軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれのハローワールド 1

私っ、佐藤あひゃあ!?

い、いま壁ドンしゃれてりゅの!

「テメェなんだその安いスーツ。舐めてんのか」

金髪碧眼。

日本人では表現できないアニメみたいな鋭い表情。

でも小さい!

私より背が低い!

きゃわいい!

だから私は強気に出ます!

「も~、そんな怖いこと言っちゃダメだよ~」

「あぁ!? んだテメ触んなっ、撫でんなコラ!」

「ああもう可愛いなあ。お年はいくつ?」

「ふっざけんなこのクソ女、頭沸いてんのかよ!?」

「そうだよ」

「あぁ!?」

――時は少し遡る。

「以上がスマメガの説明だよ」

スマートなメガネ。略してスマメガ。

ケンちゃんの本命である大規模イベントに向けた「仕掛け」の説明を終えた私は、ほっと一息。

いやはや大変な開発だった。

そして大変な説明会なのだった。

目の前にはソファに座る三人の男性。

左からイケメン、幼馴染、そして見知らぬ金髪。

なにこれ乙ゲーかな?

私は、それはもうドキンコドキンコしながら出来たてほやほやのスマメガの話をした。まあスマメガ自体は他社の製品で私はちょこっと改造してソフト作っただけですけどね。

「さて、翼と 遼(りょう) は今の説明を理解できたかな?」

「おっけー」

「さっぱり分からん」

ふたつの返事。

翼様は余裕の表情だけど……リョウ? さんは難しい顔をしている。和名っぽいけど絶対に海外の方だ。もしもメイクなら後で教えてもらおう。

「どうしようかな」

唇に人差し指を当てて悩むケンちゃん。

その姿を見て私は、なんだか懐かしいなと思う。

薄らとした記憶だけれど、彼は昔から悩むと指にキスする癖があった。大人になって矯正したのか接客中は出なかったけれど、今は油断しているっぽい。

「あっ、そういえば遼と佐藤さんは初対面だね」

そうです初対面です。

この零細企業で数ヶ月過ごして初!

超絶レアエンカウントでございます!

「彼は遼。リオで仲良くなった天才だよ」

「……うっす。恐縮っす」

すごーく雑な紹介。

リオ? どこ? 外国?

「ちょうどいい。次の営業、二人で行ってみようか」

「……マジすか?」

すごーく嫌そうな顔。

私なんか嫌われるようなことしたかな?

「面白そう」

「翼は自分の仕事に集中」

「ドケチ」

「ノルマ増やすよ」

ぁゎゎ、イチャイチャしてる。

ダメだよ二人ともっ、仕事中だよ!

でもでも一番ダメなのは……そう、私です!

「そういえば歓迎会とかやってないね」

「お肉」

「翼のリクエストは聞いてない。佐藤さん、何か希望とかある?」

「私はメロンソーダがあればどこでも」

キョトンとするケンちゃん。

え、メロンソーダ知らない?

とんとん。

ケンちゃんの太腿を叩く翼様。

「キング」

ぁゎゎ、おねだりしてる。

焼肉食べ放題おねだりしてる。尊い。

「私はキングでもいいよ」

「じゃあそれで。急だけど明日の夜とかどうかな?」

フォローするとケンちゃんは溜息混じりに提案。

「やった」

グッと握り拳の翼様。

このイケメン可愛過ぎないか?

「遼はどう?」

「オレはケンタさんに従います」

クールな金髪のリョウさん。

かくして歓迎会の開催が決まった。

その後すぐ、私はリョウさんと営業に行くことになった。私の役割は、スマメガについて詳しい説明を求められた時に対応すること。経験は無いけれど大丈夫だと思う。私は愛ちゃんを信じている。

出発直前、ケンちゃんは私に言った。

「遼は育ちが悪い」

「……うわぁ」

「嫌な反応だね。陰口とかじゃないよ。彼は本当に口が悪いから……まあ佐藤さんなら気にしないか」

腹ペチ!

「なに?」

「乙女の憤り!」

「……そっか。とにかく、彼は口が悪いけど気にしないであげてほしい。根は良い奴だから」

「了解。でも口が悪くて営業とか平気なの?」

それは見てからのお楽しみ、とケンちゃん。

――そして、今に至る。

「いいかクソ女! スーツの質は会社の質だ! クソ安い給料しか出せねぇ会社って舐められたら終わりだ覚えとけ!」

「リョウくんのそれ高級スーツなの?」

「おうよ。これはオレがまだ人間じゃなかった頃にケンタさんがプレゼントしてくれた宝物なんだ」

あらかわいい。嬉しそうな顔。

ケンちゃんの言ってたことが分かったかも。

「なら私は新人でOJT中って設定にしようよ」

「あぁ? 新人だと……?」

私の顔をジーッと見るリョウくん。

「ダメだ。アジア人はどいつもこいつも同じ顔に見える。新人設定ってのは、テメェがオレより若く見えるってことでいいのか」

うーん……ギリギリセーフかなぁ?

年増扱いされてたら拗ねてたところだよ。

「――っと、ヤベェな。そろそろ出ねぇと」

「遅刻は大変だね」

「黙りやがれ。いいか、オレはテメェを認めてねぇ。余計なことは口にするな。もしも邪魔しやがったら、その分きっちり清算させる。覚えとけ」

「はーい」

ムッとした表情のリョウくん。

その横顔をこっそり覗き見ながら歩く。

ケンちゃんに誘われてから二ヶ月。いや三ヶ月くらいだったかな? 最近、時間感覚が曖昧だ。

とにかく。そこそこ時間が経ったけれど、私はまだ「彼ら」について何も知らない。

プログラミングの世界には、ハローワールドという用語がある。初めてプログラムを動かした時、多くの場合は、画面にハローワールドという文字列を表示する。だから何か新しいことをする時には、ハローワールドする、なーんて言い方をしたりする。

不思議なことではない。

初めて会った人には、挨拶をするのが礼儀だ。

だからプログラマは、何か新しい世界に足を踏み入れた時、ハロー、と挨拶するのである。

ハローワールド。

私は「彼ら」の世界に足を踏み入れた。