軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

403 戻った日常

四百三

「──そこはやはり、わしが二戦じゃろう」

「わたしが二戦ネ」

ノインが葛藤している間にも、ミラとメイリンの言い争いは、どちらが対戦相手になるかという話から幾らか進んでいた。

今更ながらとも思えるが、今はゴットフリートとサイゾー、そしてエリュミーゼの相手を誰がどう分けてするのかという話だ。

そう、二人は最初、一人で三人と模擬戦をするつもりだったわけである。

だが、ようやく現実的な話し合いになったかと思えば、そうでもない。ゴットフリート達は三人だ。ここでもまた誰が二戦するかというところで揉め始める。

「ほらほら二人共、我が儘言わないの──」

ミラは新進気鋭の冒険者。メイリンは予選にてその名を轟かせる愛の戦士。

そんな二人の正体は九賢者だ。大陸において、頂点ともいえるような戦いが繰り広げられる事はまず間違いない。

ともなれば、闘技大会は最高潮に盛り上がるのもまた確実だろう。

そう僅かに考えたアルマだが、その考えを進めた末、デメリットの方が目立つと判断したようである。

「一応ね、この件については幾つか案が出ていたのよ。うちの軍の将校に出場してもらうか、それとも新兵に訓練をつけてもらう場にするかって。どちらにしろ、アトランティスの最強がどんなものか体感してほしいと思っていたのよね」

アルマはそのように二人の口論を制止するなり、現時点での選択肢として考えている案を告げた。

大犯罪組織『イラ・ムエルテ』の本拠地制圧のため、ゴットフリート達との共同戦線を結んだ。

そのための理由として挙げた闘技大会の特別ゲストだが、アルマもまた、ただのイベントで終わらせる気はなかった。

それこそ、十二使徒の誰かだったり、ゲスト招待のルミナリアだったり、新進気鋭の冒険者だったりとの模擬戦も盛り上がりそうだと考えたそうだ。

また、それらの選択肢の一つとして、軍事力強化のために利用するという手もあると続ける。

とはいえ、そのような理由を提示されて引き下がるような二人ではない。

ミラとメイリンは、それならば丁度いい、一人ずつで問題ないなどと言って食い下がった。

どうあっても模擬戦に出たいと訴える。

「でもほら、そもそもメイリンちゃんは出場者の一人として闘技大会に出場中でしょ? 一応は他と同じ選手としての扱いなのに、ゴットフリート君達との模擬戦だなんて特別扱いは難しいかな。どうしてもっていうのなら闘技大会を辞退してもらう必要があるんだけど、どう?」

アルマはメイリンに、そうぴしゃりと告げた。

闘技大会で話題になっているからといっても、今は一般出場者。だからこそ特別扱いは出来ないと。

それでもゴットフリート達と模擬戦がしたいというのなら、闘技大会を諦める事が条件だ。

「うぅ……」

その選択はメイリンにとって、極めて困難な二択であった。

けれど暫く黙り込んだ後にメイリンは「じゃあ、また今度にするヨ」と、しょんぼりしつつ引き下がった。

これからどのような猛者が出てくるのか想像もつかない闘技大会と、強く戦い甲斐はあるものの、過去に何度ともなく試合をした事のあるゴットフリート達。

それらを天秤にかけた結果、メイリンは未知のわくわく感を選んだようだ。

そして、残るミラには──

「それじゃあじぃじは特別ね。ゴットフリート君達が希望するなら、模擬戦に出てもいいわよ」

そのようにアルマが寛大な条件を提示したのだ。特別ゲストである三人の誰かでも対戦を望むのなら舞台に立ってもいいと。

「なんと、そんな事でよいのか!?」

戦闘好きなゴットフリートは勿論の事、サイゾーもまた特訓好きだ。新しいニルヴァーナ製の忍具を色々と試したいと考えているところだろう。

そしてエリュミーゼは、どこか九賢者を尊敬している節がある。ソウルハウルへの反応を見れば明らかだ。

そんな三人である。場合によっては三人から希望される事も有り得るのではないかと、ミラは自信満々にどんと構えた。

だがその結果は……沈黙。

「なん……じゃと……」

希望しないばかりか、むしろゴットフリート達の顔には拒否感が表れていた。望むどころか辞退したいという無言の意思表示である。

「まあ、他にも目玉はあるんだし、将校さん達に頑張ってもらえばいいんじゃない?」

突き刺すようなミラの視線から目を背けるゴットフリートら。そこに割って入るようにして、カグラが無難な意見を述べる。

「だな。俺達ばかりで楽しむより、もっと若者が活躍出来る場を作ってやろうぜ」

その意見に賛同したルミナリア。

するとたちまちのうちに、その選択肢が支持を集める事となった。

「じゃあそういう事で、うちの軍の特別強化訓練にしましょうか。よろしくねゴットフリート君、サイゾー君、エリュミーゼちゃん。大いに胸を貸してもらうわ。後で、相手になる士官達を紹介するわね」

