軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

378 秘密の混浴

三百七十八

カグラによるプリピュア指導が始まって十分少々が経過した。

その最中、これではいつ終わるかわからないと感じたミラは、そのまま聞いてくれと『イラ・ムエルテ』との最終決戦への参加要請について告げた。

とはいえメイリンの答えは、ほぼ確約しているようなものだ。

決戦の地には、強力な魔物や魔獣が大量に揃っていると予想される。そんな場所があると知れば、メイリンの事だ。むしろ断っても無理矢理ついてくると言うだろう。

しかも闘技大会出場についても、アルマが調整するという約束だ。

「行くネ! 絶対に行くネ! いつどこに集まればいいヨ!? そこに泊まり込むネ!」

結果、当然ながらメイリンの答えは全力のイエスだった。

そんなメイリンを、どうどうと宥めながら一通りの説明を終えたところ、ふと扉をノックする音が響く。

「メイメイ様、ミラ様、湯殿の準備が整いました」

扉を開けるとヴァネッサがいた。そして彼女は、そう入浴の時間を告げると共に、ぎらりとした目でメイリンをロックオンする。

風呂嫌いのメイリンを毎日風呂に入れるのも彼女の役目なのだ。

ただ今日は、そんなヴァネッサの目に、もう一人の姿が映る。それはミラでなく、メイリンの隣にいたカグラだ。

「あら、貴女様は……どちら様でしょうか」

そう、カグラはピー助との入れ替わりでやって来たため、家の者との面通しがまだであった。

「おお、そうじゃ、勝手にすまんかった。この者は、わしとメイメイの友人でな、ウズメという。二人もまた、随分と長い間離れ離れとなっておってのぅ」

ミラがそのように紹介したところでカグラは、「夜分に突然の訪問、失礼致しました。ウズメと申します」と実に慣れた仕草で一礼した。

「そうでございましたか。お二方の御友人様でしたら、いつでも大歓迎でございます」

そう笑顔で答えたヴァネッサは、その直後に「……ウズメ……様?」と今一度名前を繰り返した後「もしかして、五十鈴連盟総帥のウズメ様、だったり……しませんか?」と、興奮気味に続けた。

「はい、よくご存じですね。そのウズメです」

ヴァネッサの気迫に驚きつつも、カグラはそれを肯定した。するとヴァネッサの表情が更なる喜びに満ち溢れていく。

「ああ、なんて事でしょう!」

彼女は、五十鈴連盟ラトナトラヤ支部が運営する『エバーフォレストガーデン』の大常連だった。

庭園の世話をする際に必要な道具、そして植える種だとかいった全てを、支部で揃えていたのだ。そのため店員とは全員と知り合いであり、副店長とも友人同士らしい。

五十鈴連盟総帥のウズメについては、そんな副店長から最近聞いたのだそうだ。

「会えて嬉しいです、感激です!」

ともあれ五十鈴連盟には、このようなファンもいるようだ。カグラは喜ぶヴァネッサに「こちらこそ」と笑顔で答える。

元を辿れば、森で知り合った友人の仇を討つために始めた事だ。けれど今は、それが他の誰かのためにもなっている。その事を実感したからか、カグラの表情もまた喜びに満ちていた。

「久方ぶりの再会という事でしたら、積もる話もございましょう。どうぞ本日は御泊りになっていってください。お部屋を用意させていただきます。あ、それと湯殿の準備が整っておりますので、是非ご一緒に。誠心誠意、ご奉仕させていただきます!」

カグラが五十鈴連盟の総帥と知ったヴァネッサの勢いときたら、有無を言わさぬような迫力があった。それでいて、逃げようとするメイリンをしっかりと捕まえているのだから、実に優秀である。

ただここに、ヴァネッサが敷いていく流れに対して戦々恐々としている者がいた。

(こ……これはまずい状況になってきたのぅ……)

