軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

369 性豪ユーグスト

三百六十九

部屋の奥に置かれたキングサイズのベッド。そこに腰掛けるユーグストは、遊女達が一人ずつゆっくりと服を脱いでいく様を見つめていた。

そしてミラはというと、こちらもまたラノア達に言われた通りに待機していた。

今は少し離れた場所で、王様の遊びというものを見学させられているところだ。

(おおぅ……何ともまた絶景な……)

一人ずつ露わになっていく遊女達の裸体。それを見る限り、ユーグストは随分と好みの幅が広いとわかる。

大きかったり小さかったりとバリエーション豊かだ。

ただ何よりも、トップクラスの遊女が揃っているだけあって、誰の美しさも筆舌に尽くしがたく、ただただ目が離せないほどの魅惑に満ちていた。

きっとユーグスト側から見たとしたら、それはもう格別であっただろう。

と、そのように羨みながらも、どうにか煩悩を振り払ったミラは、いざラノア達が作ってくれるチャンスを待って身構える。

目的は、ユーグストのワインに精力増強剤を入れる事。そしてそのワインは、ベッドの隣にあるテーブルに置かれていた。瓶が一本と、ワインが注がれた状態のグラスが一つだ。

今の立ち位置からして、約五メートルほどの距離にある。

(さて、いよいよじゃな……)

ラノア達の脱衣ショーが終わったところで、いよいよ大人の遊戯が始まった。

ベッドの上でどんと構える王様に対して、遊女達が一斉に絡み合っていく。

「おっと、なるほど。今日はこういった作戦か。いいだろう、受けてたとうではないか!」

ラノア達とユーグストは、毎日のようにこういった攻防を繰り広げているようだ。

波状攻めだったり、一騎打ちだったりと、どちらが先に果てるかの勝負である。

今回は、一斉攻めの策だと受け取ったユーグストは、どこからでもかかってこいとばかりに彼女達を受け止めて笑う。

ベッドの上でくんずほぐれつに絡み合うユーグストと遊女達。あの中心が自分だったらなどと想像しつつ、ミラはその生々しい様子を注意深く見つめる。

と、その最中だ。

「なかなか、やるな。だが、まだまだ!」

随分とご機嫌なユーグストの声が響いたところで、そっとラノアがこちらに顔を向けて合図を出した。

(よし、作戦開始じゃな!)

合図の後、ラノア達が更に攻め始めた。そしてユーグストの視界をその身体で覆い尽くしていく。きっと彼の目には、男にとっての理想郷が広がっている事だろう。

一度は拝んでみたいものだ。そんな事を夢想しながらも、ミラは気持ちを切り替えて作戦を開始した。

「お、お、おお、これはいいぞっ」

聞きたくもないユーグストの悦に入った声が響いてくる。さぞかし彼は……などと何度目になるかわからない煩悩を振り払い、ミラはそっとテーブルに近づいていった。

(よし、後はこれを……)

ポケットから小瓶を取り出したミラは、一度ベッドの様子を窺った。

ユーグストは、完全に女体に埋もれていた。遊女達が上手い事位置を調整しているため、ミラの位置からはユーグストの状態がまったく確認出来ないほどである。

それはつまりユーグスト側からも、このテーブルを確認出来ないという事だ。

今が絶好の好機。そう直感したミラは、素早く小瓶の蓋を開けて瓶とグラスの両方に数滴垂らした。

その時だ。

「ああ! 流石はラノアだ。このままでは勝てそうにないな」

降参だとばかりに、ユーグストがベッドから起き上がったのである。しかも「俺は、一杯入れてからが本番だからな」などと負け惜しみのような言葉を口にしながらテーブルの方に振り向いたではないか。

瞬間、遊女達の顔に焦りが浮かぶ。予定よりも早くユーグストが達してしまったため、ミラが元の位置に戻るまでの時間が足りなかったと。

ここでミラが見つかっては、ワインに細工した事に気付かれるかもしれない。そうなれば、いったいどんなお仕置きが待っているのか。

慌てて止めようとする遊女。けれど、懸念した状況にはならなかった。

「おっと、なるほど。このオレを誘惑しようとするとは、随分と有望な新人のようだな」

ユーグストは振り向く途中で視点を止めると、愉悦に満ちた声でそう言った。

その視線の先には、まるで見せつけるかのように両脚を開いて座り込んでいるミラの姿があった。

(あいたたた……)

