軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33 タクトの適性

三十三

精霊襲撃拉致事件についての連絡は、術士組合を通して行うと決めた。何か分かった事があったら必ず伝えると約束して、ミラはもう一つの不可解な情報を口にする。

「時に、お主は悪魔が全滅したと思っておるか?」

六層目の悪魔。エメラ達の話から、現在は存在しないと云われている悪魔が、本来は何も無かったはずの六層目に現れた。情報通でありそうなレオニールが、この件についてどこまで知っているのか探る為の言葉だ。

「…………、どうやら何かを見た様だな」

数秒の沈黙の後、何かを悟ったレオニールが口を開く。何かを知っている素振りだ。その表情と口振りから、かなり重大な事案であろう事が窺えた。

「見たというより、古代神殿の六層目でやりあったんじゃよ」

「悪魔とか!? ……っと、本当か?」

レオニールは驚いた様に声を上げると一度言葉を切り、冷静に声量を抑えて問う。

「うむ、伯爵三位じゃったな」

「大丈夫だったのか?」

神妙な面持ちで言葉を続けるレオニール。ミラは、手にしたフォークで自分を指し示すと、ニヤリと口の端を上げる。

「わしが、大丈夫じゃ無さそうに見えるか?」

「……そうか。そうだな」

こんな単純な事も思考出来ないほどに、レオニールにとってこの情報は衝撃的過ぎた。

十年前の三神国防衛戦で悪魔は全滅させたと云われており、事実、現在まで悪魔が現れたという報告は公式には入っていない。しかし、レオニールの情報網には、それらしき影がちらほらと見え隠れしていた。

もしかしたら。そんな曖昧なシルエットに過ぎなかった存在が姿を現したと言う。例えばAランク冒険者が同じ話をした場合、レオニールはこれだけ驚かなかっただろう。事実、似た様な話は幾つかあったが、調査の結果どれもが見間違いか姿の似た魔物の変異種という結果だった。

しかし、今回は相手が違う。ダンブルフの弟子であり、アルカイト王国の国王ソロモンからの信頼も篤い人物だ。そして、悪魔の階級までも報告している。

「それで、その悪魔はどうしたんだ。もしかして……倒した、のか?」

悪魔といえば、それだけで強力な個体だ。しかも伯爵級となれば尚更。だが、目の前の少女は英雄の継承者、僅かながらも期待は高まる。

「うむ、良い経験になった」

ミラはそう頷くと、戦闘時の身体の感覚を脳裏に思い浮かべる。現実となった世界での真の実戦。それは確かな実感を与えてくれたと、ミラは経験を噛みしめる。ゲームの時、そして今、最も大切なのがこの値では表されない経験だった。

「そうか……、倒したか。流石だ」

驚きながらも期待を裏切らなかった答えに、嬉々として賞賛を送るレオニール。それから、ミラは簡潔に事のあらましを伝えると、ケーキを二つ平らげてから組合長室を後にした。

「はて、タクトはどこに連れて行かれたのかのぅ」

落ち着いた木目の色合い鮮やかな廊下に立ち、ミラは無数に並ぶ扉を流し見ながら独りごちる。最後まで見送らず組合長室に入ったので、タクトがどこに行ったか分からない。

しょうがないと、ミラは生体感知で周囲を探ってみたが、どこからも生体反応が返ってくるので、タクトだけを特定する事は出来なかった。

ミラは軽く見回してから、待ってればいいかと思い至り下の階に降りる。

術士組合一階。賑いが若干静まりかけていたホールは、階上からミラが降りてくると突如静寂に包まれる。原因は、ミラが浮かべていた微笑だ。タクトの適性は何なのか、召喚術士だったなら自分が色々と教えてやれるとか、もしそうなら契約の為のアイテムを用意しないと等。ミラは初心の頃を思い出しながら、確定していない未来を一人妄想していた。

子供っぽい無邪気さに母が子を見守る様な優しい笑み。そこに居た誰もが、一瞬にして天使に時を奪われていた。

周囲の変化など露知らず、ミラは隅の席に腰掛けると、暇潰しにとリリィからの封書を取り出し開く。

「ふむ……なんじゃこれは?」

封書には紙が一枚だけ入っていた。そしてそこには、

伝え忘れていた事。

F 2117、9、20

R 2126、8、11

K 2132、6、18

A 2138、1、14

D 2146、5、12

と、書いてあるだけだった。

(これは何かの暗号か……?)

