作品タイトル不明
楽しい夏休み(嵐の前のなんとやらパート)3
旅行二日目の朝、私は身支度をしてルカと共に朝食の場であるレストランへやってきた。
「おはよう二人とも! いい朝だね」
「あら、レーネ。おはよう」
「おはようレーネちゃん。今日もかわいいね」
「テレーゼもラインハルトも朝日より眩しいよ」
寝起きから美形に囲まれ、目がチカチカする。希望の朝という感じで大変ありがたい。
朝食はバイキング形式になっていて、入り口で会ったラインハルトとテレーゼ、ルカとともに好きな食べ物を皿の上に乗せていく。
ちなみに本来は朝からコースらしいものの、私のリクエストでこの形式になっている。旅行の朝と言えば朝食バイキング(オレンジジュース飲み放題)が、一般市民の私のイメージだった。
「朝ってあまり食べられないから、ありがたいわ」
「俺は逆にがっつり食えていいけどな」
「本当? 良かった」
後から合流したヴィリーも喜んでくれているようで、良かったと笑みがこぼれる。
私は冷やかし程度のサラダとたくさんのローストビーフがメインだけれど、テレーゼは野菜多めで全体的にとても少量だ。
ヴィリーは野菜ゼロのお肉や揚げ物メインだし、ラインハルトは果物やデザートなどの甘いものが多めで、それぞれしっかり個性が出ている。
「俺は姉さんにとってほしいな」
「お姉ちゃんにまかせて! ルカの健康は私が守る」
かわいい成長期のルカに関しては、栄養バランスを考えた盛り付けをした。
こんな些細なことでも「嬉しい」「残さず食べるね」と喜んでくれて、あまりの尊さに涙が出そうになる。
「あっ! 吉田もおはよう!」
「ああ、おはよう」
吉田に普通に挨拶を返してもらうだけで、とても嬉しくなる。そう話すと「健気か」と笑われてしまった。
「わあ、こちらも性格が出てるね。吉田っぽい」
「お前もな」
吉田のプレートの上には、きっちりとお手本のように全ての料理がバランスよく乗っていた。
その隣に立つ王子のお皿の上は芸術作品かと思うほど美しく色とりどりで、なんだか全体的に茶色くて質素な私とは、同じメニューから選んだとは思えないクオリティだった。
そうして席へ向かおうとしたところ、今度は三年生組が食堂へと入ってくるのが見えた。
「おはよう、レーネ」
「ユリウスもおはよう。昨日はよく眠れた?」
「うん。おかげさまで」
ユリウスは笑顔を返してくれ、そのままアーノルドさんと共にトレーとお皿を取りに行った。
一方、ミレーヌ様はお皿ひとつに手早くフルーツを少しだけ乗せ、静かにトングを置く。
「もしかしてミレーヌ様、それだけなんですか?」
「ええ、朝はサラダか果物だけよ」
「…………」
美女には美女の理由があるのだと思いながら、自身のローストビーフタワーから目を背ける。
その後はルカと席についてお喋りをしていると、やがて盛り付けを終えたらしいユリウスがテーブルへやってきた──ものの、何故か一番端の席に腰を下ろした。
「…………?」
ルカと反対側の私の隣席は空いているのに、と首を傾げる。いつもならこういう時は必ず私の隣に座ってくれるけれど、今は気分じゃなかったのだろうか。
「あ、レーネちゃんの隣空いてる。俺が座っちゃお」
結局、一番最後にやってきたアーノルドさんが私の隣に座って、みんなで食事を開始した。
「レーネちゃん、今日の髪型は珍しいね」
「はい、ルカが結んでくれたんです」
今日の私は編み込みの三つ編みで、ゆるく崩した感じがとてもかわいいヘアスタイルだ。
鏡台の前で格闘していたところ、ルカがささっと一瞬で器用に結んでくれたのだ。
何故かかなり手慣れていてどこで覚えてきたんだろうと気になったものの、なんだか怖くて聞けずにいる。
「アーノルドさんは少し顔色が悪いように見えますが、大丈夫ですか?」