予定よりも早かったユーグストの動き。普通に歩いて戻っては間に合わないと判断したミラは、《縮地》を使って待機を命じられた場所にまで戻っていた。

だが《縮地》は、その特性上、急に止まる事は出来ない。よって無理矢理に止まろうとしたミラは、勢いのまま尻もちをついてしまっていたのだ。

その結果、ユーグスト側に向けて、大っぴらにミニスカートの中を見せつけるような格好になってしまった。

ただ、どうやらそれが功を奏したようだ。ミラが裏で工作をしていた事についてユーグストは一切気付いた様子はなく、スカートから覗くパンツに釘付けだった。

「その小さな身体で、これほど積極的な娘は初めてだ。ああ、久しぶりに 滾(たぎ) ってきたぞ」

ギラギラとしたユーグストの目が突き刺さる。

対してミラは、不自然にならないように立ち上がり、恥じらったような仕草をしてみせた。

ユーグストが勝手に勘違いしてくれたため、上手く誤魔化せた。たまたまだったが、ミラは工作を疑われぬように新人遊女らしいイメージを演じる。

とはいえ演技など素人であり、遊女についてもさほど知らないミラである。その素振りはわざとらしく、演技だと直ぐにわかるものだった。

「ああ、まったく。今更清楚ぶるとは。だが、そこもまた可愛らしいではないか」

すんなりと見破られはしたものの、その反応が彼の嗜好に見事直撃したようだ。「最後が最高に楽しみだ!」と、それはもう興奮した様子でテーブルの上に置かれたワイングラスを手に取った。

「さあ、今日はいつもより長くなりそうだ」

ミラの全身を舐め回すように見つめたユーグストは、続いてラノア達に視線を向ける。そして、「まずはお前達を動けなくなるまで可愛がってやるからな」と、それはもうやる気満々な様子で手にしたワインを一気に呷った。

(よし、飲みおった!)

ユーグストに、どのように思われたのかはよくわからない。

だが、ともかく精力増強剤を飲ませる事に成功したミラは、その結果に心の中でほくそ笑んだ。

とはいえ、もとより性欲の塊で変態なユーグストに極上の精力増強剤を投入するという作戦である。

いったい、どれだけハードな性の怪物になってしまうのか予測もつかない。

「おお……なんだかいつもより酒の効きがいいな。力が湧き上がってくるようだ!」

その変化は、正に劇的だった。目に見えずとも、目に見えてユーグストの性力が高まっていくのがはっきりとわかった。

これから精力増強剤の効果が切れる二時間、そんなユーグストを相手に激しい攻防が繰り広げられる事になる。ここからがラノア達の本番であるといっても過言ではないだろう。

(頼んだぞ、 遊女(ゆうしゃ) 達よ)

二時間が過ぎて精力増強剤の効果が切れると、ハッスルした分だけ反動が来るという話だ。

状況は、ユーグスト一人に対してラノア達は十人。幾ら性の怪物になろうとも、その道のプロ十人を相手に二時間も勝負したとしたら、きっと効果が切れると同時にぶっ倒れるのは必然であろう。

後は、精根尽き果てた彼を捕縛して任務完了というものだ。

騒がず静かに済むのならば、これほど完璧な結果はないだろう。

と、そのような理想を脳内で思い浮かべていたミラは、目の前でどんなプレイが繰り広げられるのかとワクワクする気持ちを心の中に秘めて待機していた。

「ああ……ああ! なんだ……熱い……抑えきれなくなってきたぞ!」

いざ位置についていたラノア達とユーグストが二戦目を開始しようとした時だ。

それはもう溢れる欲望で上気したユーグストが、勢いよく立ち上がったではないか。

「なんだ……足りない、足りないぞ!」

精力増強剤の効果か、ユーグストは際限なく高まっていく性欲によって、これまでにないほどの興奮状態になっているようだ。

しなだれかかる遊女達を、まるで求めているものとは違うとばかりに払いのけるユーグスト。

(何を言っておるのじゃ、あ奴は。その楽園こそが理想郷じゃろうに。まったく、わしが代わってほしいくらいじゃ)