「ああ、任せてくれ!」

「うむ、しかと役目は果たすでござるよ」

「お任せあれ」

一転してアルマの声には軽快に答える三人。

そのようにして『 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) 』の模擬戦相手は、ニルヴァーナ軍の将来有望な将校と新兵に決まったのだった。

そこから更に模擬戦の詳細が突き詰められていく中、ミラはずっと不貞腐れたようにむくれていたのだった。

大陸全土に蔓延っていた大犯罪組織『イラ・ムエルテ』。その影響力は甚大であり、社会を着実に蝕んでいた。

だが、長きにわたるニルヴァーナの尽力と各国の協力、その他、ファジーダイスの活躍など様々な要因も加わった事で、そこに楔が穿たれる。

ニルヴァーナは、それを好機とみるなり一気攻勢へと出た。

そして、十二使徒、 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) 、九賢者からなる連合戦隊によって敵組織本拠地を襲撃。この首領を討ち取った事で、『イラ・ムエルテ』の壊滅を成し遂げた。

その数日後。吉報は瞬く間に各国へと広まっていた。

大陸最大規模のイベント中だった事もあり、現在ニルヴァーナには各国の外交官が多く集まっている。

だからこそ、この情報は迅速に、そして等しく正確に伝わった。

「やってくれたなニルヴァーナ。まったく、とんでもない女傑がいたものだ」

「そうか、遂にやり遂げてくれたのだな。ありがとう、アルマ女王。これで娘も浮かばれる……」

「これはまた朗報ですねぇ。さぁ、忙しくなりそうだ」

それを受け取った首脳達は、悩みの種が一つ消えた事に喜ぶと同時に、起こり得る事態に備えて動き出した。

そう、『イラ・ムエルテ』の存在によって押さえつけられていた者達が活発化する事への対策だ。

「ほほぅ……後始末はグリムダートですか。これはまた思い切ったものだ……が、この貸しは相当に高くつきそうだ」

「手柄を捨てるか。ニルヴァーナほどの大国となれば、グリムダートの顔色など窺わずともよいものだが。何かあるのか?」

「英断だな。今のニルヴァーナは、闘技大会で手一杯だろう。迅速に『イラ・ムエルテ』残党を吊るし上げる事は難しい。だからこそグリムダートに恩を売る形で譲渡したわけだ」