ミラは訝しみながら紙面を一瞥していると、右下にカッコつけた様なソロモンのサインを見つける。それはかつて一緒になって考えたもので、見た限り、ソロモンと解読する事は不可能な代物だ。いうなれば、ミラにしか判らないサインといったところか。

(ふむ。どちらにせよ、リリィが書いたものでは無さそうじゃな)

ミラは、その紙を膝上に伏せると「糖分糖分」と口ずさみアップルオレを一口呷る。脳を使う時は糖分摂取が効果的という持論に従っただけだか、その前にケーキを十分食べた事を忘れている。

階上へ続く階段へ視線を移しながらタクトはまだか、どの術士適性かと再び想像を巡らせ始めたミラの視線の先の壁に、数枚の紙の束が掛かっていた。

(ファンタジー世界でカレンダーとは、なんとも違和感を感じるのぅ)

上半分は絵が描かれていて、下半分に月日が刻まれているとてもベーシックなカレンダーだ。

「ふむ、これはそういう事か……」

ミラはその瞬間、封書の紙に書かれた数字の意味に気付く。ソロモンが、この手紙で伝えてきたのは、単純に今受けている頼み事の追加情報だったのだ。

アルファベットは名前の頭文字。そして数字は、この世界に現れた日付だ。現在は、2146年5月19日。ミラがこの世界に来たのは5月12日。つまりDはダンブルフ、その後に続く数字が年月日という事だ。

普通なら、たとえ日付が分かったところでと思うだろうが、探している相手は個性の飛び抜けた九賢者。この世界に現れた日を基点に、事件や何か特筆する様な出来事が発生していれば、それに関係している可能性は大いにあるだろう。ミラはそう思いながら、紙面の頭文字を一瞥する。

(フローネ、ルミナリア、カグラ、アルテシア、そしてわしか。毎日確認していたと言っておったから、これに書かれていない者は、ソロモンより前からこの世界に居たという事かのぅ)

ミラは暫く紙面と睨めっこしていたが、余り意味の無い事に気付く。レオニールあたりに資料でもないか聞いてみようと席を立つと、丁度ユーリカに連れられてタクトが下りて来た。

「こちらに居たんですね」

ミラの姿を認めると、ユーリカは花を咲かせる様に微笑んだ。適性検査の結果を伝えようと組合長室に行った時はもうミラの姿は無く、三階を一回りしていたのだ。

「こちらがタクト君の術士適性になります」

そう言いユーリカが差し出した検査表に書かれた文字を見て、ミラは少し残念そうに肩を落とした。そこには、検査内容の詳細がごてごてと並べられていたが、最後に魔術士、聖術士、陰陽術士適性有りと簡潔に記されていた。

ミラの妄想は脆くも崩れ去った。

「召喚はないのか……」

「どれも扱いやすい術です。魔力量も測りましたが、一般平均より随分と上でした。タクト君は将来有望ですよ」

ユーリカがそう補足すると、タクトはミラの傍に駆け寄る。

「これで僕もミラお姉ちゃんみたいになれるかな?」

そう笑顔を輝かせる。こんなに嬉しそうにされてしまうと、召喚術士じゃなかったから残念などと落ち込んではいられない。

「うむ、がんばればきっと立派な術士になれるじゃろう」

ミラは微笑みながら大きく頷いた。その言葉を聞いたタクトは心に希望を溢れさせ、一層笑顔を咲き誇らせる。

「では、世話になったな。感謝する」

「ありがとう、お姉さん」

「いえいえ、ミラさんの頼みならば多少の無茶でもやり通してみせます!」

ダンブルフの大ファンであるユーリカは、その弟子というミラに現在は御執心中だ。決死の意志を秘めた瞳を輝かせ、ご褒美代わりにと握手を求める。ミラは、やや苦笑気味に応えるのだった。

