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呪われてるのか?と王子は思った。

作者: 月森香苗

本文

婚約者が他の男に心を寄せていることを知ってしまったから、だから穏便に婚約の解消をした方がいいと思うけれど君はどう思う、と話を持ちかけた。それだけだったのだ。

リヒャルトは第一王子であったが側室の子であった。とはいえ、正妃が他国の王女で、母である側室は国内の侯爵家出身なので物語にあるような下位貴族の令嬢を好いた惚れたとかそんなことは無かった。

第一、リヒャルトの母は幼い頃から国王とお互い想い合う婚約者であったのに、大国の権力を使って顔の良い父に惚れたとかで無理矢理婚約を解消させて割り込んできたのは正妃だった。

その割に王妃としての仕事は何も出来ない無能だったし、子供も三年経過しても出来ないから、側室として教育を受けていた母を召し上げたのは仕方の無いことだろう。

母以外に直ぐに公務を行える者がいなかったのだから。

愛を育んでいたのに別れさせられた両親だったので、閨はきちんとしたし、リヒャルトを直ぐに孕んだ。

ただまあ、正妃の自分には子が出来ないのに、別れさせたはずの二人の間に直ぐに子が出来たことが気に食わなくて何度も命を狙われた。

何も出来ないお飾り無能な正妃は子が出来ないままだった。出来るはずはないのだ。子が出来ない薬を飲まされているのだから。しかも、子が出来にくい日を選んでの閨なのでほぼ無理。

その間に母は三人の子を産んだ。リヒャルト、ミシェル、ニコレッタの二男一女を。

勿論全員もれなく命を狙われ、ニコレッタの元に変質者を送り込んだ時点で正妃は幽閉された。

大国も代替わりをして、正妃をとことん嫌っている兄が王となり、処刑しても構わないよと言ったので病死となった。

その後、母は改めて王妃となったが、生まれとして記録されるのは側室の子と言うもので、まあ国中が知っていることだし構わないかなぁ、とは思っていた。

そんなリヒャルトの婚約者は三歳年下のメルリアーナで、侯爵家の娘であった。

母の実家の侯爵家が力を持った事で国内のバランスを整える為に敵対派閥から選ばれたのだけれど、この御令嬢は少し変だった。

特に何もしていないのに怯えてくるし、独り言は多いし、貴族らしからぬ言動だし、王子妃教育もまともにしない。

このままだと第二の元正妃みたいなのになるぞー?と思っていたのだが、一応婚約者だし安全の為にと付けていた護衛から、侍従と良い仲であると言う報告を受けた。

流石に王家に嫁ぐはずなのに身の潔白を証明出来なさそうな事をされるのも困るし、派閥内で他にも候補を選ぼうと思えば選べるので、穏便に婚約の解消をしようと思うけれど君はどう思う?と人気の少ない所に案内して聞いたのだ。

もちろん二人きりなんて事はない。侍女や護衛だって居た。

なのに、メルリアーナはリヒャルトの配慮とかを全くこれっぽっちも理解せず、家に帰って侯爵に「第一王子殿下に婚約破棄を申し付けられました!」とか言ったのだ。

あくまでも提案で、そちらの意向はどうなの?という感じで聞いたのに、だ。証人だってこちらはいるのに、妄言をぶちまけて何がしたいのかと本気で理解出来なかった。

ただまあ、侯爵は冷静だったので直ぐに登城してリヒャルトにどんな話をしたのか、というのを確認して来てくれたので、リヒャルトも真実だけを語った。

あの時メルリアーナは気付いていなかったが、書記官がいて記録は正確に取られていたのだ。

侯爵は頭を抱えた。

何時の頃からか自分の娘がおかしくなっていて、それでも娘だからと思っていたのだが。

侍従と口付けしていたとか、まともに王子妃教育を受けていないとか。諸々がぽろぽろと露呈した。いや、王子妃教育をまともに受けていないのは報告されたはずだが?と思ったけれど、まあそれは侯爵の落ち度だろう。

