軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宿泊研修 7

あの後、ユリウスの部屋へと強制連行され「まず風呂にでも入ったら?」とタオルを渡されて。汗や土埃まみれだった私は、取りあえずお先に入らせてもらうことにした。

「……ふう。本当に、疲れたなあ」

温かい湯船に足を伸ばしてゆっくりと浸かると、思わず溜め息が出てしまうくらいに気持ち良かった。つい数時間前まで魔物に殺されかけていたなんて、信じられない。

「着替え、置いておくから」

「ありがとう!」

そんな兄の声が聞こえてきて、ドア越しだからとつい大声でお礼を言ったところ「本当にレーネは色気がないなあ」なんて声が返ってきた。余計なお世話すぎる。

ちなみに、先程の事情説明の際についた嘘の辻褄合わせにより、二人で泊まる流れになったんだとか。よく分からないけれど、そう言われてしまっては仕方ない。

風呂から上がりさっぱりした私は、先程ユリウスが置いておいてくれた服に袖を通した。ホテルで用意されていた物のようでぶかぶかだったけれど、そのままバスルームを出る。

するとソファに腰掛けて雑誌を読んでいたらしい彼は、私を見るなり「かわいい」と微笑んだ。

「そういうの、すごくいいね。本当にかわいい」

「どうも」

「つれないなあ。ま、俺も入ってこよっと」

そう言って、ユリウスはバスルームへと入って行った。自宅では別々のものを使っているため、自分が使った直後に使われるのは、家族といえどなんとなく気恥ずかしい。

改めて部屋の中を見回すと、明らかに私達が昨晩泊まった部屋よりも広く、グレードも高い。お風呂だってそうだ。追加でお金を払っているに違いない。

ドライヤーに似た魔道具で髪を乾かした私は、疲労感に耐えきれず、2つあるベッドのうちのひとつに倒れ込んだ。ベッドの柔らかさも、昨日のものとは格段に違う。

「……全然、取れない」

そしてふと、指にぴったりと嵌っている指輪を見つめてみる。見えない謎の力が働いているようで、外すどころか動かすことすら出来ない。不気味すぎる。

呪いのアイテムだったらどうしようと不安になりつつ、学園に戻ったら魔道具に詳しい教師に聞いてみよう、なんて考えて身体を起こした時だった。

「あっつ、部屋の中涼しくしていい?」

「……なっ、なな、な」

やがてバスルームから出てきた兄は、なんと上半身裸だったのだ。濡れて水が滴る髪や上気した頬により、彼からは恐ろしい程の色気が滲み出していて、目眩すらしてしまう。

男性の半裸など無縁だった私にはあまりにも刺激が強すぎて、慌てて視線を逸らした。兄はというと、平然と風魔法と氷魔法を組み合わせ、クーラー代わりにしている。

「なに? もしかして照れてる?」

「あ、当たり前でしょ! 服着て!」

「兄妹なのに?」

「いいから早く着て!」

ユリウスは可笑しそうに笑うと「はいはい」と言って、ようやく服に袖を通してくれた。心臓に悪すぎる。

「かわいいね、レーネちゃん」

未だに顔が真っ赤であろう私を見て、ユリウスは満足げに笑うと私のすぐ側に腰を下ろし、頭を撫でた。

「部屋で二人きりで夕食、食べようか」

「そんなことできるの?」

「うん、させる」

本来ならば生徒は皆、食堂で食事をとることになっているけれど、兄は謎の力を使ったようで。やがてルームサービス的な感じで、二人分の食事が運ばれてきた。

皆とは、明日の朝合流すればいいだろう。

「意外と美味しいね」

「うん。すっごく美味しい」

お揃いの部屋着を着て、二人きりでホテルの部屋で向かい合い食事をするなんて、なんだか不思議な気分だ。

「新婚みたい」「ドキドキするね」なんてふざけたことを言うユリウスはひどく上機嫌で、つられて笑ってしまった。

◇◇◇

食事の後、一気に眠気に襲われた私は手早く寝る支度を済ませ、お先にベッドへと入り眠ろうとしたのだけれど。

「あの、何をしているんですか?」

「俺も寝ようと思って」

「ベッド、間違えてますよ」

「間違えてないよ」

何故か兄は、当たり前のように私のベッドに入ってきたのだ。訳の分からなさすぎる行動に、眠気も吹き飛びかけた。

「なんで? 兄妹なら一緒に寝るくらい普通じゃない?」

「絶対に、この年齢では普通じゃないと思う」

「そうかなあ」

そう言って笑う兄が、ベッドから出て行く様子はない。むしろ近付いてきたかと思うと、私の体に腕を回した。抱き枕のようにされているこの状況は、どう考えてもおかしい。

とは言え、私は彼に命を救われたのだ。今日はシスコンに付き合ってあげようと決め、私は抵抗する手を緩めた。半裸で居られるよりはずっとマシだろう。

「……ユリウス、助けにきてくれて本当にありがとう」

「どういたしまして。俺のこと、好きになった?」

そんないつもの冗談から、ふと昨晩ユッテちゃんに『レーネちゃんも、お兄さんにたくさん好きだって伝えてあげるといいよ。絶対喜ぶから』と言われたことを思い出す。

「うん、好きだよ」

丁度いい機会だと思い、素直にそう答えてみる。

てっきりいつもの調子で「ありがとう、嬉しいな」なんて返事が返ってくると思っていたのに、何故か兄は驚いたように目を見開き、まるで時間が止まったかのように固まって。

「…………狡い」

やがて私の肩に顔を埋めると、ぽつりとそれだけ呟いた。

もしかして喜んでいないのではと不安に思ったけれど、ユリウスは私を抱きしめる腕に力を込めた。

「レーネは可哀想だね」

「えっ?」

「俺なんかに捕まって、本当に可哀想だなと思って」

「なにそれ」

その言葉の意味は、やはり分からない。抱きしめられているせいで、彼の表情も見えないけれど。

「その代わり、俺がずっと守ってあげる」

そんな言葉に、喜んでくれたのだと思うことにした。ありがとう、と言えば「あまり俺を甘やかさないほうがいいよ」と言われてしまった。

ユリウスのやさしい体温や、少しだけ早い心臓の音が心地良くて、再び目蓋が重くなっていく。

「レーネには、そのままでいて欲しいな」

「そのまま? 私はもっと魔法が上手くなりたいな」

「あはは、それはそうだね」

今回の宿泊研修で自身の無力さを改めて実感し、同時に大好きな人達の、ユリウスの力になりたいと強く思った。

「おやすみ、レーネ」

明日からまた頑張ろうと誓い、私は瞳をそっと閉じた。