軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

172 不労収入こそ理想

百七十二

「まずは、とっととソウルハウルを捕まえぬとな」

パンツ一枚のままで就寝準備を終えたミラは、寝袋に潜り込みながら、本来の目的も忘れていないとばかりに呟き、目を閉じる。

しかし、数秒、数十秒したところで、また目を開いた。

(明るくて、どうにも寝付けそうにないのぅ)

これまでは、さほど気にしていなかったが、精霊屋敷の中には昼夜関係なく明るい四層目の光が常に差し込んでいる。

寝る時は明かりを消すタイプのミラ。むくりと立ち上がり、どうにかならないものかと窓を見る。

「カーテンがあればよかったのじゃがな」

遮光といえば、カーテン。しかし、その分類はインテリアであり、器でしかない屋敷の精霊には備え付けられていない。

(んーむ。どうすれば窓を塞げるかのぅ)

適当なタオルやら何やらをカーテンの代わりにしてしまおうか。ミラがそんな事を考えた時だ。それはまるで、ミラの意思に応えるように動いた。

「おお、真っ暗じゃ!」

鎧戸である。どうやら窓に備え付けられていたようだ。窓自体を覆うため、カーテン以上に遮光率が高く、これまでの明るさが嘘のように室内は暗くなった。それこそ、足元すら見えないほどに。

(ダークナイト等と同じように、精霊屋敷にも指示が出来るという事か? これは優秀じゃのぅ)

ミラはその一回で、何かを掴んだ。意識的に鎧戸を開けさせると、見える内に寝袋へ潜り込み、もう一度閉めるように指示をした。すると思い通りに窓は塞がれ、理想的な就寝環境が整う。

(しかし、思ってみれば、あれじゃな。今は特殊な状況になるわけじゃからのぅ。本来夜は暗いもので、明るくするために悩むはずじゃろうに)

夜眠る時は、暗いのが普通だ。今いる古代地下都市は特殊な状況。ここ以外で屋敷精霊に寝泊りする際は、むしろ明かりが必要になるだろう。

とはいえ、無形術の明かりを浮かべれば、それで充分だといえる。しかし、それでは何かが違うとミラは感じた。

「屋敷に合った照明器具が欲しいところじゃな」

落ち着く空間というのは、何よりも雰囲気が大事だ。明るく輝く光の玉がぷかぷか浮かんだ空間よりも、オシャレな照明が、淡く室内を照らしている方が心地よいというものである。

「他の家具にインテリアなどもあるとよいのぅ」

銀の連塔にある自室を思い浮かべながら、ミラはふと呟く。

今は器だけとしての屋敷でしかなく、いってみれば殺風景な状態だ。しかし、屋敷と聞いて思い浮かぶものはというと、その生活を支える家具や、気品を添えるインテリアなども含めてだろう。

精霊屋敷で使えそうなテーブルや椅子などを買ってこようか。ミラがそんな事を考えていた時である。

またも、精霊王の声が響いてきた。それならば、家具やインテリアの人工精霊を探し、契約すればいいと。

『人の想いによって、人工精霊は宿るものだ。この広い世界。大切に使われ、精霊を宿すにまで至った家具などもある。それを見つけ契約し、我が加護の力で結びつければ、きっと屋敷の中も充実していく事だろう』

その精霊王の言葉に、ミラは高揚した。

『なんと……家具の人工精霊とは。そのような方法が。これまた素晴らしいのぅ!』

照明が欲しければ、照明の精霊と契約する。テーブルが欲しければ、テーブルの精霊と契約する。そうしていく事で、今は空っぽの屋敷が、本物の屋敷さながらにグレードアップしていくというわけだ。

家具類の人工精霊探し。どこかワクワクする育成要素に、やり応えを感じたミラは、大きなホールクロックの精霊がいたらいいな、などと考えながら、いつかの完成形を夢見て眠りにつくのだった。

