軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

405 イベント巡り

四百五

「完璧ですー!」

「まさか、ここまで再現出来るなんて……私達天才かもしれませんっ」

「何事かと思えば、主様を変装……コスプレ? させようだなんてね。まあ、楽しかったからいいけど」

一時間ほどをかけて完成した、ミラの変装ブリジットバージョンは、イリスとシャルウィナも大満足な仕上がりと相成った。

しかも途中から、二人の要請によって裁縫上手なエリヴィナまでも召喚させられるという力の入れようだ。

ただ、そんな三人の努力の甲斐もあって、それは一目で精霊女王だと気付ける者などいないと確信出来るほどの仕上がりとなった。

では、変装という名のコスプレをさせられた当の本人はというと──

(……ブリジット……いったい何者なんじゃ?)

ふわりと仕上げられたおさげ髪からして、どことなく物静かなお嬢様的キャラクターを思い浮かべていたミラ。

だが、イリスが完璧だと言った衣装は、いわゆるゴスロリに分類されるような代物であった。

黒と赤を基調とした色合いは、まさしくゴスロリ王道の配色といえるだろう。

また、膝丈ワンピースの襟には大きなリボン。そこへ金糸の刺繍が栄えるケープを羽織れば、ブリジット風ミラの完成だ。

「しかしまた、結局、魔法少女風にするのならば、わざわざ着替える必要などなかったじゃろうに」

細かい事は気にしないようにしたミラは、そう次に思った事を口にした。

着せられた服は、ゴスロリ系魔法少女風とでもいったものだろう。そう感じたミラは、先程まで同じ魔法少女風の服を着ていたのだから、そのままでも十分だったのではと考えたわけだ。

するとどうだ。イリスとシャルウィナの顔が、信じられないとばかりに一変したではないか。

「全然違うんですー! こちらはシークロイヤルの流れを汲むクラシックヴィヴィアン調の由緒正しき系譜なんですー!」

「そうですよ主様! 魔法少女風なるものは支流の一つに過ぎません。これこそがその源流に最も近いのです!」

いったい何がどうしたのか。二人はそのように、今のゴスロリ風ファッションと魔法少女風は別物であると力強く主張し出したではないか。

「う、うむ。そう、なのじゃな……」

二人の勢いにたじろぎながら、反射的に頷いたミラ。

だが今の服と魔法少女風のどこが違うのだろうか。

色々と解説していく二人の言葉。聞いてみたものの、その線引きを理解する事は出来ず、ミラはただ首を傾げるばかりだ。

(しかし、あれじゃな。ブリジットとやらがどういうキャラなのかは知らぬが……まあ、これならば誰もわしだとは気付かぬか)

ゴスロリと魔法少女風。そこについては気にしないとして、改めて姿見で自分を確認したミラは、きっとこれならば精霊女王だと見破られないだろうと納得する。

だが同時に懸念もあった。精霊女王だとはバレそうにないが、それ以上に目立つであろうと。

出来る事なら、バレず目立たずが理想だ。

けれど、ふと見ればイリスがとても楽しそうに笑っている。

ゆえにミラは、それ以上は何も言わず、甘んじて今を受け入れた。

「──私も、遂にこれを着る日が来ましたー!」

ミラの変装が完了したところで、続きイリスも着替え始めた。

しかもそれは部屋着から外出着に──ではなく、なんとミラと同じくゴスロリ系ではないか。

もとから、その衣装自体は用意されていたのだろう。棚から取り出すなり、それはもう嬉しそうに袖を通していくイリス。

いったい今度は、どういった服なのか。ちらりと窺うようにシャルウィナへ視線を向けると、彼女はそれで悟ったように解説してくれた。

曰く、イリスが着ている服は、ブリジットの相棒であるゴスロリ少女エイミーのものなのだそうだ。

(ミッドナイト・サーチャー……いったいどういった作品なのじゃろうか)

