軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

387 一網打尽

三百八十七

敵の本拠地にて、ルミナリア達は迫りくる魔物の大群と魔獣を相手に、その猛攻を凌ぎ続けていた。

「お、いよいよレイド級のお出ましだぞ」

上空の魔物を一通り落とし終えたところで、それを目にしたルミナリア。

激戦地となったキャッスルゴーレムの周辺。そこへ、のそりのそりと近づいてくるのは体長三十メートルはあろうかという猿型の魔獣『トーメントリッジ』であった。

「楽しくなってきたヨ!」

「こいつは大物が来ちまったな……!」

更にテンションを上げていくメイリンとは逆に、ごくりと息を呑むゴットフリート。メインを張れる盾役がいない現状において、その絶大な攻撃力をどのように防ぐのがいいのかと心配な様子だ。

さながら怪獣映画に出てくる猿の王とでもいったその魔獣は、怪力だけでなく魔法までも操る難敵である。たとえ九賢者といえども、容易くはいかない相手だ。しかもアイゼンファルドを守りながらとなれば尚更だった。

と、そんな時である。

「ありがとうございます、準備出来ました!」

開始から約五分。全力ドラゴンブレスのためにチャージしていたアイゼンファルドから、完了の合図が届いたのだ。

「ナイスタイミングね。行っちゃって、アイゼン君!」

その準備は大変なものの、山一つを消し飛ばせてしまうほどの威力を誇る、全力ドラゴンブレス。

その力をもってすれば、レイド級の魔獣であろうと無事では済まない。防御力の程度によっては、一撃すら有り得る。それがアイゼンファルドの全力ドラゴンブレスだ。

これならば盾役は必要なさそうだ。一撃で終わらなかったところで、満身創痍となるのは確実。残りは、自慢の特大剣で決めてしまえばいい。そう考えたゴットフリートは、いつでも飛び出せるようにと構えた。

「はい、行きます!」

いざ、特大の一撃が炸裂する。その衝撃に備えたゴットフリートは次の瞬間に「え?」と、そこで起きた事への理解が出来ずに間の抜けた声を上げた。

何故なら、チャージを完了して、いよいよ発射というタイミングで消えてしまったからだ。そう、忽然としてアイゼンファルドがその場からいなくなってしまったのである。

大量の魔物と魔獣が控える部屋にて、ミラはその合図が来るのを待っていた。

『準備出来ました!』

アイゼンファルドから届いた、チャージ完了の合図だ。

『うむ、ではゆくぞ!』

それを受けたミラは今一度、位置取りを確認する。更にワーズランベールと密着するほどに身体を寄せてから右手の指にちらりと目を向けると、最後に召喚術士の技能である《退避の導き》を行使した。

瞬間、ミラの目の前にアイゼンファルドが現れた。離れた召喚体を傍に呼び戻す技能を併用する事によって、移動の出来ないフルチャージ状態のアイゼンファルドを、強制的に移動させたのだ。この、無数の魔物と魔獣が待機する部屋に。

そう、ミラが標的にしていたのは地上で暴れる魔獣ではなく、この部屋に集められている全ての戦力だった。

「よし、薙ぎ払え!」

「はい、母上!」

ミラの指示を受けたアイゼンファルドは、一切の加減もせずにその力を解放した。

宙を貫いていく、真っ白な閃光。凝縮された破壊の力は、それでいて部屋の端から端までを丁寧に、だが数瞬で撫でていった。

直後、空間は白一色に染まり、僅かな音すらもかき消していく。

訪れたのは静寂。だが刹那の後、その場は絶対的な暴虐による破壊の波に覆い尽くされた。そして強烈な衝撃波が空間そのものを激しく震えさせた。

「ふむ、首尾は上々じゃな!」

山一つを吹き飛ばせるほどのエネルギーが、室内で炸裂した。その威力は圧倒的であり、部屋で待機していたほぼ全ての標的は跡形もなく消し飛んでいた。

また、それはアイゼンファルドもだ。その破壊力ゆえに近距離どころか中距離でも炸裂させれば、味方側も壊滅的となるのが、この全力ドラゴンブレス最大のデメリットといっても過言ではない。

