軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄と妹、その終わり 6

きっとこの人をこんな風に揺さぶることができるのは、世界中で私だけなのだろう。

「ううん、すごく嬉しかったよ。本当に本当に嬉しかった、ありがとう」

私は自分の気持ちを言葉にするのが、あまり上手ではない自覚がある。それでも胸の中にある気持ちを少しでも伝えたくて、思いきりユリウスに抱きついた。

これは私の心からの気持ちで、ユリウスがみんなの前で「血が繋がっていない」と言った瞬間、驚きとか恥ずかしいとか様々な感情が込み上げてきたけれど、一番はやっぱり「嬉しい」だった。

自分の気持ちを隠さずに好きな人を好きだと素直に言えること、ユリウスは自分の恋人だと言えることに、嬉しさや安堵感を覚えてしまう。

「……そっか」

たった一言でも、ユリウスが安堵したのが伝わってくる。

けれど、ひとつだけ引っかかることがあった。

「……でも、あの場でキスする必要は全くなくない?」

今ここで少し思い出すだけでも、あれは叫び出したいくらい恥ずかしい。

注目を集めた上で発言するためかもしれないとも思ったけれど、ユリウスに関する新事実なんて数人に伝えるだけで、勝手に翌日には学校中どころか社交界中に広まるはず。

ユリウスだって自身の影響力くらい理解しているはずだし、その線はないだろう。

となるともう、あんな大勢の前でキスをする理由なんてどうしたって見つからない。

「あるよ」

けれどユリウスはさらっと、当然のように断言した。

「レーネを狙う男共に見せつけたかったから」

「みせつけ……?」

「それに言葉だけじゃ信じない奴らもいるだろうし、実際に見せるのが一番手っ取り早いよ」

頭上でユリウスは「ね?」なんて言っているけれど、突っ込みどころが多すぎる。

「さっきだって同級生の男に囲まれてたよね? 口説かれてたんじゃない?」

「手紙を送るとかなんとか……」

「やっぱり。今日こうして行動を起こして正解だったな」

ユリウスもデートの誘いについては知っているらしく、溜め息を吐いている。

けれど日頃からモテているのを一切感じていなかった私は、イベントマジックや誰にでも気軽に言っているのではないかという線を捨てられずにいた。正直にそう話したところ、ユリウスは「まさか」と小さく笑う。

「レーネは自分が思ってるよりも魅力的だってこと、いい加減に気付いた方がいいと思うな」

「み、魅力的……」

「要素で考えてみると分かりやすいかもしれない」

ユリウスに言われた通り、要素で考えてみる。

レーネは間違いなくかなりの美少女だし、今やCランクで交流会でもそれなりに活躍したし、由緒ある伯爵家の長女という身分だけでもかなり──とまで考えたところで、ようやく自覚した。

「もしかして今の私、そこそこ優良物件なのでは……?」

「ようやく気付いてくれて嬉しいよ」

周りがハイスペックすぎてすっかり忘れていたけれど、そもそもかわいくてそこそこ身分が高いだけで貴族令嬢というのはそれなりにモテる。

Fランクの落ちこぼれ根暗というデバフが消えた以上、異性に好かれるのも当然かもしれない。

「そもそもレーネにも婚約の申し込み、来てるからね」

「えっ」

「そういう話は全て早い段階で俺が潰してるから、レーネは知らないだろうけど」

当事者だというのにそんな話は一切知らなかったため、驚きを隠せない。私の耳に入る前に、ユリウスが全て断りを入れているからなのだろう。

「俺が妹を溺愛して可愛がってるってだけでも効果はあったんだけど、俺の恋人に手を出そうとする奴は流石にいないだろうね。もうレーネに寄ってくる男はこの先ほぼ現れないだろうから、安心して」

確かにそんな命知らずはいないだろうし、今日のように異性から声をかけられることは二度とない気がした。仮にいたとしても、ディランのような王族レベルになってくる。

彼はこうなることを見越して行動を起こしたんだろうし、今頃は楽しげに笑っているに違いない。

「確かにユリウス側から私を捨てない限りはそうかも」

「は? レーネちゃん、まだそんなこと言うんだ?」

「いやいやあれです、ただの例え話です、それくらいじゃないと別れるビジョンがもう見えないっていう非常に良い意味で深い意味はありません」

「へえ? ならいいけど」

必死に言い訳をするとユリウスは納得したらしく、私の頬に触れた。

「とにかくレーネの人生において、俺以外の男の選択肢は完全になくなったから。ごめんね?」

そう爽やかな笑顔で断言された私は、今度こそ完全に別れるビジョンが見えなくなったなあと、どこか他人事のように思った。

「話も終わったところで、そろそろ会場に戻る?」

「……どうしよう、冷静になると恥ずかしすぎて死にそう」

「もう一回すれば平気になるかもよ?」

「絶対にそれはないです」

友人達はもちろん、家族であるルカにまでキスシーンを見られたと思うと、思い出すだけで顔から火を噴き出しそうになる。

しかも結構な長い時間だったことを思うと、相当な人数が目撃したはず。人生二周目とはいえ、大勢の人の前でキスをする日が来るなんて想像もしていなかった。

「来週の登校日にはみんな知ってるだろうね」

「ああああ……」

「でもこれからは人前でいちゃつくんだから、あれくらい気にする必要ないと思わない?」

やはりユリウスに気にする様子はなく、その心臓の強さを分けてほしい。

「ていうかあれくらいって、どんないちゃつき方をするおつもりで……?」

「今ここで練習してみる?」

ユリウスは唇で綺麗に弧を描き、顔を近付けてくる。