軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

415 入手困難

四百十五

アルマとの打ち合わせの後、ミラはニルヴァーナ城より飛び出していた。

召喚術の未来のために色々と考えて思いついた秘策。その案を形にするべく向かう先は、アダムス家だ。

「おお、ちょうどよいところに。今メイメイはおるじゃろうか?」

アダムス家に到着するなりメイドのヴァネッサを見つけたミラは、即座に駆け寄りそう問うた。

「ああ、ミラ様! いらっしゃいませ!」

庭園の件もあってか、ヴァネッサはミラを植物マスターと勘違いしている節がある。だからこそ、その歓迎ぶりは人一倍だった。

そんな彼女はミラの質問を受けるなり、メイメイは出かけていると答えた。しかも何やら探し物でもしているような様子だったという。

「探し物、とな?」

「はい、どういったものなのかと伺ってみましたら、とても希少で幻なのだと仰っていました」

詳しくは教えてもらえなかったが、随分と熱心に探していたとヴァネッサは言う。

(ふーむ、珍しい事もあるものじゃな)

これまでメイリンは、希少だとかレアなアイテムの類にはさほど興味を示した事がなかった。

そんな彼女が探し回っているものとは何なのだろうか。

しかもヴァネッサが聞いたところによると、この街のどこかにあるそうだ。

「そうか。邪魔したのぅ。では──」

ならばこの街のどこかにはいるはずだ。

ここで待てば、いずれ帰ってくるだろう。だが事は召喚術の未来にかかわる。よって、じっとしてはいられなかったミラは、すぐさまアダムス家を後にする。

その後ろでは幾つもの質問を顔に浮かべたヴァネッサが、「ああ、ミラ様!」と早急な別れを惜しんでいた。

きっと次に来た時は、植物についてより多く訊かれる事となるだろう。

「まずは、ここで捜してみるとしようか」

メイリンの探し物。それが何なのかについては、皆目見当もつかない。

だが彼女が出没しそうな場所には、幾つか心当たりがある。

それは、様々な催し物で賑わう闘技大会の会場内だ。

探し物をしているとはいえ、あのメイリンだ。ここのあちらこちらで行われている腕試し系のイベントに興味を惹かれないわけがないというもの。

だからこそミラは会場内を駆け巡り、時に聞き込みなどもして、そういったイベントを見て回った。

けれど一つ二つ、十、二十と確認したが、どこを調べてもメイリンの姿はなかった。

加えて今日は勢いのまま飛び出してきた事もあり、ミラの変装は眼鏡をかけて帽子を被るという中途半端なもの。そのため、ところどころで精霊女王だと見破られもした。

とはいえ、ちやほやされるのは嫌いではないミラである。バレてしまってはしょうがないと、満更でもなさそうな態度で握手なりサインなりと対応していく。

「──ところで、今話題のプリピュアを捜しておるのじゃが、どこかで見んかったか?」

もう何度目になるか。対応しつつも捜索は忘れない。ミラは、こっそり精霊女王に会いにきたという大会の係員にサインをしつつ、そう問いかけた。

すると彼は「プリピュアちゃんと精霊女王様!」と、何を思ったのか興奮した様子ながらも貴重な情報を提供してくれた。

係員曰く、一週間ほど前までは、ところどころで開催されている小さな格闘試合などに、しょっちゅう現れていたそうだ。

だが、あまりにも頻繁に現れる事に加え、もはや勝敗どうこうで盛り上がれないほどに爆勝ちしてしまうという事もあり、対策がとられたのだという。

その内容は、闘技大会本戦勝ち抜き選手は、総じて出場禁止というものだ。

結果、小さな格闘試合には勝敗の行方にハラハラドキドキする熱気が戻った。だがプリピュアの姿は、その日以来見ていないらしい。

(それはまた……仕方がないとしか言いようがないのぅ……)

