軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

453 伝説の帰還

四百五十三

(まずは、ジャブじゃな。しかし、わしが苦労して集めたこれが前座に使われるのは、どうも腑に落ちぬ!)

九賢者帰還発表は、当然ながらとっておきだ。まずは手始めの研究成果として、実験段階にあったアルカイト仕様の魔導人形のお披露目が行われた。

汎用型の魔導人形ストルワートドール。これを基礎として、アルカイト王国仕様に改修したプロティアンドールが正式にロールアウトされたのだ。

この開発には、ミラが天魔迷宮プライマルフォレストより回収してきた始祖の種子が大きく貢献している。つまりは、ミラの活躍の賜物とでもいうべき存在だ。

それが九賢者帰還の前に発表されたとあって、ミラは少しばかりご立腹であった。今日の終わりには、話題の全てが九賢者帰還一色に染まっているはずだろうからだ。

とはいえ、舞台裏を知るミラとは違い観衆達の反応はかなりのものだ。

プロティアンドールには、下級の魔物程度ならば十分に対処出来るだけの性能がある。

これを各所に配備すれば、限られた資金と兵力を割いて巡回するよりも、ずっと効率的に周囲の安全を確保する事が出来る。

また何よりも重要なのは、点在する小さな村の警備のみならず、農業や牧畜における働きであった。

ソロモンが発表したのは、プロティアンドールによる警備網の構築ともう一つ。害獣害虫対策用のプロティアンドールだった。

二十四時間、畑や牧場を守る頼もしいカカシを国が貸与するというのだ。

(毎月十万リフか。なかなかの値段じゃが、害獣や害虫の被害が減るのならば、そう高くはないのかのぅ)

その発表があった時、ミラから見える範囲の何人かが飛び上がるほどに喜んでいるのがわかった。

きっと職業は農家か何かなのだろう。これであの憎らしい猪共がと、それはもう煮えたぎった目をしていた。

そんな国のプロティアンドール事業発表開始の次からは、それぞれの担当者達によって大小様々な発表が行われた。

一つ。創薬研究所にて、魔導工学を応用した農薬の開発が終盤に差し掛かっているそうだ。

人体への害はなく、効率的に虫や病気から作物を守る事が出来るという。ただその特殊性から術士でなければ扱えないものだそうだが、プロティアンドールで対応出来るため、術士がいない農場でも十分に利用出来るとの事であった。

(抱き合わせ商法すれすれじゃな……)

プロティアンドールと、低価格で高効果の農薬。狙ったとしか思えないほどの相性だ。

続いては、ローズライン公国との正式な商路開通の知らせや、その関税や流通における注意事項といったものが語られていく。

他にも、自然と共に暮らす新たな街の建設計画や、大陸鉄道利用による旅行の支援プラン、公共工事のお知らせなど。色々と発表されては、観衆達が様々な反応を示していった。

そうして、これで最後という発表が終わったところだ。

「さて、どうだったかな。これが我がアルカイト王国が歩んでいく道だ」

再びステージに上がったソロモンが、そうこれまでの発表を総括する。

それと同時に、沸き上がる拍手喝采。いささか危ない集会染みた気配のある熱狂ぶりではあるが、今のミラはそのような事など気にせず、いよいよ遂にこの時が来たぞと構えていた。

「喜んでくれたようで、私も嬉しく思う。さて、今日はここまで──と、いつもは言うところだが、もう一つだけ発表させてもらおう」

毎年の発表は、再びソロモンがステージに上がったところで締めの挨拶をして終了というものだった。

けれどここで更にソロモンが言葉を続けたためか、いつもの建国祭を知る観衆達は、これまでとの違いにざわめき始める。

その一方、若者達の多くは、なんだなんだサプライズかと声を上げては期待を高めていく。

そんな中には、既に何が発表されるのかを予想する者もいた。

「もしかして、あの金属製の車両じゃないか!?」

「そうかもしれないな。いよいよあれの正体が明らかになるのか!?」

そう予想で盛り上がる観衆達。

ソロモンは、魔導工学で装甲車を作っているという話だ。そして試験走行なども既に行われており、その様子はところどころで目撃されていた。

あれは何だと噂になっては王様が何かしているのだろうという話に繋がり、いつお披露目になるのかと楽しみにしていたわけだ。

遂にその日がと沸き立つ観衆達。

だがそれだけで予想は終わらない。もしかして夜中に空を横切っていったものの正体が、もしかして工房区の地下から聞こえてくる音の正体が、もしかして北の山中に造られている施設の正体が。などと、あれこれ予想を立てては盛り上がる。

(……いったい、どれだけの事業を進めておるのか)

魔導式の装甲車だけではない。まだ公表されていない公共事業が複数ある様子だ。そして、どれもこれもが完全に隠蔽しているというわけではなかった。

だからこそ余計に興味を惹かれるのだろう。その中のどれが明らかになるのかと、観衆達の期待は高まる一方であった。

(しかし、今回はもっと凄い事のはずじゃからな!)

