軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二度目の学園祭 2

ユリウスとルカと三人で暮らす屋敷へ帰宅した後、私は居間のソファで読書をしていた。

「うーん……何がいいかな……」

ひとまず学園の図書室から、この世界の童話やロマンス小説なんかを借りてきており、目を通している。やはりまず決めるべきは題材だろう。

みんなで劇でやるとなると、登場人物が多いものがいいはず。ユッテちゃんやイケメン先輩も裏方として参加してくれるらしく、みんながそのまま出演するとなると八人ほどは必要になる。

「姉さん、何読んでるの?」

するとすぐ隣にルカがやってきて、私の手元の本を覗き込んだ。すぐに気付かないくらい自然に私の腕に自身の腕をするりと絡め、私の肩に頭を預けている。

そのあざと可愛い甘え仕草に、口からは「うっ」という呻き声が漏れた。

「演劇の題材、何がいいかなって考えてたんだ。ルカは何がいいと思う?」

「俺、演劇なんて見たことがないから分かんないんだよね」

「……そうなの?」

「うん。興味もなかったし、そもそもこの国では貴族の娯楽だから」

ルカから詳しく話を聞いたところ、オペラなどの舞台はとても高価なものらしく、平民が見に行くことはほとんどないのだという。

そんな中、貴族の生徒は自ら演劇をやろうなんて考えないだろうし、平民の生徒はどんなものなのか分からないからこそ、学生が演劇をやるという文化がないのかもしれない。

「だから楽しみだよ、姉さんと初めてを一緒にできるの」

「ルカ……!」

健気な可愛らしいルカに胸を打たれ、思わずぎゅっと抱きしめた。学生生活に何の期待もしていなかったと言っていたルカと、これからもたくさん楽しい思い出を作っていきたい。

