軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クソゲーをプレイしよう! 1

元の世界に戻ってきて二日目の朝、早々に目が覚めた私は、ひとまずレーネの様子を確認した。

自室でぐっすり眠っていて、少しでも良い夢を見ていたらいいな、なんて思ってしまう。

「これは……しばらく起きなさそう」

それにしても、いつの間にか自分の身体だと認識していた姿をこうして別視点で見たり、話したりしている姿を眺めるのは不思議な気分だった。

「よし、今のうちに断捨離をっと……」

再びリビングを出て寝室に戻った私は、まっすぐにクローゼットへ向かう。そしていらないものを次々に、迷うことなくゴミ袋へと放り込んでいく。

レーネだって私に気を遣って捨てられないものもあるだろうし、今更にも程があるけれど、私にだって人に見られたくないものがある。

「良かった、レーネは見てないみたい」

やがてクローゼットの奥の奥にある、埃を被った箱を発見した。

心の準備をしてから開けると、そこには中学生の頃から書き溜めていた自作の妄想小説や痛々しいイラストが詰まっていて、誰か殺してくれと叫び出したくなる。

「うわあ……私ってこういうのが好きだったんだ……」

ちなみに中学生の初期に書いたものは、ハイスペ美形が「悪い子にはお仕置きが必要だね(暗黒微笑)」「そんなに無防備だと食べちゃうよ(妖笑)」と腹黒な一面を見せてくるものばかり。

けれどふと、気付いてしまう。

「いやでも……ユリウスも広義ではこの属性……?」

しかしながら中学生の頃はあまりにも画力がなさすぎて、当時の私はイケメンだと思って描いていたであろう男性陣の見た目は、揃って化け物だった。

もはや妖笑(妖怪の笑い)である。

「悪霊退散、悪霊退散……」

薄目で確認しては苦しみながら、シュレッダーにかけていく。

そうして無事に黒歴史を抹消し終えた頃、ユリウスとルカが起床してきた。今日は週末で学園も休みのため、二人ともラフな私服姿だった。

《しけた面してんじゃん》

《お前こそ。それにレーネはこの顔が好きなんだよ》

《は? 姉さんは俺と同じ顔だけどね》

居間で顔を合わせた途端、二人は意味の分からないマウントの取り合いをしている。

とはいえ、二人ともいつもより元気がないのは明らかだった。間違いなく原因は私達で、大好きで大切なユリウスとルカに悲しい顔をさせてしまっていることが、辛くて仕方ない。

《お前、パン焼くの下手だね》

《人が気を遣ってやってやったのに、ふざけてんの?》

それでも食堂に移動してからも、二人はいつも通り軽口を叩き合っていて、少し心が軽くなる。今日はルカが私の代わりに朝食を準備してくれているらしい。

《……いつもの姉さんが作ってくれるご飯が食べたいな。ちょっとしょっぱいの》

《分かる。レーネって濃い味が好きだよね》

二人は先程と打って変わって分かり合っているけれど、私としては少し待ってほしい。

「えっ、言ってよ! なんで二人とも黙ってたの!?」

いつも二人は「世界一美味しい」「これくらいがちょうどいい」と言っていたのに。私に気を遣ってくれていたのだと知ってしまい、申し訳なさに頭を抱えた。

この様子だとまだまだこういう問題はありそうで、注意深く見守ろうと決意した。

「わ、私も朝食の準備をしようかな……しょっぱいの」

ちなみにレーネが頑張っているらしい仕事をクビになっては困るため、再びスケジュール帳を確認させてもらい、今日は休みなのも確認済みだ。

そして前回とは違って助かった点としては、スマホを機種変したらしく、顔でロック解除ができるようになっていたことだった。

そのお蔭でスマホを拝借してネットを使って調べ物もできるし、フードデリバリーもできるし、本物の吉田にも心配されて押しかけられない程度の返事はできている。

「……この一年半弱で、世の中ってこんなに変わったんだ」

ネットニュースを見ながら朝食を食べ、世の中の移り変わりをしみじみと実感する。

こちらの世界の色々なものを懐かしく恋しく思ったけれど、あちらの世界に戻りたいという気持ちは一ミリたりとも変わらなかった。

食事を終えてもレーネはまだ眠っており、メレディスに丸投げしてしまっている私は何かできることはないかなあと部屋の中をうろうろしてみる。

「勉強って言っても教科書すらないし……ハッ」

そんな中、私はキッチンの手前に聳え立つ、お洒落な布がかけられた棚の前で足を止めた。

そう、これは私の死因だと思っていた乙女ゲームがぎっしり詰まった棚である。

──魔法もないこの世界で今私ができること、それはゲームをプレイしてあのクソゲー世界の造詣を深めることなのではないだろうか。

私はほぼ知識ゼロでヒロイン・レーネになってしまい、訳も分からないままクソイベントが引き起こすピンチに次々と巻き込まれ、それはもう散々な目に遭ってきた。

アンナさんからも情報を得たけれど、一部でしかない。

「ピンチをチャンスに変える時が来ちゃった……」

私の救世主であるメレディスの呪いを解くためにも、間違いなく必要なことだ。

こくりと喉を鳴らした後、レーネがかけたらしい布をそっと手で避ける。

そしてずらりと並ぶゲームソフトの中に、異彩を放つクソダサタイトル「マイスイート♡らぶダーリンin the school」が鎮座していた。

「こ、これが……マイラブリン……!?」

過去に一度、ほんの少しだけプレイしたことがあるとはいえ、記憶はほとんどないため、初見となんら変わらない。

全ての始まりであり、元凶とも言えるこのゲームと再び相見えたことで、私は心の底から妙な感動でいっぱいだった。むしろ、感極まりすぎて泣きそうだ。