軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

TKG 1

散々泣いた翌朝、私はそれはもう清々しい気持ちで起床した。あんなにも泣いたのに鏡を覗いたところ目は腫れておらず、ばっちり美少女でほっとする。

改めて昨日のことを思い出すと、胸が温かくなった。

「私って、幸せ者だなあ」

全力で一緒に楽しみ、時には共に頑張ってくれて、悲しい時には支えてくれる大切な家族や友人達がいる。

それがどれほど幸せでありがたいことなのかを、私はよく知っていた。いつだって周りへの感謝の気持ちを忘れず、隙あらば恩返ししていきたい。

「よし! 今日は昨日と違う風が吹いてる!」

軽く両頬を叩き、まずは私のせいで消滅してしまったランク試験お疲れ様会を最高の形で開催しなければと決意しながら、自分で軽く身支度をする。

「…………?」

そんな中、私は先程から何かに対してもやもやとした引っ掛かりを覚えていた。一体どこに引っかかったのだろうと首を傾げながら、櫛で髪を梳く。

結局答えは出ずすっきりしないまま、自室を出て食堂へと向かう。お礼を伝えようとユリウスの部屋に寄ったものの、既に朝食をとりに向かったようで留守だった。

後でにしようと長い廊下を歩いていき、角を曲がったところで、見慣れた銀髪を見つけた。

「あ、おは──」

すぐに声を掛けて駆け寄ろうとした私は、慌てて口を噤む。ユリウスの奥にはジェニーの姿があったからだ。

「結局、お姉様はあの程度なんです。何の才能もありません。Fランクを脱した程度で調子に乗って……」

早速聞こえてきたのは私の悪口で、朝からジェニーは絶好調だった。小馬鹿にするように私の話をしており、Dランクのままだったことで相当気分が良いらしい。

ジェニーはAランクをキープしていて、昨日の夕食でも鼻高々だった。父はジェニーとユリウスを褒め私はスルー定期で、鮮やかな手のひら返しに感動すらした。

「……それで、何が言いたいの?」

「ですからこの先、いくら努力をしたってお姉様のような人間はどうにもならな──」

次の瞬間、ジェニーの声と被るようにドンッという鈍い大きな音が響き、驚いて顔を上げる。

なんとユリウスが壁に思い切り拳を叩きつけており、ジェニーは言葉を失っていた。

こちらから表情の見えないユリウスはそのままジェニーに近づくと、耳元に顔を寄せる。

「それ、レーネの前で言ったら、お前のこと──から」

「…………っ」

聞いたことのないようなユリウスの低い冷たい声に、私までびくりとしてしまう。後半は聞き取れなかったものの、物騒な発言であろうことだけは分かる。

もちろんジェニーも心底怯えており、今にも泣き出しそうな顔をすると、背を向けて走り去っていった。

ユリウスは昨日散々大泣きした私が傷付かないよう、釘を刺してくれたのだろう。

「……び、びっくりした」

それにしてもユリウスがあんなに怒っているところなんて、初めて見た気がする。これまで壁ドンは何度もされてきたものの、このタイプは初めてだ。

このままユリウスと顔を合わせるのはなんとなく気まずくて、別ルートに方向転換しようとしたところ、背中越しに声をかけられた。

「おはよ、レーネちゃん」

「お、おはようございます! 昨日は大変ご迷惑をおかけいたしました、ありがとうございました!」

「どういたしまして。気分はどう?」

「お蔭様でしっかりがっちり立ち直りました」

「そっか」

それなら良かった、と柔らかく笑うユリウスは先ほどとはまるで別人で、色々な意味でドキドキしてしまう。

「…………」

「…………」

結局、そのまま二人で並んで歩きながら食堂へと向かっていたところ、ユリウスはくすりと笑った。

「さっきの聞こえてたんだ? ああいう俺、嫌い?」

「いえ、なんというか、かなりクールな感じでしたね」

「あはは。でも俺、元々あんな感じだから」

そう言えば先日、ユリウスの告白現場を目撃した際、アーノルドさんもそんなことを言っていた記憶がある。

やはり私はまだユリウス・ウェインライトという人について、知らないことばかりだと実感した。

「俺、午前中は少し出かけてくるね。昼頃には帰ってくるから屋敷で良い子に待ってて」

「そうなんだ。気をつけてね」

鉄は熱いうちに打てと言うし、ユリウスがいない午前中は筆記試験で間違えた部分の復習をしようと決める。

そして廊下を歩きながらじっとユリウスの横顔を見つめていた私は、不意に「あ!」と声を上げた。

「びっくりした。どうかした?」

「う、ううん! なんでもない!」

「本当にレーネは嘘が下手だね」

突然、大声を上げた私を、ユリウスは怪訝そうな目で見ている。何でもないと誤魔化しながら、私は少しだけ鼓動が早くなった心臓のあたりをぎゅっと押さえた。

そう、先ほど自室で考えごとをしていた時に感じた引っかかりの正体に、気がついてしまったのだ。

──私はユリウスを「家族」と考えたことに、違和感を覚えていたのだと。

◇◇◇

そして昼過ぎ。外出先から帰宅し、私の部屋へとやってきたユリウスは思い切り眉を顰めた。

「は? なんでお前がいんの?」

「もちろん、かわいいレーネに会いに来たのよ」

現在、私の部屋ではミレーヌ様がくつろいでいる。

普通に約束をしてもユリウスが絶対に妨害するだろうからと、サプライズで遊びにきてくださったそうだ。

私服のミレーヌ様は今日も美しく、耳元や首元では一体いくらするのか考えるだけで目眩がするような、大きな宝石達が輝いていた。

一目見ただけで最高級品だと分かる紫のドレスを身に纏い、絹のようなまっすぐな金髪を靡かせたミレーヌ様がいるだけで、地味な私の部屋が華やかになる。

「狩猟大会にも一緒に出るんだし、もっと仲良くなりたいの。本当、このまま連れ帰って妹にしたいわ」

「無理」

即答するユリウスに対してミレーヌ様はにっこりと微笑み、優雅な手つきでティーカップに口をつけた。

ミレーヌ様は気さくで、楽しくお茶をさせてもらっている。お土産のケーキも信じられないほど美味しい。

ユリウスは溜め息を吐くと、私達の間の椅子に腰を下ろした。その手には、大きな袋がある。

「その大荷物、何?」

「レーネの弓だよ。この間オーダーしてきた」

「もうできたの!?」

魔道具店のおじさんはやけにやる気を見せてくれていたけれど、こんなにも早く完成するとは思わなかった。