メイリンは純粋にバトルを求めていただけであるため少し可哀想には思えるが、そこまで暴れ回ったのならば仕方がない。

彼女は既に本戦出場も決めているため、もうこの会場内にて参加出来る試合は存在しないだろう。

では、どこにいるのか。

「ふむ、情報提供感謝するぞ」

ミラは係員に礼を言いつつサインを手渡し、その場を後にした。

「さて、残る手がかりは……」

大会会場を出たミラは、そこでヴァネッサから聞いた言葉を思い返す。

最近、メイリンは何かを探している様子だったという話だ。

小さな格闘試合に出られなくなった代わりに、ストリートファイトでも出来る場所を探しているのだろうか。

だが聞いた内容では、それは希少なものだそうだ。

その正体は不明だが、アダムス家におらず試合巡りも出来ない今、それを探している最中で間違いない。

「ふーむ、思った以上に面倒になったのぅ」

もう急がずにアダムス家で待っていようか。そんな事を思いつつも、じっとしているのは落ち着かない性分なミラは次の手を考える。

「ワントソがいれば早いのじゃが……」

ワントソの鼻と魔法があれば、この街のどこにいたって捜し出せるはずだ。

しかし今、ワントソはフローネの許にいる。彼女のご機嫌取りの役目をこなしているところだ。

きっと今頃、それはもうこれでもかというくらいに可愛がられているだろう。

そんな状況から、こちらにワントソを喚んでしまったらどうなるか。突如ワントソを奪われたフローネがどのような惨劇を起こすか。

ミラは決して触れない方が無難だとして、一先ず団員一号とポポットワイズを召喚し、共に捜索を開始した。

(ふーむ、メイリンが興味を持つ希少なものとは、なんじゃろうな)