古代地下都市四層目で一晩を明かしたミラは、目が覚めると同時、もぞもぞと現在時刻を確認した。

時間は、朝の九時過ぎ。随分とゆっくり、そして快適に眠れたようで、体調はすごぶる良い。

真っ暗な室内を見回しながら、夜の事を思い出したミラは、屋敷の精霊に指示して鎧戸を開ける。すると光が差し込んで、室内が明るく照らされた。

「ふむ。良い朝じゃ」

古代文明の超技術か何かか、照らす光は太陽のそれに似た温もりがあった。

その光に目を慣らすように、ぼんやりしていたミラは、少ししてからいよいよ起き出して、朝の支度を始める。

まずは朝一のお手洗い。続いて、たった一枚身に着けていたパンツを脱いで、シャワールームに向かう。そして熱めのシャワーを浴びて、心身ともに目覚めたミラは、朝食の準備に取り掛かった。

屋敷の精霊が持つ、自宅のような緩やかに安らぐ気配のせいか、結局ミラは服を着る事なく、パンツ一枚で動き回り続ける。

「折角じゃからな。ぶれっくふぁーすとは、シャレオツに決めたいところじゃ」

貴族のような屋敷で食べるのだから、朝食もそれらしく。昨夜は実に庶民的な夕食であったが、ミラも色々と考えたようだ。調理場に食材を並べながら、それっぽいものを選んでいく。

まず外せないのは、白パンだ。続けて、ベーコンと炒り玉子、フルーツに紅茶を用意する。印象と偏見を優先した結果、貴族らしくも一般的な朝食となる。ただ、パンツ姿のまま床に座り込んでの朝食だったので、第三者視点では、どことなくみすぼらしさのある食事風景だったりした。

細かい事はともかく、朝食を終えたミラは手早く片付けを済ませた後、今度は冒険再開のための支度を始める。

未だに慣れない上の下着を着けると、ここでようやく服に袖を通す。そして、裾や襟などを整えながらふと思う。

(姿見の精霊も、どこかにおらぬかのぅ)

紳士たるもの、身だしなみには気を使うべきである。どこかで見た理想像の人物が口にしていた言葉。何かと鏡は必要なものだ。

しかし今となっては、紳士としてという考えよりも淑女としての振る舞いを身に付けるべきであろう。だが、ミラにその気はまったくない。憧れはいつまでも変わらず、ミラは渋くてダンディという理想を目指し続けるのだった。

そうこうして出発の準備も完了し、ミラは屋敷を出てから、今一度振り返る。ミニチュアのように縮小された外観の屋敷。これが成長していくと、いつの日か本物の貴族屋敷に匹敵するような大きさになるようだ。

ちなみにこういった人工精霊を成長させる方法は、その用途に合った通りに活用するのが一番だと、精霊王は言っていた。つまり屋敷なら、そこで生活するという事。

早く成長した姿を見たいと考えるミラは、これから毎日、野営は屋敷の精霊だなと決める。それから、今夜もよろしくと一声かけて送還した。

「あっと……。そうじゃったな」

屋敷が消え、視界が広々としたところで、ミラは思い出したように呟いた。ミラの目に映ったものは、昨夜に護衛として配置していたダークナイトとホーリーナイト。そしてもう一つ、荒れ果てた庭のあちらこちらに散らばって見える、無数の魔動石だ。

「これは、予想以上の成果じゃのぅ」

数える気も起きないほどの量がある魔動石を見つめ、ミラは驚くと同時に、にやりと笑う。これは、思ったよりも金になりそうだと。

「スーパーニャン、参上ですにゃー!」

ミラは予定通りに回収係としてケット・シーを召喚した。今度は、赤と青の全身タイツにマントを羽織って登場したケット・シー。手にしたプラカードには、[タマよりも速く、力はネコよりも強い。でもお高いんでしょう? いいえ、無償で駆けつけましょう、それが正義のスーパーニャン!]と、これまでで一番の長文が書かれていた。