アルマは約束通り、『イラ・ムエルテ』本拠地で見つけた資料や幹部達より得られた情報をグリムダートに預け、残党狩りの指揮権を譲渡した。

これによってグリムダートは、自国の公爵が関わっていたという汚名を返上する機会を得たわけだ。

現在グリムダート国王が直々に指揮を執り、これの解決に当たっている。

「とりあえずは、これで少しは落ち着いたかな……」

今回の件、『イラ・ムエルテ』関係の処理を一通り終えたアルマは、別の書類の山から逃げるようにして奥の私室へと向かう。

そして自分へのご褒美とばかりに、お気に入りのグラスを手に取ると、「今日の業務は終了!」などと勝手に決めて一杯呷った。

「アールーマー……」

「ひぃっ!」

それから更に二杯目を手にしたところでエスメラルダに見つかったアルマは、卓越した聖術でアルコールを浄化されるなり執務机に戻されていった。

そうこうして『イラ・ムエルテ』については、一先ず落ち着いた。

よって、そのために集結したドリームチームも解散となる。

それと同時に、ミラが就いていたイリスの護衛もまた、この時をもって満了。ミラは自由の身となった。

ミラがニルヴァーナにやって来た目的であるメイリンについては、既に帰国の約束は取り付けてある。残るは、大会終了後にメイリンがしっかり帰国するかを確認するのみだ。

「また、わたしの勝ちネ!」

そんなメイリンはというと、当然ともいうべきか、既に闘技大会の本戦出場を確定している。

だがそこで慢心しないのがメイリンである。時折、寄宿先の長男ヘンリー・アダムスの出勤に付いていっては、城の訓練場にて兵士達と共に、基礎訓練などを行っているようだ。

とはいえ彼女の真の目的は、その基礎訓練の後にある戦闘訓練だろう。兵士達を相手に大暴れしているとの事だ。

メイリンが来ている日は、いつも以上に訓練場から誰かしらの悲鳴が聞こえてくるため直ぐにわかった。

また、メイリンのみならず。他の仲間達もそれぞれが自由に過ごしていた。

九賢者のルミナリアは今回、友好国のゲスト枠での招待という扱いで滞在していた。そのため本戦開始前に、ちょっとした挨拶をする予定だそうだ。

「いいねいいねぇ。こういうイベントってのは、たいてい美人揃いだからな。いつだって楽しめるってもんよ」

当のルミナリアはそれまでの間、折角だからと毎日のように変装しては大会会場に繰り出している。

メインの闘技大会以外にも闘技場周辺では、それこそ百に近い催し物が連日開催中だ。

その中には、服飾ブランドのファッションショーといったものまで含まれる。

ルミナリアはマジカルナイツが主催するショーも含め、幾つかを見学しては、美人なモデルをロックオンしていた。

また、絶対に見ると意気込んでミスコン会場に向かったところ、急遽出場する流れとなった結果、優勝してしまうなどという事もあった。

そしてミスコン優勝者として、次のミスターコンテストの審査員をやらされ全員に0点を付けるという暴挙をしでかすなど、彼女なりに充実した日々を送っているようだ。

「あと一ヶ月か二ヶ月くらいで終わるはずだから──」

カグラは五十鈴連盟での仕事が忙しいようで、会議が終わった次の日には帰っていった。

ただ、エスメラルダにガウ太が預けてあり、二、三日に一度は顔を見せて夕食などを皆と共にしている。

また、次々と捕まる『イラ・ムエルテ』関係者の尋問などでも大活躍だ。

カグラが有無を言わさず白状させるものだから、これ以上ないくらいの初動でニルヴァーナ国内の残党は排除されていった。

ソウルハウルはニルヴァーナ城の研究室を借りて、日夜死霊術の研究に勤しんでいる。

かの『イラ・ムエルテ』本拠地の島での事。そこで見つけた悪魔の術式について、更に深く研究しているようだ。

これまでは支配出来なかった魔獣すらも死霊術の対象に出来る可能性が見えたとの事である。

「魔属性を制御する事で、魔獣までも蝕むか……。まったく恐ろしくも面白い事を考えるもんだな、悪魔っていうのは」

操られていた魔物と魔獣。更には、島全体に張り巡らされていた巨大魔法陣や、魔属性を抽出する装置に刻まれていた分など。

あの島にあった術式の全てを写していたソウルハウルは、新しい目標が出来たとばかりな様子で解析に取り組んでいる。

そういう性分なのか。数年がかりで神命光輝の聖杯を完成させたばかりだというのに、彼はまた大きな目標を掲げて進み出していた。

「こいつは大変だ。いくぞ、皆。助けてー、ジェスパーナイトー!」

ラストラーダは年少の子供達を連れて、催し物の一つであるヒーローショーに来ていた。

そして子供達と一緒にヒーローの名を叫ぶのだが、誰よりも気合の入った様子に周りの親御さん達はたじたじだ。まさか、『私達もあそこまでしないといけないのか』といった表情である。