とてもでは無いけれど、メルリアーナは王妃に出来ない。無能な王妃ほど困る存在は無い、と言えば、がくりと肩を落とした侯爵は国王の元へ行った。

婚約の継続不可能を告げにでもいったのだろう。

お互い瑕疵にならないよう穏便に解消をするはずだったのに、メルリアーナは何と侍従と駆け落ちしたのだ。金目の物をしっかりと持って。

いや、何でだよ、とリヒャルトは心底思った。

流石に王子に「婚約者に逃げられた」なんて汚名を着せる訳にはいかなかった侯爵は直ぐに「娘は病に倒れ、婚約の継続は難しくなったので解消となった」と広めた。原因は侯爵令嬢にあるとしたのだ。

「でも良かったでは無いですか。変な人と結婚しなくて良くなったのですよ」

「そうだけどさぁ」

「兄上は誠実に対応したと思いますよ。父上に言う前に本人に継続の意図を問うたのでしょう?」

「そのつもりなんだけどね。僕には女心が分からないよ」

「お兄様待って。彼女の思考回路とか全部、同じ女のわたくしも分からないです」

兄妹揃ってのお茶会。愚痴をいえば、歳の近い弟妹から慰められたけれど、自分にも何かしらの落ち度はあったのだろうなぁ、とは思っているのだ。

三人は歳が近いので仲が良かった。

全員が金髪青眼のド派手な外見をしている。顔立ちはそれぞれ違い、母に似たリヒャルトに対し、ミシェルとニコレッタは父に似ていたが、どちらも顔が良いので三人のお茶会の給仕をする侍女はいつだって水面下で激しいやり取りが行われるほどだった。

特にリヒャルトは母似の嫋やかな美貌の持ち主だったので無駄に父親に可愛がられていた。正直要らなかった。

さて、そんなリヒャルトは新たに婚約者を探さなければならなくなった。

婚姻外交の必要は無いので国内貴族から探すのだけれど、中立派から選ぶ事にした。

母の実家は王家派で、メルリアーナの家は貴族派だったが、貴族派での仕出かしなので中立派が無難だと思ったのだ。

中立派の令嬢で婚約者がいない者を母である王妃の名でお茶会に呼んでもらった。時勢を読むのに長けているものならば意図を汲み取れると思っての事だったのだが。

「わぁ♡リヒャルトだぁ~!」

と、許しも得ずにいきなり名前呼びした挙句に抱き着いてきた女にリヒャルトは思わず全力で振り払った。

ピンク色の髪の毛に薄い緑の目のその女は、なんと言うかゴテゴテとしたリボンやフリルを付けたピンクのドレスを着ていた。

王妃や他の令嬢を護るように騎士が前に出て、当然ながらリヒャルトの前にも騎士がいる。そんな状態なのに、そのピンク女は――

「え~おかしいなぁ~。攻略対象はヒロインにすぐに惚れるはずなのに~。ま、いっか。あたし、モニカ!リヒャルトの奥さんになるんだよ!」

とか言ってきて、意味が分からなすぎて怖すぎた。

母が「不審者を捕らえよ!」と騎士に命じてその女は呆気なく拘束された。

後で聞いたところによると、男爵家の娘とかで、寄親の家の令嬢に届けられたはずの招待状を盗んで潜り込んだらしい。

伯爵家の令嬢は受け取ったはずの招待状の紛失に混乱していたそうで、そちらには母からフォローが入ることになった。

お茶会は当然ながら継続は出来なかったが、胆力がありそうなものは何名か見つけた。

ピンク女の不審な行動を前に即座に近くにいた王妃の前に出て王妃を守るようにした令嬢や、他の令嬢を避難させようとしたものなど。

リヒャルトは護衛騎士がそばに居たので女性を優先したのだろうが、この国で最も高貴な女性である王妃を身を盾にして守ろうとする咄嗟の行動は素晴らしいと思った。

取り敢えず、気狂いのようなピンク女は危険すぎたので家の者を呼ぶと、ある日突然娘がおかしくなったのだと嘆きに嘆いていた。

その変わりようはメルリアーナに似たものを感じ、一体なんなんだという薄気味悪さだけが残った。

その娘は親である男爵家が「自分の娘なのに、娘にも思えない」と憔悴しきっていたので、不敬罪諸々を本人だけに罪を乗せて、国内の開拓団のところに送り、未開の地を開拓させる刑に処したと言う。

