軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

458 質問コーナー

四百五十八

「さあ、続きましては皆さんお待ちかねの、こちらになります!」

帰還した九賢者のこれまでについてが語られた後は、これからについての話だ。司会者が舞台上に立ててある看板を指し示せば、『これからの事』という文字が現れた。

そうして特別ステージは、続いて九賢者達への質問コーナーへと変わっていく。

これまでどうしていたのかについては一応ながらも語られてはいるが、他にも知りたい事は沢山あるだろう。なんといっても三十年ぶりの帰還なのだから。

当時の九賢者を知る者。そして物語の中でしか知らない者。どちらにしても、抱く興味は相応だ。

司会者が「さあ質問のある方、どうぞ手を挙げてください!」と呼びかけるや否や、我こそとばかりに沢山の手が空に向かって突き出された。

「えーと、それではそちらの赤い帽子の方、どうぞ!」

誰にしようかなとでもいった仕草で観衆を見回した司会者は、パッと目に入ったというような顔で、その一人目の質問者を選び出した。

選ばれた男は「よしっ!」と喜びを露にしながら、その質問を口にする。

「アルテシア様は国の事を考えて連絡をしなかったとの事ですが、養わなければいけない沢山の孤児達が増える事よりも九賢者のアルテシア様がいらっしゃる方が、特に当時の状況からして有利だったと思うのですが。如何でしょう」

その質問は、確かにもっともな内容であった。

疲弊しきっていたため、沢山の孤児達で国の財政を圧迫する事を避けようと判断したアルテシア。

だがそれは彼女の独断であり、実際のところはアルテシア自身が帰還するだけで、それ以上の価値があった。九賢者の一人が戻ってきてくれるのなら孤児の百人や千人など、どんとこいというわけである。

そしてこの質問は、様々な展開を予想したソロモンが予め用意して観衆の中に紛れ込ませていた関係者によるものでもあった。

答えづらい内容の質問が来る前に、先んじて幾らか質問内容の方向性を提示し、逸脱してしまわないような流れを作ってしまおうというわけだ。

「えっと、そうよね。もしかしたらそうした方がよかったのかもしれないわ。ただあの頃は、そういったところをじっと考える余裕がなかったの」

対してアルテシアは、あれやこれやと理由を付ける事もなく、その当時に思った事をそのまま答えていた。

ゲームが現実になったという、あり得ない状況。そこに加えて飛び込んできた、戦災孤児の存在。彼女にしてみれば九賢者という立場など軽く吹き飛んでしまうのも当然というわけだ。

「まあ、もう一つ。自分にそこまでの価値があるとは思っていなかったっていうのも正直なところなんだ。九賢者だとか言われているけど、俺達は好きにやっていたらいつの間にかこうなっていたって感じだったからな」

更にラストラーダが言葉を続ける。

将軍としての立場。現実で考えるならば、その重さというのは計り知れないものだ。

けれど、この現実になった世界に降り立ったばかりの場合でいえば、まだまだゲームの感覚が存分に残っている時期だ。将軍としての心構えだとか、将軍としての意識を持てというのは、ただゲームをゲームとして楽しんでいたプレイヤーには難しい話であろう。

しかも九賢者──ミラ達にしてみると、それこそ興味や探求心の赴くままに行動していた結果、気づけば術士最強などという立場になっていた状況である。

とはいえそれはミラ達、また元プレイヤー達にとっての認識だ。ここにいる民衆にしてみれば、九賢者はアルカイト王国の英雄であり、国家戦力であり、国の守りを担う将軍なのだ。

「──ただ、その立場を離れて子供達の世話をしていくうちに、その大切さに気付けたんだ。俺達は、必要とされていたんだなってさ」

だからこそラストラーダは、感慨深げにその言葉を口にした。

とはいえ孤児達をそのままにはしておけない。ゆえに意を決してソロモン王に相談して孤児院を新設してもらい帰ってきたのだと、今日に至るまでの流れを改めるようにして話した。

