軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

440 次世代の息吹

四百四十

次にミラがやってきたのは、ルナティックレイクにある教会。不遇の人工精霊のためにも、『拝謁』してもらおうというわけだ。

「これはこれは精霊女王様、よくぞお越しくださいました!」

「お待ちしておりましたよ、精霊女王様」

「さあさあ、立ち話もなんですから、こちらの部屋へ」

色々と事情を説明するために銀のメダルを呈示して司祭との面会を求めたところ、司祭だという者がぞろぞろと出てきたではないか。

どうやらオズシュタインと同じように、こちらでもミラの動きと目的が共有されていたようだ。

しかも遠出した後は王城に出入りしているという情報までも教会側は掴んでいたらしい。そろそろ訪れてくれる頃だろうと思い、アルカイト王国の各教会より名乗りを上げた司祭達が、この王城に一番近い教会に集まっていたとの事だ。

(手間が省けるのでありがたい事なのじゃが……何というか期待の重圧が凄まじいのぅ……)

三神教においても、特別な存在とされる精霊王。そんな神にも等しい存在の声を聴く事が出来るとなれば、真摯に教義へと打ち込む者にとって、それこそ人生の目標の一つになるような一大事だ。

そして、それを仲介する者がいるとなれば、教会側の動きは至極当然。ミラに対する羨望と期待、崇敬は、三神教でもトップクラスである神託の巫女にも迫るほどだった。

それはもう歓迎されたミラは、教会にて特別待遇ともいえるほどの接待を受ける事となる。

(まあ、悪い気分ではないのぅ!)

と、少しばかり調子に乗るミラであるが、最も大切な事は忘れていない。

接待もそこそこに、ミラは集まった司祭達と精霊王との『拝謁』を取り持った。

(こういうところでもふるいにかけられるので、便利といえば便利じゃな)

詳しい話が共有されているからこそ、殊更に敬虔な信徒である司祭ばかりが集まったようだ。ここでも『拝謁』後の試験を全員がクリアした。

中でも特にルナティックレイクより西側にある大聖区の司祭長は、ミラも驚くほどの感覚を開花させていた。

これまでは、この『拝謁』を経て感性が目覚めても、何となく感じられるという程度がほとんどだった。だが司祭長である彼女は明確にそれを認識出来たというのだ。

精霊王いわく、稀にこういった精霊との親和性が特に高い人間が現れるという。

よって人工精霊の宿った骨董品について、アルカイト王国での扱いは彼女を中心に任せてしまうのが一番だろうとの事だ。

「ああ、精霊王様の仰せのままに。誠心誠意、尽力させていただきます」

精霊王からその言葉を直接賜った司祭長は感無量とばかりに跪き、そう誓った。

その様子からしてアルカイト王国での人工精霊の扱いは、更に慎重で丁寧なものとなるはずだ。

ミラは、人工精霊の宿った精霊家具などが見つかったら連絡してほしいと告げて、教会を後にした。

不遇な人工精霊のために動き回っているミラだが、全ては快適な 精霊屋敷(マイホーム) 生活を目指しての事でもある。

ソファーとベッドには出会えた。次はテーブルか、煌めく照明か、それともオシャレな柱時計などもいいかもしれない。

と、そのように大きな夢を膨らませていた時だ。大きな鐘の音が響き渡った。

昼の二時を告げる鐘の音だ。

(ふむ、となるとそろそろ放課後になる時間じゃな)

もうじき、学校の授業が終わる頃合いである。

そこに気付いたミラは、司祭達と別れるなり次の目的地をアルカイト学園に決めて歩き出した。

ニルヴァーナへと出発する前の事。ミラは、ダンブルフファンだという素晴らしい思想を持ち、更には人一倍の頑張り屋でもある召喚術科の生徒エミリアの訓練に付き合っていた。

彼女は、あれからどの程度成長したのか。それを確認しようと思い立ったのだ。

やってきたのは、アルカイト学園。

放課後という事もあって、学園にはまだ下校前だったり部活中だったりする生徒達が多く残っていた。

また一時期は出入りする事が多かったため、生徒達の覚えもそこそこだ。精霊女王だと盛り上がる様子も、ちらほら窺えた。

(うむうむ、なんとも青春じゃのぅ)

そんな生徒達の中を感慨深げに堂々と突き進んで行くミラ。実に若々しい活力に満ちた彼ら彼女らを見る目は、まるで保護者のそれに近い。

気分は、もう完全にOBである。

そんな、事前連絡もなしで唐突にやってきた迷惑系OBのミラは、エミリアは残っていないだろうかと真っすぐ召喚術科に向かった。

(おお……もう放課後じゃというのに、勉強熱心な者達ばかりじゃな!)