だがミラは、それらについて一切触れないまま、魔動石回収の任を仰せ付ける。

「世界のピンチ! いざ、スーパーニャンの出動ですにゃ!」

元気はつらつのケット・シーは、悠然とマントをはためかせ助走を付けてから、宙に飛び上がった。そして当然の如く、重力に引かれ地に落ちると、何事もなかったかのように魔動石を拾い始める。妙なところに拘りをみせるケット・シー。飛べずとも出動シーンは外せなかったのだろう。

いったい、どこでこのような知識を得てくるのだろうか。そこだけは少し気にしながら、ミラも魔動石を集めていった。

「凄いですにゃ。二百三十三個もありましたにゃ!」

一つ残らず拾い集めた魔動石の山。雑用はお手の物とばかりに個数を数えたケット・シーは、プラカードを手に舞い踊る。くるくる回ってよく見えないが、そのプラカードには、数えた時のものであろうメモ書きが残されていた。[いっぱい+いっぱい+そこそこ=]と。

本当に合っているのか、多少の疑問は浮かんだものの、見た限り、確かに二百個は超えていそうだ。

「ふむ。思った以上の成果じゃな」

魔動石をアイテムボックスに収納したミラは、「今夜はごちそうですにゃー」と騒ぐ役目を終えたケット・シーを手早く送還した。光に包まれ消えていく中、「正義のヒーローは、音もなく去るのみですにゃ!」と、どこか勇ましくも寂しげな声が響き渡った。

「さて……確か当時の相場は最低でも五百リフじゃったな」

当時。つまりゲーム時代の魔動石の相場は、一番小さいものでも五百リフはしていたと思い返すミラ。

術式武具や霊薬秘薬、装備強化などなど。魔動石は、様々な生産関連で必要になる、何かと需要の高いアイテムだ。

加えて現在、冒険者ご用達の魔動式と名の付く道具は全て、魔動筒が主な原動力源となっている。そして魔動筒は、魔動石を加工して作られる。つまりは、当時よりも更に需要が増しているというわけだ。

(買い取り相場も調べておくべきじゃったな)

武具類や薬などの販売価格は調査していたが、買い取りについては失念していた。だが、当時より安い事はないだろう。そう考えたミラは、大小関係なく単純に個数だけで最低価格を計算してみる。

(五百リフが二百個で、十万といったところじゃな。これは、美味しいのぅ)

その結果に、にたにたといやらしい笑みが止まらないミラ。とはいえ、仕方がない。屋敷でのんびり寝ていただけで、十万の稼ぎだ。賢者などといわれていても、金銭感覚は未だ庶民。ゆえに、この金儲けの圧倒的な効率に魅せられるのも無理からぬ事だ。

(最下層ならば、もっと大きな魔動石が出たはずじゃ。とすれば、寝ているだけで三十万、いや、四十万も夢ではないかもしれぬのぅ!)

ミラは実に俗物な夢を思い描きながら、今夜はもっと魔物が頻繁に出没する賑やかな場所で休憩しよう、などと決め、揚々とペガサスを召喚する。

「今日も、よろしく頼むぞ!」

どこか、いつも以上に機嫌が良いミラの様子。ミラの事が大好きなペガサスは、機嫌の良いその姿を見て、また嬉しくなり高く嘶く。

ペガサスの背に軽快な身のこなしで跨るミラ。それをしかと確認したペガサスは、力強く翼を広げた。喜びを帯びたその翼は、今の感情を表すかのように羽ばたき、空に舞い上がっていった。

まず向かう先は、五層目への入り口である大神殿。ペガサスならば、約一時間とちょっとの距離だ。

「流石というべきか、賑わっておるのぅ」

眼下に見える廃墟の街並みには、ところどころにスケルトンを相手取る冒険者グループの姿が見て取れた。話に聞いていた通り、やはり古代地下都市には、相当な数の冒険者が来ているようだ。