だが、そんな事など意に介さず、ラストラーダは子供達と共にヒーローショーを楽しんでいた。

「さあさあ始まるわよ。皆、静かにね」

アルテシアが少女達にせがまれてやってきたのは大会会場内にある演劇場だった。

そこでこれから公演される演目は、今若者達に大人気のラブロマンスだ。

ただの町娘であるヒロインと大国の王子が様々な障害を乗り越えて遂には結ばれるというのが前半。

何者かがかけた呪いによってヒロインが死の眠りについてしまい、王子がこれを救うために旅立つという流れが後半だ。

どのような困難にも挑んでいく、ひたむきな王子の愛。女性達と少女達は、そんな一途さに大盛り上がりだった。

と、そのようにしてラストラーダとアルテシアは大忙しだ。

ニルヴァーナは今、お祭りの真っ最中である。

ゆえに、そんな環境下で子供達が大人しく出来るはずもない。次はあっちだ、今度はこっちだと、会場内の催し物を巡る日々だ。

ただこれには、孤児院の教師陣に加えてニルヴァーナ城勤めの兵やメイドなども率先して助力してくれていた。

今は希望者ごとに幾つかの班に分けて、様々な催し物を巡っている状態だ。

アルテシアのみならず、ニルヴァーナ城には子供好きな者達が多いようである。

ノインは、決戦後もこれまでとさほど変わらない。通常業務に戻っただけだ。

とはいえ将軍位だけあって、何かと忙しそうである。

「ああ、最近会えない──って、いやそれがどうした! はぁ……これはちょっと働き過ぎかな」

兵士達の訓練の視察をしている最中の事。ふと脳裏に浮かんだミラの姿に想いを馳せるなり、慌てて頭を振って妄想を散らせるノイン。

理解しているが、その理解を超えてしまう感情に悶絶しながら、彼はじっと瞑想を始める。

(あれは召喚爺、あれは召喚爺、あれは召喚爺)

そう念仏のように繰り返しては自分に言い聞かせるも、浮かんでくるのは可憐で蠱惑的なミラの姿。

「くそっ……どうすればいいんだ……」

気付けばルミナリアより頂戴したミラの秘蔵写真を見つめていたノインは、天を仰ぐなり、もっと働こうと駆け出したのだった。

アトランティスの将軍達もまた模擬戦までの間、王城に滞在して好き勝手に楽しんでいた。

「おーおー、なかなかに将来有望な奴がいるじゃねぇか! あー、俺も出たかったぜ」

ゴットフリートは、毎日のように闘技大会の予選会場へ足を運んでいた。

自分が戦うだけでなく、誰かの戦いを見るのもまた好きなようだ。

しかしながら、才能を感じさせる戦士を見つけた時の目つきは、ただの戦闘好きなそれである。

観戦するというよりは、面白そうな対戦相手を探しているといった方が正解かもしれない。

「へぇ、召喚術士か。珍しいな。しかしあの腕前……面白そうだ!」

予選の段階ながらも、頭一つ抜き出た選手というのは相当に目立つ。

ゴットフリートは、圧倒的な強さと巧みな技術によって勝ち上がる一人の召喚術士に注目する。

「お、あの剣士、速いな。しかも、読み合いとか一切考えていない戦い方……面白いじゃねぇか」

更に次へと目を移した先にいるのは、バトルロイヤルという予選形式の中で全方位に喧嘩を売っていく剣士だ。

それぞれがぶつかり合い数を減らしていく中で、どれだけ体力を温存出来るかというのもバトルロイヤルで戦う上での重要な要素だ。

だがしかし、その剣士は、数が減る前に片っ端から突っ込んでいた。

それは、全員自分で倒すというような気迫すら感じられるような戦いぶりだ。

そういう奴は、嫌いじゃない。むしろ好きだと、ゴットフリートは興味深そうに眼を細めた。

サイゾーは、ニルヴァーナ製の忍具一式の使用感を存分に試していた。

国が変われば仕様も変わる。ニルヴァーナ独自ともいうべき幾つかの忍具を気に入ったようだ。

「おお、これはなんとも素晴らしい業物でござるな!」

また忍具の他にも刀剣類に目がないようで、毎日のように街へ繰り出し鍛冶屋巡りをしている。

剣、刀、槍など、彼の興味は全般的に及び、少しでも気に入ったら店主に試し斬りの許可を求めるほどだ。

そして、それらの武器がサイゾーの卓越した腕前でもって振るわれるものだから、試し斬りの結果は他の客達の関心を大いに集めた。

結果、サイゾーが認めた鍛冶屋はこれまで以上に繁盛していく事となり、ニルヴァーナの鍛冶水準が幾らか引き上げられるという副次効果までもたらされていたりする。

「よし、そこを計測しておいてくれ」

「うん、わかった」

エリュミーゼはというと、ソウルハウルの助手として同じ研究室に詰めていた。

同じ死霊術士としてソウルハウルに敬意を抱く彼女は、だからこそ彼が始めた悪魔の術式研究も気になったようだ。

ソウルハウルが研究を始めたその日には研究室へと押しかけて、そのまま助手としての立場をもぎ取っていた。

今は、ところどころで助手らしい作業を任されるようになってきたところだ。

とはいえソウルハウルは、あまり他者を気にしない性分であるため、基本は放置気味にされているエリュミーゼ。だがそれでも彼女は、満足そうな様子であった。

と、そのように日々を過ごす『 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) 』達が登場する模擬戦は、闘技大会の本戦が大いに盛り上がった頃合いで行われる予定だ。

今はまだ予選の段階であるため当分は先になる。

よって三人は、このまま暫くのんびりと過ごすつもりのようだ。とてもいい休養になると、嬉しそうですらあった。