そのためアイゼンファルドは、全力ドラゴンブレスを放ち終えたところで送還済みである。

「いやはや、あの光景を前にした時は、生きた心地がしませんでしたね……」

ワーズランベールはミラの背後にぴったりとくっついたまま、引き攣った表情を浮かべる。

全力ドラゴンブレスによってもたらされたものは、生きる者ならば誰もが死を直感するであろう破壊の光だ。

けれど驚く事に目の前に広がる部屋は、まだギリギリで原形を留めていた。相当に頑強な金属材を基礎として使っているようだ。壁は崩れ天井は落ちて全体的に酷く歪んではいるものの、まだ部屋としての形はギリギリで保っている。

しかし外側に面する壁は、厚さが足りなかったらしい。見事にパノラマな海原が見通せるようになっていた。

そして、そんな被害の出た只中にありながら、ミラとワーズランベールはまったくの無傷でそこに残っている。

「しかし本番は初めてじゃったが、とんでもない効果じゃな、これは」

そのような奇跡を成したのは、かつて古代地下都市にてマーテルから貰った『空絶の指環』の力によるものだ。

空間自体を歪めて絶対の防御とするその効果は、アイゼンファルドの全力ドラゴンブレスですら完全に防ぎきる程の性能だった。

ただ、その分だけ大量のマナを消費してしまうが、今のミラならば、まだ二回は発動出来るだけの余裕がある。

周辺に与える被害によって、今までは正面の敵を狙う事すら叶わなかった全力ドラゴンブレス。だがこの指輪があれば、自爆を気にせずに幾らでもそれを実行する事が出来た。

その効果をしかと体感したミラは、その可能性に打ち震える。

「これを連携技とすれば……ふむ、面白くなってきたのぅ!」

弱点の一つである長いチャージ時間は、今回のようにソウルハウルのキャッスルゴーレムで守ってもらえば十分に稼げる。

そして《退避の導き》による強制移動と、空絶の指環での防御。この組み合わせによって、反則級の不意打ちが可能となったわけだ。

その結果に大満足のミラは、改めるようにして周囲の状況を確認してみた。

「ほぅ、あれを耐えるとはのぅ……」

あまりにも無慈悲な一撃だった。けれど今回は、広大な空間に並ぶ魔物と魔獣をまんべんなく吹き飛ばそうと薙ぎ払ったために、多少威力が分散したようだ。あの破壊の嵐に呑まれながらも、まだ数体の魔獣が生き延びていたではないか。

また、魔獣を制御していたと思われる黒いロープは消し飛んでいた。ゆえに魔獣達も動き始める。

とはいえ、流石に五体満足とはいかない。その被害は甚大だ。

莫大なマナと生命力によって回復されてしまう前に、止めを刺してしまいたいところである。

だが手負いとはいえ、決して油断出来る相手ではない。むしろ手負いの方が厄介な事が多いというものだ。

加えてどれもがレイド級の魔獣だった。本来ならば、上位プレイヤーが数十人と集まって戦うような相手だ。流石のミラとて、それら八体を一人で相手取るのは、些か困難といえた。

「さて、せめて合流するまでは邪魔するとしようかのぅ」

落ち着いて回復をさせないため。そして、他のチームの邪魔をさせないために、ミラはその場にて魔獣達との決戦を開始した。

マナ回復薬をぐいっと飲み干すと、再びアイゼンファルドを召喚する。更にイリスの護衛についているシャルウィナは残したまま、他のヴァルキリー姉妹をこの場に召喚。加えてサポートのレティシャと、虹精霊トゥインクルパム。最後に、巨大な魔獣に対抗するため、こちらも巨体な楽園の守護者ロッツエレファスと、大蛇ウムガルナを投入した。

そうして始まった戦闘は、戦闘というよりは乱闘に近いものだった。

ミラ側は、アイゼンファルドを筆頭にロッツエレファスとウムガルナが、正面からそれぞれ大型の魔獣を足止めしている。その間にヴァルキリー姉妹らが、間隙を縫って魔獣に肉薄し、猛攻を仕掛けていった。

