軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

400 調査の合間に

四百

「そういえばさ。勢いで倒しちまったってところもあるが、あの悪魔から色々と訊き出さなくてもよかったのか?」

魔物やレッサーデーモンなどがまだ残っていないかどうかを確認するために散開する直前の事。ふとゴットフリートが、そんな疑問を口にした。

悪魔であると同時に『イラ・ムエルテ』のボスでもあったアスタロト。ともなれば彼が把握していたであろう情報は膨大であり、それをむざむざと闇に葬ってしまったのではないかというのがゴットフリートの考えのようだ。

「確かに、重要な情報を幾つも握っていただろうね──」

事実その通りだと頷き答えたノイン。だが思えば遭遇してから、なし崩し的に戦闘となり、そのまま決着したというのが今の状況だ。問答どころではなかった。

加えて相手は、公爵二位の悪魔だ。

「──けれど、それを問うたところで、あの悪魔が答える事はまずなかったと思う」

そのようにノインが続けた通り、悪魔から正確な情報が得られるとは考えられなかった。悪魔とは、そのような存在だからだ。

「そうじゃろうな。完全に拘束して問い詰めようとも、一切口は割らぬじゃろう」

ミラもまたノインの意見に同意する。下位の悪魔ならばともかく公爵二位となれば、どうにもならないと。

情報の入手といえば、これまでにも大活躍してきたカグラの自白の術がある。ただそれは、カグラの卓越した陰陽術の技と魔力の強さを合わせた力技に近いものだ。

ゆえに格上となるアスタロトが相手では、その効果を望む事は不可能であろう。

「つまり地道に調べる以外はないって事か」

ゴットフリートは周囲を囲む岩山を一望しながら、ため息交じりに呟く。この広大な島を隅々まで調査して、『イラ・ムエルテ』に関する情報を集めなくてはいけないのかと。

「そういう事じゃな」

事実、ミラ達に出来るのは『イラ・ムエルテ』の本拠地であるこの島を徹底的に調査する事だけだ。

とはいえ、その点については頼もしい仲間がいる。

諜報に長けるサイゾーを始め、飛空船には専門である多くの調査員が待機していた。

「よし、それじゃあまずは安全確認を済ませようか」

そう言ってノインは、誰がどこを確認していくかという振り分けを始めた。

ここのボスであるアスタロトを倒し、更には大量の魔物や魔獣、加えてレッサーデーモンなども多くを討伐した。

けれど、これで全てとは限らない。まだ島のどこかに敵が潜んでいてもおかしくはないのだ。

ゆえに、調査員を入れて本格的に調べ始めるより先に、完全な安全を確保するのが大切であった。

ノインは、索敵能力の高い者とそうでない者をペアとして指名していく。

そして、それぞれのペアがどう手分けしていくかといった話をしていたところだ。

「何じゃどうした、難しそうな顔をしおってからに」

ふとミラは、メイリンがじっと黙ったまま眉間に皺を寄せている事に気付いたのだ。

何かと元気でいて、こういう時は残る魔物は全て任せろとばかりに駆け出していきそうなものなのだが、どうにもおかしな様子だ。

メイリンの事をよく知るミラだからこそ、そこに違和感を覚える。

何よりも直感の働く彼女である。ミラは気になる事でもあるのだろうかと声をかけた。

「あの時、彼が種は蒔き終わったと言っていたヨ。その意味を考えているネ」

メイリンは眉間に皺を寄せたまま唸りつつ、そのように答えた。

