軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知らない過去 2

「二年前のこの時期は特に、ユリウスの人気がすごかったの。誰もがユリウスを好きになるものだから、魅了持ちなんじゃないかって本気で疑われていたくらい」

「そ、そんなに……」

「あの頃はまだ幼さも残っていたし、今みたいな近寄り難さもなかったからかしら」

ユリウスがモテることは知っていたけれど、まさかそれほどとは思っていなかった。

「私はあれほど強く人を惹きつけることも、ある種の才能だと思っているの。持って生まれたものだからこそ、どうしようもないとも言えるんだけれど」

眉尻を下げて微笑んだミレーヌ様はそれから、私の知らない過去の話をしてくれた。

──当時、ユリウスに執着する女性は後を絶たず、トラブルも日常茶飯事だったという。

ストーカーのような女性も現れたり、私物がなくなったり女性同士の争いが起こったり、とにかく異常で病的だったそうだ。

『ユリウスって女の子、あんまり好きじゃないの?』

『恋愛感情に振り回されるような子は好きじゃないかな。なりふり構わない姿とか見ると、吐き気がする』

以前、そんな会話をした時、ユリウスの言葉にはひどく重みがあったことを思い出す。

それは実際にユリウスが身をもって辛い思いをしたからこそだったのだろう。

今の三年生組が一年の宿泊研修の際も、自由時間にユリウスを巡って女子生徒が喧嘩をし、停学者が六人ほど出るトラブルが起きたと聞いた記憶がある。

あの時は現実味がなく漫画みたいだという感覚だったけれど、今思うと異常でしかない。

私にはユリウスのような経験はないものの、望まぬ相手からの行き過ぎた好意というのは、きっと重たくて恐ろしくて、苦しいものに違いない。

「その上、みんなユリウスのことをよく知らないんだから笑えるわよね。元々女性があまり好きじゃないみたいだったから、余計だったと思うわ。そんな中で交流会の時期が来て、もう地獄だったんだから」

ハートフル学園内女子生徒だけでも既に大変なことになっていたのに、パーフェクト学園の女子生徒までもがユリウスに夢中になってしまったという。

「すると今度は男子生徒からの恨みも買うようになってしまって、結局もう私達やジェレミー以外とは関わらないようになったの」

嫌気が差すのも当然で、他人からの好意もそこまでいくと悪意と変わらない気さえする。

全て過去の話で今の私にはどうすることもできないとは分かっていてもけれど、もどかしい気持ちになる。同時にミレーヌさん達がユリウスの側にいてくれて良かったと、心から思った。

「……あいつも苦労してんね。どこがいいのか俺には理解できないけど」

私の反対側のミレーヌ様の隣で話を聞いていたらしいルカが、頬杖をつきながら呟く。

「お前ほどじゃないよ」

「いへえ、ははへ! くほ!」

するといつの間にかベンチへ戻ってきたユリウスが、ルカの頬をむにっと摘む。

そして「随分懐かしい話をしてたね」と言い、私の隣に腰を下ろした。

「ええ。勝手に昔のことを話していたわ」

「いいよ、別に隠すほどのことでもないし。今も昔も気にしてないから」

ユリウスは全く気にしていない様子で、甘えるように私の肩に自身の頭を預ける。

そっと柔らかな銀髪を撫でると、ユリウスはふっと口元を緩めた。

「まあ、気分は良くなかったけどね。そもそも俺、俺のことを好きな人が好きじゃないから」

「……え」

「でも、レーネちゃんだけは別だよ。もっともっと好きになってもらわないと困るくらいで」

膝の上に置いていた手にするりと指を絡められ、ぎゅっと握りしめられる。

「それに交流会も良い思い出がなかったけど、レーネと一緒なら楽しみだな」

「わ、私も! すっごく楽しもうね!」

「あはは、レーネは今日も元気だね」

想像以上に大きな声が出て、笑われてしまう。

けれど私はいつだってユリウスが「楽しい」と言ってくれるのがどうしようも嬉しいし、良くない思い出なんて全部吹き飛ばしたくなる。

「ふふ、ユリウスは幸せ者ねえ。私も恋人が欲しくなってくるわ」

「分かるなあ、俺もレーネちゃんが欲しい」

「お前は本当に死んで」

そんなやりとりをする三人の間にはやはり気安い、心を許し合っている空気が流れていて、幸せな笑みが溢れた。

「ユリウス先輩、俺らもうマスターしたっす!」

「さすが早いね。お疲れ様」

そんな中、銀色のブレスレットを手にヴィリーと王子がこちらへやってくる。二人はこの短時間でもう魔道具を使いこなせるようになったらしく、ヴィリーは誇らしげな顔をしてかわいい。

ユリウスは二つのブレスレットを受け取ると、立ち上がった。

「おいで、レーネ。練習しよっか」

「うん! よろしくお願いします」

私も負けていられないとユリウスの大きな手を取り、グラウンドへ向かっていく。

ユリウスはいつだって嫌な顔ひとつせず、私にたくさんのことを教えてくれる。

そんなユリウスに私ができる恩返しなんて多くないけれど、まずは一緒に交流会を楽しめるよう頑張ろうと改めて気合を入れたのだった。