軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドキドキ新学期 3

これまたハイスペイケメンだと思いながらじっとブローチを見つめていると、不意に美少年が口を開いた。

「フォークですか?」

「あ、そうです」

そう返事をすれば、笑顔でフォークを手渡される。

「どうもありがとう」

「いいえ、どういたしまして」

受け取ってから、なぜここには色々な食器やカトラリーがある中で、私がフォークを欲しているのが分かったのだろうと疑問を抱いた。

「…………」

それにしても近くで見れば見るほど、彼の瞳はいつも鏡で見る自分の瞳の色とそっくりだ。そのせいか、妙に親近感を抱いてしまう。

「…………」

「先輩? どうかしました?」

至近距離で顔を覗き込まれ、はっとする。いきなりじろじろ顔を見られるなんて、不愉快だっただろう。

「ごめんなさい、瞳の色が私とすごく似てるなって」

「──はっ」

美少年は一瞬、呆れたような笑い方をしたけれど、やがて眩しい笑みを浮かべた。

「名前、なんていうんですか?」

「レーネです。レーネ・ウェインライト」

「レーネ先輩か。よろしくお願いしますね」

それだけ言い、美少年は去っていく。「レーネ先輩」という響きには正直、胸が弾んだ。

彼の耳元ではたくさんのピアスが光っており、少しやんちゃ系なのかもしれない、なんて感想を抱く。何より恐ろしくモテそうだ。

「……あ、名前聞くの忘れてた」

小さくなっていく彼の背中を見つめていると、胸の奥がぎゅっと締め付けられる感覚がする。

一体何故だろうと不思議に思いながら、私は友人達が待つテーブルへと急ぎ戻った。

◇◇◇

「──そうそう、合ってるわ」

「なるほど! ありがとう、テレーゼ」

放課後、私は吉田とヴィリー、テレーゼと共に新しい教室に残り机を四つくっつけて勉強会をしていた。

みんな同じクラスになったことで図書室に行かずとも良くなり、とても便利だ。

放課後まで勉強する必要がないテレーゼや文句を言っていた吉田もなんだかんだ残ってくれて、勉強を教えてくれている。二人には本当に感謝してもしきれない。

「そろそろ休憩しない? 私、飲み物買ってくるね」

「俺も手伝うか?」

「ううん、大丈夫! ありがとう、ヴィリー」

これからたくさん恩返しをしていきたいと思いつつ、ひとまずみんなの分の飲み物を買ってこようと、財布を片手に教室を出る。

人気のない廊下を歩きながら窓越しに中央広場にある時計へ目を向けると、既に午後四時を回っていた。

遅くなるかもしれないからと、ユリウスには先に帰るようお願いしてある。

最初は難色を示していたものの、吉田が一緒だと知ってからは「気をつけてね」と言ってくれた。吉田への信頼が厚すぎる。

「あれ、レーネ先輩だ」

カフェテリアの少し手前で声をかけられ、振り返った先には、昼休みぶりのピンク髪の美少年の姿があった。

今日一日で彼を見かけるのは三回目で、ものすごい遭遇率だと内心驚く。

後輩に慕われる先輩、というポジションに憧れていたため、こうして声をかけてもらえるのは嬉しい。

けれど、これほどのキラキラ美少年がなぜ私に関わろうとしてくれるのか、不思議で仕方ない。

ハイスペ美少年は足を止めた私の側へやって来ると、こてんと首を傾げた。

「こんな時間まで何をしていたんですか?」

「その、勉強をしておりまして……」

美少年の胸元で輝くSランクブローチが眩しくて、己のDランクブローチを隠したくなる。

案の定、彼は私のブローチへ視線を向けると「なるほど」と呟いた。早速先輩としての矜持を失いつつあり、心の中で涙を流す。

「そう言えば名前、なんていうの?」

すると彼は私と同じ桃色の目を見開き、やがて自嘲するような笑みを浮かべた。

「本当に分かんないんだ? 俺は一目で分かったのに」

「えっ?」

呆れや怒りを含んだ眼差しを向けられ、まるで私が彼を知っているような口ぶりにも困惑してしまう。

もしかすると気さくに私に声をかけて来るのは、元々のレーネの知り合いだからなのでは、と気付く。

だからこそ、私が忘れてしまっていることに対して、彼は怒っているのかもしれない。

ここは正直に言うしかないと、再び口を開く。

「すみません私、記憶喪失でして……去年の5月より前の記憶がないんです」

「は?」

そう告げた途端、きつく腕を掴まれたかと思うと、視界がブレた。背中に痛みを感じ、思わず目を閉じる。

「……ふざけんなよ」

壁に押し付けられたらしく、恐る恐る目を開ければ、すぐ目の前に整いすぎた顔があって息を呑む。

苛立ちを隠しきれておらず、そこにはもう先程までの可愛らしい後輩の姿はなかった。

「何だよそれ、お前は綺麗さっぱり全部忘れたって? ははっ、俺だけバカみてえじゃん」

「……ご、ごめんなさい」

私のせいではないけれど、申し訳なさで胸が痛んだ。

これほど怒るくらいなのだから、彼にとってレーネが大きな存在だったことが窺える。

「どうしたら思い出すんだ? なあ?」

「痛……っ」

掴まれていた腕を壁に押し付けられ、より彼の手に力がこもった。抵抗しても、びくともしない。

この状況は非常に良くないと思いながらも、レーネにとっての彼は、彼にとってのレーネはどんな存在なのか気になってしまう。

そんな私の心のうちを見透かしたように笑うと、彼は再び口を開いた。

「──俺はルカーシュ・アストン。お前の弟だよ」