軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

345 明らかになる真実

三百四十五

多くの訓練を積み、鍛え抜かれたヨーグ。あらゆる尋問に耐え抜く強靭な精神力を得た彼だが、カグラの術に抗うのは不可能であった。

ヨーグは呻き暴れていたものの、カグラが術を発動すると共に大人しくなり、続くアルマの質問に一切逆らう事なく答え始めた。

ヨーグへの尋問はアルマが行い、催眠状態をカグラが調整する。

幾つかの簡単な質問を挟み、ヨーグが完全に催眠に落ちているのを確認したところで、重要な部分に触れていく。そうするとヨーグの口から、あれよあれよと貴重な情報が溢れ出してきた。

「凄いな、これは……」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

決して口を割らなかったヨーグが、一切の抵抗もなく情報を吐き出していく。その状況に、どこか戦慄すら浮かべるノイン。対してミラは、我が手柄とばかりにふんぞり返っていた。九賢者仲間として鼻が高いと。

と、そうしている間にも、アルマはノートを手に重要な情報を次々に訊き出していく。

その情報は多岐にわたり、世界に蔓延る様々な闇もまた明らかにしていった。

「イラ・ムエルテという組織において、貴方がかかわった者の所属国と名前、職業を全て答えなさい」

「組織……俺が、知って……いるの、は──」

アルマの声に反応して、ヨーグが言葉を返す。

まず得られたのは、組織と繋がりのある人物の名だ。様々な分野において、『イラ・ムエルテ』に協力している者達の名が並べられていく。

そして、そこに挙がった名を聞いて、アルマとノインが驚愕の表情を浮かべた。

貴族や冒険者に傭兵の他、鍛冶屋に武具商店、薬屋に術具店と、特定の店の店主の名が並び、更には数多くの商人や大規模な商会の名が続く。

その中の商人に、アルマとノインが知る人物もいたようだ。よほど上手く善良な商人として振る舞っていたのだろう。まさかあの人がと、二人の顔が悲壮に染まる。

だが、カグラの術によってもたらされた情報は、それだけで終わらなかった。

「貴方自身が組織に任された仕事について、全てを答えなさい」

「俺の、仕事……沢山、殺し、た──」

暗殺者として闇の世界で名を馳せていたヨーグ。そんな彼が、組織より託された仕事。組織にとって邪魔と判断された人物。それらの情報が、本人の口から告げられる。

一人、二人、三人。ヨーグの手により暗殺された人物の名と、その手口が挙げられていった。

ヨーグの暗殺手段は、それこそプロフェッショナルといったものばかりだ。刃物は使わず、直接手にかける事はない。事故や病気を装って、殺されたとすら気付かれないように葬るのである。