「うう……私、絶対に良いものを作ってみせるからね……」

「なんでレーネ、抱きつきながら泣いてんの?」

二階から降りてきた着替えが終わったらしいユリウスは、私を見て苦笑いを浮かべている。そのままルカとは反対の私の隣に腰を下ろし、私の腰に手を回した。

「ああ、題材探し?」

「うん。ルカのために、絶対に良い演劇にしようと決意していたところでして……」

ハートフル学園には多くの平民の生徒がいるし、ルカだけでなく初めて見る人達にも演劇の良さや楽しさを知ってほしい。

「……それなら、心に残るようなお話がいいよね」

当初はホストクラブと同じノリで、みんなのアイドル感を引き出せるものが良いのかもしれないと考えていた。けれど今は、本気で良い演劇を作りたいと思い始めている。

もちろん私だってただのド素人ではあるものの、やれるだけのことはしたい。

「レーネが好きな話ってないの? これまで聞いたことがなかったけど」

「あるといえば、あるんだけど……」

この世界では勉強ばかりしていたため、純粋な物語を読んだことはほとんどなかった。

けれど元の世界にならたくさんある──と気付いたところで、ハッと気付いてしまう。

「私がそれを書き起こせばいい……?」

有名な童話や物語の大体の流れは覚えているし、この世界の誰も知らない物語なら、みんな楽しめるのではないだろうか。

「ねえねえ、ユリウスとルカはどんな話がいい?」

「俺は特にないけど、後味が悪い話は好きじゃないかな」

「そうだよね、私も見終わった後に幸せな気持ちになるものがいいな」

何を隠そう、私は昔から筋金入りのハピエン厨──ハッピーエンドでなければダメなタイプのオタクだった。悲しい結末の話を読めば、数日はどんよりしてしまうくらいに。

私達もお客さんも学園祭を楽しみたいはずだし、どんよりした空気にはさせたくない。

これは間違いなく、一番大切にすべき要素だろう。

「俺は姉さんと恋人役がやりたいな」

「お前、ふざけてんの?」

「余裕ないの、だっさ」

「二人とも落ち着いてください」

でもやはり、恋愛ものが鉄板な気はする。

童話だと幼い感じになってしまうだろうし、他に恋愛劇っぽいものがあったかな──と考えたところで、ふと「ロミオとジュリエット」が鉄板なのではないかと気付く。

高校の学園祭でも演劇部がやっていた記憶があったし、大筋は記憶にある。

「……でも、悲恋なんだよね」

演劇ってどんなものなんだろうとワクワクして見に来たら、恋に落ちた二人が最後に死んでしまうなんてショッキングなはず。

「何か良い話でもあった?」

「うん。でも、悲しい結末で今回は合わないかなって」

ユリウスに対してそう答えると、ルカは不思議そうに首を傾げた。

「別に結末くらい、好きに変えちゃえばいいじゃん。だめなの?」

「た、確かに……!」

その発想はなかったと、思わず両手を合わせる。名作のパロディやifルートといった舞台やドラマもよくあるし、結末ごと変えているものあった記憶がある。

これしかないと思った私はばっと立ち上がり、二人に向き直った。

「ありがとう! 私、今から脚本を書いてくるね!」

二人は散々悩んでいた私が突然そう言い放ったことで驚いた様子だったけれど、すぐに「頑張って」と応援してくれた。

部屋に駆け込んで机に向かい、ノートを開き、ペンを手に持つ。

──そもそもの「ロミオとジュリエット」は、互いに一目で恋に落ちた二人が、家族の反対など様々な障害の中、葛藤し、最後は二人とも自死してしまうという悲劇だった。

子どもの頃に初めて読んだ時はあまりの悲しい最後に、寝込んだ覚えがある。もしかすると、私がハッピーエンド至上主義になったのは、それがきっかけだったのかもしれない。

「確かここでジュリエットは、ロレンスと……」

基本の流れは原作に沿って書きつつ、セリフや思い出せない部分は自分の「こうだったらいいな」という思いを込めて、丁寧に綴っていく。

「……ロミオの親友のマキューシオが死んじゃうのも嫌だな」

誰かが死ぬ話というのも、私は苦手だった。最後にロミオとジュリエットが結ばれても、死んだ彼らが戻ってくることはない以上、やはり悲しさは残ってしまう。

「何とか生かしつつ、でも揉め事は必要だから……」

改変をしながらも軸のストーリーはブレないようにするというのは、かなり難しい。

けれど、夜な夜なノートに好きな漫画の原作沿い夢小説を書いていた闇の過去のお蔭で、なんとか進めることができていた。黒歴史もたまには役に立つらしい。

「……うん、これでよし!」

そしてラストは悩みに悩んだ末、全員が幸せな気持ちで終われるものになったように思う。

ロミオとジュリエットの恋はもちろん、マキューシオとの友情、それぞれとの家族愛や関係も素人なりに丁寧に書いたつもりだ。

結局、三日三晩徹夜して、無事に原稿を書き上げることができたのだった。