組合での用事は一通り終了した。ミラとタクトは組合を後にすると、街灯輝く街並みを眺めながらエメラの言葉を思い出す。

「あー……なんじゃったかな。春……何とかって宿じゃったっけ」

ハッキリしない記憶を辿りつつミラはタクトの手を取り、夜はこれからだと言いたげな賑わいの中を歩き出した。

(確か、出て左……じゃったか? まあ春で探せば見つかるじゃろう)

通りに面した店の看板に書かれた店名の頭文字を、きょろきょろと確認しながら夜の街を進む。するとそんな二人に近づいてくる、一つの影があった。

「こんばんは。こんな時間にどうしたのかな」

そう声を掛け二人の前の姿を現した男は白と青の軽鎧を纏い、警戒心を与えない様にこやかに微笑む。

「ぬ? なんじゃお主は」

「こんばんは。おつかれさまです」

訝る様に小首を傾げるミラとは対照的に、タクトは目の前の青年にぺこりとお辞儀をする。この青年は、アルカイト王国軍警察庁カラナック支部所属の警備兵、いうなれば警察の様な仕事をしている者だった。軽鎧にはアルカイト王国の国章が刻まれていて、これが制服代わりとなっている。そして、彼が話しかけたもの至極当然。日も沈んだ夜に、手を繋いで歩くミラとタクトは姉弟に見える。そんな二人が、きょろきょろしながら歩いていれば、迷子だと思う者も多いだろう。彼もそんな一人だった。

「驚かせちゃったかな。ごめんね。僕は国軍警察庁所属の警備兵エウィン。二人の名前を聞いてもいいかな?」

ミラの表情にも気を悪くせず、自己紹介をするエウィン。

警察庁で警備兵。ソロモンは治安の為にこんなものまで作っていたのかと感心するミラ。だがしかし、そんな人間に声を掛けられる覚えは無く、更に首を傾げる。

「ミラじゃ」

「タクトっていいます」

「ミラちゃんにタクト君か。それで二人はこんな時間にどうしたのかな。迷子かい? そうならお家まで送っていくよ」

エウィンのその言葉に、ようやく得心がいったミラ。確かに客観的に見れば、こんな夜にうろつく自分達は迷子に見えるかもしれない。そしてそんな二人を見つけたら自分だってそうするなと、目の前の仕事熱心な青年に好意的な視線を向けた。

「迷子ではないが、知り合いが待っている宿がどの辺りか分からないんじゃよ。春何とかというんじゃが、心当たりはないかのぅ?」

「なるほど、そういう理由だったんだね。んー……、宿で春といえば、春淡雪かな?」

「おお、それじゃそれじゃ。そんな名じゃった」

その一言で朧気な記憶の奥底から、サルベージされた春淡雪という名に頷き答えるミラ。

「それなら、もう少し先に行った所だね。そこまで送るよ」

エウィンはにっこりと笑顔を浮かべると、ミラの空いている方の手を取り歩き出す。急に手を取られ対処に遅れたミラだったが、余りにも善人オーラを撒き散らすその青年の手を振り解けず、そのまま手を引かれ春淡雪まで案内される事となった。

「あ、ミラちゃん来たよ。おー……い?」

春淡雪の扉前で今か今かと二人を待ち侘びていたエメラ。大通りをこちらに向かって歩いてくるミラとタクトの姿を見つけ手を振り声を掛けると、人ごみから逃れる様に姿を現した二人は警備兵に手を引かれており、どこからどう見ても迷子の子供だった。

