軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冷酷執事?

槇嶋玲雄奈。

皇泉院に仕える執事だが、ほぼ絢人専属の執事といっていい。

アニメでは絢人の右腕として登場する。

年齢は非公開。

学園には通っていない。

が、たびたび学園に忍び込み絢人をサポ─トしている。

端正な顔立ち。

長い睫毛。

白磁の肌。

小顔。

クールで綺麗なお姉さんと言っても通用する容姿。

実際、シ─ズン3の女装回はものすごい反響があった。

やや緑がかった黒髪。

肩にかかるほどの髪を、右側だけ編み込んで垂らしている。

細身だが、戦闘能力は作中でも上位クラス。

一応、彼の中性的な容姿には理由もある。

これについては原案の花園会のインタビュ─でアヤトも読んでいる。

玲雄奈は最後まで、性別をどうするかで揉めに揉めたキャラだった。

キャラデザ担当もインタビュ─記事で、

〝最終的にどちらに転んでもいいデザインをベ─スにしました〟

こう語っている。

だから〝綺麗なお姉さん〟はその時の名残とも言える。

装いは黒を基調とした 燕尾服(えんびふく) 。

白いシルクの手袋。

なんかもうザ・執事な感じの人物。

ただし、この執事――

攻撃性を帯びた冷酷なマシ─ンのような、そんな執事でもある。

愛想など、欠片もない。

絢人には絶対服従だが、いつ登場しても冷気を纏っている。

丁寧語が基本だが〝絢人の敵〟と認識した相手に対しては時に、丁寧な口調も消える。

たとえば『えすぷり』の主人公で庶民オブ庶民(自称)―― 矢満田(やまだ) すみれ。

その幼なじみのヤンキ─ギャル―― 佐渡島(さどしま) 茜(あかね) 。

この二人の前に、物語の中でたびたび立ち塞がる〝敵〟でもある。

◇◆【 オリジナルの世界(シ─ズン1) ~矢満田すみれ~ 】◆◇

白鐘学園の校舎裏にて――悪帝とすみれの間に割り入った、謎の美女。

そこですみれは、自分の認識に疑問を抱く。

(……ん? あり? この人、もしかして美女じゃなくて……お、男の人っ!? というかあなた、わたしより美人さんじゃありませんかっ!? なんということ!)

美女――ではなく黒き執事が、狼狽するすみれを氷点下の瞳で見おろす。

「困ったものですね……絢人様にとって、なんの価値も持たぬ路傍の石ころが二つ。絢人様への無礼な発言――おい貴様ら、どう落とし前をつけるつもりだ? この、身の程知らずのゴミクズどもが……今すぐ、磨り潰してやろうか? それが嫌なら今すぐ我が主の前に平伏し、謝罪しろ……ほら、さっさとやれ」

場の冷気が、増す。

どうした、と玲雄奈が質問の追撃をする。

「見たいか? 雑種の血を」

「……あんたもさー」

すると、面倒そうに頭をポリポリ掻いていた茜の目が据わる。

「 飼(・) い(・) 主(・) と(・) 同(・) じ(・) で(・) 、 ほ(・) ん(・) と(・) 何(・) 様(・) な(・) わ(・) け(・) ?」

茜は一歩も引く気はないらしい。

が、すみれの方はゴビ─ンッと飛び上がった。

「ああああ、あかちゃんっ!? ほら、相手をよく見て! LOOK! あの人、皇泉院のご子息だよ!? そして多分その人は、皇泉院さんの執事さん! 服装と口調から推察しました!」

「え? だから何? 皇泉院だからって何言ってもいいわけ? そんなわけ、ねーじゃん――あとすみれ、〝あかちゃん〟呼びは、やめなさい」

絢人は悪辣な笑みを浮かべ、黙って成り行きを見ている。

まるで、下々の民の愚行を鑑賞するみたいに。

キュッ、と。

玲雄奈が、手袋を締め直す。

「――言葉の選択を間違えたな……ゴミども。特にそこの、育ちの悪そうな雑種……後悔しても、もう遅いぞ?」

「はぁ? あたしはともかく、すみれはゴミじゃね─し。あー……そっか。あんた……あたしに、喧嘩売ってるんだ? 要するに……勝てるつもりなんだ?」

ポキポキ、と。

威圧するように、茜がこぶしを鳴らす。

それを無感動に眺める玲雄奈は、

「……度胸だけは認めてやろう。が、それは裏を返せば無知で愚かなだけだ。誰に逆らったのか、身の程というものを……心をへし折るほど思い知らせ――」

「ず――」

「?」

シュバァァアアアア――――ッ!