そんな彼は組織に随分と重宝されていたようで、十人、二十人と、被害者はまだまだ続いた。

と、そうして三十人を超えたところだった。

「そう、やっぱり彼女は病気じゃなかったのね」

「そうか……そうか、貴様が……!」

次にヨーグが口にした『ソフィア・テンフィールド』という名前を聞いて、アルマとノインの表情に大きな変化が現れる。そこに浮かんだ感情は、憤怒だ。

「次は俺が殺して──」

「──ノイン君!」

堪らず、それこそ修羅の如き形相で飛び掛からんとしたノインをアルマが制した。それでいてアルマもまた、ぎゅっと歯を食いしばり、強く握りしめた拳を震わせている。

きっと二人にとって『ソフィア・テンフィールド』なる人物は、特に大切な存在であったのだろう。そんな彼女が、病気に見せかける形で殺されていた。

その真実を知った二人の感情たるや、もはや想像しようもないものだった。

これほどの怒りに満ちた二人は見た事がない。そう驚くミラは、だからこそ冷静にその場を見据えていた。勢い余って、などという事がないように。

どうにかノインを落ち着かせてから、アルマは質問を続けた。

結果、組織の命令によって暗殺された人物は、五十三人にも及んでいたと判明する。

実に痛ましい数だが、この者達がなぜ狙われたのかについて調べれば、組織への手がかりに繋がるヒントが得られるかもしれない。貴重な情報だ。

加えて、この組織が使う連絡手段についても明らかになった。

何でも、リンカーと呼ばれる専属の伝令役がいるそうで、組織からの指示の他、組織への報告も、このリンカーを通じて行っているそうだ。

つまり、このリンカーには組織の情報が集まっているという事。どうにかしてこれを確保出来れば、一気に組織の深くにまで踏み込める可能性が出てきたわけだ。

「よし、それじゃあまずは、情報の整理から始めましょうか」

ヨーグの尋問を開始してから二時間と少々。知りたい事を全て訊き出し終えたミラ達は、アルマの私室に集まっていた。

ヨーグから得られた情報を精査するためだ。

また、途中でエスメラルダとも合流した。その際にカグラは再び可愛がられたが、エスメラルダが持つ母性がそうさせるのか、カグラに嫌がる素振りはなかった。

そうして始まった、情報整理と作戦会議。アルマは、訊き出した情報を記入したノートをテーブルに置き、初めのページを開いた。

ヨーグが持っていた情報は、膨大だ。これを利用すれば、きっと必ず組織の中枢に辿り着く道を見つけ出せるはずである。

だが今はまだ正確に確認のとれていない状態のものが多い。裏どりをして、その情報を確実なものにする必要があった。

「やはり、これだけ大きな国ともなると大変じゃな」

大国ゆえとでもいうべきか。ニルヴァーナを拠点とする冒険者の中にも、組織と繋がりのある者は多かった。

広大な領土を持ち、冒険者の仕事や狩場も多いニルヴァーナ。だからこそ人が集まり、だからこそよからぬ輩も集まるのは避けられない問題といえる。

「この件は、組合長さんに相談した方が良いかもしれないわね」

「確かに。じゃあ、その方向で進めましょ」

基本的には根無し草な冒険者。確認するならば冒険者総合組合に話を持ち込んだ方が早い。エスメラルダが提案すると、アルマもまたその通りだと同意した。

「あ、この名前、うちの資料にもあった気がする。──……うん、これは黒」

商人達のリストを見ていたカグラは、ふとアイテムボックスから書類を取り出して確認すると、そう断言した。

どうやら組織と繋がりのある商人の中に、キメラクローゼンとも関係していた者がいるようだ。

「ナイス、カグラちゃん。それじゃあ、こいつはキメラの件でしょっ引いて、組織について追及していきましょ」

そう喜んだアルマは、他にも共通する者はいないかと、カグラと共に探し始めた。

現在、その業界においてキメラクローゼン関係は、大きな騒動となっている。毎日のように逮捕者が出ている案件だ。

対して、組織についての証拠といったものは、現時点でヨーグの証言だけというもの。逮捕、勾留するには、まだ弱い。

ゆえにアルマは、キメラクローゼン関係で堂々と別件逮捕するつもりのようだ。

しかも、キメラクローゼン関係で勾留したとなれば、『イラ・ムエルテ』を狙っての事だと感付かれる確率も下がるというものである。

「あ、いた! こいつもいけそうね!」

悪徳商人というのは、色々な悪事に手を広げるものなのだろうか。アルマは、一人、二人とどちらにも共通する商人をピックアップしていった。

そのようにして、情報の整理を進めていったミラ達。

組織と繋がりのある人物の調査。暗殺された者達の関係性。リンカーと呼ばれる者の捜索など。一つ一つの情報を吟味し、情報機関へ上げる資料をまとめていく。

そうして、幾らか話し合いも進んだ時である。

「これは使えそうね」

そう言ってアルマは、リストにある一人の人物を挙げた。

その者は、商人だった。いたって普通のしがない商人である。しかし、男には秘密があった。

ヨーグの口から出てきた秘密。それはこの男がリンカー兼、非合法な物資の調達に長けた闇商人であるという事。

「彼に、手伝ってもらいましょう」

何やら策を思い付いたようだ。アルマは妙案だとばかりにほくそ笑み、その内容を口にする。その目の奥底に酷く冷たい輝きを秘めながら。

(囮か……。しかしまあ、効果的といえば効果的じゃからのぅ)

