軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

愛する人を守れなかった side ジュリアン

ずっと、好きだった。

子供の頃からずっと、セイラだけを。

母親達が学園時代の親友だった事から、生まれた時からセイラは俺の側にいた。

泣き虫だけど気が強くて、負けず嫌いで努力家で、甘いものが大好きで、中でもアップルパイが大好物で、それを食べてる時は飛び切り可愛い顔で笑うんだ。

いつから好きだったのかなんてわからない。

気がついたらどうしようもなく惚れてた。

でもセイラはまだお子様で、俺の事を兄妹か幼馴染としか見てない事は分かってたから、少しでも好かれたくていっぱい優しくした。

俺は侯爵家の次男で爵位は継げないから、父上が第一王子の側近候補に推薦してくれた。

それがきっかけで、俺はマシューの側近兼護衛になり、日々鍛錬に励んだ。

殿下直属の近衛騎士になれたら、セイラにプロポーズしようと思ってたんだ。

それなのに、

セイラはマシューと婚約してしまった。

最愛の人が、他の男のモノになってしまう。

その時の絶望は計り知れない。俺は数週間落ち込んで食事も喉を通らない程だった。

妃教育が始まってからセイラとは中々会えなくて、マシューとのお茶会の時にたまに他の側近も交えて話すくらいしか機会がなくなった。

もう俺の隣でアップルパイを食べて幸せそうにしてた女の子はいない。

目の前にいるのは誰もが羨む王太子の婚約者の姿で、もう、俺の手が届かない遠い存在になってしまった。

どんどん磨かれて綺麗になっていくセイラに、熱を帯びた目でマシューを見つめるその瞳に、何度胸を掻きむしられて、何度焦がれたかわからない。

好きだよセイラ。

何度、口をついて出そうになったかわからない。

未来の王妃と、王太子の側近。

その間にある距離はもう永遠に縮まらない。

ずっとそう思ってた。

なのに、許し難い事態が起こった。

よりにもよって、マシューが他の女に現を抜かした。相手は薄ピンク頭のしがない男爵令嬢。

男爵の庶子で元平民だった為、貴族マナーがまるでなってない。特に男との距離感がおかしい。

婚約者がいる男に平気で触ってくるし、俺も何度か粉かけられた。でも全く靡かなかった。

セイラに比べたらその辺に転がってる石ころと同じレベルにしか見えない阿婆擦れ女。可愛いなんて微塵も思わないし触れたいとも思わない。

なのに、マシューは可愛い可愛いと何度も言ってそのピンク女を側に置いた。

信じられなかった。

そして怒りが湧いた。

俺が喉から手が出るほど欲しいセイラを手にしておきながら、マシューはこんな阿婆擦れを側に置いて愛を囁き、抱いている。

忠誠を誓うべき主に、殺意が湧いた。

何度も苦言を呈した。

何度も婚約者を大事にしろと諌めた。

そしたらアイツは俺をウザがって遠ざけた。

俺が側でうるさく言わないのをいい事に、あの阿婆擦れを王族専用のサロンに連れ込んでは盛った猿のように腰を振っている。

そして、

ついにその日が来てしまった。

セイラが2人の情事に気づいてしまった。

夕暮れ時のサロンに続く廊下でセイラを見かけた時、心臓が止まるかと思った。

何故ここにいる?

まさか、───まさか、

アレを見たのか?

自分の事じゃないのに、焦ってセイラの背を追いかけた。直感的に、今呼び止めなければ後悔すると思ったんだ。

そうしないと、セイラが消えてしまう気がした。

「セイラ!」

振り向いたセイラを見て、胸が詰まる。

ああ、やっぱりマシューとあの女の情事の現場に出くわしたんだな。

セイラは今にも壊れそうに、静かに涙を流していた。

そっと指で拭ってやるが、後からどんどん涙が溢れて、これはもう、思い切り泣かせてしまった方が良いと思った。

もう、あんな奴忘れてしまえ。

そう願って、堰を切ったように泣くセイラを抱きしめた。マシューを想って泣く姿は痛々しくて、儚げで、俺が守ってあげられたらどんなにいいだろうと願わずにはいられない。

あんな奴の為に泣くな、セイラ。

好きなんだ。俺はお前じゃないとダメなんだ。

──ずっと、愛してるんだ。

散々泣いたあと、セイラは、

「ありがとう。ジュリアン様」

そう言って、昔みたいに可愛い笑顔を見せた。

あの時に、想いを伝えていれば良かったんだろうか。

伝えても、真面目なセイラなら応えてはくれなかったと思うけど、───それでも。

その日、セイラは毒を飲んだ。

最愛の人を忘れる毒薬らしい。

魔女の薬は強力で、二度と記憶は戻らない。

毒に倒れて10日後、

目覚めたセイラの中からマシューが消えた。

いや、正確にはマシューに関わる全てのものが消えてなくなった。

その中には、

マシューの側近だった俺も含まれてた。

俺の事も、セイラは忘れてしまった。