気持ちが最高潮にまで高まった状態で、あれほどの美女に囲まれ何が不満だというのか。

男にとって最高の戦場にありながら、足りないなどという彼の態度に憤り、その贅沢加減に敵意を燃やすミラ。

するとそんなタイミングで、ミラとユーグストの視線が交差した。

思わずイラつきを露わにしていたミラを、欲望を注ぐ対象を求めるユーグストの目が捉えた瞬間だ。

「そうだ、お前だ。ああ、ミミ……その目……イイぞ! その身体を今すぐ味わわせてくれ!」

ユーグストの目が急激に欲望で染まると、その感情に突き動かされるようにして飛び出してきたではないか。

その原因は、つい先程の出来事だった。

遊女達と一戦目を楽しみ、更に本気を出そうとした時である。小悪魔的なポーズで誘う(?)ミラを目にしたユーグストは、その瞬間に、いわば魅了されてしまっていたのだ。

その状態で精力増強剤を飲み、性欲を爆発させたらどうなるかというと、当然、今一番に恋焦がれるミラに全てが向けられるというわけだ。

結果、ユーグストはミラに迫った。一番の楽しみは最後だとかいう彼の拘りは、まさかの精力増強剤によって消し飛んだようだ。

しかも遊女達とは一戦しか交えていないため、性の怪物と化したユーグストは心身ともに、たっぷり二時間は万全な状態だ。

「だめ、ミミちゃん逃げて!」

そんな男の欲望が一人の少女に注がれたなら、どうなるか。明らかに昨日よりも酷い事になると遊女達が叫ぶ。

しかし、この部屋に逃げ場などない。ユーグストに狙われたら最後、徹底的に弄ばれる運命が待っているのである。

ユーグストはミラに飛びつくなり、その場で床に押し倒す。そして次の瞬間には、その手でもってミラの胸元を露わにさせた。

「さあ、捕まえたぞ。ああ……なんと美しい」

ミラの肌を前にしたユーグストは、愉悦の笑みを湛え喉を鳴らす。その表情は欲情に染まり切っており、今はミラの蠱惑的な身体しか見えてはいなかった。

ミラはというと、ユーグストに馬乗りにされながらも虎視眈々と好機が訪れる時を待ち、その視線に晒される事に耐える。

「ああ……もう抑えきれない!」

いよいよ興奮が頂点に達したようだ。ユーグストは、そのままミラの身体に覆いかぶさり、口を近づけていった。

だが直後に、ユーグストの動きが止まる。

「ああ、なんとも可愛らしい抵抗だ。しかし、だからこそ燃えるというものよ!」

迫るユーグストに対し、ミラは拒むようにして両手を突っ張っていた。それこそ無力な少女がみせる最後の抵抗、とでもいった様子だ。

そして、だからこそ余計にユーグストの欲望が燃え上がる。

「さて、その細腕で、どれだけ耐えられるのか……」

大人の男の身体と、少女の細腕。どちらが勝つかは明らかである。ゆえにユーグストは、徐々に力を強めるようにして、その口を再びミラの胸元へと近づけていく。

ユーグストの顔は獲物を狙う獣ではなく、弄ぶそれに変わっていた。卑下た笑みを湛えながら、ミラの柔肌に情欲まみれの視線を注ぐ。

「ミミちゃん──!」

「だめ、助けないと──!」

たとえ王様のお気に入りである彼女達だとしても、逆らえばただでは済まない。けれどこのままでは新人がまたボロボロの玩具にされてしまうと、遊女達は立ち上がった。

その覚悟たるや、相当なものである。それほどまでに彼女達は優しく、仲間想いなのだろう。

彼女達は、王様にどのようなお仕置きをされる事になるのか。

だが、その心配は無用というものだ。

「ふむ、完璧な体勢じゃな」

強くのしかかってくるユーグストの身体を両手で支えながら、ミラは薄らと目を細め口端を吊り上げ笑った。今、完全に回避が不可能な状態になったと。

「な──!?」

怯えたような表情から一転、不敵に微笑んだミラを前にして僅かに戸惑ったユーグスト。

その直後──

【仙術・地:烈衝一握・二重】

一気にマナが高まると同時に、ミラの両手より苛烈な衝撃波が迸ったのだ。

その重ねられた一撃は容赦なくユーグストを貫き、強烈な衝撃音と共にその身体を天井へと叩きつけた。

瞬間、激しい振動が響いて部屋全体が震える。また、警報のような音が響いた。きっと、術に反応するという防犯装置の類が、ここにも仕掛けられていたのだろう。

その僅かの後、天井を砕きめり込んでいたユーグストの身体が、どさりと落ちる。

その一撃には、一切の加減がなかった。即死さえしなければいいというつもりで放った一撃だ。

本来ならば魔獣クラスですら、ただでは済まない術である。しかし、それをまともに受けてなお、ユーグストはゆらりと立ち上がった。

「ほぅ……頑丈じゃな。というより、弱められたような気がしたが、はてさて」

いったい何が原因だったのか。術は本来の威力に遠く及ばなかった。けれどミラは、それでいて微塵も焦る事なく起き上がりユーグストを見据えた。

はだけた浴衣の襟を直しつつ、微笑を浮かべながら相対するミラ。

ユーグストはというと、先程の一撃で冷静さを取り戻したのか、凍るような冷たい眼光をミラに向けていた。

