軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋は人を狂わせるらしい 1

「そうそう、そこにこの術式を当てはめて……」

「あー! なるほど、そういうことか」

体育祭が終わり、私は再び机に向かう日々を送っていた。冬のランク試験に向けて、コツコツ頑張らなければ。

今日は放課後、ラインハルトと共に空き教室で勉強をしていた。隣に座る彼は、分からない所を教えてくれている。

ちなみに今週末は体育祭のご褒美として、ユリウスと共に王都の街中へと遊びに行く約束もしている。どこへ行きたいと言われても、何があるのかすら分からなかった私は、先日回りきれなかった街中のリベンジをすることにしたのだ。

「ていうかラインハルト、勉強得意になってない……?」

「レーネちゃんに教えてあげられるようになりたくて、必死に勉強したんだ」

「ええっ」

照れくさそうに笑う友人想いの彼に、胸を打たれた。

ラインハルトは誰よりも私に優しい。今日だって私に似合うと言い、可愛いらしいお菓子をプレゼントしてくれた。

「私も頑張らないと。夜、勉強の合間にさっき貰ったお菓子もいただくね。本当にありがとう」

「うん、店もとても可愛らしいんだ。今度一緒に行こう?」

「もちろん! 行ってみたい」

「良かった。楽しみにしてるね」

そう言って彼は蕩けそうな笑顔を浮かべ、私の髪に触れ耳にかけると「かわいい」と呟いた。彼は本当に何をしているんだろう。一般の女子生徒ならば、出血多量で気絶しているレベルの距離感バグだ。

流石の私でも、少しだけ照れてしまう。思わず突っ込みそうになったけれど、先日似たようなことを注意したばかりなのだ。あまり言っては、口煩いと思われるかもしれない。

「ピアス、ユリウス様とお揃いなんだね」

「うん。お世話になってるお礼に、プレゼントしたんだ」

「いいな、僕もレーネちゃんとお揃いのものが欲しい」

そう言えば、テレーゼや吉田にはお揃いのペンを贈ったけれど、彼には何も贈っていないことに気が付いた。

「そうだね、今度出掛けた時に買おう」

「本当に? 嬉しいな」

小指を絡められ約束をした私達は、下校の合図のチャイムが聞こえてきたことで勉強を終え、帰り支度を始めた。

「ラインハルトくん、また明日ね」

「……ああ」

そうして二人で玄関へと向かっていると、廊下で可愛らしい女子生徒が、ラインハルトにそう声をかけた。

けれど彼はひどく素っ気ない態度で、そう呟いただけで。その冷ややかな様子に、内心少しだけ驚いてしまう。

「あの」

「なあに? レーネちゃん」

けれど次の瞬間、私が声を掛けると別人のように柔らかい笑顔を浮かべ、優しい声色へと変わっていた。

「やっぱり、まだ他の人が苦手?」

「……うん。僕はレーネちゃんしか信用できないし、怖いんだ。レーネちゃんに見捨てられたら、一人になっちゃう」

「見捨てたりなんてしないよ」

「良かった。嬉しい」

そう言って、彼は私の手を恋人繋ぎで絡め取った。

ちらほらとまだ生徒の姿がある廊下のど真ん中で、これはお互いのためにも良くないのではと思ったけれど。今の会話の後に、この手を振り払うことなんて出来るはずがない。

以前の彼への虐めは、かなり暴力的で酷いものだった。だからこそ、すぐにはそのトラウマも消えないのだろう。

「明日の放課後も、一緒に勉強できる?」

「うん、大丈夫だよ」

「その後は、さっき話したお店に寄って帰ろうね」

ふにゃりと幸せそうな笑みを向けられた私は、彼の誘いを断ることなど出来なかった。

◇◇◇

「あの、それ私のロッカーなんですけど」

翌日の放課後、なんと私は自身のロッカーを見知らぬ女子生徒が漁っている所に遭遇してしまった。せっかくつけた鍵は壊されてしまったらしい。酷すぎる。

「…………っ」

「ちょっと待って!」

私を見るなり逃げるように走り出した彼女の手には、私のペンケースがあった。一体何に使うつもりなんだろうか。

とにかく、ただのペン数本ならば諦めてもいいけれど、その中には皆とお揃いのペンが入っているのだ。絶対に取り返したい私は、すぐに女子生徒の背中を追いかける。

けれどレーネはあまり足が速くないせいで、見失ってしまって。困ったなと立ち尽くしていると、廊下に王子と吉田の姿を発見した。いつものように挨拶をしつつ、走っていく金髪の女子生徒の顔を見ていないか尋ねてみる。

「それなら、さっき見たが」

「本当に!?」

なんと吉田、顔まで目撃していたらしい。そこで私は数少ない友人を頼り効率よく探すため、紙とペンを渡し似顔絵を描いてもらうことした。

サラサラとすぐに書き始めた彼の横で、王子と共に固唾を飲んで見守る。ちらりと視線を向けてみたところ、彼は何故かじっと私のことを見ていて、私は慌てて視線を戻した。

「──こいつだ」

そうして吉田が指差した絵を見た瞬間、私は息を呑んだ。

「これは……! 歩くティーポット……!?」

「小柄な女子生徒だ」

吉田、壊滅的に絵が下手だったのを忘れていた。

性別どころか種族すら判別不可能なイラストを前に、私と王子は言葉を失ってしまう。いや、王子は最初からだ。

やけに自信ありげな画伯を傷付けたくない私は、丁寧にお礼を言い、不気味な絵を片手に再び犯人を探し始めた。

けれど校内には姿はなく、校舎を出て悪い奴が向かう定番スポットである裏庭へと向かうことにする。体育祭の筋肉痛の名残が残っていて、足が痛む。

そしてようやく辿り着いたそこには、人影があって。

「えっ」

そこで目にしたのは、地面に座り込む女子生徒の手を踏みつけているラインハルトの姿だった。……どういう状況?