軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

469 技術融合の可能性

四百六十九

「むふふ。また土産をもろうてしまったのぅ! これもまたマリアナがどのように調理してくれるか楽しみじゃわい!」

海洋技術総合研究開発部ではキングツナをはじめ、幾つもの養殖された魚介類を土産として貰えた。ミラは次の見学先に向かいながら、マリアナにどんな料理を作ってもらおうかと考える。

そのまま焼いても美味しいだろう。煮てもいい。もしくは寿司などはどうだろうか。マリアナは寿司を知っているだろうか。

と、そんな妄想をしている間に到着したのが、次の見学先。『現代技術再現研究開発部』という場所であった。

これまでに見てきた開発部も現代技術の知識などを使って色々と生み出していたが、あくまでもこの世界の在り様に沿ったやり方。いわば、現代技術と魔法技術の融合である。

対して今回訪れた部門で行われているのは、この世界にある魔法的な要素に一切頼らない技術の研究というものだった。

いざという時、そういった要素が使えなくなってしまった時のために──といった理由などではなく、単純に科学技術大好き人間が魔法という便利な力に頼らずどこまで出来るのかを試すための実験場のようなところだ。

「さあ、これを見てくれ。どれだけ吸っても吸引力の変わらないただ一つの──」

そんな開発部の室長、エドウィンが真っ先に見せてきたのは、彼の自信作だというサイクロン式の掃除機だった。

他にも、クオーツ式のデジタル時計だったり、ラジオ無線機だったり、冷蔵庫だったりといったものまで開発しているそうだ。

それらの中でも彼がとっておきだと自慢げに出したのが液晶テレビとビデオカメラだ。

「──そして今は、ドローンの開発も進めている。カメラをもっと小型化して搭載すれば、魔物の動向を探ったりスタンピードなんかを事前に防いだりなんて使い方も出来るはずだ!」

将来の展望について語りながら、ビデオカメラを手に走り回るエドウィン。ドローンにでもなったつもりなのだろうか、見ると液晶テレビにはビデオカメラに映る映像が流れていた。

「ほぅ、こっちは映像と音声にずれがないのじゃな」

テレビとカメラ。ミラはニルヴァーナで、その恩恵を存分に堪能した事があった。闘技大会の予選や様々な催し物を観賞した、イリスの部屋の魔導テレビである。

ただ、その時は若干映像と音のズレが生じていた。エスメラルダいわく、カメラとマイクが別々であるため魔導テレビで流す際に差異が生まれてしまうとの事だ。

しかし、今エドウィンが撮影している映像は違う。揚々と語る彼の声と動きがぴたりと一致していたのだ。

「その通り! このカメラにはマイクも搭載されていてね。映像と音、それぞれに時間を記録出来るようにしてあるんだ。あとはテレビの方でそれを読み取って、同期させているってわけさ」

エドウィンは目の付け所が素晴らしいと、ミラを称賛する。

音と映像をリアルタイムで合わせる事。当たり前のように思えるが相当に難しいそうだ。

「というか、よくぞそこに気づいてくれたね。最近ようやく形になった自慢の技術だ。君からその言葉が出ていなければ、映像と音の歴史から語らなければいけないところだったよ」

そうご機嫌に続けるエドウィン。対してミラは、何気ない気持ちで続きの言葉を口にした。前に見た魔導テレビなるものが少しずれていたので気になったのだと。

するとどうだ。これまで嬉しそうだった表情から一転、彼の顔から怒と哀以外の感情が抜け落ちたではないか。

「あー、あれね。まだ完全じゃないって言ったのに、急ぎだからって中途半端なところでうちの研究成果を持って行って完成させたっていう、あの魔導テレビね。そりゃそうだ。対応するカメラとマイクは別々で、同期させるためのシステムも完璧じゃない。そんな未完成品なんて作ってどうするんだって話だ」

技術者としての矜持があるのだろう。それはもう、文句が止まらないエドウィン。

ただその際に、いったい魔導テレビをどこで見たのかという質問にミラが事情を含めて説明したところ、幾らかは落ち着いたようだ。

命を狙われるので外に出られない少女のために使われており、その少女は大いに喜び楽しんでいた。完璧なものではなかったが、完璧なものが出来るまで待っていたら、その少女の笑顔はなかったかもしれない。

「あの国は時折無茶な要求をしてくるんだが、そうか……あの時のあれにはそんな理由があったのか」

急ぎでどうしてもとねじ込んできたのは、少女のためだった。その理由を知ったエドウィンは、それなら今回は許すと、不貞腐れたような顔ながらもちょっとだけ嬉しそうに笑った。