「なるほどな……これまでの侵入者は新人とは名ばかりな女ばかりだったが、よもや、その新人さも演技というわけではないだろうな」

その目こそが、《イラ・ムエルテ》である彼の顔なのだろう。ただの変態であった雰囲気は鳴りを潜め、そこには冷酷な声と気配だけがあった。

「何……どうしたの?」

「え? ミミちゃん……?」

可愛らしい新人から、ユーグストを狙う刺客としての正体を現したミラ。

ほんの数瞬で状況が一変したためか、戸惑うばかりの遊女達。だが状況への理解は早く、新人が王様を狙う刺客である事は察したようだ。

ただ、ユーグストは上客でありながら色々と問題も多かったのだろう、どちらの味方をするべきかという点において迷っている様子であった。

しかし、その間にも状況は動いていく。

「中途半端なところで悪いのじゃが、大人しくしてくれぬかのぅ」

「大人しくするのはお前の方だ。ねじ伏せてから存分に可愛がってやろう!」

「ふん、ねじ伏せられるのはお主の方じゃ。まあ、わしは可愛がらぬがのぅ!」

睨み合っていた二人は、合図や切っ掛けもなく同時に動いた。

共に得物はない。低く構えたユーグストは、まるで巨象の如き力強さで床を蹴り飛び出す。

その動きは、速いというものではなかった。けれど確実にミラへと迫っていく。

(何とも、得体の知れぬ迫力があるのぅ……)

踏み出す一歩一歩から感じられる、ユーグストの揺るがぬ自信。それを感じ取ったミラは、素早く正面にダークナイトを召喚した。すると再び、警報が鳴る。

即座に迎撃態勢を取り、黒剣を振り下ろすダークナイト。

だが次の瞬間だ。ユーグストは、そのまま駆け抜けるだけでダークナイトを破壊してしまったのである。

それは、ただの歩みではない。強靭な足腰による一歩の重さと、鍛え抜かれた身体によって成された《技》であったのだ。

今のユーグストは、さながら突き進む列車の如くだ。その突破力はダークナイトだけでなく、ホーリーナイトですら防げる可能性は低い。

しかも、懸念材料は他にもあった。

「ふむ……やはり威力が落ちておるな」

飛びかかってきたユーグストを上手い事《ミラージュステップ》で躱したミラは、側面より全力で仙術の《練衝》を叩き込んだ。

その直撃を受けたのならば、ただでは済まないはずだが、相手は僅かに仰け反っただけだ。

「いつまで逃げられるかな」

ユーグストは一度立ち止まったところで、口元を歪めて笑う。冷淡な目に加え、極度にサディスティックな一面が加わったその表情は、もはや悪党ではなく、悪魔そのものに見えるほどだった。

「ところで、どうにも術の調子が悪いのじゃが、どういうわけじゃろうな?」

そんなユーグストに向かって、ミラは疑問をそのまま口にした。

どうにも、術の効果が薄いとミラは感じていた。今までとは発動した時の手応えが、明らかに違っていたのである。

何かしらの仕掛けがあるのは間違いない。そうミラは予想する。

「さて、どうしてだろうな」

ユーグストは、そう言って薄ら笑った。わざわざ種明かしなどしてやるものかと。

それは当然の返答だ。けれどその答えは別の方向から齎された。

「それは、この部屋に仕込まれた結界の術具のせいよ」

その声はラノアのものだった。つい先程までは全裸だった彼女だが、今は服を着てそこにいた。

随分と肝が据わっているのか、他の遊女達とは違い、急に始まったミラとユーグストの戦闘に動じた様子もない。

しかも──

「その効果は、術に反応して音を出すと同時に、構築される術のマナ濃度を半減させるの」

そうユーグストが秘密にした事を、これでもかとばらしたではないか。

「ラノア、お前どこでその事を……」

結界の術具。その存在は、誰にも教えていない秘密だったようだ。驚くと同時に、疑念の表情を浮かべて振り返るユーグスト。

対してラノアは「どこだったかしら」と、とぼけるように首を傾げ、僅かに微笑を浮かべていた。

「どうやらお前も、後で可愛がってやる必要がありそうだな。覚悟しておけ、何もかも吐かせて──」

ラノアに対する不信感。贔屓にしていた分、その感情を怒りに変えていったユーグスト。

だが、その最中の事だ。

「──やるぶぉぅらぁ!」

口にする言葉もそこそこに、何とも滑稽な声を上げて豪快に吹き飛んだのである。

「よそ見はいかんぞ、よそ見は」

そう不意打ち上等と不敵に笑うのは、ミラであった。ラノアに気を取られていたユーグストの顔面目掛けて、思いっきり跳び蹴りを喰らわせたのだ。

「手加減してやっているにもかかわらず、調子に乗りやがって……」

それなりに効いたのか、起き上がったユーグストは口元から僅かに血を垂らしながら、これまでにない殺気を放ち始めた。

今口にした通り、確かに加減をしていたようだ。けれど先程の一撃によって、ユーグストの怒りに火が点いたようである。彼が纏う気配が、これまでとは明らかに変わっていった。