観衆達が色々と期待しているが、これから発表されるのは、そのどれでもない事が確定している。

しかも全員の度肝を抜ける事間違いなしだと、ミラは自信を持って観衆達の反応に注目した。

「──では、まずは見てもらおう!」

そんなソロモンの声と共に、ステージ後ろの砦の門が音を立てて開いていった。

その仰々しい様子に息を呑む観衆達。いったい何が現れるのだろうか。そんな期待に満ちた目が向けられる中、その門から出てきたのはルミナリアであった。

笑顔で手を振りながら、堂々とした足取りでステージ上にまで歩んでくるルミナリア。

(ルミナリアはよいから早く次じゃ、次!)

ミラが見たいのは、自分の努力の成果。つまりは九賢者帰還の反応だ。

ここまでは予定通りとはいえ、ルミナリアがいる事は周知の事実。ミラにしてみれば、どうでもいい事だ。

とはいえ、英雄の一人である九賢者ルミナリアの登場とあってか、ただそれだけで観衆達のボルテージは爆上がりしていた。

しかも男達の声援が大きいかと思えば、女性達の声もまた相応に響いているではないか。

いったいこれまでに、ルミナリアはどのような事をしてきたのか。ミラは近くにいる女性の乙女な表情を眺めながら、きっと碌でもない事だろうと苦笑する。

ステージ上では、ルミナリアが声援に応えるようにして手を振っている。しかも手を振る先が移るにつれて、歓声もまた波のように移動していた。

左側に手を振ったかと思えば、右側に向き直るルミナリア。それと同時に、観衆達の声もまた見事な移り変わりをみせる。まるでアイドルと訓練されたファンの如くだ。

「さて、ここで私が出てきた意味が分かった子は、いるかな?」

ソロモンからその場を譲り受けたルミナリアは、観衆達を見回しながら意味深な問いかけを口にした。

このタイミングでルミナリアがステージ上に現れた意味。

それは何といっても九賢者帰還を告げるのは、やはり現役で活躍している九賢者のルミナリアが適任だと話でまとまったからだ。

また何よりも同じ九賢者であるルミナリアが発表した方が、どこか感慨深くなりそうというのもあった。

とはいえ、そのような裏事情を知る者など関係者くらいのものだ。この観衆の中に至ってはミラのみである。

加えて、これまで長い事音沙汰のなかった九賢者が帰還したなどと誰が予想出来るというものか。

だからこそ観衆達の予想は、まったく見当外れなものばかりだった。

中には、「まさか、結婚するとか、か!?」や「もしかしてルミナリアお姉様が誰かのものに!?」などと言っては絶望した表情を浮かべる男女の姿も見受けられた。

(あ奴が所帯を持つなぞ、カグラが猫嫌いになる以上に有り得ぬ事じゃから心配せずともよいぞ)

そんなまさかと狼狽える者達を眺めながら、ルミナリアに限ってそれはないと心の中で断言するミラ。

男相手はもちろんの事、ルミナリアの女性関係というのも、なかなかの火遊び具合だ。ゆえにルミナリアが結婚するなど、あるなしではなく不可能というものであった。

他にも新賢者のローブ(セクシー)の披露かと期待する男達がいたり、もしかして公に愛人募集かと期待する女性達がいたり、はたまた待望の写真集第二弾の発表かと沸き立つ者達がいたりと反応は様々だ。

「まあ、流石にこれはきっと当たるわけがないと思うから、早速登場してもらいましょうか」

楽しみを引き延ばすのもそこそこに、ルミナリアは悪戯っぽい微笑みを浮かべながら砦の門を指し示した。

それと共に照明が砦の門を照らす。

ゆっくりと開いていく門と、何が登場するのかと息を呑む観衆。

不意に訪れた緊張の一瞬は、それでいて次の瞬間に疑問という波紋を広げた。

とはいえ、ルミナリア以外の九賢者を見たという者が少ないというのも要因だろう。門から現れた二人はアルテシアとラストラーダであったが、それと気付いた者はほぼいなさそうであった。