なお彼が言うに、魔導テレビだけでなく色々と広まっている魔導工学製のあれこれは、その基礎のほとんどが、この現代技術再現研究開発部で開発したものだそうだ。

趣味の要素が強そうな部だが、全体への貢献度は相当に高そうであった。

そうして次にミラが見学でやってきたのは、すぐ隣だ。

ここもまた先ほどと同じく現代技術再現研究開発部であるが、エドウィンが室長を務めている部署とはその研究分野が違っていた。

あちらで研究されているのは、家庭用全般。対してこちらで研究されているのは産業などの、もっと大規模な場面で役立つものだという事だ。

「──って感じで、光に反応して自動で点灯するんだ。現代には当たり前にあったけど、こうして一から作っていくと、やっぱり難しいよね」

大変だが、それが楽しいのだと話すのは室長のアザミ。

彼女が見せてくれたのは、この開発部で一番最初に作ったという街灯であった。思い出深く、それでいて開発と研究の大切さを知るきっかけにもなったと感慨深げにアザミは語る。

「それでこっちが今開発中の浄水装置でーす。これは今までのパワーアップ版どころじゃない、超改良版なのよ。今後、技術が発展すればきっと水の汚染も増えていくと思うから、先に完璧なのを作っちゃおうってわけ」

一見すると理系であり、どことなく知的な印象のある女性だが、あれやこれやと案内してくれるアザミは、笑顔の方が印象的ですらあった。

今でも術具などを含め、浄水系の設備などは幾らか実用化されている。また何よりも、各国の水道施設で稼働している装置の原型は、やはりこの研究所から生まれたものだ。

とはいえ現状で対応しているのは、家庭廃水まで。工業廃水には対応しきれていない状態のため、術具による補助が必要だそうだ。

だが、そんな現状に甘えてなどいられないという事で、完璧な浄水装置の開発に着手したという。

「やっぱり、ここは現代とは色々と違っているんだよねぇ。生き物だとか魔法だとか。……で、これまた結構面白いのが微生物なの!」

アザミは言う。大陸各地の水場を調査した結果、その特別なバクテリアを発見したと。

現代にも数多くの種類が存在するバクテリア。それはこちらでも同じであるが、やはり魔法なども存在するような世界だからこそ、バクテリアにもそういった特徴を持つ種類があるそうだ。

そして新しい浄水装置は、その中の一種を利用したものとの事だった。

「──これがまた凄いの。どんな汚水だろうと清水くらいの水質にまで浄化しちゃうのよ! もうびっくりでしょ!? で、いったい何をどうしたら、そこまで出来ちゃうのかって思ったわけ。それでね、調べたわけ。それはもう詳しくみっちりとね」

よほどの衝撃だったのか。それとも誰かに言いたくて仕方がなかったのか。アザミのバクテリア話は留まるところを知らなかった。

その内容は、同じような道の専門家であったなら、それこそ受講料を払ってでも聞きたいと思うほどのものだった。

だがミラにしてみれば、バクテリアは専攻外だ。ゆえに適当にあしらって逃げるところなのだが、今回は少し違った。

「──そうして八年経ったところで、遂にその答えに辿り着いたの。なんとまさか、このバクテリアは空気と一緒にマナを取り込んでいたのよ! そしてマナを消費して、汚水を浄化していたってわけ! びっくりでしょ!? だってマナを消費するって、言ってみればバクテリアが魔法を使っていたって意味でもあるわけなんだから!」