「ぷふぅっ! ミラちゃん補導されて来たよー!」

「違うわー!」

エメラは激しく吹き出し店内に大声でそう呼びかけると、ミラは全力でそれを否定する。その結果、ミラは集まった視線に晒されて、俯いたままエウィンの影に潜り込みながらタクトを引き寄せる。

「さて、時間も時間だから、余り遅くまで遊んでいてはダメだよ」

目的地までの案内を終えたエウィンは、二人にそう言うとエメラ達に一礼して巡回に戻っていった。

「……間違えられただけじゃからな」

ミラは春淡雪の入り口から顔を覗かせ、怪しく瞳を光らせるエメラとゼフを上目で睨みながら、説得力皆無の言い訳を口にする。

「うんうん、分かってるって」

「半日程度だけど、オレ達の仲じゃないか。分かってるって」

「そうか、ならいいんじゃ」

こくりこくりと頷くエメラとゼフ。出会って間もないが、分かってくれているならばそれで良いと、ミラは表情を緩める。何かを堪える様な二人の様子に気付かないままに。

「さあ、ミラちゃん早く早く」

エメラはそう言いながらミラの手を取り、春淡雪に招き入れた。

店内は木造の吹き抜けで、一階に食堂と宿の受付がある。質素だが頑丈そうなテーブルと椅子がいくつも並べられており、所々に宿泊客や食堂の利用者が腰掛け、夜の限られた一時を謳歌している。

「おお、嬢ちゃんに坊主、待ってたぞ」

店内の片隅、一回り大きなテーブルの席からアスバルが声を上げ手を振る。

「ミラちゃん、こちらですよ」

いつの間にかミラの背後に居たフリッカは、そう言うと同時にエメラからミラを掻っ攫い席に案内する。そして当然の如く、自らはその隣に腰掛けようとする。だがしかし、そこには既にエメラが座っておりフリッカと目が合うと、にやりと口端を吊り上げてみせる。その瞳には、ミラを守る意志が篭っていた。

ならばと、反対側の席を確保しようと動くフリッカ。だがしかし、そこにはミラと手を繋いでいたタクトが、さも当然と腰掛けており、賑やかな店内を楽しそうに見回している。フリッカは、絶望に瞳を染めるとミラの対面側に着席し、その可愛さを目に焼き付けようと凝視し続ける構えを取った。

全員が座り終えると、それを合図にアスバルが店員を呼ぶ。

「まずは、飲み物を頼みましょ」

エメラがテーブルの上にお品書きを広げると、それを皆で覗き込む。

「タクト、飲みたい物はあるか?」

「オレンジジュースがいいです」

ミラが訊き、タクトが答える。そのやり取りは、仲の良い姉弟そのものだ。アスバルは二人を見ながら微笑ましそうに口の端を上げると「ビール大」と、店員が来るや否や早々に注文する。それからエメラとフリッカ、ゼフも注文を済ませると、ミラはオレンジジュースを二つ頼んだ。

注文を繰り返し確認してから店員が離れると、早速とばかりにゼフが口を開く。

「んじゃま、アイテムの分配しちまおうか。まずはこれ」

言いながら、テーブルの上に魔動石が六十四個と魔動結晶一個を並べる。

「もう一度聞くけど、本当にいいの?」

やはり状況的に受け取る事を躊躇ってしまうエメラは、魔動石を一瞥した後、ミラに視線を向ける。

「その件については、もう話し終わっているじゃろう」

「そうなんだけど」

「副団長は真面目だからなー。まあオレも分からなくはないけどさ」

エメラは難しい顔をして戦利品を睨む。何もせず付いて行っただけで、数十万の収入を得るのだ。確認に確認を重ねてしまうのも仕方のない事だ。他のメンバーもその気持ちは理解出来るので、何も言わずエメラの判断に任せるつもりだった。

「お待たせしましたー」

躊躇う一行の沈黙を、注文した飲み物をトレイに乗せた店員の明るい声が吹き消す。

「まずは乾杯しましょう」

エメラが店員から飲み物を受け取り、それぞれに回していく。そして皆が飲み物を手にすると、その視線がミラに集まる。空気の読めるタクトも、まだ口は付けずグラスを両手で持ちミラを見つめている。