しかも今の二人は、孤児院に居る時と同じ格好をしている。保母さんシスターと王子様だ。

だからこそ余計に気付き辛く、一体誰だという空気が漂い始める。

「ん、あの二人……知っているぞ。確か新設した孤児院の──」

むしろ今は、孤児院の管理人としての顔の方で知られているようだ。二人を見た事があると観衆の中からちらほら声が上がり始めた。

「いや、あの二人、何かどこかで……」

また、正解に少しばかり近づいている者もいた。何かしらで見覚えがあるようなと首を傾げる。

それはきっと、肖像画だろう。そっくりとは言えないが程よく特徴を捉えているため、そこから似ているという感覚に繋がったようだ。

ただ気付けるのはそこまでであり、その記憶が九賢者にまで結びつくのは難しいようだ。それほどまでに不在だった三十年というのは、長かったと言える。

何となくわかりそうな、けれども確信にまでは届かない。そんな、もやもやした感情とざわめきが広がっていったところだ。

観衆達とは対極的に、どこかハツラツとした笑みを浮かべながらラストラーダがマイクを手に取った。

「ある時は孤児院の副院長、またある時は焼きそば屋の店主──」

そんな言葉と共にステージ上をゆっくりと歩いたラストラーダは、「しかして、その正体は!」と叫ぶと同時に、マイクを空高くへ放り投げた。

その直後だ。突如としてステージ上が白い煙に覆われたではないか。

(しかしあ奴も、ようやるのぅ。まあ、わからぬ事ではないがな)

その煙は、降魔術による煙幕だった。ラストラーダのセルフ演出によるものだ。

先程のセリフと、この煙幕具合からして彼が何をやりたいのかもまた、わかりやすいというものだ。

事前に演出についても聞いていたミラは、「何も見えません!」と驚くマリアナを見やりながら微笑ましげに「もう少しで見えるぞ」と囁いた。

その言葉通り直後に一陣の風が過り、白い煙を全て吹き流していった。

するとどうだ。ステージ上にいた二人の姿が、大きく変わっているではないか。

そう、ほとんどが本物を見た事のない、けれど誰もが知る服装をした二人の姿──賢者のローブを纏ったアルテシアとラストラーダが、そこにいたのだ。

「みんな、待たせたな。知っているなら久しぶり、知らないならば初めましてだ。九賢者が一人、降魔術士のラストラーダ。再びこの地に舞い戻った!」

空から落ちてきた──正確には蜘蛛糸で操ったマイクを華麗にキャッチしたラストラーダは、ここぞとばかりな決め声でそれを告げた。しかもセリフの最後に背景でドーンと爆発する派手な演出までつけての帰還宣言だ。

「え……」

まず最初に爆発の音と光に驚く観衆。ただ、そんな驚きも束の間。それよりも遥かに勝る言葉が聞こえたようなといった衝撃が、爆発の勢いのまま広まっていった。

その結果、一番に浮かんだのは戸惑いであった。

まさか何の冗談だろうかと、盛り上がるどころか半信半疑とでもいった空気が浮かんできたではないか。

とはいえ、それも仕方がないのかもしれない。九賢者とは、既に伝説の域にある存在だ。その一人であるラストラーダの帰還報告は、あまりにも突然であり、あまりにも予想外であり、あまりにも本人がのりのりであった。

加えてラストラーダの賢者のローブは、ローブという名が付いていながら、そうとは見えない代物だ。一見するならば、それこそライダーヒーローの如きデザインなのである。

見た目だけでいえば、目の前のそれはヒーローショーそのままだ。

だからこそというべきか。観衆達にとってみると現実感というものがなかった。アルカイト王国主催の九賢者物語の告知か何かだろうかと思う者までいるほどにだ。

「はい、というわけで困惑するのも無理はないけど、大丈夫。彼は正真正銘、九賢者のラストラーダ本人よ。色々と進めていた捜索活動が、ようやく実を結んだの。そして今回、この建国祭に合わせて発表になったわけ。今一度、この私が宣言しましょう。九賢者のラストラーダが、ここに帰還したと!」

いったいどういう事なのか。憶測が憶測を広めていく中で観衆達の心を一つにまとめたのは、他ならぬルミナリアの言葉であった。

唯一現役で活躍していたルミナリアである。そんな彼女が本物のラストラーダと宣言したとしたら、どうなるか。それはもう火を見るよりも明らかというものだ。

「ルミナリア様が言うなら、もしかして本当に……」

「あの特徴的な姿……確かにそうだ! 見覚えがあるぞ!」

「ルミナリア様だけでなく、この場にはソロモン様までいるんだ。嘘のはずがないんじゃないか?」

「って事は、やっぱり!」

ルミナリアの補足によって、ラストラーダの帰還という一大事が現実味を帯びてきたようだ。

そこに立つ者こそが本物の九賢者ラストラーダだと広まるや否や、観衆達の中で爆発でも起きたかのような、叫びにも似た歓声が轟いた。