更に良く見ると、それぞれのグループは、離れ過ぎず、かといって近過ぎない地点を陣地としている事が分かる。

これは、後々耳にした事だが、このような配置で戦闘をする事によって、あぶれた魔物がどこかのグループに流れ過ぎず、更に相互扶助が出来るようになるという。

簡易アライアンスといったところだろうか、より安全に、それでいてグループとしての稼ぎも確保する、数年前から流行り始めた狩り方だそうだ。

「はてさて、あの者達は一日でどれだけ稼ぐのじゃろうなぁ」

寝ている間に魔動石を二百個。この実績を胸に多少優越感に浸りながら、ミラは余裕を浮かべて周囲を眺めていた。そんな時、多くのスケルトンが蠢く広場がミラの目に入る。

「おお、このあたりは『火葬場』の近くじゃったか」

それを見て、ミラは思わず呟いた。火葬場というのは、かつてプレイヤー達の間で使われていた通称。その意味は、とても単純だ。

それほど広くなく、ただ大きな白い石が置かれただけの広場。それでいて、なぜかそこにはスケルトン達が集まってくるという特徴があった。

スケルトンなどを含め、不死系の魔物は、生者に引き寄せられるという性質がある。しかも、生きようともがく者、つまり瀕死な者に、より強く引かれる性質だ。

世界設定を読み解くのが好きなプレイヤー達は当時、不死系の魔物は、生を忌み嫌っているのではなく、きっと憧れているのだろうと言っていた。そして、広場には生に関するとんでもない何かが眠っているのだとも。

だが結局は何も見つかっておらず、謎のまま。そのプレイヤーは、白い石が一番怪しいと目を付けていたようだが、どれだけ調べても、調査は結局何もなく終わった。

出来うる限りの手段を用いても分からなかったとなれば、きっと何もない。ただ単純に、広場に集まる習性だったという事だろう。研究好きのプレイヤー達は誰もがそう判断を下し、別の謎を求めてそこを離れていった。

その後は、ただひしめくスケルトンを範囲系の魔術で一掃する事が出来て、とても効率の良い稼ぎが出来る場所として定着していく。ゆえに、『火葬場』だ。

(実は、天使の結界が張ってある、とかじゃったりしてのぅ!)

人では認識する事すら出来なくなる。天使の結界には、そのような効果があると天使本人から聞いていたミラは、そう冗談めかして笑う。もしも、それが真実だったとしても、天使が結界を張ってまで隠しているものとなれば、まず触らぬに越した事はないというものだ。

「しかしまぁ、随分と溜まっておるのぅ……」

少しずつだが時間と共に、火葬場にはスケルトンが更に集まり続けていた。その数は、既に五十を超える。ミラの力なら、十秒もあれば一掃してしまえる程度だ。たった十秒で、魔動石が五十個。僅かな労力で得るには美味しい稼ぎだが、ミラは微塵の未練もなく火葬場を背にして飛び去っていった。

ミラが最も魅せられる金。それは、労働もなく得られるもの。何も気にせず盛大に使える、降って湧いた金こそが一番であり、その当てがある今、労働を伴う多少の稼ぎなどどうでもいいのである。紳士らしからぬ、ダメ人間の思考だ。

「お、これからのようじゃな」

途中、大神殿に続く道を真っ直ぐ進む冒険者のグループが見えた。盾役であろう戦士が一人と、残りは全て術士という構成だ。

(バーニングソウルに、フレイムワンド、アクトレッド、イビルブレイズ。見事に炎強化系ばかりの装備じゃな)

火葬場のスケルトンの数も、丁度いい頃合だ。どうやら今でも、火葬場は繁盛しているらしい。

ルミナリアに付き合わされた事もあったな。そんな事を思い出しながら葬列を見送ったミラは、当時の流行は今でも受け継がれているのだなと、少しだけ感慨深げに微笑んだ。