軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

楽しい夏休み(嵐の前のなんとやらパート)5

「あ、港に着いたみたい! たくさん船があるね」

大きな港に到着するとそこには、大小様々な船が停泊していた。簡素なボートから豪華客船という感じのものまであって、見ているだけでワクワクする。

「なかなかだな」

実は誰よりも少年の心を持つ吉田も、後方で腕を組み頷いている。ルカも王子もとても楽しげで、男の子っていいなとほっこりしてしまう。

「ええと確か、私たちが乗るのは……」

昨日の晩に時間やルートなどを調べ、みんなで今回乗る船を決めてきた。

鞄からパンフレットを取り出し、再度確認する。

「あっ、あの船だよ!」

真っ白な船体に金色のラインが引かれた流線型の、美しい豪華な船を発見した。一番上のデッキの上には椅子や傘、レストランなどがある。

美味しい食事を楽しみながらゆっくりとトゥーマ王国の海を回るツアーで、素敵な時間になることが約束されているようなものだった──けれど。

「お嬢ちゃんたち、ごめんね。実はもう前の人たちで満員になってしまったんだよ」

「ええっ、そんな……」

早速船に乗ろうとしたところ、船の手前で見知らぬおじさんに止められてしまった。

パンフレットには「高価なツアーのため満席になることはほぼない」と書いてあったのに、よほど運が悪かったのだろう。

「どうする? 他の船にするしかないよね」

「そうだな。俺は何でもいいが」

「俺も姉さんと一緒なら何でも大丈夫」

「…………」

みんな同じ意見らしく、再びパンフレットを開く。

近い時間で乗れるものを探そうとした途端、おじさんにひょいとパンフレットを取り上げられてしまった。

「この港じゃ、こんな紙はあてにならないよ。物知りのおじさんに任せなさい」

「あっ、なるほど……ありがとうございます」

キャスケットのつばに触れ、ばちこんとウインクしたおじさんはこの港の案内役的な存在らしく頼りになりそうだ。ニッコニコしすぎて目が糸みたいになっている。

「この船がさっきの船と一番似ているから、絶対にこれにした方がいいよ」

「そうなんですね。みんなもこの船でいい?」

「ああ。見た感じも悪くないな」

おじさんが指差した先にあったのは先程の船のひと回り小さい感じ豪華な船で、かなり綺麗だし良さげなオーラがある。みんなも同意してくれて、この船で海を満喫することにした。

「ほらほら、急いで乗って。出発しちゃうよ」

ぐいぐいとおじさんに背中を押される形で、慌てて船に乗る。中に入ると私たち以外には十人ほどの若い男女のお客さんしかおらず、かなり空いていた。

あっちは満員なのにと不思議に思っていると、スタッフらしいおじさんに声を掛けられる。

「ようこそイカウユ号へ。右手を出してね〜」

「はい。あの、お金とかは……」

「最後でいいよお〜」

言われるがままに右手を出すと、ガシャンという派手な音とともに腕に鉄製のブレスレットが嵌められる。

きっと遊園地とかテーマパークでよくある、入場者の証的なものだろう。

それにしてはやけにゴツくてしっかりしていて、手錠みたいだ。さすが豪華客船だと勝手に納得しているうちにプアーという音が鳴り、船が出発したようだった。

「わあ、思ってたより早いね」

「本当だ。実は俺、船に乗るの初めてなんだ」

こういう船はゆったり進むと思っていたものの、競艇か何かではと突っ込みたくなるくらいの猛スピードで進んでいく。景色を眺めるもへったくれもない。

きっと見どころポイントではゆっくりと進んでくれるのだと、信じたい。

「この速度、おかしくないか」

「……これ」

「えっ?」

吉田が窓の外を、王子が手首のブレスレットを見て、形の良い眉を顰めた時だった。

ぷしゅうという聞き慣れない音がしたかと思うと、視界が紫の煙で染まっていく。間違いなく良くないガスだと本能的に悟り、すぐに手で口元を覆う。

「なに、これ……」

それでも呼吸をしないなんて無理で、少し吸ってしまった途端、ぐらぐらと視界が揺れ、瞼が重たくなって吐き気が込み上げてくる。

泥酔した時に似た感覚に、気持ち悪くなって思わず膝をつく。一体、何が起きているのだろう。

「……なんで、魔法が使えないわけ」

なんとか顔を上げると、みんなはこの煙を払うため魔法を使おうとしても使うことができず、私同様に苦しんでいるようだった。

私も意識が遠のく中、最後の力を振り絞って風魔法を使おうとしたけれど、何故か魔法が一切発動しない。

こんなことは初めてで、頭が真っ白になった。

「ど、して……」

もう目も開けていられなくなり、座っていることさえ困難になる。そうして視界が傾き意識を失う瞬間に見えたのは、こちらへと手を伸ばす吉田の姿だった。