そろそろ別の開発部に──という言い訳を口にしようとしたところで飛び出したアザミの言葉。そこにあったバクテリアが魔法という部分に、ミラは興味を惹かれたのだ。

「ほぅ、よもや微生物が魔法とな? それはまた興味深い話じゃのぅ!」

これまでに魔法を使う生物として多くの存在を確認してきた。しかも魔法を使えるものは、その中でも比較的高い知能を有するものばかりだ。

それが常識のようにさえ思っていたところで、まさかのバクテリアだ。

そしてミラは、術のみならず魔法についての研究も積極的であった九賢者の一人である。これに興味を示さないはずがなかった。

「して、その際のマナの流れはどのような感じなのじゃろうか──」

「あ、もしかして詳しい系の人!? えっと、ここに研究ノートがあるんだけど──」

気づけば現代技術がどうたらこうたらというところから、バクテリアの研究に話は流れて行く。

興味が一致してしまったがためか研究脳な二人は、そのままバクテリア魔法について一時間ほどじっくり話し込んだのだった。

「しかしまた、水精霊クラスの魔法をバクテリアが使えるとは。この世の中には、まだまだ知らない事が沢山あるのぅ」

実に有意義な時間だった。そう満足しながら廊下を行くミラ。魔法の可能性。そして術式の拡張性について、新たな知見が得られたと満足そうだ。

『聞いた限りバクテリアというのもなかなかやるようだが、浄化ならば我が眷属にとっては、もはや無意識下でも可能な事だな』

と、次の開発部に向かう途中にて水精霊を引き合いに出したためか、何やら精霊王が対抗意識を燃やし始めた。

自然界の環境バランスを維持する役割も持つ精霊達。中でも水質については、水精霊が専門とする領域だ。

そこへ踏み込んできた、謎の微生物。そんな、目に見えないような存在に負けてなるものかと考えたようだ。

『それはもう、流石に水精霊の相手ではないじゃろうなぁ』

当然ながら、水精霊などという神秘の存在が普通にいる世界だ。流石に新種バクテリアとはいえ、その分野では敵うはずもない。

ミラもその点には、同意を示す。

ただしバクテリアの有用性は、それだけで済むような事ではないのが事実だ。

水精霊の手が及ばないところ──社会の中であったり個人であったり、そういった人が所有する場面にて活躍の可能性が広がっているわけである。

ただミラは、『そうであろう!』と精霊王が満足そうであったため、そういった点については触れずにおいた。

「これまた……今まで以上にSFじゃのぅ!」

魔法を使うバクテリアについて話しながら向かった先にあったのは、この研究施設において、特に優秀なメンバーが揃っていると言われた場所だった。

開発室に足を踏み入れたミラは、その光景を前にするなり実に語彙力の乏しい、それでいて誰もがそう感じたであろう言葉を口にした。

だがそれも仕方がないのかもしれない。何といってもそこは、これまで以上に機械だらけであったのだから。

正面の壁には大きなモニターがびっしりと嵌め込まれており、様々な場所を映していた。

また、制御用のコンソールなどであろう装置や端末といった設備がずらりと並んでいる。

それらを全てひっくるめて一言で表すとしたら、管制室という言葉がしっくりくるだろう。

何かの技術の最前線。そんな雰囲気がひしひしと感じられる空間であった。

「お、わかる? わかる? やっぱそうだよな。SFといったらこうだよな!」

そう嬉しそうに笑うのは、開発室の室長であるアラトだ。

この部屋は彼なりのこだわりを形にしたものだそうで、ミラが見て感じた通り、そのイメージでデザインしたそうだ。

テーマは、SF。そんなイメージのある場所とは、いったいどういうところなのかというと『宇宙科学技術研究開発部』であった。

なんと日之本委員会は、既に宇宙の未来を想定して動き始めていたのだ。

見るとモニターにはロケットの試作機らしきものが映っており、更には人工衛星までが開発中のようだ。

アラトいわく、ここでは現代科学と魔導工学を融合させた最新鋭の宇宙技術を研究しているとの事だった。

特に魔導工学による可能性の広がり方が凄いらしく、中でもアイテムボックスの技術が、あらゆる面で活躍しているそうだ。

「もしかしたら、いずれ月にも行けたりするようになるのじゃろうか?」

そんな発展していく宇宙技術を前にしたミラは、ふと前に精霊王が言っていた事を思い出した。

それは、三神が今は月にいるという話だ。

もしもこのままロケットが完成して月にまで到達したとしたら、そんな神の秘密が一つ明らかになってしまうのではないかという懸念が生まれた。だからこその質問だ。

ただ、それに対する答えは、そこまで慌てるようなものではなかった。

「まあ、いずれはそうしたいところだけど、まだまだずっと先だろうね。色々と作ってはいるけど、全部はりぼてみたいなものさ。今はどんなものが必要そうかっていうのを把握するために、試行錯誤している状態かな。それに頑張ってはいるけど現時点では現代科学の一割程度しか再現出来ていないし、これからまだ数十年は、この調子だと思う」

というのがアラトの答えであった。

宇宙に行くと行っても、当然ながら簡単な事ではない。行くためのロケットの開発もそうだが、まず何よりもこの世界の宇宙とはどういう状態の場所であるのかが精密に観測出来ていないのが問題だという。

ゆえにその調査が先であり、まだまだ目標には程遠いというのが現状だそうだ。