軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伸び代しかない

それからは私のあまりの酷さを見かねて、テレーゼさんと教師によって一時間みっちり指導を受けた。

そうして得点がなんとか6点まで上がったところで、私の初めての魔法実践の授業は終わった。

倍になっただけ、かなりの進歩だろう。それに今日からはユリウスに指導を受けるのだ。伸び代しかないとポジティブに考えつつ、テレーゼさんと共に教室へと戻る。

彼女は侯爵家の令嬢らしく、家族のほとんどが有名な魔法使いなのだという。

「明後日も実践練習はあるから、っふふ、頑張りましょう」

「はい、よろしくお願いします」

そしてテレーゼさんはクールビューティーな見た目とは裏腹に、笑いのツボが浅いらしい。今も思い出し笑いをしたようで口元を手で抑え、笑っている。

授業中もずっと、私の様子のおかしな魔法を見て「ごめんなさい、貴女は真剣なのに失礼よね」と言いながらも、何度も吹き出していた。私のへっぽこ魔法が彼女の美しい笑顔になるのなら、本望だ。

それからは座学の授業を受け、あっという間に昼休みになった。今日も売店で買って一人で食べようと思っていると、なんとテレーゼさんが一緒に食べないかと誘ってくれた。

もちろん、飛び跳ねたいくらいに嬉しかったのだけれど。

「でも、確かAランク以上は食堂も別でしたよね……?」

「Sランクの生徒となら、一人までは一緒に入れるのよ」

「そうなんですか?」

「ええ。私が一緒なら文句を言われることもないわ。あんなに笑ってしまったお詫びとして、お昼をご馳走させて」

色々と不安があり少し悩んでしまったものの、誘ってもらえたことが嬉しかった私は、お言葉に甘えることにした。

ちなみに学食は2つあり、Aランク以上は広く豪華な食堂を使うことができる。メニューも全く違うんだとか。Aランク以上の生徒用の、サロンなんかもあるらしい。

こうした特別感が、更に生徒の競争心を煽るのだろう。

テレーゼさんと共に上位クラス専用の食堂へと入ると、一気に視線が私へと向けられた。A以上ではない生徒はいるものの、私と同じ真っ赤なブローチの生徒は流石にいないようで間違いなく浮いている。

