軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ようやく応援に徹する編 1

交流会も四日目となり、私はユリウスやルカと共に、競技場の観客席に着席していた。

「うわあ……小さいって聞いてたけど、全然大きいんだね」

視線の先、競技場の中心には多くのドラゴンの姿がある。

今日は地獄のドラゴンレースが開催されるため、みんなで吉田とテレーゼの応援に来ていた。

私は一年の宿泊研修の際、ドラゴンに襲われたトラウマもあるため、普通にびびってしまう。

「本当だ。怖いよ、姉さん」

右隣に座るルカは怯えたように私の腕に自身の腕を絡め、上目遣いで見つめてくる。

とはいえ、最近は色々なルカの一面を見てしまっており、これが本当のルカなのだろうかという疑問はあった。

それでも天使のようにかわいすぎるあまり馬鹿になってしまい、もう何でも良くなって、愛しい弟の柔らかな髪を「よしよし」と撫でる。

するとルカとは反対の私の左隣に座るユリウスはすかさず「いい加減にしてくれないかな」と笑顔で圧をかけていた。

「そのバレバレな演技、かわいいと思ってやってるわけ?」

「は? ……姉さん、俺ってかわいくない?」

「ごめん、正直かわいい」

騙されてもいいという気持ちで答えると、ルカはユリウスにドヤ顔を向ける。

ユリウスは呆れた表情を浮かべ、私の肩に腕を回した。

「血が繋がってるってだけで、レーネは甘すぎるよ。少し冷静になった方がいい」

「黙れ、お前と違って俺は姉さん不足で今すぐ死にそうなんだから邪魔すんなよ」

ルカとは今回の交流会を通して共に過ごす時間が少なかったため、今日の応援はずっと一緒にいる約束をしている。

私の右手と手を繋いだルカは「あれ」と手を持ち上げて目を向けた。

「姉さん、こんな指輪してたっけ? しかも元々してたのと色違いなんだね」

「これには深い事情がありまして……」

ルカも私の右手に増えた指輪に気付いたらしく、不思議そうに見つめている。

──思い返せばコーバス湖には当然のようにボス水竜が現れたけれど、確かアンナさんは「全員の好感度が高い場合」だと言っていた。

みんなが私をよく思ってくれているのだと改めて実感し、胸が温かくなる。

「姉さん、ピアスも指輪もそいつとお揃いなのに、どうして俺とはしてくれないの?」

「えっ、全然するよ! 何がいい?」

「本当? ネックレスとかは?」

「ネックレスはごめん、ユリウスがくれたのをしてて……」

「ねえ、もうやだ! 俺の姉さんなのに!」

むっと頬を膨らませてぐずり出したルカとは、後日一緒にお揃いのブレスレットを買いに行くという約束をして、なんとか事なきを得た。

「俺もレーネにブレスレットをあげたかったんだけど」

「で、でも腕はちょうど二本ついておりますし……」

すると今度はユリウスが不機嫌になり、この調子だと私は右手どころか全身ギラギラの成金キャラになってしまう気がしてならない。

ちなみに赤い指輪のことを過去に相談していたユリウスには「色々あって、この指輪を四つ集める必要がある」とだけ伝えてあった。

次の「黄色の指輪」のイベントは三年生の時に起こると聞いているため、その時にはちゃんと相談し、力を貸してもらえたらと思っている。

「すごい、ドラゴンもみんな大人しく並んでる」

再び競技場の中心へ目を向けると、巨大なドラゴン達が参加選手と共にずらりとスタート地点に並んでいて、なんだか奇妙な光景だった。

「競技用のドラゴンは生まれた時から人間に慣らされているから、基本的には安全だよ」

「そうなんだ。みんな良い子だね」

ユリウス曰く、ドラゴンのレースはこの世界ではメジャーな公営競技らしい。元の世界で言う、競馬のようなものなのだろうか。

大人しく撫でられている姿を見ていると、だんだんかわいく見えてくるから不思議だ。

「あ、吉田とテレーゼが出てきた! 頑張ってね!」

入場ゲートから二人が現れ、ぶんぶんと両手を振る。

前の方の座席にいるお蔭で声が届いたらしく、私達の存在に気付いてくれたテレーゼは笑顔で手を振り返してくれる。高い位置でポニーテールにしており、今日も最高に美しい。

その隣では、吉田が照れ臭そうに小さく手を振り返してくれていた。照れ屋の吉田も好きだ。

「アンナさんも出るんだ」

「ああ、セシルと仲の良いあの変わった子ね」

少し離れた場所にはアンナさんの姿もあって、遠くからでもよく目立っている。

ちなみにセシルは個人戦のみに出場すると聞いており、どうか当たらないことを祈るばかりだ。

コーバス湖での湖に慣れる練習という名の拷問を通し、セシルが私に対して全く容赦がないことが証明されてしまったため、恐ろしくて仕方ない。

それぞれを観客席から見守っていると、アンナさんは吉田の元へ駆け寄っていき、びしっと指を差した。

どうやら負けないと宣戦布告をしているらしく、吉田は面倒そうに眉を顰めている。

「審判はあの先生なんだ」

「そうそう、魔法生物学の教師だから、ああいう生き物の管理もしてるんだよ」

THE・魔法使いの老人という姿のやけに気合が入った先生が、このレースの審判らしい。

既に水竜討伐でも魔蝶の捕獲でもハートフル学園が勝利しているせいか、先ほど廊下ですれ違った時にも、かなりご機嫌な様子だった。

どうかこのままレースも我が校が勝利し、最後に待ち受けている個人戦の結果に関しては、寛大であってほしいと祈らずにはいられない。

とはいえ、このままやられっぱなしのパーフェクト学園側ではないだろう。

「姉さん見て、始まるみたいだよ!」

ドキドキしながらルカの手を握り返し、固唾を飲んで見守る。勝敗はもちろん大事だけれど、危険も伴う競技のため、とにかくみんな無事に戻ってきてくれるのが一番だ。

テレーゼはすらりとした赤、アンナさんはたくましい大きな青いドラゴンの背に乗っている。

「なんかヨシダくんが乗ってるドラゴン、変じゃない?」

「あ……」

ユリウスの視線の先には、一匹だけ作画がおかしいギャグ漫画のような顔をした、それでいて毒々しい黒と黄色のドラゴンに乗る吉田の姿があった。

吉田はやけに凛々しい横顔をしているものの、ドラゴンの見た目がおかしすぎて全く格好がついていない。

そもそもあれは本当にドラゴンなのだろうかと心配になるくらい、奇抜な見た目をしている。

競走馬の中にロバが混ざっているような、とんでもない違和感があった。

「ヨシダ先輩は優しいし、他の生徒に譲って余ったあれになったんだろうな」

「そう……なのかもね……」

吉田に懐いているルカは曇りのない目をしており、曖昧な返事をしておく。

けれど私は、間違いなく数ある中で吉田が自らあのドラゴンを選んだのだと確信していた。吉田は人と少し、いやかなり違う独特なセンスをしている。

そんなクソダサ──強い個性を持っているところもひっくるめて、吉田を推し続けていきたい。

「……うわあ」

そうしているうちに審判の先生がピーッと試合開始を知らせるホイッスルを吹いた直後、ぶわっと強い風が吹き、あっという間に競技場からドラゴンの姿はなくなっていた。