「実は少し二日酔いなんだ。昨日は遅くまで三人で飲んでたから」
「わあ、そうだったんですね」
この世界では十八歳からお酒が飲めるため、法的に問題はない。それでも前世の記憶があるせいか、学生が飲んでいると聞くと違和感を覚えてしまう。
けれど三人が仲良く乾杯している姿は、どんな美しい夜景よりも映えるに違いない。
「その様子を肴に私も飲みたかったです」
「レーネちゃんも来年、一緒に飲もうね。ユリウスが許してくれればだけど」
「…………?」
ちなみに私たち一・二年生組は、遅くまでカードゲーム大会をして遊んだ。
テレーゼと王子、ルカがやけに強く、私やラインハルトは悔しい思いをしながらも、とても楽しい時間を過ごせたように思う。
夜中にパジャマ姿でみんなで集まって、普段は食べないような時間にお菓子を摘んだりお喋りをしたりするだけで、すっごくワクワクした。
最終的にはお子様枠の私とヴィリーが寝落ちしてしまい、お開きになったという。弟のルカより先に眠ってしまうあたり、相変わらず姉の威厳なんてものはない。
「あいつ、なんかおかしくない? いつも姉さんの隣を陣取ってるのに。喧嘩でもした?」
「何もなかったと思うけど……」
ユリウスはこちらを見ようともせず、隣の吉田と何かを話している。確かにさっきもいつもより少し素っ気なかった気がして、なんだか気になってしまう。
昨日ユリウスに何かした覚えはないし、むしろ昨日はあまり会話もできなかった気がする。
胸の奥が少しもやっとしてしまいながらも朝食はしっかり完食し、デザートはおかわりした。
「美味しかったね。この後は予定通り自由行動かな?」
「そうね。私達は三十分後に出発するつもり」
朝食後は早速、昨日決めたメンバーに分かれて観光をして回ることになった。
既に身支度は終えているため、私たち四人は早速出かけることにする。
「じゃあ、我々は行ってまいります! 夜ご飯には間に合うようにするね」
「ええ、行ってらっしゃい」
「なんか土産買ってきてくれよな!」
「また後でね、レーネちゃん」
食堂を出たところでみんなに見送られ、笑顔を返す。
夕食まではかなり時間があるし、船に乗った後は街中を観光する余裕もありそうだ。
「ユリウスもまた後でね」
「うん、楽しんでおいで。行ってらっしゃい」
最後にユリウスに声をかけると、笑顔を向けられた。至って普通のやりとりではあるものの、普段よりさっぱりしている気がしてならない。
何かあったのかと気になりながらもルカや吉田、王子を待たせているため、帰ってきてからちゃんと聞いてみることにした、のだけれど。
「行ってきま──ユリウス?」
背を向けて歩き出してすぐ、不意に腕を掴まれた。足を止めて振り返ると、なぜかユリウスは引き止めるように私の腕を掴んでいた。
どうしたんだろうと見上げると、戸惑った顔をしたユリウスと視線が絡む。なんというか、無意識に引き止めてしまったという感じがする。
それでもユリウスはすぐにいつもの笑みを浮かべ、私からパッと手を離した。
「ごめん、なんでもない。楽しんできてね」
「うん、ありがとう」
そう返事をしながらもやっぱり何かあったのかもしれないと気になって、今度は私がユリウスの腕を掴み、少し伸びた銀髪のかかる耳元に口を寄せた。
「帰ってきたら二人で会ってくれる?」
こそっと耳打ちをすると、ユリウスは切れ長の目を見開く。みんなで過ごすのもすごく楽しいけれど、ここ最近はユリウスと二人きりの時間が毎日あったせいか、無性に寂しく思えてしまった。
「なんで?」
「えっ?」
「なんで俺と二人で会いたいの?」
真剣な表情で尋ねられ、少し面食らってしまう。
恋人という関係においても、二人で会うことに何か理由が必要なのだろうか。
そもそも普段のユリウスなら、そんなことも聞かずに喜んでくれる気がするのに。