軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

308 新軍勢

三百八

アルフィナ達を見守る事、更に数時間。ようやく今日の訓練が終わる。

一通り確認したミラの感想は、『クリスティナの気持ちもわかる』というものだった。

「皆が日々、どれだけ努力しているのかがよくわかった、実に有意義な時間であった」

もはや集会所とも化した食堂で、今日の一日を振り返る。

なお、余程訓練が厳しかったのだろう、昨日に続きヘルクーネ達は、隅の方でテーブルに突っ伏していた。加えて今日は、ブルースも一緒だ。灰騎士相手に相当な激戦を繰り広げたようで、今は彼もまた灰になっていた。

そんな中で七姉妹達の頑張りを称賛し、感謝を伝えるミラ。

これに一番反応したのは、アルフィナだ。「もったいないお言葉でございます」と答えつつ、感動に打ち震える。次女以下もまた、一様に嬉しそうな表情だが、他に多大な期待があるようで、その顔は次にミラが発する言葉に向けられていた。

「さて……それで確認した結果じゃが──」

贔屓目で見ても、訓練内容はとびきりハードという印象を受けたミラ。特に気になった点は、反復である。素振りだけでなく、走り込みや基礎トレーニングといったものを、過剰なまでに繰り返していたのだ。

ミラはその点を挙げつつ、アルフィナに調整を提案する。身体を鍛えるにも限度があり、トレーニングは適度に行い、しっかりと回復する時間を設ける方が効率的であると。

そして何より、アルフィナは妹達に比べ頭一つ抜きん出ているとはっきりさせた後、その訓練量に合わせては過剰になると指摘した。

「そうだったのですか……!?」

妹達を一人前に鍛えるため猛進してきたアルフィナは驚愕とばかりに目を見開きつつも、ミラの言葉をしかと受け止める。そして、指摘通りに訓練内容を見直すと、確かに口にしたのだ。

その言葉にクリスティナ達は、ようやくわかってくれたようだと安堵する。そして主の言葉は偉大であると、心の中で喝采を上げた。

しかしながら、事はそれで終わらない。

「過剰分を幾らか削る事で、時間が空くじゃろう? そこでじゃな──」

ミラにとって、むしろここからが本当の狙いであった。空いた時間を更に有意義な訓練に充てられないかと提案したのだ。

その訓練内容は、新たな小隊や軍勢の運用について。塔で研究実験、実用試験を繰り返し形になった、武具精霊の新たな力。それを隊や軍勢として効率よく動かすため、隊長役の彼女達に知識と技術を習得してもらう。今回の見学には、そういった思惑もあったわけだ。

「まずは、これを見てもらおう」

そう口にしつつ、ミラは両脇に視線を走らせて即座に召喚術を行使した。現れたのはミラお得意のダークナイトが三体。だが、それはこれまでと違っていた。

ダークナイトは、いつもの黒剣を持っていなかったのだ。

では何を持っていたのかというと、それは長槍であり戦斧であり弓であった。そう、武具精霊の新たな力とは、新たな武器の事だったのだ。

武具精霊がみせた、更なる成長要素。それは、剣以外の武器に宿る精霊から、力の欠片を得るというもの。

研究の末、その結果に辿り着いたミラは、早速古戦場にまで赴き武具精霊を捜した。そして得たのが、この三種だ。

「なるほど、これは……」

得物が変われば、その戦い方も変わる。同じようでいて、まったく違うダークナイト。アルフィナは驚きながらも、ミラの言わんとする事を察したようだ。

剣よりも破壊力に優れた戦斧は、相手の守りを崩しやすい。

長槍は構えているだけで牽制となり、その有効距離は剣を遥かに凌ぐ。

そして弓は、いうまでもないだろう。

これらのダークナイトで編成した新たな隊を正確に運用出来れば、ミラの軍勢はこれまでよりも更に多岐にわたる戦術が可能となるわけだ。

だが今は、まだ可能性の段階。千にも及ぶ軍勢を完全に制御するには、各隊を指揮するアルフィナ達の力が欠かせない。

よってミラは、新生ダークナイトの運用についての訓練を追加してくれるようにと、一冊の本を取り出した。

「そのために、ちょいとソロモンに頼んで、こういったものを用意してもろうた」

それは、兵の運用について特別にまとめてもらったものだった。隊としての動きに焦点を絞った戦術が記された一冊である。

なお、これを編集するにあたりソロモンが招集した人材は、近衛騎士団の団長レイナードと、側近のヨアヒム。更に各軍団長及び部隊長に加え、指南役のアーロンまでに及んでいた。