さっぱり予想がつかず気になったミラだが、二人の熱量をみるに、それ以上は怖くて訊く事は出来なかった。

「とってもお似合いですよ、イリスさん!」

「ありがとうございますー!」

そうこうして、いよいよイリスも着替えが完了した。

余程の出来栄えなのだろう、とってもエイミーだとシャルウィナも興奮した様子だ。

するとイリスは、そんなシャルウィナに「実は、こんなのもあるんですよー」と、衣装棚から何やら取り出し始める。

そうして手にしたそれを広げると、シャルウィナの顔が更に喜色に染まった。

「何という事でしょう。それは正しく、イーナトゥーレの神官装束ではないですか!」

その反応からして、きっとイリスが手にする衣装も、何かのキャラクターのものなのだろう。

と、そのような感想をミラが抱いていると、イリスがとんでもない事を言い出した。

「シャルウィナさんとエリヴィナさんも、着替えちゃいませんか!?」

なんとミラとイリスのみならず、むしろ全員でコスプレ……変装してしまおうというのだ。

そもそも、本来は精霊女王だとバレぬようにミラだけが変装すれば十分だった。

それがどうだ。気付けばイリスが着替え、シャルウィナらも満更ではない反応である。

「えっと、如何しましょう、主様」

「私はまあ……主様次第ね」

二人は、そのように伺ってきた。

ただ、口ではミラ次第だと言ってはいるものの、その顔はゴーサインを待つ忠犬の如くだ。

シャルウィナは、それこそイーナトゥーレなるキャラクターになりきりたいとばかりに。

そしてエリヴィナはというと、更にイリスが見せた衣装に惹かれてのもののようだ。

「……うむ、構わぬ。好きにするとよい」

それはもう楽しげな女性陣の雰囲気を壊すような真似など出来るはずもないとして、ミラは促されるままに肯定した。

ニルヴァーナ城、女王の部屋。そこには女王アルマの他、ゴスロリなミラとイリス、聖女なシャルウィナ、そして和装の剣士といったエリヴィナの姿があった。

「なんだか、イベントを観に行くのに、イベントの主賓みたいな事になっているわね……」

出発前に挨拶に寄ったところ、アルマはミラ達を一目見るなり、そう苦笑した。

事実、イベントを楽しんでくるというよりは、むしろイベント側の演者ではないかと思えるような四人組となっていた。

だが、それはそれだ。

「これって前に、皆で作っていた服よね。とっても可愛いわよ、イリス」

これまでは部屋の中で着るだけだった。けれど今日という日に、それを着て思い切り外を歩きたいというイリスの希望が、ようやく叶う。

そんな瞬間を我が事のように喜ぶアルマは、イリスをべた褒めするなりミラに視線を向ける。

「……ミラちゃんも、またこれまで以上に可愛らしい格好になっちゃって……」

顔を合わせた途端に思わず噴き出しそうになるアルマ。

見た目としては、むしろこれでもかというほどに似合い過ぎているミラ。しかし、だからこそ以前を知る者にとってその乖離は甚だしく、別の感想が浮かんできてしまうものだ。

「まったく……まあそういうわけじゃからな。夜前には戻る!」

「ごめん、ごめん。凄く似合い過ぎていたから、つい」

ミラがむすりとした顔で予定を告げると、アルマはそう平謝りするなり「ありがとう」とも口にした。

それは、イリスの護衛を続けてくれた事に加え、このようにイリスに付き合ってくれた事への礼だった。

「じゃあ、イリスをお願いねって、これだけ頼もしい布陣なら安心ね」

アルマは改めるようにしてミラ達を見回すと、一切の心配もいらなそうだと笑う。

ミラとシャルウィナにエリヴィナ、更にはエスコートする紳士ファッションに身を包んだ団員一号も同行しているのだ。

手を出そうものなら、秒で返り討ちにあうのは必至というもの。

「うむ、任せておけ」

ミラは、自信満々にそう答えた。

「お、あれは……」

いざイベント会場へと城内の廊下を進んでいたところ、前方に見覚えのある人物の姿を見つけた。

それはノインだ。メイドや女性術士などと気さくに言葉を交わしては、女性達を色めき立たせている。

細かい事はどうあれ、強くてイケメンで優しいノインは、数多の女性達の憧れの的なのだ。

「きゃー、ノイン様ステキー、こっち向いてー」

にんまりと不敵な笑みを浮かべたミラは、笑顔でメイドを見送るノインに、そう声を掛けた。

するとノインは、それはもう条件反射とでもいった速さで「ありがとう、お嬢さん」と振り返った。

「おっと、なんて可愛らしいお嬢さん方なんだ。っと、ん? あまり見かけない娘……でもそっちは……」

爽やかな笑顔を向けたノインは、四人の可愛らしさに頬を綻ばせる。だが次の瞬間に、四人を見定めるかのような目で何度も見直し始めた。

ノインは、ゴスロリの一人に注目する。その顔、そして髪は見覚えがあると。

そう、イリスだ。ノインは、真っ先にイリスの純真な笑顔に気付いた。