情報整理と次の一手について話を終えたミラは、巫女の部屋に戻る途中にあった。

解散後、アルマ達はというと、そのまま国のお偉方を集めての緊急会議だ。整理した情報をもとに、どう調査していくかを話し合うのである。

カグラは尋問の仕事も終わったという事で、ティリエルを待たせている宿へと帰った。ただ、またいつでも協力すると、白虎のガウ太を残してだ。

そのガウ太は、子猫のような姿になってアルマと一緒だ。呼びかければ、いつでもカグラが応答出来る状態となっている。

「えー、確かこうじゃったかな」

巫女の部屋に続く厳重な扉を前にしたミラは、アルマから預かった鍵を使い、メモした通りに操作して扉を開けていく。

そうして部屋に踏み入ると同時に、どこか殺伐とした気持ちを切り替えてイリスの待つリビングに向かった。

「まずいですにゃ……。背水の陣ですにゃ。しかし、にゃらばこそ活路を見出すのが、小生の生き様ですにゃ!」

「わ、凄いです! 決まったと思ってました! でも、時間の問題ですー」

リビング前に到着すると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

団員一号とイリスの声だ。いったい何をしているのか、随分と楽しげな様子である。

「これまた賑やかじゃのぅ」

ともあれ、イリスが楽しそうで何よりだとリビングに顔を出したところ、「おかえりなさいですー」と、イリスは喜色満面に振り返った。

「うむ、ただいま」

その笑顔を前にして思わず微笑み返したミラは、同時に彼女が手にしているものを見て、二人が盛り上がっていた理由に気付く。

イリスと団員一号は、カードを手にしていた。そしてテーブルにもまた、カードが置かれている。

そう、二人はカードゲームの『レジェンド・オブ・アステリア』で対戦していたのだ。

きっと、朝から大会の決勝トーナメントを観ていた事で、感化されたのだろう。

二人共、随分と熱い戦いを繰り広げていたようで、団員一号のプラカードにはこれまでの戦績が記されていた。

そこには、団員一号の連敗記録がこれでもかと刻まれている。まあまあ善戦した戦いも幾つかは見受けられたが、負けに変わりはない。

「異常ありませんでしたにゃ!」

団員一号はミラを迎えるようにして立ち上がり、護衛はばっちりだとばかりに敬礼する。

「うむ、ご苦労」

もはや平和そのものといった様子を前に頷き答えたミラは、そのまま歩み寄ってテーブルの上に目をやった。

イリス対団員一号。その決着は、次の瞬間についた。

「これで私の勝ちですー」

「また負けたですニャー!」

イリスが出したカードによって、止めを刺されたようだ。セルフな敗北モーションで盛大に宙を舞う団員一号。だがすぐさま起き上がり、「経験の差が違い過ぎますにゃぁ」と負けた言い訳を口にする。

だが、そこで終わらない。「もっと良いカードがあるはずですにゃ!」と、カードの山を漁り始めた。

見ればテーブルの端には、朝に無かった大きな箱がおいてあった。その周囲には大量のカード。きっとイリスのものだろう。

団員一号は、そのカードを借りてカードデッキを組み上げているようだ。

対してイリス側には、完成したデッキが入っていると思しきケースが幾つもあった。

つまりは、イリスの洗練されたデッキ対、団員一号の急造デッキで勝負していたわけだ。それはもう、連敗するのも無理はない。

と、そのように状況を判断して納得していたミラ。しかしそこで、イリスがそっと爆弾を投下した。

「そんな事ないですよー。団員一号さんは凄いです。初めてで、ここまで戦えるんですから。きっともう、ノインさんより強いですー。問題があるとすれば、デッキのメインです。召喚術士デッキは、ちょっと今の環境だと難しいと思いますー。せめて『賢者代行のクレオス』か『海の王ディープシー・アバランチ』があれば、もう少し戦えると思いますが、希少なカードなので揃っていないんですー」

実際に対戦してみた結果として、イリスは団員一号のカードバトルセンスを称賛した。いわく、初めてで、尚且つ急ごしらえのデッキを使い、ここまで戦えるのは凄い才能であると。

だが問題は、次に続けた言葉だ。

「なん……じゃと……」

現実と同じように、カードゲーム界においても、現在の環境は召喚術士にとって厳しいもののようだ。

事実、『レジェンド・オブ・アステリア』は現実を参考にして調整されているため、ぱっとしない召喚術は、カードゲームの世界でもそのままといった立場であるわけだ。

ミラが現実を前に愕然とする中、団員一号の腕前があれば、魔術士デッキで直ぐにでもいい勝負が出来るだろうと、熱く語るイリス。

すると、その言葉に触発されたのか、団員一号がこれまで以上のやる気を漲らせた。

「仕方がないですにゃ。次は、別のデッキを組んでみますにゃ!」

そう言って召喚術士デッキを捨て、新しいデッキを作り始める団員一号。

ミラは捨てられたデッキをそっと拾い上げた。そしてカードを眺めながら、召喚術がどれほどのものかを知らしめ──教授するため、このカードゲームを作っている本社に乗り込もうかと、半ば本気で考えるのだった。