作品タイトル不明
ドキドキ新学期 1
私がマイラブリン──未だに正式タイトルが謎の乙女ゲームのヒロインに転生して、もうすぐ1年が経つ。
二度目の春を迎えた私は胸を高鳴らせながら、ユリウスと共にハートフル学園の敷地内へ足を踏み入れた。
「もう暖かいね。私、春が一番好きなんだ。暖かさもちょうどいいし、虫もあんまりいないし」
「リアルな理由だね」
当たり前のように私の手を握って歩くユリウスは「俺は冬が一番好きかな」と呟く。
「どうして? ユリウスは寒いのが苦手なのに」
「前までは嫌いだったけど、寒いのを理由にすればレーネは俺がくっついても許してくれるから」
「…………」
爽やかな笑顔でそんなことを堂々と言ってのけるユリウスは、本当にずるいと思う。
そしてあざとい心のうちを聞いてなお、私が次の冬も同じように許してしまうのも、容易に想像がついた。
流石クソゲー、世界観が適当なお蔭で敷地内では美しい桜が満開を迎えており、新学期という感じがする。
「わあ、見て! 新入生がたくさん!」
「本当だ」
学年ごとに制服の違いはないものの、なんとなく新入生と在校生の違いはパッと見で分かってしまう。
緊張した面持ちがかわいいなあと、思わず頬が緩む。一方のユリウスは全く興味がなさそうだ。
新入生から見れば、こんな私も先輩らしく見えているのだろうか。そう思うと、つい背筋が伸びてしまう。
ちょっと大人っぽさを演出しようと、無駄に髪をふわっと手で後ろに流したりしてみる。
すると私の魂胆が丸分かりだったのか、ユリウスに「先輩っぽいね」と笑われてしまった。恥ずかしい。
「ねえねえ、あの先輩すっごく格好良くない?」
「うわ、本当だ。三年生かなあ」
「しかもSランクとか、完璧じゃん」
そんな中、すれ違う新入生らしき女の子達はユリウスを見ては頬を赤く染め、ひそひそと話をしている。
私も初めてユリウスを見た時の感動は今でも忘れられないし、気持ちはよく分かる。こんなにも綺麗な人間が存在するのかと、驚き見惚れてしまった。
しかも今はあの頃よりもさらに背は伸び、色気なんかも増した気がする。
きっとこれからもユリウスは多くの女性を魅了していくのだろうと思うと、胸のあたりがちくりとした。
「レーネ? どうかした?」
繋がれていた手をついぎゅっと握れば、ユリウスは不思議そうに私の顔を覗き込む。
──ずっと私を好きでいると言ってくれているユリウスの言葉を、疑っているわけではない。
それでも、その言葉に甘えて慢心してはならない。人の気持ちに「絶対」などないのだから。
やはり必ずや次の試験でCランクになって、ユリウスに告白しなければ。改めて気合を入れると、私は何でもないよと笑顔を向けた。
「きゃあ、今こっち見たわよね?」
「見た見た! すっごい美形!」
玄関に着くとまたもや騒がしい一角があり、なんだろうと何気なく視線を向ける。
すると一人の男子生徒の鮮やかな桜色の髪が、視界に飛び込んできた。
「うわあ……」
彼の珍しい髪色よりも、信じられないくらい整った美しい顔立ちに感嘆の声が漏れる。
普段から超絶美形に囲まれている私でも、思わず見惚れてしまうほどの美少年だった。
これほど目立つ容姿であれば一度見たら忘れないだろうし、きっと彼も新入生なのだろう。
去年の私なら、あのレベルの美形を見れば攻略対象かもしれないと戸惑っていたに違いない。けれど既にアンナさんから情報を得ている私は、落ち着き払っていた。
彼は間違いなくゲームや私とは無関係の、ただの顔が良い一般人だろう。野良イケメンだ。
「──えっ?」
そうして勝手に安心していると不意に、彼の桃色の瞳と視線が絡む。私達の間には結構な距離があるのに、何故か彼は私を見ているような気がした。
美少年は私から目を逸らさないまま、ふわりと微笑んでみせる。その瞬間、彼の周りにいた女子生徒達から、きゃあと一際大きな叫び声が上がった。
もちろんあんな美形の知り合いはいないし、流石に私の勘違いだろう。そう思うのと同時に首に腕と腰に腕を回され、後ろから抱き寄せられた。
「新学期早々、まーた違う男に目をつけたんだ?」
「完全な誤解です」
「あんな子供より俺の方がいいよ、絶対」
ユリウスに耳元で低い声で囁かれ、冷や汗と心臓のどきどきが止まらなくなる。好きだと自覚してからは、以前よりも胸が高鳴るようになってしまって困っていた。
誤解といえど私は「大変申し訳ありませんでした」と全力謝罪をし、ユリウスの腕の中からさっと抜け出す。
在校生の間ではシスコンブラコン兄妹として認知されつつあるものの、新入生が大勢いる玄関でこんな風に触れ合うのは恥ずかしい。
不機嫌な顔をしたユリウスにそう説明すれば「見せつけてるんだけど」と訳の分からない返事をされた。
「二年生は二階ホールに行くんだよ」
「はっ、そうだった! ありがとう!」
うっかり以前と同じ教室に向かいそうになり、ユリウスの声でハッと我に返る。毎年、二階ホールでクラス分けがされるらしい。
この先の二年間──卒業まで過ごすクラスが既に決定しているのだと思うと、緊張してくる。
仲の良い友人達と一緒だといいなと祈りながら、私はユリウスと別れ、二階ホールへと向かった。