そして次は、シャルウィナとエリヴィナだ。いつも鎧姿であるため印象がガラリと変わっているものの、見間違えるはずもないヴァルキリー姉妹の美女二人である。

「って、すると……お前は!?」

そこまで気付けば、後は簡単な推理だ。

イリスの友人として傍にいて、更にはシャルウィナとエリヴィナが付き従う者など一人しかいない。

髪の色を銀髪から黒髪に変えた事で印象が正反対になっていたミラ。だが、その美少女ぶりに陰りはなく、それどころか更なる魅力まで引き出されているほどだ。

ノインは改めてミラを見つめるなり頬を上気させると、その直後に『いい加減、判れ!』と心の中で叫び苦悶する。

「ま……また、随分と化けたもんだな」

ゴスロリミラに心を惹かれつつも、ノインは平静を装いながら愛想笑いを浮かべてみせた。

更に彼は下手を打つ前に、「遂にイリスちゃんも外に出られるようになったのか」と早口で話を変えて、ちらりとイリスを見やった。

するとイリスは、少しだけおっかなびっくりしながらも、隠れる事なくノインに視線を返した。

「とりあえず、手の届かない範囲なら、といったところじゃな」

「そうか……頑張ったな、イリスちゃん」

少し前までは、目を合わせる事すら怖がっていた。だが今は大丈夫だ。

ノインはそれを我が事のように喜び、淡い笑みを浮かべる。きっと彼に気のある女性が見たら、卒倒してしまうだろう優しい微笑だ。

「ありがとう、ノインお兄ちゃん」

イリスは、はにかむように笑った。

その二人のやり取りは、妹想いの兄と引っ込み思案な妹とでもいった様子であり、純粋な優しさで溢れていた。

「しかしまた、最初に見た時よりも更に盛大になっておるのぅ」

いよいよ大会の会場にやってきたところで、ミラはその盛況ぶりを前に感嘆し呟く。

目玉である闘技大会の本戦が直前にまで迫っているからだろう。前回に見て回った時に比べ、更に賑やかさが増していた。

それこそ、お祭り騒ぎである。

「油断すると直ぐに迷子ですにゃ」

下手をすれば踏まれまくってしまうと直感した団員一号は、すぐさまミラの身体をよじ登り、その肩を定位置と決める。

広大な敷地内にて多くの催し物が開催されているここは、それこそテーマパークの如く賑わっていた。

老若男女が揃い踏み、どこもかしこも笑顔で溢れ、時折喧噪が聞こえてくる。思わず現実である事を忘れてしまいそうになるほどに、そこは日常とかけ離れた場所となっていた。

「凄いですー!」

そんな会場を前にしたイリスが、興奮したように叫ぶ。

催し物だけを映していた魔導テレビでは、この会場の雰囲気は伝わらなかっただろう。初見となるイリスは、だからこそその賑やかさに驚き、それはもう大盛り上がりだ。

「これがお祭りですか……」

「凄いわ。色んな人がいる」

加えて、こういったイベントには疎いのだろう。シャルウィナとエリヴィナもまた驚きつつ、とても興奮した様子であった。

「さて、予定まではまだ時間があるのでな。それまで色々と巡っていくとしようか」

「行きましょー!」

「はい、主様」

「楽しみね」

「いざ、出発ですにゃ!」

そうしてミラ達は、四人と一匹で様々な催し物を見て回った。

ディノワール商会のブースにて新商品の紹介に一喜一憂するミラ。

馬車の展示会にて、キャンピング馬車をえらく気に入ったイリス。この馬車で色々な国に行ってみたいと妄想を広げていく。

射的だ金魚すくいだといった、それこそ夏祭りさながらな催し物などもあり、ミラ達もまた騒がしく駆け回り存分に楽しんでいた。

更に満場一致の結果、昼食は一流パティシエ達が腕を振るうスイーツアンサンブルなる出店だ。

その名に恥じぬ、見事な調和を感じられるような甘味の数々にミラ達も大絶賛だった。

そして午後には、小規模なカードゲーム大会他、幾つかのイベントを見学していく。

「ここは、天国でしょうか!?」

「きっと天国ですー!」

続いてシャルウィナが希望した古本市にやってくるなり、イリスもまたそこに並ぶ本の山を前に大興奮だった。

イリスの部屋の図書館には膨大な蔵書があるものの、一点ものという稀覯本は多くない。

対してこの古本市は、そんな一点ものの本があちらこちらに埋もれているのだ。

ゆえに本好きの二人は、このチャンスを逃してなるものかと、揃って古本漁りに飛び出していった。

「……ふむ、本に夢中になっておれば、より男性恐怖症は薄くなるようじゃな」

突入していくイリスを追いかけながらも、ミラはその様子からまた一つ、男性恐怖症克服のための糸口を見極めていた。

まだまだ躊躇いは残っているものの、シャルウィナにぴったりくっついていく事で、男の直ぐ傍も抜けていく事が出来ていたのだ。

好きというのは、思わぬ力を発揮するものである。

と、そう感心しながらもミラは見失わないよう、イリスに付くよう団員一号に頼むのだった。