そう、ミラだ。では何がまずいのかというと、もちろん入浴についてだ。

当然ながら、ミラの正体?については何も知らないヴァネッサ。

そして、男女がどうこうという点については、さほど関心のないメイリン。むしろ、ここでミラが風呂に入らないなどと言えば、「ズルイ」とすら言い出すだろう。

とはいえ、この二人だけならば、まだどうにかなった。苦しいながらも言い訳は立ったはずだ。

けれど今は、カグラがいる。そしてミラの正体を知る彼女は、『一緒にお風呂とか、どうするつもりなのよ?』とばかりな目で、ミラを睨んでいた。

対してミラ自身も、どうしたものかと悩んでいた。見知らぬ女性達だけの浴室という事ならば、喜び勇んで突入しただろう。

だが今回は違う。交友関係があり、よく知る相手だからこそ自制心というのは強めに働くのだ。

「……おっと、それではわしは、そろそろ城に帰るとしようかのぅ。まだ、あちらでの仕事が残っているのでな。後は二人でゆっくりと語り合うとよいぞ」

考えた末、ミラはその逃げ道を見出した。

現時点において、『イラ・ムエルテ』の最高幹部四人のうち、三人は既に確保済み。残る一人も、時間の問題と言っていいだろう。

つまり、巫女のイリスが狙われる確率は、ぐんとさがっている状況だ。加えてシャルウィナを筆頭に、部屋内部の警備もばっちりである。

だがしかし、まだ何かあるとも限らない。ゆえに任務は継続中であるとして、ミラは急ぎ護衛としてイリスの部屋に戻るという選択肢を取ったのだ。

「あ、ずるいヨ。お風呂から逃げる気ネ!」

ミラの発言から直ぐ、まるで自身から意識を逸らせるかのようにしてメイリンが声を上げる。

しかしながらメイリンでもあるまいし、ミラの言葉をそう受け取る者などいなかった。

とはいえ、受け取り方はそれぞれである。

カグラは、ミラの選択を妥当と判断したようだ。『それでいい、私の裸を見ようとするならば容赦はなかった』とばかりな顔で頷いていた。

「そうでございましたか。是非ともミラ様にもご宿泊していただきたかったのですが、そういう事でしたら仕方がありません」

ヴァネッサには、言葉通りの意で伝わった。ミラが女王の指名を受けて何かの任務に就いているとは把握していたようだ。ならばこそ、そちらを優先するのは当然であるとしながら、その目は、ちらりと庭園の方に向けられていた。

どうやら植物マスターのミラ(マーテル)に、色々と相談したい事があったらしい。けれど彼女は、それを呑み込んで「では、馬車をご用意致しましょうか」と続けた。

「いや、大丈夫じゃ。ペガサスに乗って戻るのでな」

「まあ、ペガサス! 素敵でございますね!」

ペガサスに乗れば、城までひとっ飛びだ。召喚術士ならではの答えに、ヴァネッサは目を輝かせる。

何でもペガサスが登場する有名な物語があるため、ほとんどの乙女は、ペガサスに憧れを持っているそうだ。

となれば、イリスもだろうか。そう考えたミラは、いつか自由に外に出られるようになったら一緒にペガサスで空を飛ぼうか、などと考えたのだった。

アダムス家からニルヴァーナ城に戻ったミラは、メイリンは余裕で参戦だとアルマへの報告を済ませ、そのままイリスの部屋に向かっていた。

それなりに滞在期間も長くなっている事に加え、護衛でありながら、ちょくちょく表に出ているものだから、城の者との顔見知りも随分増えてきたものだ。

「あ、ミラ様。余りものですが、バナナプリン如何ですか?」

「おお、いただこう!」

そのようなやり取りを交わしながら廊下を進む事、数分。こちらもまた随分と暮らし慣れたイリスの部屋に到着する。

「ミラさん、おかえりなさいですー!」

庭園区画を抜け居住区画まで来たところで、イリスがそこから飛び出してきた。

「うむ、ただいま。お主達も、ご苦労じゃったな」

嬉しそうに抱き着いてくるイリスを受け止めつつ、ミラはしっかりとイリスの傍に付くシャルウィナと団員一号に労いの言葉をかけた。

両名はミラの留守中でも、大切な護衛任務をきっちり遂行しましたと誇らしげだ。

だが団員一号の手にはカードの束があった。レジェンドオブアステリアのカードだ。色々なデッキ構成を試していたと思われる。

そしてシャルウィナはというと、こちらもまた分厚い本を手にしていた。ここの四階にある図書館から借りたのだろう、ヴァルハラで会った時以上に充実した顔である。彼女にとってイリスの部屋は、それこそ実現された理想郷そのもののようだ。

