれぞれのチームの担当場所が決まったら、早速調査開始だ。

ミラ達は当然初めはここだろうと、中央に聳える立派な小屋の前にまできていた。

「なんとまあ立派な鍵。これは期待値上がりまくりよー!」

「凄く頑丈な造りですねぇ」

植物に覆い尽くされながらも力強く佇む石の小屋。直ぐに正面の入り口に駆け寄ったアントワネットと、外観をじっくり確認するユズハ。

その言葉通り、小屋を見てみると分厚い扉と大きな南京錠のようなものがあった。しかも鍵は閉められたままだ。けれど現時点において、それは何の意味も成してはいなかった。

なぜなら、木製の扉は朽ちて地面に転がっていたからだ。今は扉のあった脇の金属輪に、錠前がぶら下がった状態となっていた。よほど大切なものを保管していたのか、かなり大きい南京錠だ。

「さて、何が見つかるかのぅ」

「いっちょ、探しますか!」

小屋の中には何があるのか。ミラが我先に踏み込んでいくと、アノーテ達もまた好奇心を満面に浮かべながらなだれ込む。

そうして見回した小屋は、倉庫のようになっていた。ただ扉が開いた状態で、長い長い年月を重ねたのだ。多くの植物が内部にも入り込んでおり、そこかしこを覆っていた。

調査しようにも、まずはそれらをどうにかするのが先になりそうだ。

「なんかさ、こういう目標の目前で足踏みしているような作業が一番辛いよね」

「わかるー」

刃物を使って蔓草の除去を始めるなり、アノーテが愚痴っぽく呟けば、マイカもまたその通りだと同意する。

と、そんな中で、さりげなく団員一号も[それな]と、プラカードを手にうんうん頷いていたのをミラは見逃さなかった。

先ほどは皆と一緒に一喜一憂したかったからなどと言っていたが、もしや本当はこの作業が面倒だったからではないのか。

と、ミラがそんな疑念を抱いていたところ──。

『ミラさん、ミラさん。ちょっと試してみてほしいのだけど』

マーテルからそんな言葉をかけられたのだ。

試すとは何の事だろうか。ミラが問うたところ、それは試してみてのお楽しみだというマーテルの声が返ってきた。そして同時に精霊王の加護を通じて、マーテルの力がミラの手に流れ込んでくる。