一塁へ滑り込む野球の打者のごとく、すみれは玲雄奈の前に滑り込んだ。

スライディング土下座であった。

「ずびばぜぇぇええん! どうか、どうかこの通りでごぜぇます! お許しをー! ひえー! 皇泉院さまー! ははーっ!」

げっ、と青ざめてヒく茜。

「すみれ……マジ、かっこ悪すぎ……そして、プライド捨てすぎ……」

「プライドっ!? はっ! あたしにゃ捨てるほどのプライドの持ち合わせなんざないわ! ははーっ! 平にぃ! 平にぃー! お許しあれー!」

一方。

玲雄奈は停止したまま、無表情になっていた。

と、

「チッ」

舌打ちし身を翻したのは――皇泉院絢人。

「興が削がれた……おい、行くぞ玲雄奈」

「はっ……承知いたしました、絢人様」

一度だけ振り返って凍度の高い視線を残し、黒き執事は主と共にその場を去った。

◆◇【 現在の世界 ~皇泉院絢人~ 】◇◆

槇島玲雄奈はまあ、そんな感じのキャラなのである。

アヤトの持つイメ─ジもそんな感じだ。

ただ現実だと、キツめな氷系Sキャラ好き層には人気がある。

のだが、

「きょ、許可なく勝手に絢人様の寝所に入る行為が禁じられているのは承知しております……ですが、できればご許可をいただきたく……あ、絢人様? 大丈夫、なのでございますか? せめて〝問題ない〟と、ひと言でもいただけましたら……」

もう一度、心の声であえて問おう。

「…………」

冷酷、執事……?

(こ、声は間違いなく玲雄奈さんだよな? でもなんか……キャラ、違くない?)

いや。

それよりもだ。

何か、言葉を返さなくては。

そう――聞かれた可能性が高い。

さっきの、

『皇泉院、絢人ぉぉおおおお!?』

の叫び。

こちらこそ――キャラが違う。

明らかに皇泉院絢人のキャラではない行動をしてしまった。

皇泉院絢人の姿で。

夢の中、とはいえ。

憧れのキャラクタ─の姿を借りて。

自分の中の皇泉院絢人像を、崩すわけにはいかない。

崩したく、ない。

どれだけ――どれほど。

アニメを観返したと、思っている。

どれほど設定資料集を読み込み。

どれほど特典系のサブストーリーに手を出したと、思っている。

人がイイだけが取り柄と言われる自分が他に、迷いなく誇れるもの。

生粋の『えすぷり』ファンであり……

生粋の――――皇泉院絢人ファンなのだ。

だから、

「聞きやがったか、玲雄奈」

ぼくは今、泉アヤトじゃない。

皇(・) 泉(・) 院(・) 絢(・) 人(・) だ(・) 。

「――ッ! は、はい……聞こえて、しまいました……」

返答があったからか。

玲雄奈の声からホッとした雰囲気が漂ってくる。

チッ、とアヤト――絢人は、舌打ちした。

「ま、聞かれちまったもんは仕方ねぇ……時々、やってんだよ」

「と、時々と……おっしゃいますと? 申し訳ございません、わたしの理解力が乏しく……」

「普段の自分なら絶対言わねぇようなことをだ。誰もいねぇ時……たまに、口に出したりしてみてんのさ。声の調子なんかも、変えてみたりしてな」

「絢人様が普段、絶対おっしゃらないようなこと……ですか」

「聞いたこともねぇ声の出し方や口調だっただろ?」

「は、はいっ……初めて、聞きました」

「テメェには理解できると思うから、バラすけどよ……人間としての幅がな、狭くなんだよ」

「……幅、ですか」

「あえて普段の自分からかけ離れた皇泉院絢人を演じることで、人間としての幅を広めてぇのさ。人格とかキャラが凝り固まるってのは、どうもよくねぇ。他の庶民どもはどうでもいいが……オレは、皇泉院絢人だ」

「…………」

(玲雄奈さん……むっちゃ、沈黙してるけど……)

……さ、さすがに厳しいか?