「その分、この立場に見合うように活躍してみせるからな。皆、よろしく頼むぜ!」

最後はもはや勢いだけで突き進み、言葉を締めたラストラーダ。ただ途中で色々言っていたものの観衆にしてみれば最後のその一言、活躍してみせるという部分が何よりも響いたようだ。質問に対する答えは、そのまま拍手で受け入れられた。

そのようにして始まった九賢者質問コーナー。そこから更に簡単な質問や難しい質問、きわどい質問などが挙がっていった。

とはいえそれらもソロモンによって調整された質問であり、ギリギリながら波風立てる事なく答えられる範囲に収まった絶妙な加減のものだった。

うまい具合に国家機密などに触れる部分を回避しつつ、皆が気になるような点を公開していく。

そうして流れもそこそこにコントロール出来た頃合いを見計らって、仕込みではない観衆からの質問のピックアップが始まる。

「今後、アルカイト学園の運営や授業などにおいて、九賢者様方が関わったりするのでしょうか?」

そのような質問も挙がった。現時点では、時折ルミナリアが視察する程度でしか九賢者との接点がないアルカイト学園。

とはいえ術士最高の教育機関ならば、もっと関わって、その強みを更に生かすべきというものだ。

けれど今までは、それが難しかった。ところどころで賢者代行が出張るくらいだった。

理由は、とても単純な事。九賢者がルミナリアしかいなかったからだ。それでいて深く関与してしまったら魔術科だけ特別扱いされていると、他科のモチベーションが低下する恐れがあった。ルミナリアが学園にあまり顔を出さない理由は、面倒だからだけではないのだ。

「ええ、それはもう。私達で教えられる事があるなら、授業とかもしてみたいと思っているわ!」

その質問に答えたのは、アルテシアだった。というより誰が何を考え発言するよりも早く、そう答えていた。

実際のところ、まだ全ての九賢者が揃ったわけではないため、それぞれの科と差が出来てしまうのは避けられない状態だ。

現時点においていえば、退魔術科と召喚術科が九賢者不在のままという扱いになる。特に召喚術科の者達は、これまでの状態もあり相当な不満を感じる事だろう。

よって九賢者がアルカイト学園の運営や授業に関与する前に、そういった部分の穴埋めだったり調整といったものだったりを進める必要があったわけだ。

関与していくと発表するのは、少なくともそれらが整った後が理想だった。

けれど、まさかのアルテシアである。これにソロモンは苦笑するしかなかった。彼女の人となりを考えれば、このような質問が来たら真っ先にそう答えてしまうだろうという事を。

アルカイト学園で沢山の子供達を相手に授業をする。そんな環境が実現出来る可能性を前にしたアルテシアが、我慢出来るはずがない。その実現に向けて前向きに発言するのは、火を見るよりも明らかであった。

「おお……なんと素晴らしい! お答えいただきありがとうございます!」

質問した男は、それこそ打ち震えながら歓喜した。そして同時に観衆がどよめくなり、瞬く間に騒ぎとなった。

それもそのはず。大陸最強と名高い九賢者が帰ってきたばかりか、学園の教育にも関わっていくというのだ。

つまりアルカイト学園の生徒になれば、九賢者の教えを受けられるという意味である。最高峰の術士教育機関が、名実共に最高の術士教育機関へと進化する事が確定となった。

現在、アルカイト学園に在籍している子供を持つ者、また入学させようとしている者、入学を検討している者、その全ての者達にとって、アルテシアの発言は希望に満ちた朗報であった。

「あらあらぁ……」

ちょっと勢いが過ぎてしまっただろうか。白熱する観衆達を前に少しばかり困惑するアルテシア。だが、発言を撤回する気はまったくないようで「出来たら全力で頑張るわ」と意気込んでは、火に油を注いでいた。

「あの、お話にあったソウルハウル様の大切な人って、どんな方なんですか!?」

続いて選ばれた女性が、これでもかというくらいに興味を浮かべて口にしたのは、そんな質問だった。

真実と虚偽を交ぜ合わせた帰還までの物語。中でもソウルハウルのそれは冒険者として堂々と動いていた事もあり、あまり国際的な影響はないという理由から、ほんの一部のみを変更しただけで残りはそのままの物語であった。

