軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ふたりだけの日々 3

テレーゼに声をかけられ、彼女の指差す方向へ視線を向けると、ドアの側には笑顔のアーノルドさんとユリウスの姿があった。

「こんにちは、レーネちゃん」

「アーノルドさん、こんにちは。どうかしたんですか?」

「ひとまずユリウスと避難してきたんだ」

「避難?」

何かあったのだろうかと心配していると、ユリウスが大きな溜め息を吐いた。

「……俺、そんなに悪いことした?」

「あははは、本当にすごい空気だったよね」

お腹を抱えたアーノルドさんは、楽しげにユリウスの肩を叩いている。

「今日はもう朝からうちの教室、すごかったんだよ。葬式会場って感じで」

「ええっ」

「ユリウスロスっていうの? 女の子はみんなどんよりしてるし、たまに啜り泣いている子までいて空気が重すぎて、一日中ずっと苦しかったなあ」

「そ、そんなことになっていたとは……」

いつも通りに過ごせていた私とは違い、三年生は大変なことになっていたらしい。

ユリウスが人気だというのはもちろん知っていたけれど、それほどとは思っていなかった。

『どうしよう、ショックだわ……恋人ができたと知って、自分の気持ちに気付いちゃった』

『恋人になりたいなんて烏滸がましいことは望まないけれど、ユリウス様にはいつまでもみんなのものでいて欲しかった……』

悲痛な声が教室中に響き、授業をしにきた先生方も「何があった?」と聞くほどだったという。

芸能人の結婚報告にショックを受けるファン、という感じだろうか。私も推しキャラの声優の結婚報告時、同じような気持ちになったので理解できてしまった。

「まあ、半年もすれば落ち着くんじゃない?」

「結構かかるね」

人の噂も七十五日というけれど、大幅に上回っている。しばらくは学園でも落ち着かない日々になりそうだ。

「せっかくだし、今日は二人で食べなよ。見せつけた方が落ち着くのも早いだろうし、俺は二年生のみんなに混ぜてもらおうかな。みんな良い子で大好きなんだよね」

アーノルドさんはそんなことを言うと「あ、ヨシダくん発見」と教室の中へ入っていく。

私達二人だけがその場に残され、ユリウスは私の手を取った。

「ってことだから、一緒にお昼食べようか」

「そ、そうだね……」

上位ランクの食堂なら生徒の数は限られているし、大丈夫だろう。

それからはユリウスに手を引かれ、食堂へと移動した。これまでも学園内で手を繋いで歩くことなんてよくあったけれど、今は周りからの目が以前とは違う気がする。

「はい、レーネちゃん。あーん」

「この状況で、攻めの姿勢すぎない?」

「周りなんてどうだっていいよ」

人で溢れた食堂内でも全方位からの視線を感じるものの、ユリウスに気にする様子はない。

キラッキラの笑顔で、美味しそうなステーキが刺さったフォークを差し出してくる。

「これでレーネが食べてくれないと、不仲説でより話がややこしくなるかもよ」

「いただきます」

流石に照れてしまったものの、開き直っていくことにした。

さすが上位ランク用の食堂でも最もお値段が張るステーキは柔らかくて美味しくて、つい笑顔になってしまう。正直、一週間三食これでもいけるくらいだ。

「かわいい」

すると私を見つめていたユリウスは柔らかく笑ってそんなことを言うものだから、近くの席にいた女子生徒達から声にならない悲鳴が上がった。

バタンと机に倒れ込んだような音までして、心配になってくる。

「まあ、俺達自身は今までと変わってないよね」

「確かに。私達、元々こんな感じだったし」

それでも気の持ちようというか周りからの反応が変わると、本当に恋人になったんだなあという実感がより湧いてくる。

ユリウスとの関係を隠さなくて良くなったのも、やっぱり嬉しいと思ってしまう。そんな気持ちが顔に出ていたのか、頬杖をついていたユリウスは綺麗に口角を上げた。

「レーネが喜んでくれたなら良かった。もう一回、キスくらいしておく?」

「絶対にしません」

とはいえ、ユリウスなら本当にやりかねないし油断をすると危険なので、しっかりと線引きはしておこうと思う。吉田あたりにも距離を置かれそうだ。

「今日は帰ったらどうする?」

「一昨日の材料がまだ残ってるから、ちゃちゃっと私が何か作るよ」

「嬉しいな、ありがとう」

料理チートなどない私の作る料理は本当に大したものではないのに、ユリウスはそれはもう嬉しそうにしてくれるものだから、くすぐったくなる。

ユリウスが再び「口開けて」とスプーンをこちらへ差し出したところで、視界がぶれた。

「なにやってんの」

どうやら背後から抱きしめられる形で引き寄せられたらしく、見上げた先には呆れたような表情を浮かべるルカの姿があった。

「お前なんかじゃ姉さんに不釣り合いだから、さっさと別れてくれない?」

「ユリウス側がそれを言われることってあるんだ」

私が周りから言われると思っていたセリフなのに、ルカは本気でそう思っているらしい。あまりにも身内フィルターがかかっていて、いたたまれない気持ちになる。

ルカはパーティーでユリウスとのキスを見た後、本気でキレていた記憶があった。

「ていうか何? 今の新婚みたいな気持ち悪い会話」

夕食についての会話が聞こえていたらしく、ルカは形の良い眉を顰めている。

そういえば、ユリウスと二人暮らしになったことはまだ誰にも話していなかった。身内のルカとは緊急事に連絡をとることもあるだろうし、伝えた方がいいだろう。

「実は三日前に引っ越して、ユリウスと二人で暮らしてるんだ」

「──は?」

するとルカの口からはこれまで聞いたことがないくらい、低くてドスのきいた声が漏れた。