『これまた面白そうじゃのぅ!』

以前にも似たようにマーテルの力を借りた事があった。ただ今回は、あれから更に精霊王の加護が馴染んで来たからか、もっと複雑な力を感じる事が出来る。

これまでにないほどの精霊力を体感したミラは、始祖精霊の力に震えると共に興奮する。

いったい、この力はどういったものなのだろうか。ミラはマーテルに言われた通り、その手を植物の生い茂る方へ向かってかざしてみた。

するとどうだ──。

「お、おお、おおおおお!」

流石は植物の始祖精霊である。まるでその意に従うかのように、蔓草が引っ込んでいったではないか。

自由自在に植物を操作出来るマーテル。その能力の一端をミラの手に宿したという事らしい。

「こいつは楽ちんじゃのぅ!」

刈ったり千切ったりする必要はない。手を向けるだけで蔓草自体がどいてくれるため、あっという間に綺麗さっぱり片付いていく。

その圧倒的な快適さを手にしたミラは、これぞ精霊の真骨頂だと見せつけるようにしながら小屋の中を駆け巡った。

「おおー、なんか凄い」

「何それ何それ、どうやってるの!?」

マノンとマイカは、正に魔法とでもいったミラの作業を興味深そうに見つめている。

「うわぁ、召喚術士ってそんな事も出来るの?」

「まあ素敵だわ! それ、なんだかとっても便利ね!」

ユズハとアントワネットも、なかなかの驚きぶりである。

ただ一人だけ、アノーテだけは何やら悲壮感のある目でミラの事を見ていた。

得意げになっていたミラは、途中でそんなアノーテの視線に気づく。どことなく、可哀想なものを見るかのような、その視線に。

「な……なんじゃろう?」

少し調子に乗り過ぎただろうか。ちょっと自慢し過ぎただろうか。そんな不安を抱きつつ、なぜそんな目をしているのかと問うミラ。

するとアノーテから返ってきた言葉は、そんな予想とはまったく違ったものだった。

「……もしかして植物に嫌われていたりする?」

そう、マノン達と違いアノーテの目には、嫌われ者のミラが植物達に避けられているかのように見えていたらしい。

思えば、確かにそう見えなくもない。だが、まったく違う。

「そんなわけなかろう! これは、精霊の力の賜物じゃからな!」

むしろ愛されていたって不思議ではないくらいだと自負するミラは、そのように答えながら大いに胸を張った。

「あ、そうなんだ。精霊の力って凄いんだね!」

誤解が解けた事もあって、アノーテも感心してくれたようだ。ただそれと同時にマノン達の雰囲気が少し変わり始めてきた。

「精霊の力……」

「精霊以外でも使える……?」

「人でも……?」

「それならもしかして術具にも応用が……?」

マノンとユズハがその言葉に注目すると、マイカとアントワネットがその先の可能性を描き始めた。

精霊の力というのは、一般的な現象とは違った面を持つものが多い。

精霊の火は、酸素どころか空気がなくても燃える。そのため、二酸化炭素などが発生する事がない。

精霊の光は、照らすのではなく満たすもの。光源という光のスタート地点が存在しないため、影すら出来ないのが特徴だ。

そんな特殊性に、日之本委員会の者達が目をつけていないはずがない。マノン達もまた目の前のそれに関心を抱いた様子だ。

「ねぇねぇミラさん──」

だからこそか彼女達は、それはどういったものなのか、どうやって出来るものなのかと怒涛のように問うてきた。

上手く使えれば、驚異的なほどに開拓がしやすくなるかもしれない。やたらと自然を傷つけずに済むようになるかもしれない。場合によっては森林地帯の拡大などにも応用出来るかもしれない。更には都市部でも、手軽に木々や植物を配置する事が可能になるかもしれない。

行動一つから、それだけの可能性を見出すなど流石は日之本委員会の研究者か。

中でもマノンは、自然と都市が融合した夢のような街の実現を夢見ていたようで、特に大きな未来を語る。植物に関して人一倍研究熱心のようだ。

「流石にこれは、わしくらいしか出来ぬじゃろうな──」

何をきっかけに火が着くかわからない。研究者技術者の危うさを再認識したミラは、こればかりは難しいだろうと慎重に答える。

今回の植物操作は精霊王とマーテルの合わせ技だ。よって現時点において再現は難しいと言わざるを得ない。

「そうでしたか……」

召喚術士というよりは、精霊王の影響が。そのように開示しても問題なさそうな部分を交えて説明すると、マノンは残念そうに肩を落とした。

なんといっても精霊王である。今では知恵袋だとか話し相手のご近所さんのような付き合い方をしているが、他者からすれば神にも並ぶような存在だ。

思い付きや実験などで気軽に手を貸してほしいなどと言えるような相手ではないというのが、一般的見解といえよう。

マノンのみならずアントワネット達も、そこまでの大物になっては難しいと諦めムードだ。

しかし、ミラ達の思いとは違い、思わぬ反応が返ってきた。

『それって素敵な考えね!』

マーテルだ。消費するだけでなく、自然と共存し育んでいこうという彼女達の考えに共感したようである。どうすればそんな夢のような街を実現出来そうか、精霊王と相談し始めたではないか。

しかもその勢いは精霊王に有無を言わせぬほどだった。おいそれと出張っては王としての威厳がなどと渋る精霊王であったものの軽く説き伏せられていく。

結果、話し合いは十秒もかからずにマーテルの勝利で終わった。

「……あー、何やらちょいとあれじゃな。協力してくれるそうじゃぞ──」

そしてミラは、とても前向きなマーテルの言葉をマノンに伝える。

植物の事なら何でも任せてという、ある意味最強な言葉と、今度詳細に話し合いましょうという言葉を。

「はい、必ず!」

絶対に約束だと頷いたマノンは、余程感情が昂ったのか「ありがとう!」とミラに抱き着いた。

なかなか悪くない感触だ。ミラはそんな感想を抱きながらも、顔に出さぬよう全力で表情を引き締めて「お主の熱意が伝わったからじゃよ」と答えたのだった。