そんなことなど全く気にしていないらしいテレーゼさんと共に、空いている席へと座る。するとすぐに、スタッフが注文を取りに来てくれた。私の知っている学食と違う。

よく分からず、彼女と同じものを頼む。そうして、料理が来るのを待ちながらお喋りをしていた時だった。

「あれ、レーネだ」

そう言って現れたのは、やはり兄だった。もちろん、Sランクである彼が来るであろうことは予測済みだ。Aランクであるジェニーの姿は今のところなかった。

「こんにちは、レーネちゃん」

「アーノルドさん、こんにちは」

「名前、覚えてくれたんだ。嬉しいな」

そして今日も、アーノルドさんも一緒だった。美形二人が並ぶ姿は、アイドルユニットかと思うくらいに眩しい。

周りにいた生徒達も皆、彼らに釘付けになっている。

「あ、こちらは兄です」

「知ってるわ。有名だもの」

テレーゼさんに一応紹介したところ、そんな反応が返ってきた。やはりユリウスは有名らしい。

「俺もリドル家のお姫様のことはもちろん、知ってるよ。かわいい妹をよろしくね」

「ええ」

「今日のところは邪魔をしちゃ悪いし別で食べるけど、今度は一緒に食べようね。レーネ」

兄はぽんと私の頭を撫でると、そのまま去って行った。いつものように悪絡みをされるかと思っていたから、ほっと安堵した。テレーゼさんの力だろうか。

それからは、昨日一人で空き教室で食べたことを思い出すと泣きたくなるくらい、楽しい昼食の時間を過ごした。

「私は昔ずっと、出来のいい兄と比べられるのが辛くて塞ぎ込みがちだったの。そんな時、変わるきっかけをくれた人がいて今の私があるから、貴女のことも応援したくなって」

「そうだったんですね……ありがとうございます」

「それに貴女、面白いもの。あ、もちろん魔法のことじゃなくてその、魔法もあれなんだけど、ふふ」

再び笑いのツボに入ってしまったらしい彼女に、私までつられて笑ってしまう。私が男だったなら、間違いなく好きになってしまっていたに違いない。

ちなみに彼女のお兄様は、トップクラスの国専属の魔法使いになっているらしい。比べる対象のレベルが違いすぎた。

そして今後は彼女も、私のFランク脱出を手伝ってくれると言ってくれた。とても心強く、嬉しい。

これからはお互いにレーネ、テレーゼと呼び合うことになり、敬語もやめることになって。私にとって、この世界で初めての友人ができたのだった。

◇◇◇

「ユリウス、いる?」

「うん」

友人が出来たことで浮かれていた私は学園から帰宅後、動きやすい服装に着替え、早速ユリウスの部屋を訪れていた。

彼はすぐに出てきてくれ、二人でそのまま庭へと向かう。

「ランク試験対策だよね?」

「うん、よろしくお願いします」

「一年の夏の技術試験は授業でやる的当てだから、コツさえ掴めば簡単だよ」

彼は今の私と同じ時期、99点だったという。兄は私が思っている以上に、すごい人なのかもしれない。

「測定器も借りてきたんだ」

そう言って彼が取り出したのは、授業中に使った的の上についていたものと同じ、採点用の魔道具だった。

「えっ、あれって借りて来れるの?」

「本当はダメだけどね。管理してる女教師が俺のこと大好きだから、お願いしたら内緒だよってすぐ貸してくれた」

「…………」

流石だとしか言いようがない。イケメンとコミュ力は正義なのだと思い知らされる。ありがたく拝借することにした。

ユリウスが庭の端で魔道具を起動したところ、その下には的が瞬時に現れた。ハイテクすぎる。

「今日、授業でやったばかりだったんだ」

「それなら説明はいらないね。とりあえず一発、何の魔法でもいいから打ってみて」

そう言われた私は早速、お得意のファイヤーボールを的に向かって打った。ふよふよと飛んで行ったそれはギリギリ的に当たり、5点と表示される。

同時に、後ろにいたユリウスが吹き出したのがわかった。

「あははは! さっすが、落ちこぼレーネ」

「ちょっと」

少し上手い悪口過ぎるあだ名をつけないで欲しい。彼はひとしきり笑った後、ようやく真面目な表情を浮かべた。

「まずは、得意な属性を見つけるところから始めよっか。昔は瞳の色で分かるって言われてたけど、迷信なんだよね」

「そうなんだ」

私の瞳は桃色で、ユリウスは碧眼。そもそも髪色だって、兄妹だというのに私達は全く違う。母のことは何も知らないけれど、ファンタジー世界だから関係ないのだろうか。

「それにしても、私とユリウスって似てないよね。髪の色も瞳の色も全然違うし」

「は?」

何気なくそう言えば、彼は透き通った空色の瞳を驚いたように見開いたけれど。すぐに、可笑しそうに笑い始めた。

「あはは、なるほど。そう来たか」

「…………?」

「本当に似てないよね、俺達」

彼はそう言って、笑い続けている。理由は分からないけれど、先程よりも機嫌が良くなったようだ。

それからは水、風、土、雷、光、闇といった色々な属性魔法をユリウスと共に試した。どれも念じるだけで一応は発動できることに、私はドキドキが止まらなかった。

ただ、どれも魔力量が少ないせいで気持ち程度しか使えなかったけれど。中でもやはり、火魔法が今のところ一番私に合っているとのことだった。

改めて火魔法の扱い方を教えてもらい、しばらくは的を狙わずにとにかく感覚を掴む練習をした。

「そうそう。今のお前は加減の調節なんていらないんだし、とにかくまっすぐ打つことだけを意識して」

想像以上に、ユリウスは真剣に私に指導してくれている。今朝言っていた「私に頑張って貰わないといけなくなった」という話が関係しているのだろうか。

良い印象なんてさっぱりなかった兄の株は、少しずつ上がり始めていた。絶対に口には出さないけれど。

「それじゃ、もう1回的を狙って見ようか」

「わかった」

改めて的に向かってファイヤーボールを打ち出した私は、息を呑んだ。先程とは完全に別物だったからだ。

兄との練習中、テレーゼさんや教師に教えてもらっていた時とは違う、身体に魔法が馴染んでいくような不思議な感覚がしていたことに関係しているのだろうか。

「ほら、簡単だろ?」

「…………うそ」

そして的の上には、21と表示されていた。