いったい何の事だと問えば、最後に対峙したあの瞬間、アスタロトは敗北を悟りながらも不敵な笑みを浮かべて、そのように言っていたというではないか。

「種……じゃと? ふーむ、気になる言い回しじゃな」

何とも漠然とした言葉だ。

ただ、種を蒔くといえば、そこには色々な意味があった。

大犯罪組織である《イラ・ムエルテ》のボスにして、公爵二位の悪魔が最期に遺した言葉である。

面倒事の種になるのは間違いない。到底、無視出来るようなものではないだろう。

「気になるわね……」

「また面倒な置き土産をしやがって……」

岩壁に開いた穴を見据えながら、カグラとルミナリアが呟く。

メイリンが聞いたという言葉が事実ならば、これで一件落着とは思えないからだ。

とはいえその種の正体については、まったくといっていいほど見当がつかなかった。

いったい、その真意とは何だろうか。それは今に関係する事か、はたまた今後に関係する事かすらわからないときたものだ。

「とにかく今は、この島を調べ尽くすでござるよ。きっと、その種の意味に繋がる何かも見つかるはずでござる」

そこまで悪魔が自信満々に言っていたというのなら、相当な仕込みが必要であっただろう。ならばこそ、何かしらの情報が残っているはずだ。

そのように告げたサイゾーはゴットフリートと一緒に、担当箇所の安全確保へと向かっていった。

「それもそうじゃな」

この場で考えていても埒が明かないのは事実だ。

そしてこれだけの大きな拠点である。多くの情報が眠っているのは間違いない。その種とやらの正体を暴く何かだって見つかるだろう。

ともなれば、早く調査を開始出来るようにするのが得策である。

そう結論するなりミラ達は散開して、島中を巡り安全を確保していくのだった。

ミラ達が島中を見て回る事、二時間と少々。

小部屋や倉庫などに十数体の魔物と二体の魔獣、そして五体のレッサーデーモンが残っていたが難なくこれを撃破。

その後、満場一致で敵戦力残存ゼロと判断を下したところで、いよいよ飛空船に連絡を入れて調査員の上陸が開始された。

空からやってきた飛空船は島の中央部に着陸する。

初めに足を着けたのは、グリムダートより派遣されてきた士官達だ。

「うわぁ、何をどうしたらこうなるんだ……」

士官の一人は、一歩二歩と踏み出しながら周囲を見回すと、真っ先にそのような感想を口にした。

グリムダートにて一つの軍団を預かる彼は、その立場に見合うだけの場数をこなし、多くの死線を潜り抜けてきた猛者だ。

その中には凄惨な戦場も多数あった。

だが今ここに広がる光景は、その全てを合わせても足りないのではないかというほどに壮絶な戦いの痕が刻まれていた。

夥しい数の魔物と魔獣の死骸。そして地形が変わるほどな破壊の痕跡。これを行うためには、どれだけの軍を動員すればいいというのかと士官は苦笑する。

そのような戦いの痕跡を前にした彼は、驚きと畏れをもってノイン達に振り返った。

「これが十二使徒と 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) 、そして九賢者の実力ですか。本当に俺達、戦闘での出番はありませんでしたね」

士官のもう一人が呆れたように笑うと、他の四人もまた「まったくだ」と同意するなり、報告書はどうしようかと眉間に皺を寄せて唸った。

なお、ニルヴァーナの調査員数十名もまた戦場を目にするなり一様に頬を引き攣らせていたが、自国の英雄であるノインがいる事もあってか、その足取りはどこか誇らしげだった。