だからこそ、どのような強敵と戦ったのかだったり、どれだけのダンジョンを攻略したのかだったりといった内容ならば、九賢者ソウルハウルは健在だという話を幾らでも出来た。

しかしだ。よりにもよってその女性は、虚偽を交ぜたほんの一部のみをピンポイントで狙い撃ってきたではないか。

しかも、そこが偽物だとバレたのかといえばそうではない。女性の目は、真剣そのものだった。

だからこそ、余計に厄介だ。

変更が加えられた、その大切な人について。本来は、ソウルハウルにとって非常に厄介な存在であった女性だ。

大切というよりは、単純に見捨てられなかったというだけの話。憐れに思い助けただけの事。そして、その女性にとってみてもソウルハウルは、どちらかというならば敵のような存在であったはずだ。

そこには、愛だの恋だのといった何かが入り込む余地などないのが現実だった。けれどそれでは少しばかり弱いという理由から交ぜ込まれた虚偽が、その大切な人設定となる。

それがよもやの大ヒットだ。大切な人など親兄弟に親友など色々と可能性のある言い方だが、質問者の女性は、そこに燃えるようなロマンスを見出した様子であった。

(いや、他にもあるじゃろう!? 炎の化身を相手にどう戦っただとか、水晶竜の鱗の余りはどうしたのかだとか、古代秘術の石板の解読を今後どうするのかだとか! 色々あるじゃろうに!)

ソウルハウル帰還の物語は、壮大な冒険譚だった。様々な困難や未知に挑み、多くの魔物や魔獣を打倒してきたのが、流石九賢者とされるポイントである。

彼が経験し乗り越えてきたそれらの中には、ミラもまた興味津々な出来事が沢山あった。

けれどソウルハウルは詳しく教えてくれない。だからこそフリーの質問コーナーで誰かがその点に触れてくれるのを期待し、またきっと触れてくれるだろうと信じていた。

それがまさか、よりにもよって虚偽の部分ときたものだ。しかも、そんな女性の声に呼応するようにして、他の場所からも同じようにそれを望む声が上がり始めたではないか。

ミラは知らなかった。乙女心というものを。そして、そこから生じる熱量というのがどれほどのものになるのかを。

ゆえに大切な人の正体という一点で沸き立つ観衆達をもどかしく見つめ、余計に悶絶する。熱を入れる箇所が違う、もっと気になる点がいっぱいあっただろうと。

ただ、そんな空気に染まっていく中で予定通りだと余裕の笑みを浮かべている者がいた。

ソロモンだ。また、カグラやアルテシアに加えてラストラーダまでも、そうなるよねとばかりな顔をしていた。

ちなみにメイリンは我関せず──というより心ここにあらずといったままだ。どんな質問が来ても大丈夫なように、ひたすら机の上の対応表を睨んでいた。

そしてソウルハウル本人はというと、とても嫌そうに、だが仕方がないとでもいった顔で口を開く。

「どんなって言われてもな。どんなでもない奴だ。ただ、放っておくと寝つきが悪くなりそうだったんで、まあ、なんとかしたってだけさ」

ソウルハウルにしてみれば、もっとトゲトゲした感情があったであろうが、そのあたりは包み隠してあった。虚偽を交ぜた意図については理解しているためだ。

とはいえ、その人物に対して何かしらの思い入れがあるように思われるのだけは避けたかったのだろう。ぶっきらぼう気味な答え方だった。

けれど、それがまた女性陣の心にヒットしたようだ。素直にそうだと言わないところが、また可愛いと。まさかの方向に風向きが変わっていく。

(……なんというか、ご愁傷様じゃな)

大切な人という虚偽を交ぜた時点で、彼女達にとってはそれが真実なのだ。よってこの場はどれだけ否定しようとも、それはもう照れ隠しにしか見えないわけだ。

そして空気がその方向へ傾くほどに、他の隠しておきたい部分などから目が逸れていく。完全にソロモンの作戦通りの展開となっていた。