何気なく受け取ったミラだが、これはアルカイト王国軍の総力を結集して出来上がった一冊だったりする。つまり、これまでに軍が研鑽してきた全ての技術と知恵の結晶というわけだ。

「なるほど……これは……! なんて素晴らしいのでしょう!」

その本を受け取り、さっと目を通したアルフィナは、それだけでその一冊に秘められた価値に気付いたようだ。目を見開いて驚きを露わにすると、続けて期待に満ちた表情を浮かべた。

その一冊に秘められた英知。研鑽を積み、それらを習得した暁には最強の軍勢が誕生する。そう信じて疑わない表情だ。

「さて、どうじゃろう。挑戦してみてくれるか?」

新しい軍勢の運用。ただ、それはあくまでも提案であり、ミラは反応を窺うようにして七姉妹達に目を向ける。

「頑張ります!」

そう真っ先に声を上げたのは、クリスティナであった。それはミラが提案した事という理由もあるが、何よりも、訓練に空き時間が出来たままでは、次にどんな地獄のメニューが追加されるかわかったものではないからだ。

対してミラの提案は、明らかに肉体的負担は少な目である。

「それでしたら、私が弓部隊担当ですよね」

クリスティナに加えエレツィナも同意を示したところで、更に他の姉妹も続いていく。しかも不思議な事に、皆、新しい訓練というのに興味津々とでもいった様子であった。嫌な顔一つせず、むしろ楽しみだとばかりな反応だ。

どうやら、これまでのハードな訓練によって、訓練に対しての強靭な精神力が育まれていたようだ。彼女達は多少の訓練程度なら、笑いながらやり遂げてしまいそうな気概を持っていた。

今日の訓練は終わったものの、新生部隊の運用という新しい訓練に余程興味が出たようで、夕食時はその話題で持ち切りだった。

そして夕食後には今後の訓練についてという題目で、そのまま会議が開かれる事となる。

「……これをソロモン様が……また、とんでもない代物ですね……」

アルフィナ達が、あれやこれやと話を進める中、夕飯を経てどうにか復活したブルースは、特別編集の戦術書を捲りながら絶句する。

各部隊の運用について書かれた本ではあるが、他の似たような戦術書とは明らかに違う点があったからだ。

「私も、幼少の頃より兵法をかじっていましたが、これほど過激な戦術を見るのは初めてです」

元は貴族の子息であるブルース。彼の父は軍属であり、だからこそ様々な戦術に触れる機会があったという。そして、それらに比べて、この一冊は特異な存在だと口にした。

ソロモンが中心となり、アルカイトの総力を結集して作り上げた一冊の戦術書。その特徴は、一切の犠牲をいとわないというものだったのだ。

どのような犠牲があろうとも、最大限の結果を追求する。勝つ事のみを目的とした、血まみれの戦術で埋め尽くされていたわけである。

きっと、後世の歴史家がこれを見たら、ソロモン王は血も涙もない冷血な王であったと記すだろう。それほどまでに、勝利への手段を徹底していた。

だからこそ、ブルースは震える。

これは明らかに、ミラだけのために作られたものであるとわかったからだ。

そこに記されているような兵の運用を、実際に出来るはずはない。可能とするならば、それはどれだけ傷ついても立ち上がる不滅の兵があってこそ。

ミラならば、そんな兵を用意出来た。武具精霊からなる軍勢を。

そう、戦術書は全て、それを前提に書かれていたわけだ。

ブルースは言う。これが形になったら、アルカイト王国は盤石の護りを手に入れる事になるだろうと。

「ほぅ……そこまでか」

軽い気持ちで頼んで、さっと貰った戦術書。ミラにしてみれば、ちょっとした戦術入門といった感覚だった。基本がわかればよく、軍勢として普通に運用出来ればというのが当初の考えだ。

