軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空白の10年間 6

「ここは西のマフィアの溜まり場だよ」

「い、一体どうしてそんなところに……」

この場所に何の用があるのだろうと困惑する中、ルカは裏口から建物の中へ入っていく。

そしてそれから数分後、ドオオオン! という耳をつんざくような爆発音が辺りに響き、建物の右側半分が思いきり吹き飛んだ。

「…………」

何が起きたのか理解するのに、かなりの時間を要した。

私は口をあんぐりと開けたまま、しばらく火が上がっていく建物を眺めていた。

「えっ……えええええっ」

「……あいつ、イカれてるだろ」

少し離れた場所に立っていた私達の方まで爆風や破片が飛んできて、冷や汗と苦笑いを浮かべたユリウスが風魔法で全て防いでくれる。

やはり私はただ、呆然とその光景を眺めることしかできない。建物ってこんな綺麗に吹き飛ぶんだ、なんて現実逃避じみたことを考えてしまう。

「そ、そうだ、ルカは無事……!?」

「無事だと思うよ。どうせあいつの仕業だろうから」

我に返り動揺する私をよそに、ユリウスは落ち着いた様子で半壊した建物へ目を向けている。

言われてみればルカが中へ入った直後に爆発が起きたのだから、その可能性は否定できない。

「ルカがあの爆発を起こしたの……?」

とはいえ、自分の弟がいきなり建物を爆破したなんて信じられない。もう何もかもの訳が分からない中、女性達の悲鳴や男性達の怒号が飛び交う。

「どどど、どうすれば……」

「静かに」

ユリウスは私を抱きしめたまま、手で口を覆った。

やがて建物の出入り口からは、怒りに満ちた男性達が現れた。全員が負傷しているわけではないようで、物騒な武器を手に怒鳴り声を上げている。

「くそ! げほっ、ふざけやがって! どこのどいつだ!」

「見つけ次第、必ず殺せ!」

こんな理不尽な襲撃をされた以上、激昂するのは当然で。犯人を探しているらしい。

ルカは大丈夫なのかと不安になっていると、黒ずんでいく煙の中を影が移動するのが見えた。一瞬見えた桜色から、それがルカだとすぐに分かってしまう。

「まさか東の──ぐああっ」

「おい、どうした! うっ、クソ! ゲホッ」

次々と男性達は意識を失い、地面に倒れていく。

私は何が起きているのか分からなかったものの、ユリウスが耳元で「魔法と体術を組み合わせて的確に相手の急所を突いて意識を失わせている」と教えてくれた。

「あと三人」

夏休みに吉田達と地下労働施設に囚われた際も、ルカは魔法も使えない状態で大人の男性相手に戦っていたことを思い出す。

「──あと一人」

けれどあの時よりもずっと殺気立っていて、その無駄のない洗練された動きは、玄人と呼ぶに相応しいものに見えた。ひとつひとつの攻撃も全て容赦がなくて、ぞくりと鳥肌が立つ。

ひどく冷え切った瞳をしているルカは、まるで知らない人のように見えた。

「ねえ、あいつって何なの?」

「わ、私にも分からなくて……」

もちろん、ルカが何の理由もなくあんなことをしているはずがない。まさかあれも「仕事」のうちなのだろうか。

「でも、悪いことはもうしてないって……」

先日の怪我も、こういった行動を起こした際に負った傷なのだろう。

ルカの身に何が起きているのか分からず、不安や心配で心臓が嫌な音を立てていく。

「ぐうっ……覚えて、ろ……」

やがて最後の一人が地面に倒れ、場は静寂に包まれる。息を呑む中、どこからか馬の足音が聞こえてきた。

「な、なに……?」

やがて暗闇の中から見えてきたのは、黒い馬車だった。馬も黒毛で、車体も真っ黒なんて不気味な馬車は初めて見たけれど、これまたどう考えても怪しい。

やがて中から降りてきたのは、数人の黒いスーツ姿のいかつい男性達だった。

「中で気絶している奴らを含めて、全部で八人。確認して」

「ああ、お疲れさん」

見た目や雰囲気からしてルカにボコボコにされたマフィアの仲間かと身構えたものの、ルカは彼らと淡々と会話していて、どうやら知人らしい。

「ル、ルカとはどういうご関係で……?」

人は見かけによらないと、かの孔子も失敗から学んだそうだけれど、あの人達がルカのお友達というのなら、姉としては止めておきたい。

ある程度の内面は、見た目にも出ると思うからだ。彼らは意識のない男性達を次々に捕縛し、馬車の中に運び込んでいく。

「…………」

ルカはその様子を、冷めた目で見つめている。

「……なるほどね」

ずっと黙っていたユリウスはそう呟いた後、私をひょいと抱き上げた。

「巻き込まれても困るし、今日のところはもう帰ろう。あいつより先に戻らないとね」

「わ、分かった」

「屋敷に戻った後、俺の方でも少し調べてみるよ」

ユリウスにしがみつくと同時に景色が猛スピードで流れて、焦げた匂いから遠ざかっていく。

ずっと心臓はばくばくと早鐘を打っていて、今しがた起きたことの全てに現実味がなかった。

──夜中に屋敷を抜け出したかわいい弟が、マフィアの溜まり場を襲撃し、たった一人で壊滅させるなんて、誰が想像できるだろうか。

その上、怪しい男性達と協力関係にあるようにも見えた。

「ルカは一体、何を考えてるの……?」

いくら考えたところで、答えなど出るはずもない。

屋敷に戻った後はルカに悟られないよう、何事もなかったかのようにベッドに戻ることにした。

「今日は落ち着かないだろうけど、少しでも寝てね」

「うん。ユリウス、本当にありがとう」

「いーえ、俺は何もしてないよ」

優しく頭を撫でてくれたことで、少しだけほっとする。

私一人では絶対に、ルカの身に何が起きているのか知ることができなかっただろう。

「……ルカ、大丈夫かな」

けれど再びベッドに入ってからも、しばらく寝付くことができなかった。