作品タイトル不明
16歳の誕生日 1
冬休みの宿題や勉強に励む傍ら、狩猟大会メンバーと打ち上げに行ったり、ユリウスと二人で出かけたり、一年生メンバーとクリスマスっぽいパーティーをしたり。
毎日が充実し楽しんでいるうちに、冬休みもあっという間に後半に差しかかった、そんなある日。
「レーネ、今年の誕生日はどうしたい?」
「えっ?」
夕食の席で父にそう尋ねられ、食事する手を止める。一瞬、何のことか分からなかったものの、そう言えば来週はレーネの16歳の誕生日だったことを思い出す。
父もレーネがこれまで一度も誕生日パーティーしておらず、今年もだろうと思っているから、こんなギリギリのタイミングで形だけの確認をしてきたのだろう。
貴族を招いての催しというのは、本来はもっとずっと前から準備が必要なものだからだ。
もちろん私も全くそんな気はないため、ありがたい。
「何もしていただかなくて大丈夫です」
「では例年通り、食事会だけしよう」
ユリウスからも毎年、家族で夕食をとるだけだと聞いていたし、私は頷こうとしたのだけれど。
「いえ、当日、レーネは俺と出かける予定なので」
突然ユリウスがそんなことを言い出し、私は再び「えっ」と戸惑いの声を漏らしてしまう。思い切り初耳だ。
とは言え、この家族と過ごすよりもユリウスと過ごしたい私は、適当に話を合わせることにした。
「そ、そうなんです! なので、本当に何もしていただかなくて大丈夫です。お気遣いなく」
「そうか」
父は全く興味がないらしく、それだけ言うと食事を再開した。一方、ジェニーからはきつく睨まれており、理不尽すぎると思いながら、私はステーキを口へ運んだ。
夕食の後、呼び出されて部屋へ行くと、ユリウスはすぐに食後のお茶を用意してくれる。
そしてソファに並んで座ると、すぐに謝られた。
「さっきは突然ごめんね」
「ううん。本当に当日、一緒に出掛けてくれるの?」
「もちろん」
ユリウスは即答してくれて、嬉しくなる。前世では毎年孤独なセルフお祝いバースデーを家でしていたため、誰かと過ごすなんて子供の頃以来だった。
どこに出掛けるのかと尋ねたところ、街中のレストランに食事に行く予定らしい。私の服装についても全身用意しておくから、何の準備もせずにいればいいそうだ。
至れり尽くせりで、ありがたい。
「そう言えば、欲しいものとかあったりする?」
「ううん、特に何もないよ」
「そっか。こういう時くらい、とんでもないワガママ言ってくれてもいいのに」
私は元々物欲がある方ではないし、この世界に来てからは勝手に大体のものが揃っているため、なかなか欲しいものというのが見つからない。
元の世界では、好きな作品のグッズやゲームといった細々としたものだったら、いくらでも思いつくのに。
何よりユリウスには誕生日など関係なく、日頃からプレゼントをもらったり色々と買ってもらったりしているから余計だった。
「あ、もう結婚できるようになるね。する?」
「しません」
この世界では、男女共に16歳から結婚ができるらしい。ユリウスの冗談を軽くスルーしつつ、いつも取り寄せてくれる私の大好きな紅茶に口をつける。
「とにかく当日、寝坊だけはしないでね」
「了解です! よろしくお願いします!」
「楽しみにしてるよ」
誕生日が楽しみなんて、いつぶりだろう。それからは仲良く指切りをして、来週の誕生日に胸を弾ませた。
◇◇◇
そして迎えた当日。メイドのローザに起こされ、欠伸を繰り返しながらゆっくりと身体を起こす。
「レーネお嬢様、おはようございます」
「ふわあ……おはよう」
昨晩早くにベッドに入ったものの、お子様な私は今日が楽しみでそわそわして、なかなか寝付けなかった。
すぐにローザが身支度を整えてくれ、いつものように食堂へ朝食をとりに行こうとしたところ、何故か「お待ちください」と引き止められる。
一体どうしたのだろうと思っていると、室内にノック音が響いた。
「おはよう、レーネちゃん。誕生日おめでとう」
やがて中へ入ってきたのはユリウスで、よしよしと頭を撫でられる。こうしてお祝いの言葉を言われるだけで嬉しくて、なんだか照れてしまう。
「あ、ありがとう……! でも、どうしたの?」
「今日はここで二人で朝食をとろうと思って。こんな日くらい、あいつらの顔を見ないで食べたいし」
悪戯っぽく笑うユリウスの後ろには、食事を運んできたらしい使用人達の姿がある。小さく吹き出してしまった私は「うん!」と頷く。
あっという間にテーブルの上に並べられた朝食は私の好きなものばかりで、ユリウスが指定してくれたのだと思うと、またくすぐったい気持ちになった。
「レーネちゃん、なんだかご機嫌だね」
「うん、なんかもうすっごく楽しい!」
「かわいい。でも、今日はまだこれからだよ」
そんな私を見て、ユリウスもにこにこ微笑んでいる。二人きりでの朝食は楽しくて平和で、できるなら毎日こうして過ごしたいなと思っていたところ、ユリウスが全く同じことを口に出すものだから、笑ってしまった。
やがて朝食を終えると、使用人達が今度は可愛らしくラッピングされた大小の箱をいくつも運んできた。
箱をぐるりと囲む金色のリボンには見覚えがあり、確か王都で一番のデザイナーの店のものだ。
ジェニーが父に必死におねだりし、買ってもらったと自慢されたことがある。それくらいレアなのだろう。
「こ、これはもしや、誕生日プレゼントですか……?」
「今日レーネに着てもらいたいドレスだよ。一応これもプレゼントに入るのかな」
「これ も(・) ……?」
首を傾げる私に柔らかく微笑むと、ユリウスは「準備が終わった頃にまた来るよ」と、部屋を出て行く。
「ではお嬢様、お着替えしましょうか」
「う、うん」
ドキドキしながらプレゼントと向かい合った私は、まず一番大きな箱を開けることにした。