しかしブルースの反応からして、この一冊は、そういった基礎のずっと先を行くもののようだ。

ミラは、そっと心の中で感謝しつつ、部隊の振り分けでもめる七姉妹の会議に戻っていく。その後ろでブルースは、幾つかは自分でも使えそうだと、ヘルクーネらと共に戦術の勉強を始めていた。

朝となり、今日も今日とて訓練の時間がやってきた。

この日は、新たな戦術訓練の初日ではあるが、それが行われるのは訓練の後半。ゆえに前半は、いつも通りに始まる。

ミラの言葉もあり、クリスティナ達の基礎訓練は幾らか軽減されていた。しかし、それでも基礎の仕上がり具合が違うため、ヘルクーネ達は大いに苦戦している様子だ。

ミラはというと、ブルースが昨日一日で、どこまで出来るようになったかの確認中だ。

灰騎士を相手に、部分召喚のみで戦う。結局、打倒は出来なかったが、そんな特訓を耐え抜いたブルースの腕は、目に見えて上がっていた。余程必死に抗ったのだろう、特に盾の部分召喚は見違えるほど洗練されている。

「よしよし、これならば十分に実戦でも通用するじゃろうな」

ダークナイトの一撃を、見事に防ぎ切ったブルースを称賛するミラ。ただ、剣の部分召喚については、多少速度が上がった程度であり、まだ実戦レベルとはいえないものだった。

よってミラは、今日からその辺りの特訓を始めると告げて灰騎士を召喚した。

褒められて喜んでいたブルースは一転、昨日を思い出したのか青い顔で後ずさる。だが無情に告げられた開始の合図で、今日もまたブルースは灰になるまで部分召喚の特訓に明け暮れるのだった。

午後の後半になり、いよいよ戦術訓練が始まる。またこの訓練は大会にも役立つだろう事に加え、指揮の技能を磨く意味もあって、ブルースとヘルクーネ達も参加していた。

まずは、小グループでの運用からだ。

アルフィナ達が隊長となり、ダークナイトからなる隊をまとめていく。ヘルクーネ達はというと、指揮の基礎すら習っていないため、上手くまとめられずにいるが、それでもどうにかこうにか形にはなっていた。

なお、新しく加わった部隊、弓隊はエレツィナ、長槍隊はシャルウィナ、そして戦斧隊はセレスティナが担当する事と決まった。

この三人は特に覚える事が多く、座学の割合が増える事になる。ただその分、普段の訓練が軽減されたため、彼女達は勉強も苦にならない様子だ。そして何より、ミラのためになるからと喜び取り組んでいる。