通常の開拓団と異なり、犯罪者を使っての開拓なので土地が与えられることはない。罪を償えば戻って来れるが、ピンク女に関してはまともにならない限り解放はないようになっている。

中止になったお茶会だが、二度目は割と早くに行われ、その中から二名の令嬢と交流することにはなった。

一人目は王妃の前に出て守った辺境伯家の令嬢。もう一人は避難誘導をしていた侯爵家の令嬢である。

家柄などを踏まえても過不足はなく、本人達もかなりしっかりしているので定期的な交流は有意義な時間であった。

どちらも甲乙つけがたい素晴らしい令嬢だったが、リヒャルトが選んだのは辺境伯家の令嬢だった。

選んだ最大の理由は、他国からの侵略を最前線で抑える辺境伯家で育った彼女――ウェランナは国を思う気持ちが強かったし、精神的にも強かった。

ただ一点。

ウェランナはリヒャルトよりも麗しい男前な見た目をしていた。スレンダーなドレスがよく似合いそうだが、それ以上に男装が似合いそうな麗人で、振る舞いもうっかりリヒャルトが心をときめかすような、そんな男前だった。

なお、もう一人の侯爵令嬢は弟のミシェルと気が合い、何故か婿入りすることが決まっていた。本来の跡取りである令息は妹とミシェルが良さげな雰囲気と知るや否や。

「俺は!海の向こうに留学したかったんだ!という訳で家を頼む!」

と言って後継者の立場を放棄してさくさくっと旅立った。

そんな訳で何だかんだといい感じにまとまったのだが、新たなる火種は身近に存在した。いや、火種は別のところにあって投げつけられて燃え上がったというか。

ニコレッタの婚約者が衆人環視の中で婚約破棄を叫んだのだ。

うちの王家、なんか呪いでも掛けられてるの?

リヒャルトは本気で疑問に思い父王に問うてしまった程だ。

ニコレッタの婚約者ケヴィンは公爵家の嫡男で、数代前の王族が臣籍降下して立ち上げた公爵家で、そろそろ王族の血を入れておくか、と成立した婚約であった。

性格的にどうしても合わないとか、他に好ましい方が出来たならばきちんと解消出来るようにしていたのに、ケヴィンはニコレッタに責任がある、とか、自分の恋人を虐げた、とかそんな事を喚き散らかした。

その場に居たものは皆同じことを思った。

馬鹿じゃないの?

ニコレッタは唯一の王女で、その動向は常に様々な人に見られている。侍女や護衛騎士は必ず付き従っているし、安全の観点から公務以外では王宮から出ることは無い。

結局のところ、ケヴィンは恋人とかいう子爵家の娘と不貞行為を行い金を引き出そうとしたのだ。

王族相手に馬鹿をやるなど有り得ないのだが、馬鹿なのでやらかしたのだ。ケヴィンとその恋人はいつぞやのピンク女が送られた開拓地へ送られた。

会場から連れて行かれるケヴィンとその恋人の女。恋人やらはリヒャルトを見て「え、おかしい!あたしに一目惚れするはずなのに」とか言っていた。

いやもう勘弁して欲しい。頭がおかしそうな女はお断りなんだが。

「ウェラ……疲れた」

「よしよし。王家は呪われてるの?」

「僕が呪われている気がする」

「うーん。今日は特別に膝枕をしてあげよう」

夜会は何とか終わり、本当はすぐにでも寝たいけれど寝付けない。婚約者のウェランナは王宮の客間に部屋があり、普段はそちらで寝起きしているけれど、今日はそんな気持ちにはなれなかった。