「ぬ……なんじゃ。わしか?」

「やっぱさ、今日の主役はミラちゃんだからな」

音頭を取る事はそれ程慣れていない為、困惑するミラだったが、この空気感は嫌いじゃないなと頷く。

「うむ……では」

ミラがグラスを掲げると、それに倣う様に皆も手にしたグラスを掲げる。

「タクトの魔術、聖術、陰陽術適性に乾杯!」

「かんぱーい! って、そっちー!?」

「はっはっはっは! そりゃいい。乾杯だ!」

「ミラちゃんに、乾杯!」

「かんぱーい! ミラちゃんの表情から普通には言わないって気付いていたぜ!」

「え……えっと。ありがとうございます!」

思い思いに声を上げグラスを打ち鳴らす面々。アスバルは早々にジョッキ大を飲み干し、快活に笑う。エメラも、しょうがないなと微笑みながらグラスを傾けた。ミラは満面の笑みを浮かべるタクトと視線を交わし頭を撫でると、フリッカはそれを羨ましそうに見つめる。ゼフは肩を竦めてみせると、ふっとテーブルの横にやって来た人物の姿を目にして、軽く手を振った。

「賑やかにやってますね」

店員に代わり声を掛けた者は、簡素な紅い軽鎧を纏った赤い長髪の男だった。背は高く年の頃は二十ほど、極めて整った中性的な顔立ちをしており、声を聞かねば女性と間違えてもおかしくは無い程だ。

「そちらの女の子が、話にあったお弟子さんですか」

「はい。ミラちゃんです。その隣の男の子がタクト君」

フリッカが答えると、男の視線は真っ直ぐミラを捉え、柔らかく微笑むと軽く一礼する。

「私はエカルラートカリヨンの団長で、セロと申します。うちのメンバーがお世話になったみたいですね。ありがとうございます」

「礼を言われる事ではない。一人で行くよりも随分楽しくなったしのぅ」

「そうですか、それは良かった」

セロはミラの言葉に家族を褒められた様な嬉しさを感じ、笑顔で答える。だが、セロよりも喜んでいる人物が居た。

「ミラちゃん、そんな風に私達の事を!」

感無量といった表情で感慨深げにミラへ視線を向けるエメラ。冒険には何の役にも立たなかったが、そんな自分達といて楽しかったというミラの言葉に、こそばゆい恥ずかしさと喜びを感じていた。

「私も楽しかったよぉー!」

「なっ!?」

そして更にエメラ以上に喜んでいる人物が、テーブルの下からミラの足をよじ登り現れる。不意を突かれて驚いたミラは反射的に脚を上げると、つま先がフリッカの鳩尾へ見事に決まる。

悦楽の表情で悶絶するという器用な芸当をみせるフリッカの足をアスバルが引っ張りミラから引き剥がす様子を、セロは苦笑しながら見届けた。

「もしかして道中でもフリッカさんが迷惑掛けてしまいましたか?」

「盛大にのぅ」

「……申し訳ありません」

「……まあ、構わぬ」

ミラとセロは言葉短くそう交わすと、席に腰掛けさせられるも息も絶え絶えなフリッカを見て、黙っていれば美人なんだけどと、同じ感想を思い浮かべては似た様な溜息を吐く。そんな中、エメラだけは未だ感慨に耽ったまま表情を緩ませてにやにやと笑んでいた。