この弁解。

やはり、ぶっとび理論すぎただろうか?

下手をすれば、墓穴。

逆に違和感を膨らませてしまっただけかもしれない。

もっと普通の理由がよかっただろうか?

寝ぼけてたから、とか。

悪夢を見たから、とか。

(けど――)

違う。

違うのだ。

皇泉院絢人は、

そ(・) う(・) じ(・) ゃ(・) な(・) い(・) 。

型破りで。

無茶苦茶で。

破天荒で。

筋が通ってなさそうで――しかし、なんとなく通っている気もしてくる。

だから――決して間違った回答では、ないはずだ。

……とか、思いつつ。

玲雄奈の沈黙っぷりに不安になってきたのもまた、事実で。

「……ま、演技力が必要になるシ─ンも今後は出てくるだろうしな。そういう意味でも、独りの時にこうやってたまに〝別の自分〟を演じたりしてんだよ。卒業した後とかは、どこかで爪を隠さないとならねぇシ─ンも出てくるだろうからな」

「……………………」

(……うっ、沈黙が長い。やっぱり、無理あったかな? う、うーん……自分的には、力業で皇泉院絢人っぽい理屈にねじ込めた感は、あったんだけど……)

姿見に映る絢人が、

〝やべぇ、やっちまったかも……〟

みたいなヒキ気味の笑みを浮かべている。

これも、貴重な表情と言えよう。

と、

「絢人、さま」

姿の見えない玲雄奈が引き戸の向こうで、口を開いた。

心臓バクバク状態だが、絢人は努めて冷静に返す。

「おう」

「この、槇嶋玲雄奈――心より絢人様への尊敬の念を、改めて強くいたしました」

「……そうか」

お?

「普段努力なさっているのは、分かりすぎるほど承知しております。しかしまさか、わたしの見えないところでそのような、凡人には決して思いつかぬ努力までなさっていたとは……やはり、絢人様はその辺りの 凡才雑草(ぼんさいざっそう) とは格がお違いなのだと……」

凡才雑草とはまた、ひどい言い草である。

(はは……その絢人様の中身は今、まごうことなきその凡才雑草なんですけどね……)

が、ともかく。

なんとかごまかせたらしい。

しかも結果として、これは上手い言い訳になったかもしれない。

なぜなら、

「……つ─わけだ、玲雄奈。テメェにバレた以上……今後は、テメェの前に限ってはあんまり遠慮しねぇ。今日以後もちょくちょくオレと話してる時、テメェの知ってるオレと違う皇泉院絢人が出てきて違和感を覚える時があるしれねぇ。だがそれも、人格の幅を広げる練習の一環と思ってスルーしろ。いいな?」

これで今後ちょっと普段の絢人と違っても、そこそこ言い訳が立つ。

……かもしれない。

「は、はい……」

「あと、こいつはオレとテメェだけの秘密だ。いいな? 漏らしたら、テメェでも容赦しねぇぞ」

「…………」

(あれ?)

返事が、ない。

(い、言い過ぎたかな? ええっと……よ、よーし……)

「おい、返事」

「あ――も、申し訳ございませんっ……わたしと絢人様の、二人だけの秘密ということに……少々、感じ入るところがございまして。その……なぜか嬉しく感じた、と言いますか……」

「チッ……いちいち大げさなんだよ、テメェは」

「はい……申し訳、ございません……」

障子張りの戸越しなので表情こそ見えないものの。

こんな嬉しそうな”申し訳ございません”も珍しいな、と。

そう思った。