軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪と悪 4

「レーネとルカーシュを押さえて。絶対に止めないように」

「……え」

ユリウスは軽く振り返り、近くにいたブレアさんの部下のマフィア達に声をかける。そして命令通り、マフィア達は数人がかりで私とルカを拘束した。

「おい、どういうつもりだよ! 離せ!」

「…………」

ユリウスが意味もなくこんなことをするはずがないことくらい、分かっている。

無性に嫌な予感がして、心臓が嫌な音を立てていく。

「ねえ、ユリウス──」

そして手を伸ばしながら名前を呼んだ瞬間、視界に赤が広がった。

ユリウスの腹部を貫いている銀色の刃の先から、ぽたぽたと赤い雫が滴り落ち、彼の足元に広がる血溜まりが少しずつ広がっていく。

「……ど、して」

ユリウスの手には剣が握られていて、自らの腹部を貫いている。

頭が真っ白になり、何が起きているのか理解できなかった。私だけでなくルカも目を見開き、言葉を失いながら膝をついたユリウスを見つめている。

「ぐ、はっ……」

そんな中、少し離れた場所でレンブラントも膝を突き、自身の腹部を押さえていた。

誰もレンブラントに対して攻撃をしていないはずなのに、苦しむ姿はまるで刺されたようだと考えたところで、最悪の仮説が頭を過ぎる。

「──まさか」

側にいるアーノルドさんへ視線を向けると、アーノルドさんは力なく微笑んだ。

「あいつと子ども達のように、ユリウスとレンブラントも魔法で繋いだんだよ」

「……そんな」

「どれほど強い防御魔法をかけていても、使用中の魔法と同じものだけは防げない。それに子ども達とは別の魔法回路だから、巻き込むこともない」

意識が失われた場合、使用中の魔力は途切れ、魔法は無効化される。

痛みや苦しみでレンブラントの意識が失われさえすれば、子ども達を傷付けることなくレンブラントを攻撃することも、捕縛することもできるようになる。

──つまりユリウスは子ども達を傷付けない代わりに、自分を犠牲にしてまでレンブラントを止めることを選んでくれたのだろう。

「ユリウス、もうやめて! お願いだから!」

こんな危険な方法では、ユリウスの身体がもつ保証だってない。腹部からの出血量も酷く、命を落としてしまう可能性だってある。

必死に叫んでも、一瞬だけこちらを見たユリウスは僅かに目を細めるだけ。

「ぐあああああっ、うあ……ゲホッ、ああ……」

次の瞬間には再びレンブラントは腹部を押さえ、苦しみ出した。ユリウスは自身の腹部に手をあてており、魔法で何かをしたに違いない。

考えられるのは内臓の類への干渉で、想像だけで全身から血の気が引いた。

「ここからは、俺と、お前の根比べだよ」

「……お前、……どうか、してる……」

青白いレンブラントの顔には汗が浮かび、もう意識を保つだけでも精一杯に見える。

やがて咳き込んだユリウスの口からは、鮮血が吐き出された。

「おい、離せ! もういいからやめてくれ! 頼む!」

同じく全てを理解したらしいルカも必死に叫び、抵抗している。それでもユリウスは、決してやめようとはしてくれない。

「……俺さ、本気で怒ってるんだよね」

口元の血を拭ったユリウスは、アイスブルーの両目でレンブラントを射抜く。

ぞくりとするほどの圧に、レンブラントの瞳が一瞬、怯えたのが分かった。

そしてまたユリウスは、自身の身体に手をあてた。

「ぐあああああっ!」

「…………っ」

レンブラントは大量の血を吐き、断末魔の叫びが部屋中に響き渡った。相当な痛みと苦しみに襲われているようで、苦しみ喘ぎ、のたうち回っている。

ユリウスだって、想像を絶するような同じ痛みを味わっているはず。それでも声も出さずに耐え続けていたユリウスはやがて、血に濡れた唇の端を釣り上げた。

限界を超えた苦痛に耐えきれなくなったレンブラントの意識が途切れかけ、子ども達を繋ぐ魔力途切れた瞬間だったのだろう。

次の瞬間にはもう、ユリウスの剣が振りかざされる。

「──俺の勝ちだ」

剣を振り下ろされるのと同時に、血飛沫を上げながらレンブラントの身体は傾いていった。