軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リドル侯爵領へ 1

「おかえり、今日は楽しかった?」

「うん」

帰宅後、真っ直ぐ部屋に向かっていると、ちょうど前から歩いてきたユリウスと 出会(でくわ) した。ひらひらと手を振っている兄は結局、今日も出掛けずに家にいたらしい。

「まだ怒ってる? 悲しいな」

「皆に聞いたけど、絶対にユリウスの距離感はおかしいよ」

「あはは、だろうね」

この兄、やはり自覚はあるらしい。

爽やかな笑みを浮かべた兄は、頬に手を伸ばしてきて。その手をつねってみると、可笑しそうに笑っていた。

「ああ、そうだ。一応、あいつらにも挨拶はしておきなよ。色々とうるさいから」

「分かった、ありがとう」

両親をあいつら呼ばわりする兄は、ぽんと私の頭を撫でると「後で部屋に行くね」と言い、行ってしまった。気は重いけれど、兄の言う通り一応両親の元へ顔を出すことにする。

二人に挨拶をして、嫌味をちくちくと言われ続けげんなりして部屋を出たところ、今度はジェニーと 出会(でくわ) すという最悪なコンボが決まってしまった。

私の顔を見た瞬間、可愛らしい顔が一気に怒りで歪む。

「二人でこっそり抜け出すなんて最低ね! 本当にありえない! やっぱり、お兄様のこと狙っているんでしょう!?」

「狙うって」

「絶対に退学させてやるんだから!」

「ええ……」

いよいよ堂々と犯行予告をすると、ジェニーはくるりと背を向けて行ってしまった。間違いなく、一学期末のランク試験の犯人は彼女だろう。証拠もないためどうすることも出来ないけれど、今後気を付けていくしかない。

それにしても何故、退学なのだろうか。もちろん絶対に嫌だけれど、別に退学になったところで私が家からいなくなる訳でも、死ぬ訳でもないのに。そもそも兄を狙うとは一体。

「ふわあ……今日は早く寝よう」

楽しかった分疲れたし早く寝ようと決めて、私は重たい足取りで自室へと向かったのだった。

◇◇◇

「レーネちゃん、久しぶりだね。会いたかった」

「お前、いい加減にしないと馬車から降ろすよ」

それから三日後。私は朝からユリウス、そしてお久しぶりのアーノルドさんと共に馬車に揺られ、テレーゼのご実家のあるリドル侯爵領へと向かっている。

アーノルドさんの距離感バグは健在で、会った途端に抱きしめられ、ユリウスによって思い切り頭を叩かれていた。

私服の彼は意味が分からないくらいに眩しく、目が焼き切れるかと思ったくらいだ。そんな私の心の中を見透かしたように、兄は「アーノルドを視界に入れないようにして」という無茶な要求をしてきている。落ち着いて欲しい。

「ユリウスも久しぶりだね。夏休みの間、さっぱり連絡をくれないから寂しかったよ」

「どうせ今日会うのは決まってたしね。そもそも、お前からだって一度も連絡してきてないくせに」

「あはは、レーネちゃんは夏休み、楽しく過ごせてる?」

「はい。お蔭様で」

ぴったりと兄の隣に座り、何故か腰に手を回されながら、向かいに座るアーノルドさんと他愛ない話をする。

アーノルドさんも兄同様インドアらしく、たくさんのペット達と共に、ひたすら家でダラダラと過ごしているそうだ。

ユリウスも何度かアーノルドさんのお家にお邪魔したことがあるらしいけれど、驚くほど色々な動物がいるらしい。アーノルド王国、是非いつか行ってみたい。

「リドル侯爵領はかなり栄えているし、そのすぐ隣のベッカー伯爵領も自然豊かで、のんびり過ごしたい人には人気の場所なんだよ。行き来して過ごす貴族も多いんだ」

「そうなんですね。とても楽しみです」

今回は、五日間お邪魔することになっている。テレーゼに会うのも久しぶりで、胸が弾んだ。

「レーネ、眠そうだね」

「少しだけね。今回の旅行が楽しみすぎて、そわそわして寝付けなかった上に、早く目が覚めちゃって」

「かわいいね。眠いなら抱っこしてあげようか?」

「降りろ」

アーノルドさんに容赦ない兄の突っ込みが入る中、あまりにも眠たかった私は少しだけ眠らせてもらうことにする。

ユリウスと反対側の壁に頭を預けようとしたけれど、すぐに兄の方に抱き寄せられ、諦めてそのまま眠ったのだった。

「久しぶりね、元気そうで何より」

「テレーゼ、会いたかった!」

日が暮れる頃、ようやく侯爵領に到着した。すぐにテレーゼが手厚く出迎えてくれて、私達は中へと案内される。

世界遺産とかでありそうなレベルのお城のような屋敷に圧倒されつつ、やがて通された広間のソファに腰掛けた。荷物なんかは、使用人達がてきぱきと運んでくれている。

目利きのできない私でも、屋敷や家財道具、もちろん使用人まで全て一流だと分かってしまう。

兄とアーノルドさんは先に部屋の案内をされていて、広間には私とテレーゼだけになる。

「ふふ、そんなに緊張しないで。今、この屋敷には兄と私しかいないから」

「そうなの? お兄さんがいるんだ」

「ええ。噂をすれば」

彼女の視線を辿った先には、彼女と同じ美しい銀髪がよく似合う国宝級、むしろ宇宙の宝レベルのイケメンがいて。言葉を失う私と目が合うと、彼はふわりと微笑んだ。

「いつもテレーゼと仲良くしてくれてありがとう」

「こ、こちらこそ、お世話になっております」

「ゆっくりして行ってね」

この屋敷で美男美女に囲まれて過ごす五日間の間に、私の視力は3.0くらいまで上がるような気がした。