軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空白の10年間 4

「……違う、そんなつもりじゃなくて……」

悪いことをしてしまった子どもみたいに狼狽えるルカは、何かを言いかけては口を噤む。

どうしたんだろうと不安になっていると、不意にユリウスが立ち上がってルカの手を掴んだ。

「お前、怪我してるだろ」

そしてユリウスがルカの制服の袖を捲ると、ぐるぐると巻かれた包帯が目に飛び込んでくる。

一部包帯がずれて見えた腕には痛々しい切り傷のようなものが複数あって、息を呑む。包帯にはところどころ血が滲んでいて、赤く染まっていた。

「なに、なんで……」

こんなの、普通に生きていてできるようなものではないことくらい、私にでも分かる。きっとこれは、他者による魔法攻撃によるものだ。

先程のルカの反応は、私が怪我をしている場所を掴んでしまったことによるものに違いない。

「昨日の夕方、ちょっと酔っ払いと揉めただけだよ。大した怪我じゃない」

「大した怪我だよ! どうして何も言わなかったの?」

ただ包帯が巻かれただけでまともな手当ではないし、間違いなくかなりの痛みがある。そして「夕方に酔っ払いと揉めた」なんて話も、きっと嘘だろう。

「ねえルカ、すぐに保健室に行こう」

「こんなのすぐに治るし、慣れてるから大丈夫」

これほどの怪我に慣れているという言葉も理解し難いし、自分を大切にしていないようなルカの言動に悲しさと心配で、胸が痛む。

「いいからさっさと治してもらえ」

とにかく無理矢理にでも保健室へ連れて行かなければと思っていると、ユリウスはルカの怪我をしていない方の腕を掴み、歩き出した。

ルカは最初抵抗していたものの、ユリウスが「これ以上暴れたら気絶させる」ときっぱり言い切ったことで、大人しくなった。ルカもユリウスが魔法に秀でていると認めているからだろう。

保健室に着くと、すぐにベルマン先生が出迎えてくれた。

「おや、なかなかの怪我ですね。痛かったでしょう」

「……まあ」

「それと、他にも怪我していますよね? この規模の怪我で腕だけのはずがありませんから」

「…………」

先生の言葉に対し、ルカは唇を真横に引き結んだまま。

こんな時のルカの無言は「肯定」を意味すると、私はもう知ってしまっていた。

「ルカ、ちゃんと見せて。全部一緒に治してもらおう」

内心は動揺や心配でいっぱいだったけれど、なんとか平静を装い、努めて穏やかな声で言い聞かせるようにルカに声をかける。

ルカはしばらく黙っていたけれど、やがて無言のまま、制服の上を脱いだ。

「──っ」

すると腹部にも乱雑に包帯が巻かれ、やはり真っ白な包帯にはところどころ赤が滲んでいた。その痛々しい様子を見ていたユリウスも、深く眉根を寄せている。

「すぐに治しますね」

一方、先生は淡々と治癒魔法で傷を治し始めた。

国有数の治癒魔法使いと名高い先生は去年の学園祭の時、大怪我を負った私を完璧に治してくれたこともあり、あっという間にルカの怪我は跡形もなかったように消えていく。

「昨日の夜中、屋敷を抜け出してたよね? 大方、その時に何かあったんだろ」

「……え」

治療をしている最中、ユリウスはルカに尋ねる。

昨日はぐっすり眠っていたため、屋敷を抜け出していたなんて私は知らなかった。

「…………」

ルカはユリウスの問いに対し、やはり何も言わないまま。

まさか先日のように「仕事」で呼び出された先で、これほどの怪我を負ったのだろうか。けれど今ここでそれについて尋ねたところで、素直に話してくれるとは思えなかった。

「……どうして病院にも行かず、誰にも言わなかったの」

「病院に行くと面倒なことになるから。怪我をした原因を聞かれるし、騒ぎになったら困る」

公になっては困る理由で怪我をした、と言っているのと同義で、何が起きているのか気がかりで目眩すらしていた。

「治療は無事に終わりました。僕は誰にも言いませんので、安心してください。教師としては間違っているでしょうけれど、学園外で起きたことですから、報告義務はありません」

先生は落ち着いた声音でそう言って、ルカは俯いたまま消え入りそうな声で「ありがとうございます」と呟いた。腕と上半身の怪我は完全に消えていて、ひとまず胸を撫で下ろす。

やがてルカは立ち上がると、私とユリウスに向き直った。

「ごめんね、迷惑なら出て行くから」

「そんなこと言ってない! ねえルカ、お願いだからちゃんと話そう」

ルカが屋敷を出ていくだけでは何の解決にもならないし、むしろより悪い方向にいく気がして、ルカの手を両手でぎゅっと握りしめる。

どれほどルカを心配しているのか、少しは伝わったのかもしれない。私と同じ色の瞳が、揺れる。

「……悪いけど、これだけは本当に言えない。ごめん」

けれどルカは結局、私の手をそっと解き、保健室を後にしたのだった。