軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レーネと鈴音 3

「すごい! 映った! えっ、すごい!」

あまりのことに語彙力を失って「すごい!」「天才!」を連発してしまう。

きっとこれは、今この瞬間のあちらの光景だろう。今回は私の方が彼女よりも早く目覚めたらしい。

《ちゃんと繋がったみたいだな。お前が強くイメージできる相手なら、大体映せるはずだ》

満足げなメレディスによると、このテレビで見られるのはレーネの姿だけではないらしい。

ユリウスや友人達の様子も見られるそうで、なんてありがたい神機能なんだと感動した。

とはいえ、テレビに触れて念じたその瞬間にリアルタイムで繋がるため、お風呂やトイレなどプライベートな部分を見てしまう可能性もある。しっかり配慮しなければ。

《じゃ、方法が分かったらまた連絡してやるから待ってろ》

「分かりました! メレディス、本当にありがとう!」

向こうからは見えていないだろうけど、その場で深々と土下座をしておいた。

こうして助けてくれている彼のためにも必ずや向こうの世界に戻り、例の指輪を集めて呪いを解かなければと、改めて決意する。

やがて右手の甲の光が消え、通信が切れたことを確認した私は、再びテレビへと視線を向けた。

「レーネ、大丈夫かな……」

ベッドで眠っているレーネの瞼は、ずっと閉じられたまま。

ジェニーは「思い出したくない記憶を無理やり戻す薬」と言っていたし、命に関わるものではないはず。したたかな彼女はあんな場所で立場が悪くなるようなことはしないだろう。

目が覚めるまでユリウスの様子でも確認しようかなと思っていると、ノック音が聞こえてくる。

「……ユリウスだ」

やがてレーネの部屋に入ってきたのは、私服に着替えたユリウスだった。

《…………》

ベッドの側の椅子に腰掛けたユリウスは悲痛な表情を浮かべ、レーネの頬に触れる。

その様子からは心配してくれているのがとてもよく分かって、胸が締め付けられた。

『……目が覚めた後、側にいた俺を突き飛ばして泣き出したんだ。で、色々と言われたよ』

前回、レーネはユリウスを強く拒絶したと聞いている。

こうして倒れてしまっただけでも不安にさせているのに、この後レーネが意識を取り戻してから彼にとるであろう態度を思うと、怖くて落ち着かなくなった。

手帳には「謝りたい」と書いてあったし、前回よりは落ち着いてくれることを祈るほかない。

手に汗を握りながらテレビに張り付き、ユリウスとレーネの様子を見守る。

《……レーネ》

ユリウスは時折、優しくて切なげな声で名前を呼んだり手を握ったりしてくれていて、どれほど大切にされているのかも伝わってくる。

早く戻りたいのに、今の私には何もできないもどかしさを強く感じていると、ユリウスに触れられていない方のレーネの指先が、ぴくりと動く。

やがてゆっくりと、長い睫毛に縁取られた目が開かれた。

《レーネ、目が覚めた? 大丈夫? つらいところはない?》

《……っ!》

そしてユリウスが前のめりになって穏やかな声で問いかけた途端、レーネは息を呑み、握られていた手を振り払っていた。

ユリウスのアイスブルーの瞳が見開かれ、信じられないという表情に変わる。

レーネは困惑と混乱でいっぱいなのか、青ざめながら自身の身体を抱きしめていた。

《ユリウス、お兄様……》

《──は》

たったその一言で、ユリウスははっきりと異変を感じ取ったのだろう。だって私はユリウスのことを、そんなふうに呼んだりしないから。

ユリウスの整いすぎた顔も行き場を失った手も、ひどく強張っていた。

《ここ、どうして……まさかまた、戻って……》

辺りを見回しながら声を震わせるレーネも、元の世界に戻ってきたとすぐに察したらしい。

今にも泣き出しそうな顔で、血が出てしまいそうなくらい唇を噛みしめている。

「…………っ」

どちらも悪くないこの光景を見ているだけで、心臓の辺りが痛んで仕方ない。

少し手を振り払っただけでこんなにも苦しいのだから、レーネが強い拒絶をして飛び降りた時のユリウスの心境を思うと、心底泣きたくなった。

《姉さん、目が覚めたんだね!》

そんな中、ユリウス達の声が聞こえたのか、私服姿のルカが駆け込んでくる。

けれどルカも、ユリウスとレーネの異変にすぐ気付いたのだろう。部屋に入ってきた時には安堵でぱあっと明るくなっていた表情が、二人の顔を見比べた後、戸惑いの色で塗り替えられていく。

《……えっ何? 何かあったの?》

《まさか、ルカーシュ……?》

その一方でレーネの大きな桃色の瞳は、ルカを映しながら大きく見開かれている。

それもそのはず、レーネ本人からすれば弟のルカとは十年ぶりの再会なのだから。

当時六歳だった弟が十六歳になっていて、当たり前のように「姉さん」と呼ばれ、一緒に暮らしているなんて信じられないに違いない。

《まさかも何も、さっきまで一緒に演劇の練習してたじゃん。頭でも打ったの……?》

《だって、もうずっと会っていなかったのに……どうして……》

ルカもレーネも戸惑いを隠せない様子で、同じ色の瞳で見つめ合っている。

それからしばらく、誰も声を発しなかった。

同じ空間にいるわけでもないのに、画面越しに見ている私も重い空気に押し潰されそうになる。

《……記憶が戻ったんだ?》

やがて口を開いたのは、ユリウスだった。

いつも堂々としている彼らしくない、ひどく小さな声で。聡いルカもユリウスの言葉を理解したらしく「……嘘だろ」と口元を手で覆った。