それらを支えるのが、サポートのレティシャとパムだ。

不思議な力を秘めた歌で仲間達を鼓舞するレティシャ。そしてパムもまた蓄積された膨大な知識と知恵、虹魔法で様々な援護を行っていく。

ミラもまた、ワーズランベールを送還した後、前線にて奮闘していた。

部分召喚を巧みに操り相手の死角から攻めつつ、己も武装召喚にて強化した身体能力を駆使し、戦場を駆け回る。

「これでどうじゃ!」

ウムガルナによって、ぎりぎりと締め上げられている一体の魔獣。けれどその膂力は健在であり、あと幾らかで自らその縛を解いてしまうだろう。

そこへミラが真っ直ぐに突っ込んでいった。見事に隙を突いて拘束にまで至ったウムガルナの奮闘を勝利とするために。

ミラが纏うのは、《セイクリッドフレーム》。その背に浮かぶのは二本の光剣。その一本を右手に装填したミラは、もがく魔獣の腹に照準を定めて拳を繰り出した。

必殺の《光剣パンチ》だ。迸る閃光が破壊力となって、魔獣の腹に炸裂する。

それは《セイクリッドフレーム》によって底上げされたミラの身体能力に加え、聖剣サンクティアの固有能力、光剣が奇跡の融合を果たした必殺技である。

その威力は、レイド級の魔獣に対しても通用するものだった。先程まではウムガルナの拘束から抜け出そうともがいていた魔獣だが、今はもう身動き一つもない。見事に、それが止めとなったのだ。

「ふむ、これも悪くないのぅ!」

いざという時は、近接戦での切り札にもなり得そうだ。ミラは光剣パンチの威力と実用性を実感しながら、そのままウムガルナと共に別の魔獣へと向かっていった。

そして部分召喚などでサポートしつつ、うまい事ウムガルナが再び魔獣を拘束したところで光剣パンチを炸裂させる。

大型魔獣ですら幾らか拘束出来るウムガルナとの相性は、すこぶる良さそうだ。通常時ならば決して狙えないであろう魔獣の頭に直撃した光剣パンチは、遺憾なくその威力を発揮した。

「いずれは、光剣キックにも挑戦したいところじゃな!」

倒れ伏す魔獣を見据えながら、次の目標を立てるミラ。今はまだ右手のみにしか光剣を装填出来ないが、いずれは足にも出来るようにしたいと。

戦いの最中にあっても先の実験について考えつつ、ミラは迫りくる魔獣相手に奮闘を続けた。

とはいえ、相手もやるものだ。レイド級の魔獣というのは、やはり生半可な存在ではない。学習するのだ。

これまでは僅かにミラ達側が優勢であったが、ある時点を境に拮抗し、削り合いの状況へと変化していった。そのある時点とは、共闘だ。

個別に暴れていた魔獣達が、ミラ達を共通の敵として手を組んだのである。

巨体を誇るだけでなく、単純な力や魔法も人の上をいくレイド級の魔獣達。アイゼンファルドの全力ドラゴンブレスで相当な深手を負ってはいるものの、その戦闘力は、まだまだ健在だ。

それでいて見事な連携をとってくるというのだから、極めて厄介だった。

「ふーむ……完全にアイゼンファルドが抑えられてしもうたな……」

残る魔獣は六体。うち三体の魔獣に囲まれてしまったアイゼンファルド。現時点での最高戦力は、三体の魔獣を相手にかかりきりとなっていた。幾ら皇竜のアイゼンファルドとはいえ、相手もまた上級を超える魔獣三体だ。防戦一方となっていた。

だが、それはもう一方で、アイゼンファルドが三体もの魔獣を引き受けているとも言えた。

「やはり、もう警戒されておるのぅ」

ウムガルナとのコンビネーションは、既に学習済みのようだ。魔獣達は素早く相互に支援して、もはや拘束すら出来ない状況だった。

ともなれば、光剣パンチを決めるのもまた難しそうだ。多少の近接戦は出来るものの、流石のミラとてレイド級の魔獣が相手では圧倒的に不利だからだ。武装召喚によって二、三回は打ち合えるかもしれないが、それにも限度がある。

ゆえにミラは残り三体の魔獣を相手に、司令塔としての役割に徹した。

ヴァルキリー姉妹とロッツエレファス、そしてウムガルナが魔獣と激しくぶつかり合う中、ミラはダークナイトやホーリーナイトで足りない部分を補っていく。更には状況、状態に合わせてレティシャとパムにも指示を飛ばし、その場に最適な支援を実行していった。