両者は、護衛以上にイリスの部屋での生活をエンジョイしている様子であった。

「さて、土産話の前に、まずはひとっ風呂浴びるとしようか」

アダムス家では故あって回避したものの、風呂好きであるミラは何とも言えない日常感を覚えつつ浴室に向かって歩き出す。

するとイリスが「私も一緒に入りますー!」と言って付いてきた。

「ふむ……仕方がないのぅ」

こう言い出したイリスは、もう止められない。共に生活していく上でそれを痛感していたミラは、ゆえに余計な抵抗をせず承諾した。

イリスの方から一緒がいいと言って来た上で拒否すると、こちらが辛くなるほどに落ち込むのだ。それをどうして断れようか。

カグラはともかく、この護衛の仕事を依頼してきたアルマとエスメラルダならば、きっとわかってくれるはずだ。そう信じて、ミラはイリスと共に入浴する。

なお、いざという時の言い訳のために団員一号も一緒に連れ込んだのだが、「それならば、私も」とシャルウィナまで付いてきてしまったため、男目線で見れば、何とも羨むような場面となっていた。

つまり、ミラの正体を知る者が見たとしたら、どう言われるかわからない状況だ。

そんな中、色々な言い訳を考えていたミラだったが、次の瞬間にそれらが全てぶっ飛ぶ事態となる。

「あ……ここにいた」

浴室の扉が開いたかと思えば、そこにアルマとエスメラルダの姿があったのだ。

途端に凍り付くミラ。まだイリスと一緒に風呂に入っているという事は、二人に伝えていなかった。どうやって正当化しようか、思い浮かんでいなかったからだ。

だがその前に、見つかってしまった。二人が、とても大切にしているイリスと、こうして一緒に風呂に入っているところを。

「あ! アルマお姉ちゃんとエスメラルダお姉ちゃんですー!」

わしゃわしゃと頭を洗い、ざばーっと流してから、ぱっと顔を上げたイリスは、そこにいる二人の姿を目にしたところで、きらきらと笑顔を咲かせた。

「どこにいるかと思えば、今日のお風呂はいつもより早い時間なのね」

エスメラルダがそう言ったところ、イリスは「ミラさんが入るって言うので一緒に入りましたー!」と答える。

「ふーん、そっかー」

イリスの言葉を受けたアルマの視線が、じっとミラに向けられる。

ミラはその視線を、団員一号を盾にして防ぎつつ、そっと二人の様子を窺う。怒られやしないかとばかりに。

すると、どうだ。アルマとエスメラルダの表情は、不思議と穏やかであったのだ。

しかもそれは、憤怒を隠した笑顔などではなく、それこそ喜びの色が覗く笑顔であった。

(もしや、わしの功績が認められて、多少の事ならば黙認されるようになったのじゃろうか!?)

と、ミラが二人の反応に、そんな淡い期待を抱いていた時だった。

「お姉ちゃん達も一緒に入りましょー!」

イリスが、そんな事を言い出したではないか。

ミラは知っている。もしもこれを断ったところで、イリスはただしょうがないと笑うだけである事を。

ミラは知っている。けれど、その笑顔の裏には、悲しみが秘められている事を。

ミラは知っている。アルマとエスメラルダにとってイリスは、とても大切な存在である事を。

ミラは知っている。そんなイリスの願いを無下にするなど、この二人には出来ない事を。

そしてミラは、気付いている。本来ならば快諾出来るだろうそれに、自分の存在が邪魔になっている事実に。

今の見た目は美少女だが、かつてをよく知る二人にとっては、やはり男の前で肌を晒すような感覚になるのも仕方がないというものだ。

かといって、もう上がるなどとは言えない。きっとイリスは、皆で楽しくお風呂に入るのを望んでいるだろうから。ここでミラがいなくなっては、意味がないのである。

こういう場合は、どうしたらいいのか。そう悩んでいたところ、状況はまさかの方向に進んだ。

「そうね、それじゃあそうしようかな」

「あらあら、こんなに賑やかなのは、どのくらいぶりかしらね」

なんとアルマとエスメラルダが、そう快諾したのだ。

これに驚いたミラは、まさかとばかりに二人を見やる。

するとアルマは、どこか悪戯っぽく笑ってみせた。そしてエスメラルダはというと、優しげな微笑を返してきたではないか。

ミラがダンブルフであるという事実を知る者の反応というと、むしろカグラが正常と言えるだろう。そこには、見た目だけでは量れない何かがあるものだ。

しかし、着替えのために脱衣所に戻っていった二人の様子に、そういった何かは一切見られなかった。

(……! もしや、あれか! 心を許した相手ならば問題ないという事か!)