ニコレッタは冷めた目でケヴィンを見下ろしていたので、ある程度調査はしていた上で泳がせていたのだろう。

だからあまり心配はしていないけれど、ピンク女に似たような女で恐怖がこみ上げてきて落ち着けなかった。

そんなリヒャルトがウェランナの部屋を訪れると迎え入れてくれてほっとした。

長椅子に座り疲労に満ちた愚痴を零せばウェランナは膝枕をしてくれるといい、簡単に体を倒され、頭は柔らかい太ももの上。

「少し休むといいよ。リッヒ。君は何も悪くない」

見た目がリヒャルトよりも男前ではあるが、ウェランナは女性で、その手は辺境伯家の娘らしく剣だこはあるものの男とは違う柔らかさがある。

目元を隠され、体温に触れ、リヒャルトは少しずつ眠気が込み上げて気付けばぐっすりと眠っていた。

リヒャルトが起きたのは一時間ほど後で、ウェランナはその間リヒャルトの髪の毛を弄っていたようだ。

部屋に戻ろうとする前に鏡を見て、と言われて覗き込むと、伸ばしている髪の毛は女性らしい編み込みをされていた。

「リッヒって王妃殿下に本当に似ているんだねぇ」

「体格に恵まれてないから余計にそう思うよ」

「君の方がドレス似合いそうだよね」

「それはないだろ」

リヒャルトとウェランナの身長はほぼ同じ。ヒールを履けばウェランナの方が高くなる。だが、女性が自分より背が高いのを厭うつもりは無い。風格が出るし、男の目から見てもウェランナの男装はとてもよく似合っている。

ただ、ドレスは似合わない。骨格からして違うのだ。

と言ったはずなのに、三日後には私室にドレスが届いていた。

送り主はウェランナで、前々からこっそりと準備をしていたらしい。

部屋には母付きの侍女が何故か待機していた。

「王妃殿下も楽しみにされておりますので」

「待って。母上もご存知で?」

「はい。ウェランナ様よりご相談を受けておりました。デザイナーなどは王妃殿下よりご紹介されておりましたよ」

「なんて事だ」

そんな訳でリヒャルトは侍女の手で容赦無くドレスの着付けをされた。そしてコルセットが如何に拷問なのかを体感した。

いやもうコルセットは拷問器具なのではないか?

クビレを作る為に締めあげられて気付いたが、こんなのを付けていたらそりゃあ酸欠や体調不良で倒れるに決まっている。

「下着を変えるべきではないか?少なくとも、健康に害がありすぎる。それにウェランナは感じないが、度の過ぎた痩身信仰は命に関わりそうだ」

細ければ細い程良い、みたいな風潮がありそれは如何なものかと思う。

そう零せば、侍女達はどことなく安堵した笑みを浮かべていた。

「わぁ。母上のお若い頃はこんな感じだったのだろうか」

「よく似ておられます」

一番年上の、それこそ母と同じ年頃の侍女が深く頷くほどには似ていた。化粧で寄せているにしても、改めて母に似ている顔なのだと痛感する。

昼間なので胸元は隠れ袖のあるドレスだが、詰め物をしたり締めあげられたりして作られた体型に、夜会での令嬢達を思い出す。

コルセットなどで無理やり体型を作っても、ベッドの上で本来の体型を見せて驚かれるのではないか?

いや、考えては駄目だ。

着飾ったところで侍女に促され向かったのは王妃用のサロンで、そこには母だけでなく、ウェランナやミシェルとニコレッタ、そしてミシェルの婚約者になったフェリシアがいた。

聞いていないが?