召喚術科の教室。そこには、まだ授業を受けている多くの生徒の姿があった。

ただよく見ると、その生徒達に見覚えのある者が一人もいない。と、そんな中でミラは一人だけ見覚えのある生徒を見つける。

それは、エミリアだ。彼女は教壇の前、教師側としてそこに立っているではないか。

そんなエミリアが教えているのは、召喚術の基礎の部分。つまり、ミラが出会った事のある召喚術科の生徒達は既に履修済みの範囲である。

それらの状況から窺うに、ここにいる生徒達はミラが出入りしていた頃よりも後に編入してきた者だと予想出来た。

(うむうむ、そうかそうか。教師役として立派に後輩達を導いておるのじゃな!)

ニルヴァーナに発つ前。教える事もまた勉強になるとエミリアに伝えていたミラ。

召喚術科の生徒は、ここ最近でぐんぐんと増えてきている。だが正式な教師は、まだヒナタしかいないのが現状だ。

(ふむ……これは編入生用の補習授業といったところじゃろうか)

授業の遅れやばらつきなど、問題も山積みである。そんな環境を考えての提案であったが、エミリアは立派にその役目をこなしてくれていたようだ。

後輩達を相手に、教鞭をふるうエミリア。まだまだ少女である彼女だが、そのお嬢様気質の成せる業か。教師役として振る舞う姿は、何とも堂に入ったものである。

ミラは、まるで娘の成長を喜ぶ親の如き眼差しで、そんなエミリアの授業を見守った。

廊下の窓からこっそり覗く姿は何とも変質者的であったが、そこは美少女としての姿の成せる業。授業が終わるまでの間、誰にも咎められたりする事はなかった。

「お、リナではないか。無事に入学出来たようじゃな!」

エミリアの授業が終わり編入生達が帰っていく際に、ミラは見覚えのある少女を見つけた。

リナ。かつてファジーダイスを追っていた際に、ハクストハウゼンで出会った召喚術士の少女である。

「──……ミラさん!」

ミラの姿を目にするなり驚きと喜びを同時に顔に浮かべたリナは、感極まったとばかりに飛び込んできた。

「凄いんです! いっぱいお勉強出来て、エミリア先輩が教えてくれて、ヒナタ先生が優しくて、クレオス様がかっこよくて─!」

思った事をとりとめなく次から次に言葉にしていくリナ。アルカイト学園の環境に、よほど感動した様子だ。

ファジーダイスをライバルと言って追っていたウォルフ所長が立てた作戦のために協力してくれた冒険者姉妹、ニナ、ミナ、ナナの妹であるリナ。

当時、彼女の才能を見極めた結果、よりよい環境で学んだ方がいいと考えたミラはアルカイト学園への編入を提案した。

冒険者としての活動もあるため、拠点を動かすのはなかなか大変だ。けれど妹想いの姉達は仲間を説得すると燃えていたものである。

ここにリナがいるという事は、彼女達の冒険者グループもまた拠点をアルカイトに移したという事だろう。

国も活気づき、優秀な召喚術科の生徒も入った。もはや言う事なしである。

「そうかそうか、しっかりと学べておるか? わしも紹介した甲斐があるというものじゃよ」

充実した顔のリナに、ミラもまた嬉しそうに答える。

ほんの僅かな時間ではあったが、彼女もまた可愛い教え子といってもいいだろう。

「──それでお姉ちゃんが皆を説得してくれて──。──ミラさんに教えてもらったところ、ちゃんと出来るようになったんですよ。あとあと──」

「──ほぅほぅ、よう頑張ったのぅ。偉いぞ」

話したい事がいっぱいあるのだろう。一度話し始めたリナの口は止まらない。ミラのお陰で色々なところが大きく変化していったと、召喚術で役に立てるようになれそうだと、次から次へと言葉が飛び出してくる。