他の九賢者達とは違い、希少な素材や術具といった類にはほぼ興味を示す事がなかったメイリンである。

そんな彼女が、探し回っているもの。そしてそんな彼女が、探し回ってもなかなか見つけられないものとは。

前に頑丈な鎧を見て、木人に着せれば訓練用に使えるなどと言っていたが、それだろうか。

吹けば周囲の魔物を呼び寄せてしまう危険物指定の笛を見て目を輝かせていたが、それだろうか。

とある場所に凶悪な魔獣が封じられており、その結界の中に入るための護符がどこかにあるという話だが、それだろうか。

ミラは昔の記憶から可能性のあるものを思い出しつつ、あちらこちらを捜していく。

と、そうしていたところ──

『団長、にゃにやらそれっぽい方を見たという証言を得ましたにゃ!』

団員一号より、ミラが口頭で伝えたプリピュアの特徴と一致する人物を目撃したという者がいたとの報告が入った。

メイリンと交わした約束は、闘技大会が終わるまではプリピュアの姿のままでいるようにというもの。

決戦前には一度変装を解いていたが、それも終わったため約束が優先だ。

予選が終わり時間が空いている今でも、プリピュアのままでいるはずだ。

『うむ、よくやった。直ぐに向かおう!』

その目撃証言こそが、メイリンである可能性は極めて高い。

ミラは団員一号より詳細な場所を聞くなり、そこに向けて急行した。

繁華街の一角。オープンカフェの一席にその姿はあった。

目撃情報にあったプリピュアは、友人であろう──魔法少女風衣装に身を包んだ女性と共に、のんびりとコーヒーブレイクを楽しんでいた。

その姿はどこか優雅であり、落ち着いた雰囲気すらある。

そう、目撃情報にあったプリピュアはメイリンではなく、まったくの別人だったのだ。

「にゃんとも紛らわしいですにゃ……」

「そうじゃのぅ。しかしまた、ブームが広がり始めておるとは聞いておったが、もうここまでとは……」

闘技大会においてメイリン扮するプリピュアの活躍は話題となっており、特に魔法少女風愛好家達の間では、その注目度がどえらい事になっていた。

一体だれが評したのか、格闘系魔法少女とカテゴライズされたプリピュアは、小さな女の子から大きなお友達までを夢中にさせるほどの勢いを得ているのだ。

そんなプリピュアの中身がメイリンである事もありフットワークは軽く、格闘試合巡りをしていた事で目撃者も多い。

だからだろう。仕事の早い裁縫師がいれば、その衣装のコピーや類似品を作るのはわけないという事だ。

「にゃにゃ、よく見るとあちらにもいましたにゃ」

向かいの店から出てくるプリピュアの姿。色違いながら、知る人が見ればプリピュアだとわかる衣装の女の子だ。

「これまた厄介じゃのぅ……」

どこかでプリピュアを見なかったかと人に聞いたところで、これでは情報が錯綜するのは確実である。

とはいえ他に捜しようもないため、更に背格好などの条件などで絞りつつ、地道に捜索していく。

そうして更にプリピュアを見つけていくミラ達一同。

「──親御さんからクレームが入りそうじゃな……」

思わず目線が誘導されてしまうくらいにセクシーなプリピュアと出会い、苦笑しつつも見つめてしまうミラ。

露出度もそうだが、何より女性のグラビアモデルの如きプロポーションもあって、朝ではなく深夜のビジュアルとなっている。

「──にゃんという完成度ですにゃ……」

公園にて、決め台詞に決めポーズと完璧に決めるプリピュアファイブを目の当たりにして感心する団員一号。

随分と練習したのだろう、五人の少女はその完成ぶりに喜び、可愛らしく飛び跳ねていた。

なお、五人のうちの二人は、アダムス家の長女シンシアと次女ローズマリーだ。

残りの三人は、彼女らの友達だろうか。順調に感染しているようである。

と、そうして目撃証言などを基に数々のプリピュアを確認していく中で、空からの報告が入った。

『ポポットも見つけたのー──』

その目でしっかりと条件を照らし合わせ、厳選したのだろう。ポポットは、ミラから聞いた条件に一致する人物を発見したと言う。

何でもポポットからの報告によると、何かの人だかりがあり、その中にそれらしい人物の姿が確認出来たそうだ。

『おお、でかしたぞ、ポポット!』

これは有力な手掛かりになりそうだ。

今度こそは本人か。ミラはすぐさま団員一号にも伝えると、ポポットの案内に従い空闊歩で空を駆け抜けていった。

「あれじゃな……。と、いったい何の集まりじゃ?」

「怪しいですにゃ。陰謀の予感がしますにゃ!」

場所は商業区よりも離れた地点。どちらかというならば住宅区に近い場所だ。

周りには、あれだけの人が集まるような店はなく落ち着いた印象もあるが、今は大賑わいとなっている。

何かのイベントだろうか。それとも騒動か。はたまた、プリピュア人気によって、メイリンにファンが殺到でもしているのか。

ミラは、いったいどういう集団なのかと眉をひそめつつ、注意深く観察する。

団員一号はというと、その謎の賑わいぶりにミステリーを感じたようだ。[人々を魅了し熱狂させる、その正体に挑む──!]とのプラカードを掲げながら、記者の如き衣装に早変わりしていた。

と、そうしながらも賑わう集団に少しずつ近づいて行ったところだ。

「やったな」「今日は間に合った!」「ようやく買えたぞ」

そんな喜びの言葉を口にしながら、揃いの手提げ袋を手にした者達がぞろぞろと出てきたではないか。

「む……何かを売っておるのか?」

はて、あの袋はなんだろうか。その中には何が入っているのか。

ともあれ、ここに集まっている者達の目的は、ここで売っている何かである事が判明した。

だがしかし、このように商業区から離れ商売には向かなそうな場所で何を売っているというのか。

そんな疑問を抱きつつ、ミラは満足顔に去っていく者達が手にする袋に注目する。と、その時に、ふとした記憶が脳裏を過った。

(……いや、何じゃろうか。何かどこかで見たような……)