四日後、完成した原稿をみんなに見せたところ、みんな大絶賛してくれてほっとした。

もちろん原作は世界的な名作だから当然ではあるけれど、今回は思い出せない部分を含めて私がたくさん変えてしまったため、少し不安だった。

「どうなるかと思ったけど、最後は二人が結ばれてよかったあ……」

ユッテちゃんやミレーヌ様は涙ながらに読み、感動してくれている。個人的にクール美女のオーラを纏ったミレーヌ様が涙もろいところに、ときめいてしまった。

「これ、全部レーネが考えたのか?」

「ううん。ぼんやり記憶にあった話を思い出しながら、ちょっと変えて書いたんだ」

「それでもすごいよ! それに僕は元の話を知らないけど、レーネちゃんの優しい気持ちがすっごく出てるのが感じられて、すごく好きだな」

「確かにところどころ、レーネっぽさもあっていいよな」

「ラインハルト、ヴィリーもありがとう……!」

私の目指したものに近付けたのなら良かったと嬉しくなりつつ、これからだと気合を入れる。

「吉田先輩、泣かないでくださいよ」

「さっぱり泣いていないんだが」

「……とてもいいと思う」

みんなこの内容で問題ないと言ってくれて、無事に進めることとなった。

この後は配役を決め、練習をしつつ、演出などを考えていくことになるだろう。ちなみに舞台の衣装やセットなどは去年同様にお金で解決することになっている。

学園からある程度のお金は出るものの、自費分は回収できるよう美術部の子による出演者の絵などのグッズ販売をするつもりで、死角はない。

「でも、役はどうするの?」

「実は全く決めてないんだよね。どう決めるのがいいかな」

ユリウスにそう返事をした後、私は首を傾げた。

みんなにはぜひやりたい役をやってもらいたいと思ったものの、特に希望はないらしい。

「じゃあもう、くじでいいんじゃね? おもしれーじゃん」

「ふふ、男女が逆転しても面白いかもしれないわね。今のオペラ界の歌姫は男性だもの」

「おお……確かに……!」

ミレーヌ様やテレーゼが男装をしても最高に素敵だろうし、地下強制労働施設での王子やルカの女装も美しかったから、すごくいいかもしれない。

次はどんなキャラクターが出てくるんだろうと、見ている側も期待ができそうだ。

「そうしよう! みんな、どんな役も似合う気がするし」

「俺は端役でいいんだが」

「ドキドキするなあ、どんな役になるんだろうね」

「……うん」

ひとまず近くにあった紙をちぎり、ペンで役名を書いた簡易的なくじを作っていく。すると手伝ってくれていたルカが「ねえ」と私を見上げた。

「姉さんも役者として参加してよ。じゃなきゃ俺、出たくない」

「俺もレーネが出ないなら、やめておこうかな」

「ええっ」

まさかのまさかでルカだけでなく、側にいたユリウスまでそんなことを言い出し、くじに役名を書いていたペンを放り投げそうになる。

私はみんなのサポート役に全力で回ろうと思っていたため、出演するつもりはなかったけれど、未来のスターであろうルカとユリウスを失うのは痛手すぎる。

「いいじゃん、俺らも裏方手伝うしさ」

「実は俺、よく観劇をしているから力になれると思うし」

ヴィリーやイケメン先輩の心強い言葉もあり、私もくじ引き参加を決意した。

「私達は変わらず裏方でいいからね! ね! モブ役だとしても、こんな美男美女の中で舞台に立つとか絶対に無理だから! 雑草役でも無理だからね!」

「わ、分かったよ……うっ、首が締まって……」

「あっごめんね! つい焦ってレーネちゃんの首を掴んじゃって……」

ユッテちゃんの強い握力と希望により、二人を省いた十人で配役を決めつつ、出番のないメンバーで裏も回していくこととなった。

その他の端役も一人二役などでこなすことになり、結構ハードなことになりそうだ。

「よし、じゃあくじを引きましょう!」

そして出来たてほやほやのくじを、近くにいた人から順に引いてもらっていく。

私は一番最後に余ったものにしようと思っており、出番の少ないロザラインあたりがいいなあ、なんて呑気に考えていたのに。

「私達、二人とも男装になったわね」

「そうですね。ミレーヌ様、大公様のオーラが出そうです」

「うわ、俺ら父親役だってよ」

「貫禄を出さなきゃだね、僕も演技の練習を頑張らなきゃ」

いつまでたっても、主役であるロミオとジュリエットと書かれたくじを引く人は現れない。

嫌な予感と冷や汗が止まらない中、残り三つとなったくじを、王子と吉田が引く。

「……嘘だろう」

「う、うそでしょ……」

みんながわいわいと盛り上がる一方、王子が開いたくじに「ロレンス神父」と書かれてあるのを見た瞬間、吉田と私は心の底から絶望し顔を見合わせた。

そう、吉田の手の中にあるくじと袋の中に残ったラスト一つのくじが、ロミオ役とジュリエット役のどちらかだからだ。