「ところで、それが今日の戦利品ですか? すごい量ですね」

セロは、テーブルに並べられた魔動石を目に留め感嘆の声を上げる。明らかに一日で集められる量ではないからだ。

「ほとんど、ミラちゃんが倒したんだけどな。でも、ミラちゃんは皆で分けるべきって言うんだ。太っ腹だよなー」

「そうなのですか? それと魔動結晶もあるんですね。かなりの金額になりそうですけど」

実質的にはこの戦利品のほとんどの権利はミラにあるといえるだろう。そしてその総額は、簡単に見積もっても百万リフは下らない。それは一家庭の生活費の四ヵ月分に相当する。ミラが権利を主張しても、全員が納得しているので微塵の文句も出ようが無い。それでも、ミラは分配するのが妥当だと主張する。このあたりはゲームの時の常識という感覚のままだが、他者からみれば破格のお人好しに映るだろう。

「お、そういえば武器もあったな」

「そうそう大鎌。あの敵が持っていたものだったけど、これもまたミラちゃんは知り合いの闇騎士に上げてくれって言うんだよな」

「大鎌ですか。どういうものなのでしょう?」

「えっと……」

興味を示したセロの前に、エメラはアイテムボックスから悪魔の持っていた大鎌を取り出す。エメラの手では持ち上げられないほど重い為、出したと同時に床にドスリと転がった。

「……これは禍々しいですね」

セロがそう言いながら、漆黒の大鎌の柄を握り持ち上げる。見た目にはゼフとさほど変わらぬ腕で、一回りも二回りも腕っ節の良いアスバルがギリギリ持てた大鎌を、セロは片手でだ。

かなり重そうに見えたはずだがと、ミラはセロの筋力はどの程度なのか気になり、その姿を注視した。

「ぬ……?」

思わず驚きの声が洩れる。セロのステータスが見えなかったのだ。それはつまりソロモンに教えられた事からして、セロという人物は元プレイヤーである事を証明するものである。

「どうしたの、ミラちゃん?」

一言一句一挙手一投足見逃すまいと視線を滾らせていたフリッカが、ミラの挙動に気付き声を掛ける。

「ぬ。ああいや、何でもない。あの大鎌を容易く持ち上げたので、すごいなと思っただけじゃ」

そういえば、この世界では元プレイヤー達の扱い云々についてソロモンに聞き忘れてたなと思い出し、ミラは見た目からは判断出来ないセロの膂力について代わりに口にする。流石に、セロが元プレイヤーだから驚いたなど、状況も知らずにいう事は出来ない。

「そりゃあよ、俺達の団長だからな。どうだ、すげぇだろ」

話を聞いていたアスバルが、鼻高々に声を上げる。そして彼だけでなく、エメラ達も団長をダンブルフの弟子に褒められて得意げだ。

「いえ、私程度はまだまだです」

当の本人は苦笑しながら謙虚そうに言う。セロ自身も、自分はそう弱いとは思ってはいないが、更に上が居るのも重々承知している。そして極めし者達の途方の無さも。それ故の心からの言葉だ。しかしエメラ達にしてみれば、それでもセロの実力は圧倒的で、その慢心しない心根も込みで尊敬していた。

「それはともかくとしまして、これはかなりの物ですね」

「まあ、その分扱いに困るもんじゃがな。エメラの様な者達が認めたお主のギルドならば、悪い事には使わんじゃろう。使える者が居るのならば、そ奴に渡してくれぬか」

「なるほど、そういう理由でしたか……。しかし私が言うのもなんですが、昨日今日で私達を信じてもいいのですか? もしかすると善からぬ考えの者に渡るかもしれないとかは考えないのでしょうか」

「まあ、その辺りは、信じるとしか言えぬな。確かに短いが、わしはエメラ達が好きになったのでな。それと万が一にも何かあれば、わしが責任を持って回収しよう」

ミラはそう言いながら、真っ直ぐセロの目を見る。セロはそこに込められた意志と決意を、しかと受け留めて頷く。

「私の仲間をそこまで信じてくれて、ありがとうございます。これについては私が責任を持ちましょう」

「うむ、よろしく頼む」

セロとミラのやりとりを、固唾を呑んで見守っていたエカルラートカリヨンの面々は安心した様に破顔すると、折角だからというミラの言葉もあり店員に飲み物を注文し、セロも交えて再び乾杯した。