買えた買えたと喜ぶ者達が手にする袋。それと同じようなものに見覚えがあると首をかしげるミラは、はていつだったかと考え込む。

そして更に集団の数が減っていき、「すみません、残り僅かでーす」という声が聞こえてきたところで、ミラはそれをはっきりと思い出した。

「そうじゃ、あの時の弁当屋じゃ!」

いつぞやに偶然出会った事があった『レストラン フェリブランシュ』。闘技大会記念の臨時出張販売店なる、神出鬼没のゲリラ販売店だ。

一番安くても六千リフからというニルヴァーナ一の高級レストラン。そんな店が出す三千リフの高級な弁当は、そのゲリラ具合と販売数もあって入手困難な希少品という話だ。

なるほど、だからこの人だかりだったわけだと納得したミラは同時に、その時購入した弁当はまだアイテムボックスに保管したままだったとも思い出す。

その希少性に釣られて買ったはいいが、その時には既に食事は三食ともイリスと一緒だったため、食べる機会がなかったのだ。

とはいえアイテムボックスに入れておけば、幾らでも保存しておける。

よってミラは、ここで再び希少な弁当と出会えたともなれば、これは無視出来まいと、メイリン捜しを棚上げにして出張店に駆け出した。

だが、その直後だ。

「毎度ありがとうございました。本日分、売り切れでーす!」

まだまだ多くの人だかりが残っているにもかかわらず、無慈悲にもそんな店員の声が響いたではないか。

「なんと……」

どうやら、あの日に弁当を購入出来たのは相当な幸運だったようだ。

本来は人だかりが出来た時点で、僅かに出遅れた程度の事で、もう買えなくなってしまうような人気商品だったのである。

ほんの数歩で立ち止まったミラは、天を仰いだり、愚痴ったり、明日こそはと意気込んだりしながら解散していく客達を見送る。

「また明日、どこかに出店しますので探してみてくださいねー」

そうして人だかりも薄くなり、出張店の方も撤収していったところで、ミラはその姿を確認した。

出張店のあった地点より、ほんの僅か手前。あと少しで買えたであろう位置にプリピュアの姿があったのだ。

「あ、おった」

それを目にしたミラは、そのプリピュアこそがメイリンで間違いないと確信する。

見覚えのあるプリピュアの衣装──ラストラーダがデザインしたそれは、細部の刺繍からベルトの模様まで完璧に再現されている。

見よう見真似で作られた他のプリピュア衣装とは、完成度が違うのだ。

ただ、そのようにしてようやく見つけたプリピュアだが、その様子はまるで地球を守れなかったとばかりな悲壮感を漂わせていた。

(あー、そういう事じゃったか)

その姿を前にして、ミラは全てを理解した。

メイリンが探していたという、とても希少で幻のような代物とは、フェリブランシュの弁当の事だったのかと。

戦う事以外にメイリンが興味を持ちそうなもの。それは美味しいものだ。

そこを理解した時、ミラの顔が実に深くてどす黒い笑みに染まった。

「うう、また間に合わなかったヨ……」

いったい、どれだけ探し回ったのか。そして何度買い損ねたのか。メイリンは、愕然とその場に佇み項垂れていた。

ミラは、そんな彼女の傍に歩み寄るなり「残念じゃったな」と声をかける。

「爺様……なんでここにいるネ? あ、もしかして爺様も買えなかったカ? ここのお弁当、直ぐに売り切れになってしまうネ。でも凄く美味しいって聞くから食べてみたかったヨ」

メイリンはミラの姿を目にするなり、同志でも見つけたとばかりに思いを口にして、しょぼくれる。

今の彼女は、随分とフェリブランシュの弁当が気になっているようだ。落ち込んだ矢先には、「あ、いい事思いついたネ!」と顔を上げて明日の分について協力し合おうと持ち掛けてきた。

二手に分かれて出張店を捜索し、見つけたら知らせ合うといった内容の提案だ。

(メイリンほどの実力者ならば、広域の生体感知で店の者自体を追跡出来そうなものじゃがのぅ……)

仙術士の技能である《生体感知》。彼女のそれはミラのものとは別格ともいえる精度と範囲を誇る。よって、その力をもってすれば出張店を探すまでもなく、店員が本店を出るところから張り込んでしまえるだろう。

と、そんな方法を思いつくミラだったが、それを伝える気はさらさらなさそうだ。

「それよりも、もっといい方法があるのじゃが聞きたいか?」

メイリンがそういう考えに至らないのは、彼女の純粋さと素直さによるものだ。

次にどこで店を開くか探してみてと言われれば、言葉通りに探すのがメイリンという人物である。

そしてミラは、そんなメイリンの純粋な素直さにつけこみ、ちょっとした相談を持ちかけるのだった。