と、そのように戦い始めてから、十分弱が経過した時だ。

戦況は、拮抗。共に決定打を打てず、徐々に削り合うだけになっていたところで状況が一転した。

突如として背後の巨大門に穴が開き、そこから援軍が到着したのだ。

「これはまた、厄介なのが残っているな」

「にしても数千の魔物と百を超える魔獣が、もうこんなもんか」

「お疲れ様、おじいちゃん。表は全部片付いたよ」

ソウルハウルとルミナリア、そしてカグラが合流したのだ。三人は、そこで繰り広げられている怪獣バトルを見回した後、そのまま何ともなしに戦線へと加わった。

対してメイリンは我先に「ワタシにもやらせてほしいネ!」と息巻いて突入していく。更にゴットフリートもまた、「止めは俺がもらったー!」などと雄叫びを上げながら突撃していった。

悪の犯罪組織『イラ・ムエルテ』の本拠地に乗り込むなり、ミラ達がド派手に大暴れしていた頃。丁度、大部屋にて全力ドラゴンブレスが炸裂した時だ。

断崖の外側にて待機していたノイン達にもまた、その衝撃の余波が届いていた。

「そこそこ離れているはずが、ここまで響いてくるのか。とはいえ、どうやら作戦通りに進んでいるようだね」

正面には断崖絶壁。背後には大海原。ノイン達のチームがこのような場所にいるのには理由があった。

断崖にへばりつき足場となっているエリュミーゼのゴーレム。そんなところでノイン達が待機していたのは、目立たずに侵入するためだ。ミラ達が大暴れする事で、十分に注目を集めたであろう頃合いを見計らっていたのである。

「それじゃあ、近くに寄せる、ね」

エリュミーゼの操作によって、ゴーレムはまるでリフトのように断崖を上がっていく。

だがその途中にて──

「よーし、いよいよ行動開始だな!」

「うむ。あの一撃が炸裂した今こそが、一番の好機でござるな」

予定の場所まで上がり切るより早く、ラストラーダとサイゾーが動き出したのだ。

今回、作戦実行にあたり二手に分かれたのには意味があった。

ミラ達第一チームは、陽動だ。存分に暴れて敵戦力を削ると共に、どこかに潜むボスの注意も引き付けるのが役目である。人選もまた、それがゆえだ。

そしてノイン達のチームはというと、秘密裏に潜入して、どこかに潜むボスを見つけ出すというものだった。

「あらあら、焦りは禁物よ。しっかりと用心していきましょうね」

さっさと断崖を上ってしまおうとした二人の首根っこをむんずと捕まえたアルテシアは、そのまま引き戻すと共に聖術を行使した。持続回復や守備上昇など様々な強化聖術のてんこ盛りだ。

そしてその間、見事に転がされたラストラーダとサイゾーは、逸る気持ちを抑えてアルテシアの言いつけ通りに強化が済むのを待った。ここで逆らうという選択肢は、二人に無いのだ。

ともあれ、ゴーレムが目標地点に到達した。だが、その目の前にあるのは、これまで見てきた断崖の岩壁だけだった。

「にしても、よくもまあ見つけたものだ」

どんなところでも、先行するのは鉄壁の護りを誇るノインの役目だ。

ノインは感心したように呟きながら、その断崖の岩壁に向けて歩み寄っていく。そして次には、そのまま壁の中へと入っていった。

そう、そこにあった入り口は、断崖の一部として術的にカモフラージュされていた隠し通路だったのだ。しかも一見するどころか、じっと観察しても違いが判らないような代物である。

だが先行調査にて、カグラが一目でそれを看破した。

よもや、これほどわかり辛い場所から侵入されるとは思うまい。といった予想を基にノイン達は、この場所よりの潜入となったわけだ。

かといって、絶対は有り得ない。

「よし、これといって怪しい術式はしかけられていないな」

「罠の類も、近くにはなさそうでござる」

本拠地に踏み入るなり、ラストラーダとサイゾーは素早く周辺を調査した。その結果は問題なしだ。積極的な二人であるが、その辺りの慎重さはしかと持ち合わせている。ゆえにサイゾーのみならず、ラストラーダもこちらのチームなのだ。

「よし、進もうか」

そうして注意と警戒を怠らず、それでいて今が好機とばかりにノイン達は敵本拠地の捜索を開始したのだった。