「まあまあ。わたくしにそっくりね」

母に手招かれて母の隣に立つと、皆が揃って頷いた。リヒャルトもそう感じていた。

「姉妹のようですよ、母上」

「ミシェルお兄様。リヒャルトお兄様の隣に並んでくださいませ」

母がすっと移動し、リヒャルトの隣にミシェルが来ると、女性陣達が「これは」と感嘆の声を上げていた。

「ミシェルお兄様はお父様にそっくりだから、お二人のお若い頃はこうだったのだろうと考えてしまいますわ」

ニコレッタの楽しそうな声。ウェランナとフェリシアは手と手を取り合って楽しそうにしている。

今日も今日とてウェランナは貴公子らしい男装をしているので、フェリシアと仲睦まじそうな姿は何となくモヤモヤとする。

ウェランナの婚約者は自分ですが?と声に出しそうなのを我慢したが、そこで理解した。

嫉妬するくらいにはウェランナが好きなのだと。

「今のリヒャルトとウェランナならお似合いなのではなくて?」

母には似ているが、背は母より高い。流石に慣れないヒールは怪我をするのでぺたんこの靴を履いているが、それでもウェランナと視線は同じくらいだ。

「ダンスのお誘いをしても?」

「え?」

サロンは広く、軽く踊れるスペースはある。

手を差し出されて反射的に重ねたは良いが、女性パートなど知らない。だが、そこはウェランナ。見事なリードで踊らされてしまった。

それにしても世の女性はすごいな。これだけ厚着をして優雅に見えるように踊っているのだ。男は女性の努力に感謝すべきだろう。

それからもウェランナと結婚するまで。いやしてからも意味の分からない女達に意味の分からない接触や妄言をぶつけられたりしたが、リヒャルトは相手にすることはなかった。

偶に画期的な提言をする者がいて、そういった者は取り立てたが、基本的に頭のおかしな令嬢ばかりだった。その度に開拓団の人数が増えるだけなのだが、まあ、国としてはまともに罪を償ってもらいたい。

ピンク女は未だに開拓団から出られていないようだが、誰よりも元気だそうで、そのまま頑張ってもらいたい。

最初の婚約者は結局他国で見つかり、密かに連れ戻された。子供がいたそうだが、その子は侯爵家の遠縁に養子に出され、元婚約者と侍従は秘密裏に始末されたらしい。

そりゃそうだ。こちらは穏便に婚約の解消をしようとしていたのに、駆け落ちして逃げたのだ。その時点での彼女の立場は「第一王子の婚約者」だった。

ただの令嬢ではなかった。他の男と逃げ出した時点で彼女は瑕疵だらけ。王家に対して侯爵家は多くの損害を与えたのだ。

その罪を贖いもせずに幸せに暮らしました、なんて結末は与えられるわけがない。

きちんと筋を通していれば良かったのだ。婚約の解消に向かっていたのだから。そのまま待っていれば良かっただけなのに。

結果として命で贖うことになったのは自業自得。侍従など主人は侯爵なのだから手を噛まれた所の話ではない。

婚約を解消した後に駆け落ちしたのであれば、王家は無関係だったから侯爵の判断で放置された可能性もある。それをしなかった以上、侯爵は王家に、リヒャルトに見せる必要があった。始末の付け方を。

元婚約者に恋をしていた訳では無いので哀れだとは思うが、浅はかな女だった。

ミシェルはフェリシアの侯爵家に婿入りをし、兼ねてより興味のあった薬草研究に没頭している。医学は流石に無理だが、侯爵家の広い土地で薬草栽培をする事は国にとっても有益であり、王族だったミシェルが先頭に立つことで、これまで注目されずにほそぼそと育てられていた薬草に光が当たった。

後に、侯爵領は薬師の聖地として、多くの薬師がその地で育つことになる。

ニコレッタは伯爵家に降嫁した。他国との繋がりのある商会を有している家で、ニコレッタはドレスのみならず、下着や化粧品の開発を行い、国内だけでなく、他国にも広めて行った。

従来の下着や化粧品では健康に害がある物もある。体に良い化粧品の開発はミシェルと行っているようだ。

王女として培われた審美眼と、健康的で美しくを主題とした美容に関しての商品は伯爵家の財をかなり潤したことだろう。

リヒャルトはウェランナと仲睦まじい王太子夫妻をしている。

ウェランナの男装は基本装備だが、偶にリヒャルトは女装をさせられた。次期国王なのにどうなのか、と思うが、ウェランナの男前を前にすると些細な事らしい。

むしろしっくりくる、との事で評判は悪くない。

唯一、若かりし頃の王妃にそっくりすぎて浮気された気分になってダメージを受けている国王だけが心穏やかではないそうだが。

四方を護る辺境伯家のお陰で国は安定している。こんな馬鹿げた格好を不謹慎だと言わないくらいには平和な状態だ。

この平和を維持するのが己の役目なのだとリヒャルトは決意し、ウェランナも隣に立ちそれを支えてくれる。

変な女に巻き込まれることなく、この穏やかな日々を維持出来るように。リヒャルトは祈りを神に捧げた。