軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

確信犯を甘やかす

「レーネ、もう少し魔力量を抑えて、落ち着いて」

「うん」

「押し込むんじゃなくて、溶かしていくような感じ」

「分かった」

ユリウスの言葉を意識しつつ、目の前の石に手のひらをかざし、自身の魔力を込めていく。やがて、魔力が吸い込まれていくような感覚と共に、石がきらりと光った。

「で、できた……!」

「よくできました」

兄はふわりと微笑み、私の頭を優しく撫でた。

……学園が休みの今日、私は久しぶりに兄に魔法を教えて貰っているのだけれど。ここ最近、やけに甘やかされている気がする。先日、失踪騒ぎで心配をかけたからだろうか。

「なんかユリウスと練習すると、上手くなる気がする」

「そう? 良かった」

ちなみに今やっていたのは、学園で借りてきた練習用の石に丁度いい量の魔力を込めるという、魔法付与の練習だ。

実際の魔法付与には高価な宝石を使うのだけれど、失敗すると壊れてしまうため、最初のうちは練習用の石を使うのだという。石が光れば成功の合図となっている。

授業中一度も成功できなかった私は、昨日の放課後テレーゼにも練習に付き合ってもらったけれど、やはりダメで。彼女の教え方だって、とても分かりやすいものだった。

それなのにユリウスと練習し始めて一時間ほどで、あっさりと成功したのだ。彼といると、なんだかすごく魔力が馴染むような感覚がする。一体、何故だろう。

やがて石の輝きは消え、元通りの色に戻った。これが毎回成功するようになれば、次のステップに進めるらしい。

「とりあえず、休憩にしようか」

「うん、ありがとう」

私は石を専用のケースに戻すと、彼が勧めてくれたソファへ移動した。ユリウスは当たり前のように私の隣に腰掛けると、メイドを呼びお茶の用意をさせていく。

私の好きな紅茶と可愛らしいお菓子がすぐに出てきて、本当にずるいなという感想を抱いた。兄が落とせない女性はいないんじゃないかと、私は本気で思っている。

「これからも、定期的に教えてあげるよ」

優雅に紅茶を飲んでいたユリウスは、静かにティーカップを置くとそう言って。誰かと練習し技術面のステータス上げをしていかなければならない私にとって、これ以上ないありがたい申し出だった。

「本当に? 迷惑じゃない?」

「うん。俺も次のランク試験までは余裕あるし」

「……あの、Sランクになれなくても大丈夫?」

「大丈夫だって、本当にごめんね」

ユリウスは困ったように微笑むと、再び私の頭を撫でた。

彼の誕生日の夜、私は絶対にSランクにはなれないから優しくされるのが申し訳なかった、という避けていた理由を話したところ、謝られてしまって。

『Sランクになれなくても、できる限りのことはするから』

『……ありがとう。レーネは優しいね』

そう告げたところ、彼はやはり困ったように笑っていた。やはりSランクでなければ、意味がないのだろうか。

どちらにせよ、自分のためにも頑張らなければ。そもそもステータスが低すぎる場合、なんらかのバッドエンドを迎える可能性だってあるのだ。油断はできない。

私は気合を入れ直すと、可愛らしいマカロンのようなお菓子を手に取り、口の中へと入れた。ふわりと舌の上で溶けていき、甘さが広がっていく。幸せの味だ。

「あ、明日遅くなるかも。吉田とセオドア様へのお礼を買いに行くんだ。帰りも送ってくれるみたい」

「分かった、気を付けて。それにしても、レーネは本当にヨシダくんと仲良いよね」

「うん。吉田のこと大好きだもん」

「俺の前で他の男のこと、好きとか言わないで欲しいな」

「いやいや」

そうは言うものの、兄は私が吉田と仲良くすることに対して、何も言わない。どうやら私達がお互いに恋に落ちることなどあり得ないという、確信があるらしい。正しい。

「ずるいな、ヨシダくん。レーネの一番になれて」

「私の一番はユリウスだけど」

当たり前のようにそう言えば、彼はひどく驚いたように二つの碧眼を見開いた。

「……嘘でしょ?」

「本当だよ。私はこの世界で一番ユリウスを身近な人だと思ってるし、頼りにしてる」

うっかりこの世界だなんて言い方をしてしまい、大げさになってしまったものの、素直な気持ちで。親しい人に順位をつけるのも、なんだかおかしいとは思うけれど。

何か困ったことがあった時、私が一番に頼ってしまうのはきっと、ユリウスだった。

もちろん吉田やテレーゼのことは大好きだけれど、やはり家族でもある彼は、私にとって特別なのかもしれない。

「…………」

「あれ、ごめん。迷惑だった?」

すると彼はすぐに「そんなことないよ」と言ってくれた。

「……うん、すごく嬉しいみたいだ。嬉しい」

「よかった」

戸惑ったように、確認するようにそう呟いた兄は、私が言うのもなんだけれど、ズレている部分があるように思う。

私以外の家族に対して、彼がどこか一線を引いていることに気が付いたのはいつだっただろうか。

人生が掛かっている、なんて言っていた彼が何に縛られているのか、悩んでいるのか私には分からない。それでも私に出来ることがあるのなら、少しでも力になりたい。

「何か出来ることがあれば、いつでも言ってね」

「レーネは本当に優しいね。好きになっちゃいそう」

「はいはい」

そんなシスコンぶりをいつものように流したつもりだったのに、彼は何故か真剣な表情で私を見つめていて。

何とも言えない沈黙がしばらく流れた後、やがてユリウスは「ねえ」と口を開いた。

「もしも俺達が本当の兄妹じゃなかったら、どうする?」