軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話

王妃宮の客間。

磨き上げられた卓に紅茶が用意され、クラーラは王妃の向かいに静かに座っていた。

王妃は紅茶を口に運び、穏やかに微笑んだ。

「クラーラ嬢、最近は第二王子とよく顔を合わせているそうね」

クラーラは少し驚いたように目を瞬いた。

「……孤児院の件で、殿下がご協力くださっております」

「ええ、聞いているわ」

王妃は頷く。

「ルシアンは優しい子でしょう」

「はい。とてもお優しくて、よく周りをご覧になっておいでです」

「昔から、困っている人を放っておけない性格でね」

王妃はどこか楽しげに言った。

「そういう方には、傍で支えてくれる方が必要なのよ」

クラーラは一瞬言葉に詰まり、それから静かに答えた。

「……殿下は、わたくしのような者が支えるまでもなく、十分にお力のあるお方です」

「そうかしら。王族というのは、案外孤独なものなの」

クラーラは視線を落とした。

「……そのようなこと、考えたことがございませんでした」

「ええ。ですから、善意を持った方が傍にいてくださると、私は安心するのよ」

王妃はふとクラーラを見た。

「あなたのような方が」

クラーラの指先が、かすかに止まる。

「……恐れ多いお言葉です」

少し間を置いてから、クラーラは顔を上げた。

「ですが、わたくしにできることがあるのでしたら、孤児院のことでも何でも、お力になれればと思っております」

王妃は満足そうに微笑んだ。

「ええ、それで十分よ」

王妃の私室。

窓際の席で、王妃は紅茶を口に運んでいた。

その時、侍女が静かに告げる。

「第二王子殿下が、数日王都を離れられるそうです」

王妃の手が、ほんの一瞬だけ止まった。

だが、すぐにカップを置く。

「そう。理由は?」

「エルヴァン公爵令嬢の療養に同行なさるとか」

「……クラリス嬢が?」

「はい。領地へ戻られるそうで、殿下が見送りを兼ねて同行されると」

王妃はしばらく黙っていた。

それから、ふっと微笑む。

「仲がよろしいのね」

侍女は答えない。

王妃はゆっくりと紅茶を飲んだ。

「クラリス嬢は、少し気が強い方だと思っていたけれど。やはり、年相応に可愛らしいところもあるのね」

穏やかな声だった。

だが、その瞳は静かに考えていた。

――なるほど。

王都にいるのが辛くなったのだろう。

クラリスが自分から動いたというのなら、それはそれで都合がいい。

「まあ、よいでしょう」

王妃の表情は変わらない。

「療養は大切ですもの」

数日後。

クラリスは再び第二王子の政務室を訪れていた。

目元はまだ少し赤い。

だが、前回よりは落ち着いている。

侍従が下がると、クラリスは静かに口を開いた。

「殿下、日程の件ですが」

ルシアンは書類から顔を上げる。

「調整は済んだ。三日後に出る」

クラリスの肩が、わずかに緩んだ。

「ありがとうございます」

ルシアンは書類を一枚脇へ避ける。

「王都を空ける間の政務は振り分けた。急ぎの案件は宰相府に回す。

孤児院の件も、しばらくは別の者に引き継がせる」

クラリスの睫毛が、かすかに揺れた。

「……そうですの」

ルシアンはそこで初めて、ちらりとクラリスを見る。

「何か問題があるか」

「いいえ」

クラリスは首を横に振った。

「……領地ですが、南の方になります」

「どの辺りだ」

クラリスは地図を広げた。

少し身を乗り出し、指先で一点を示す。

「この辺りです。王家の離宮の近くでして」

ルシアンの手が止まる。

クラリスは気づかないまま続けた。

「街道から少し外れていますので、人の出入りも多くありませんの。森と湖に囲まれていて、空気も澄んでおります」

ルシアンは地図を見たまま動かない。

クラリスはなおも言葉を継ぐ。

「もともと静養には向いた土地ですの。屋敷の周りもひらけすぎておりませんから、人目を気にせず過ごせますわ」

ルシアンの指先が、地図の端で止まった。

「……離宮の近くか」

「殿下?」

ルシアンはそこでようやく視線を戻した。

「いや、問題ない」

そう言った声は、ほんの少しだけ低かった。