そのようにして訓練の日々は瞬く間に過ぎて、気付けばヴァルハラに来てから一週間が経っていた。いよいよ地上に帰る頃合いだ。

訓練が始まってからというもの色々とあった。夕食後は自然とミラの部屋に皆が集まり、様々な戦術を習い意見を交わす勉強会となっていたりした。

ブルースの特訓も順調に進み、彼は遂に目標であった部分召喚のみでの灰騎士打倒を成し遂げた。ミラが言った通り、この一週間で、見事に一回り成長してみせたのである。

ヘルクーネ達も毎日疲れ果てながら、アルフィナ達の訓練をこなしている。肉体もだが、何より根性が特に鍛えられていた。

またブルースと共に、戦術も学んでいる。軍勢とまではいかずとも、隊として立ち回れる可能性を示すほどにはなったようだ。

そして何よりもアルフィナ達は、早くも新生部隊を含んだ軍勢の運用を、ものにし始めていた。

もとより軍勢の指揮を執っていた事もあり、適応するのが早かったのだ。特にエレツィナが指揮する弓隊の一斉掃射は見事の一言である。

「頑張ってくれるのはよいが、余り無理をし過ぎぬようにするのじゃぞ」

地上に帰る日の朝。出入り口の門がある最下層の島にまで下りてきたミラは、見送りに来たアルフィナ達に、そう声をかける。

「ああ……主様。もったいないお言葉でございます……」

ミラがいた一週間は、それこそ夢のような日々だったのだろう。アルフィナは感極まりながら答え、別れを惜しむ。

「またいつでも来てくださいね、主様」

そう明るく告げるのは、クリスティナだ。更に訓練軽減への感謝を小さく口にしてから、にこやかに笑ってみせた。

それからミラは、姉妹達一人ひとりと挨拶を交わしていく。

エレツィナは、弓隊の矢にも使える付与魔法も研究していくと、熱く語った。そして、ついては適当な時でいいので、実験のために召喚してほしいと続ける。

魔法の事となると、中々の積極性を見せる彼女である。ただ、ミラがそれを承諾したところ全員からの声が上がり、結果週に一度は召喚するという話で落ち着いた。

フローディナは、例の種を植えたそうだ。しかも既に芽が出始めたらしく、今後経過を報告していくと実に楽し気だった。

シャルウィナは、先日渡した漫画を全て読破してしまったようだ。新しい本があったら何卒と、それはもう飢えた目をしていた。

なお彼女は、ソロモンの戦術書も読破済みであり、その内容を全て覚えたそうだ。今後の戦術訓練は、彼女を参謀役として進んでいくとの事である。

エリヴィナは、新しい鎧下の製作が捗っていると語る。

先日に手渡した素材で織った布は、柔軟性の他、耐熱、耐久、耐刃性でも予想以上の結果が出たそうだ。

理想の鎧下が仕立てられそうだと、実にご機嫌な様子であった。

セレスティナは、必殺技の開発が順調だと嬉しそうに語った。きっと近いうちに披露出来るはずであり、どんな強敵でも倒して見せると息巻いている。

そのようにミラが七姉妹と挨拶を交わしている中、ブルースもヘルクーネ達と言葉を交わしていた。

同じ時間、同じ場所にあり、共にとんでもない上官の下で特訓したからか、より強い連帯感が結ばれたようだ。一緒に強くなっていこうと、一致団結し気合を入れ合っていた。

「ではまた、一週間後にのぅ」

「お世話になりました」

そう最後に告げてから、門をくぐるミラとブルース。こうして二人は充実した時を過ごしたヴァルハラより、地上へと戻ったのであった。

ヴァルハラから出る際は、入った時とは違う場所も指定出来る。よってミラ達は、フィルズ島ではない場所に降り立った。そこは大会が開催されるニルヴァーナの首都に、もっとも近い場所。とある遺跡にある湖だ。

そうして地上に戻った二人は、早速ペガサスとヒッポグリフに跨ると、少し遠くに見える街に向けて飛び立つ。

と、そのように帰路についた空での事。

「よいか。無差別級では、どのような相手と当たるかわからぬからな。しっかりと対策を立てておくのじゃぞ」

「え? ……あ! は……はい……わかりました!」

街に着くまでの間、ちょっとした雑談としてミラが発した言葉。当然のように言ったそれを聞いて、ブルースは戦慄した。

なぜなら彼は、術士別の大会に出るつもりであったからだ。

術士という括りならば、塔所属の彼は間違いなくトップクラスであり、優勝だって狙えたかもしれない。

だが、戦士も術士も入り乱れる無差別級は違う。ミラとは違い、通常の召喚術士にとって、接近戦が得意な戦士クラスは不得手な相手となる。

そこでブルースは、今更ながらに気付いた。あそこまで重点的に盾の部分召喚を特訓したのは、戦士クラスの接近戦を凌ぐためだったのだと。

ギリギリになって無差別級への出場を余儀なくされたブルースは、召喚術が再び盛り上がってくれたらと夢を語るミラの話を、心ここにあらずな様子で聞きながら、徐々に近くなっていく街から目を逸らした。