軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

姉と弟、兄と妹 5

後ろめたいことなんて何もないけれど、この状況は色々と間違いなくまずい。

そしてこのタイミング、アーノルドさんが余計なことをユリウスに言ったのは確実だろう。

やけに楽しそうにしていたのはこういうことだったのかと、妙に納得してしまった。

「ねえ、俺は何してるのって聞いてるんだけど」

口篭っていると、追い討ちをかけられる。

ぎぎぎと首を動かせば、笑顔でルカに視線を向けるユリウスの横顔が視界に飛び込んでくる。

透き通ったアイスブルーの瞳は全く笑っておらず、かなり怒っているのが分かった。

「お、お茶をしているだけです……」

「放課後、友達と勉強するって嘘をついて?」

「勉強はしてたんだけど、三十分だけ」

「ふうん? 友達との約束を破ってまで、こいつと過ごすことを選んだんだ?」

何を言っても、最悪の方向に持っていかれてしまう。

けれどユリウスからすれば、私が謎の美形一年生と親しげに手を握り合ってお茶をしている、というようにしか見えないのだ。怒るのも当然だった。

「で、誰?」

「え、ええとですね……」

ここに来て先程、誰にも言わないでほしいと言われたことを思い出し、詰んだことを確信する。

実の弟だと説明できない中、この状況を切り抜ける方法なんてさっぱり思いつかない。

「一年のルカーシュ・アストンです。初めまして」

私の代わりに、ルカがにこやかに答えてくれる。

ユリウスから相当な圧を感じているはずなのに、ルカは平然としていて、感服すらしてしまう。

「どうも。レーネとはどういう関係?」

「レーネ先輩と俺だけの秘密なので言えませんが、俺達とても仲が良いんです」

「……へえ?」

ユリウスの嘲笑うような声が、耳元で響く。素直な弟が火に油を注いでくれて、心の中で涙が止まらない。

「レーネ先輩、そちらは?」

その上、聞き返してくるルカは間違いなく、かなりの強メンタルの持ち主だった。気弱だったらしいレーネとは大違いで、姉弟でも性格は真逆なのかもしれない。

「…………」

なんとなく再会したばかりの弟に対して、新しい兄だとは言いづらい。

それでも嘘なんて吐きたくないし、いずれは分かることなのだ。ここは正直に──……

「恋人だけど」

「兄です」

私が結論を出すよりも先にユリウスが勝手に答え、すかさず答える。

「……そうなんだ」

そう呟いたルカの声のトーンが、下がった気がする。

ルカからすれば、大好きだった姉と十年会えない日々を送っていた中で、新しい兄と仲良くしている姿を見るのは複雑なのかもしれない。

私にとっては二人とも大切なのに、予期せぬ板挟みのような状況に、内心頭を抱えていた。

「帰ろっか、レーネ」

「えっ? 生徒会の手伝いで遅くなるんじゃ」

「アーノルドに押し付けてきた」

「いや私、そもそもヴィリー達と勉強を」

「俺がつきっきりで教えてあげる。帰るよ」

有無を言わせない笑顔に、こくこくと頷く。これは間違いなく、ものすごく怒っている顔だ。

「あの、鞄をとってきたり色々あるので、お先に馬車へ向かっていただいて……」

このままルカと別れるのもまずい気がするし、友人達にもちゃんと謝っておきたい。

ユリウスは少しの後「分かった」と言い、カフェテリアを去っていった。このあっさり感も余計に怖くて、この後が心配で仕方なくなる。

私はルカに向き直ると、縋るような眼差しを向けた。

「あの、やっぱり兄にだけでも──」

「約束は守ってね? 守ってくれるって言ったよね?」

「ハイ」

先程のユリウスと同じ有無を言わせない笑顔に、私は即座に頷く。

「ありがとう、姉さん。大好き」

キラキラとした笑顔を向けられ、私は完全に腹を括った。自力でなんとかするしかない。

初めてした約束をいきなり破ってしまっては、ルカからの信用を失ってしまう。

「でも姉さん、大丈夫? あの人、怖そうだったけど」

「ううん、本当はすっごく優しいんだよ」

欲を言えば、大好きなユリウスとも、ルカが仲良くなってくれたら嬉しい。

関わっていくうちに、ルカもいつかみんなが信用に足る素敵な人たちだと分かってくれるかもしれない。

ルカと別れ、急足で教室へ戻る。するとそこには、机の上に突っ伏し灰になっているヴィリーの姿があった。

「ヴィ、ヴィリー……!?」

「突然もう勉強なんてしたくない、頭がおかしくなると言って力尽きてしまったのよ」

困ったように頬に手をあてるテレーゼが、説明してくれる。ヴィリーは焦った結果、無理をしすぎてキャパを超えてしまったらしい。

とにかく今日はもう限界だということで解散になり、ちょうど良かった。

「大丈夫? 明日以降は二日に一回とかにしよう」

「ああ……昨日は夢の中でも勉強してたんだよな……」

私も前世、ブラックな会社で働いていた頃、夢の中でも仕事をし続けていたことを思い出す。常に気が休まることはなく、地獄みたいな日々だった記憶がある。

そうして私達はヴィリーを支えながら、教室を後にしたのだった。