軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄と妹、その終わり 4

他国出身のディランで知っているのに、私は全くもって知らなかった。けれど周りの友人達とそんな話題になることもないし、ユリウスからも聞いたことはない。

「じゃあ、あれは全部デートに誘われてたってこと……?」

「ああ」

「えええっ」

けれど先程の男子生徒達妙に前のめりで照れたような姿にも、納得がいく。それでも無知な私は手紙なんて礼儀としても送るようなものだという認識があったため、了承するところだった。

「俺に感謝しろよ。あのままじゃ面倒なことになるだろうって連れ出してやったんだから」

「ディラン様、本っ当にありがとうございました」

やはり無知というのは恐ろしいと改めて実感しつつ、心から感謝をする。もしも本当にデートの誘いなんて受け入れていたら、とんでもないことになっていたはず。

「やっぱりお前、モテるんだな。そういう感じも似合うし、すげー好み」

「本当? ありがとう」

ディランの褒め言葉は、なんというかストレートに受け取れる。下心や他意はなく、本当にただ思ったことを伝えてくれているのが分かるからかもしれない。

「でも、私がモテるとは思えないんだけど……」

一年の体育祭ではダレルくんという男子生徒から声を掛けられたけれど、それ以降はほとんど何もなかったし、先程のはイベントマジックか何かだろう。

「ま、お前がそう思うんならいいと思うけど」

ディランは興味深そうに顔を近づけてきて、黄金のふたつの目に捉えられる。本当に太陽みたいだと思いつつ、私は一歩後ずさった。

「それと申し訳ないのですが、少々離れていただいても?」

助けていただいた身で申し訳ないものの、自身の顔を手のひらでガードする。

「なんで?」

「ディラン様はちょっと刺激が強すぎるというか、R指定が必要と言いますか……」

はだけたシャツの首元やワックスで軽くウェット感を出した髪が、酔いそうなくらいの色気を醸し出している。同じ十六歳にはとても見えず、将来が恐ろしい。

それに恋人がいる身では、友人といえど適切な距離感を保つべきだろう。吉田は特別枠なので許してほしい。

「あ、悪い」

やけにすんなり離れたディランをなんだか意外だなと思っていると、そんな気持ちが顔に出てしまっていたのか、ディランはふっと口元を緩めた。

「流石の俺もあれは敵に回したくないからさ」

「…………?」

あれとは何だろうと思いながらディランの視線の先を辿ると、そこにはなんと学園長と話しているユリウスの姿があって、ばっちりと目が合う。

それでいて遠目でもはっきり分かるくらい、苛立っていることが窺えた。何をどう考えても不機嫌なのは明らかで、冷や汗が背中を伝う。

「お前、厄介な男に捕まったな」

他人事だと思っているであろうディランは、目を細めて楽しげに笑う。けれど少しの後「あ、でも」と言い、ディランは再び一歩こちらへ近付いてくる。

「かわいいレーネのために、一肌脱いでやろうかな」

「へ?」

そして王子様のような動作で流れるように私の手を取り──何故か手の甲にキスを落とした。

「うわあ!?」

「ははっ、酷い反応だな。普段は泣いて喜ばれるのに」

いきなりの柔らかな感触に可愛げのない声を出してしまい、ディランはやっぱり楽しげに笑う。

「な、なんでいきなりこんな……!」

「これくらい挨拶だろ? 頬か悩んだんだけどさ」

「ひえっ」

周りにいた生徒からは死角になっていて見えなかったらしいものの、恐る恐る顔を上げればユリウスと再び目が合って、喉がひゅっとした。

もしもこれが頬だったりしたら、今頃ここは血の海になっていた気がする。

「じゃ、またな」

「いやいやいや、あの? えっ?」

とんでもない巨大な爆弾を落とすだけ落とし、ディランは笑顔で手を振って去っていく。引き留めたところで事態は悪化の一途を辿るだろうけれど、今は一人にしないでほしい。

どうしようと思っていると、遠くにいたユリウスはまっすぐにこちらへ向かってくる。学園長やお偉い感じの人達と話していたのに、大丈夫なのだろうか。

やはりユリウスが動くと、周りの人々は一斉に注目して振り返りさえしている。今回の交流会でも間違いなくトップクラスに活躍していたし当然かも、なんて他人事のように考えてしまう。

もはや怯えを超えて、諦めが勝っている。

「あ、あのー……」

やがてユリウスが近付いてきて、脳内で「あれは彼の国の挨拶で」「もちろん他意はなく」だとか必死に言い訳を考えながら、口を開く。

けれど表情の見えないユリウスはどんどん近付いてきて、普通なら立ち止まるラインも超え、手袋をはめた手が伸びてくる。

「ユリウス、どうかし──……」

その手は私の後頭部を掴み「あれ? どこまで近づくんだろう」という疑問を抱く。

困惑しているうちにぐっと頭を引き寄せられ、さらに一気に距離が縮まる。

そして「え」と思った時にはもう、唇が重なっていた。