調査員達にノインとサイゾー、ルミナリアが事の顛末を簡潔に説明する。

更に島の構造や重要な調査対象などについても話し終えたところで、いよいよ《イラ・ムエルテ》の本拠地調査が始まった。

この調査の指揮を執るのはグリムダートの士官達だ。そうする事で、彼ら彼女らのメンツもまた保てるという計らいである。

何だかんだいっても士官達は優秀で、調査は効率よく進んでいった。むしろここで活躍しないでどうすると、それはもうはりきった様子だ。

とはいえ調査範囲は広く、人員もまた十分とはいえないため、完了まではまだまだ時間がかかりそうだ。

飛空船の乗員上限まで調査員を連れてきたものの、想定以上に本拠地が広大であった事が原因だ。

数日はかかるだろうと、士官は言う。

そしてその間、ミラ達は飛空船の船室にてのんびりと待機していた。

一時はミラ達も調査に協力していたのだが、全体的に効率が落ちていたのがわかったからだ。

というのも当然か。上司より更にずっと上の将軍が傍にいるとあっては、気が散って集中出来なくなるというもの。

よってミラ達は調査員の邪魔をしないため、飛空船に引っ込んでいる状態だ。

なおミラは将軍位でないため問題はなかったのだが、ちゃっかりと飛空船に戻っていた。

「──という術ネ」

「なるほどのぅ。それであの威力とは、またとんでもない術があったものじゃ」

ではミラ達は待機中に何をしているかというと、概ね勉強会のような状況となっていた。

今しがたメイリンが話していたのは、最後にメイリンが放った仙術の《千年洸路》についてだ。

アダムス家でやり合った時とは別格ともいえるほどの威力に驚いたミラが、早速とばかりにメイリンを捕まえた次第である。

何でもメイリンが言うにこの術を使えば、一撃に込められるマナの上限を更に何段も超えられるという。

マナの上限。それは上級術士ならば誰もが突き当たる壁だ。

同じ術でも必要量を超えたマナを注ぎ込めば、それだけ効果も上昇する。

とはいえ、それには限度があった。

術の高みを目指す者は、これを突破していくものだが、それにも限界はある。

その極まった限界を更に超えるべくメイリンが編み出したのが、この《千年洸路》だ。

その術は手から溢れさせたマナを空間に残留させた後、相手に拳を突き立てると共にそのマナを引き戻して威力を増幅させる、実に単純な仕組みの術であった。

一度に込められるマナの量に限界があるのなら、あらかじめ外に追加分を用意してしまおうというわけだ。

つまりは、火炎放射器の先に別途で燃料をぶっかけるようなものだろう。

その追加分のマナが白い帯状に見えたものであり、それを長く描くほどに威力は飛躍的に上昇するそうだ。

ただ、マナを空間に残留させられるのは、一秒程度が限界であるという。

「その結果が、あれじゃったか」

ミラは、メイリンが放った一撃を思い返す。かの悪魔を一瞬で吹き飛ばしてしまった一撃を。

空中すらも足場に《縮地》を行う事で、マナの白い帯を限界まで長く描いていたメイリン。

きっとその術は、彼女以外には使いこなせないものだろう。

だがしかし、その発想については別であった。

「空間にマナをプールするか。面白いな」

真っ先にルミナリアがそこに喰いついた。しかもそれだけに止まらない。

「限界突破の方法……ちょっと研究してみる価値がありそう」

「なるほど。やり方次第で色々と応用が利くな」

カグラとソウルハウルもまたその可能性に気付き、目を輝かせる。

アルテシアとラストラーダの二人も同じような顔つきで、研究ノートを開いた。

そして同席していたエリュミーゼは、唐突に始まった術式研究会に戸惑いつつもそっとソウルハウルの傍に移り、その研究に参加する。

また何よりミラも、そこに多くの可能性を見出していた。

(一秒というのがネックじゃな。マナの出力にも限度があるからのぅ。上乗せ出来るとしても一秒分となると、そこまで上限は高くないじゃろぅ。しかし術具で……いや、魔封石を利用すればあるいは──)

そうあっという間に考察の海へと漕ぎ出していく。

帯状に長く伸ばしたメイリンの方法は真似出来ないが、それ以外にもやり方はあるはずだと。

ところ変わって、ノインとゴットフリート、そしてサイゾーは船室にてぐったりしていた。

前線でギリギリの戦いを繰り広げていた疲労が一気に出たようだ。

ベッドに倒れ込むなり泥のように眠るノイン。

ゴットフリートは死線の興奮冷めやらぬ感じではあるが、身体は完全に休息モードだ。「動けねぇ」と呟き笑う。

サイゾーはソファーに深く腰掛けたまま、残った忍具を確認していた。

「たった一日で、ここまで刃毀れするとは……勿体なかったでござろうか」

アルマから貰った上等な新品の忍具が、もうボロボロであると嘆きつつも、どうにか出来ないだろうかと手入れを試み始めるサイゾー。

と、そのようにしてミラ達は、各々自由に調査の間の時を過ごすのだった。