はしゃぐリナに優しく微笑み返しながら、ミラはところどころから伝わってくる成長ぶりを喜ぶ。

と、そうして暫く廊下で話していたところだ──。

「──はっ!?」

得も言われぬ悪寒に思わず振り向いたミラ。するとその目には、幽鬼の如き形相をした少女の姿が映った。

だがそれも一瞬の事。教室の扉から顔を覗かせていた少女は、ミラが振り向いた瞬間に可愛らしい顔へと戻る。

そしてその少女は、エミリアであった。

(はて、今何やらとても恐ろしいものが見えた気がしたのじゃが、気のせいかのぅ……)

身の毛もよだつ何かを感じたようなと確認するミラだったが、それらしい事など何もない。ただそこには、可愛らしい教え子のエミリアがいるだけだ。

「おーい、エミリアよ。久しぶりじゃな」

そうミラが声を掛けると、エミリアはぱっと駆け寄ってきた。

「ミラ先生、帰ってきていたんですね!」

それはもう嬉しそうなエミリア。彼女もまた、ミラに聞いてほしい事がいっぱいあるようだ。ミラがいない間に、あれが出来るようになっただとか、これを今は練習中だとか矢継ぎ早に話し始めた。

そして更にはクレオスやヒナタと一緒に、武装召喚の練習まで始めているそうだ。と、どこか誇らしげに話すエミリアだが、少しばかり牽制でもするかのようにリナを見やる。

ミラが気づかぬ程度の仕草だが、どうやら彼女はミラと楽しげに話していたリナに少しばかり嫉妬しているようだった。

だが、リナはそれに気づいてはいない様子だ。

「凄いです、流石エミリア先輩です!」

それどころかずっと先を行くエミリアに、更なる尊敬の念を抱いていた。その目には煌めきが宿っている。

「そ、そう? ありがと」

対して嫉妬心を抱いていたエミリアは、そんなリナの無邪気な反応に戸惑い、照れたように笑った。

完全に毒気を抜かれたようだ。次にはもう、リナを見る目に慈愛のような色が浮かんでいた。

「ふむ、随分と腕を上げたようじゃな。しかも、ここまでしっかりと後輩達の面倒も見てくれておるとは。ありがとう、エミリアや」

彼女の頑張り具合と面倒見の良さは、何物にも代えがたい召喚術科の宝といってもいいだろう。

ミラが真っすぐに褒めたところ、エミリアは「召喚術科の代表として、当然の事をしたまでです」と、それはもう輝かんばかりの笑顔で答えた。

リナを先に見送った後、訓練場にてエミリアの成長具合を確認したミラは、彼女が秘めた将来性に大きな期待を寄せていた。

個別に特訓していた時より、ずっと腕を上げたエミリア。

更に先程言っていた通り武装召喚も練習中という事で、その習熟度合も確かめたミラは、その出来栄えから召喚術士の未来にまで思いを馳せる。

武装召喚は高度な技術が必要になる召喚方法だが、その扱いは下級術式。特別な何かを必要とはしない、基礎の応用である。

必要なのは、たゆまぬ努力の積み重ねだ。訓練の仕方や教え方などを工夫すれば、学生レベルであっても使えるかもしれない技術であるとミラは考えていた。

これを習得出来れば、召喚術士の生存率は飛躍的に向上する。だからこそクレオスには、早くこれを生徒達でも使えるようにしてほしいと伝えてあった。

エミリアの話によると、クレオスは既に実戦レベルにまで至っているそうだ。そしてヒナタは軽装クラスでエミリアは右腕のみ、といった状態であるという。

(努力家で、才能もある。今後どう成長していくか楽しみじゃのぅ)

迎えに来た執事と帰っていくエミリアを見送ったミラは、にんまりと怪しげな笑みを浮かべていた。

ミラがニルヴァーナへと発つ前にした約束。人に教え、より召喚術の知識を深める事を達成したエミリア。

ともなれば約束通りに、エミリアの特別授業もまた開始だ。とはいえ次の任務も決まっているため、建国祭が終わるまでの期間になってしまう。

だが、だからこそ限られた時間で何を教えようかと燃え上がるミラ。あれはどうだ、これはどうだと考えながらシルバーホーンに帰るのだった。