これまでの功績が認められ、いつの間にかそのような立場になっていたのかもしれない。そんな可能性に思い至ったミラは、モテる男は辛いなとばかりな笑みを浮かべて、団員一号の頭を撫でる。

だがその直後、ミラの背筋を悪寒が襲う。

ミラの脳裏に、ふと過ったのだ。このような状況をマリアナに知られたら、どうなってしまうのかと。

国交の関係もあってか、アルマとエスメラルダはソロモンとも仲が良い。政務だけでなく、世間話なども交わすような間柄だ。

そこでぽろりと、皆で風呂に入ったなどと言ってしまわないかどうか。

そして、それを聞いたソロモンが面白半分に、誰かへ──たとえばルミナリアなどに話してしまわないかどうか。

と、ルミナリアといえば、こちらに来る予定だ。しかも、見つけた九賢者全員も一緒にだ。

そうなれば、思い出話に花が咲くような時もあるはずだ。そこで、何かの拍子に誰かの耳に入ってしまう確率が生まれる。つまりその分、マリアナに伝わりやすくなるというわけだ。

(それだけは、何としても避けねば……!)

数秒の内にそんな最悪の展開を予想したミラは、急ぎそれを回避するための手段が必要だと考える。まさかの急場に思わず力が入った右手がギリギリと団員一号の頭を締め付けるが、それにも気付かず最善策を模索した。

(──よし、こうしておけば……)

色々と考えた結果、ミラは体勢を整え直してから、誰もいないベランダ側へと身体を向けた。

イリスの願いを叶えるため、ここから出るわけにはいかない。ゆえにミラは、何も見ていませんよ、庭の緑を見ていただけでしたよという意思を、その行動で示したのだ。

いわば、いざという時のための言い訳作りである。

「お待たせー!」

「こら、ちゃんと掛け湯をしてからでしょ」

そうしたところで、いよいよ浴室の戸が開き、背後からアルマとエスメラルダの声が響いてきた。

今の二人は、お風呂スタイル。つまりは全裸であると容易に想像出来る状態であり、このまま振り向けば、ありのままの姿が目に映る事だろう。

「やはり植物の緑は、目に優しいのぅ」

わざとらしくもそのような事を呟きながら、ミラはベランダから見える木々の彩りに集中した。そして、[ギブアップ]と書かれたプラカードを手にぐったりする団員一号を手に「そうか、お主もそう思うか」と、気にしていない演技を続ける。

そうして上手い事背景の一部に紛れ込もうとミラが努力している中、洗い場方面では、何やらシャルウィナに注目が集まっていた。

「シャルウィナさんの髪、凄く艶やかで綺麗ですわね」

「お肌も凄くつやつやですー」

何やらエスメラルダとイリスが、シャルウィナの綺麗な髪や肌に興味を惹かれたようだ。

美容というのは女性達にとっての共通言語だが、ミラの場合は、ちんぷんかんぷんな分野であった。

しかし、生粋の女性であって更に勤勉なシャルウィナは、それこそプロの如き知識を持っていた。

「えっと、複数の文献を参考に、色々試しておりまして……」

どこか鬼気迫るようなエスメラルダに、若干身を引きつつ答えるシャルウィナ。

七姉妹の中では一番の文系である彼女は、本から得た美容の知識などを駆使して、訓練後のケアを欠かしていなかった。きっと姉妹一の美肌といっても過言ではないだろう。

対するエスメラルダは、最近ずっと忙しかった事もあり、髪も肌も少々荒れ気味のようだ。

だからこそか、エスメラルダはシャルウィナの美容方法に興味津々である。「それは、どのような──」と迫る声には、相当な必死さが込められていた。

「えっと……一つは、グリューエン博士の薬草学最終稿で──」

「最終稿が、あるのですかー!?」

今度はイリスが、シャルウィナが参考にした文献の方に興味を惹かれたようだ。

アルマが用意した四階の図書館だが、全ての書物を網羅しているわけではない。著者が一冊のみしか書いていないような本までは、流石に並びきってはいないのだ。

それでいて、そういった本も蔵書として数多くが収められているのだが、その点はシャルウィナの蔵書もまた中々のものである。

結果、エスメラルダに続いてイリスもシャルウィナに釘付けとなった。

これならば当分は目立たずにいられる。ミラは、シャルウィナの素晴らしい仕事ぶりに感謝した。