軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

告白の意図

準備期間からずっと楽しかったハートフル学園祭も、あっという間に終わってしまった。

そして先ほどユリウスと帰宅した私は、自室のベッドに倒れ込み枕を抱きしめ、現在のたうち回っている。

「う、うわあああ……えっ……うわあああ……」

何を隠そう、私は前世と今世を合わせても、異性に告白されたのなんて初めてだったのだ。

それも相手は義兄であり、あの何でも持っているハイスペックな完璧人間であるユリウス・ウェインライトだなんて、落ち着けるはずがなかった。

先ほどのユリウスの真剣な表情が頭から離れず、恥ずかしくて落ち着かなくて、むずむずする。

『好きだよ』

『うん、言葉にするとしっくりきた。すごく好きだ』

『好きだよ、レーネ』

何よりまっすぐな言葉や熱を含んだ眼差しから、本当に私を好いてくれているのだと思い知らされていた。

「えっ……えええ……!?」

改めて思い返しても、驚いてしまう。確かに思い当たることは色々とあったけれど、てっきり家族としての独占欲が爆発しているシスコンだと思い込んでいた。

むしろ私がユリウスを好きになってしまっては、避けられるかもしれない、くらいに思っていたのだ。とんでもない勘違いすぎる。

未だに心臓が早鐘を打っており、顔が熱い。

この先、どうしたら良いのだろう。つい先日、告白は交際の申し込みだけではないと知ったため、ユリウスにどう返事をすれば良いのか分からなかった。

そして、自分の気持ちも。

ちなみにあの後は呆然とする私に、ユリウスは「突然ごめんね」なんて言って笑い、それ以降はお互いに無言のままだった。

「レーネ? 起きてる?」

「ひっ!」

ごろごろとベッドの上を転がっていると、ノック音と同時にユリウスその人の声がして、悲鳴が漏れる。

「お、起きておりますが……」

「良かった。入ってもいい?」

「ド、ドウゾ……」

そう答えるとすぐにドアが開き、ラフな格好のユリウスが部屋の中へと入ってきた。

今日の正装とはまた違った眩しさで、思わず目を細めつつ、枕を抱きしめたまま身体を起こす。

「レーネちゃん」

ユリウスは側まで来ると、ベッドに腰を下ろした。

「制服のままだったんだ。着替えないと皺になるよ」

「おっしゃる通りで……」

「俺のことばっか考えて、それどころじゃなかった?」

そして悪戯っぽい笑みを浮かべ、ユリウスはそんなことを言ってのける。

その余裕っぷりがなんだか悔しくて、まさにそうだと責める気持ちを込めて頷けば、予想外だったのか切れ長の目を見開き、口元を手で覆った。

「……ねえ、かわいくて困るんだけど」

こちらもそんな予想外の反応をされては、大変困る。

この甘い空気に耐えきれず、私は「ワ、ワハハ」と訳の分からない乾いた笑いを発した。辛い。

「そ、そそれで、どどどどうされたんですか?」

「吃りすぎじゃない?」

ユリウスはくすりと笑うと、私から枕を取り上げる。

「抱きしめるなら俺にしてよ」

「どうしてそんなことを真顔で言えるの?」

「俺だから?」

いつだってユリウスは堂々としていて強気で俺様で、自信満々で、完璧な人だった。

『……記憶が戻って拒絶された時、目の前が真っ暗になったよ。自分の気持ちがようやく分かった気がした』

けれどあの時だけはひどく不安げで、ただの17歳の男の子に見えた。だからこそ、あの告白に対し「冗談なんてやめてよ」なんて言えるはずがなかった。

「さっきは俺もいっぱいいっぱいで言いたいこと全部言えなかったから、話をしにきたんだ」

「すごい、こんなにいっぱいいっぱいって言葉が似合わない人がいるんだ」

「俺のこと、何だと思ってる?」

枕を奪われて手持ち無沙汰になった私の手を、ユリウスはきゅっと握ると、余裕たっぷりに微笑んだ。

いっぱいいっぱいだったという彼は、一体どこへ行ってしまったのだろう。

「まず、さっきの告白は本気だから」

「…………っ」

そしていきなりストレートすぎる言葉で殴られ、私の心臓は大きな悲鳴を上げている。

言葉を失う私に、笑顔のままユリウスは続けた。

「俺の一世一代の告白だよ」

「そ、それはまだ、分からないのでは……」

「分かる。俺は一生、レーネ以外を好きにならない」

はっきりと断言されて、少しだけ泣きたくなる。

──家族を失い孤独だった私はきっと、私をずっと好きでいてくれる人の存在に憧れていたんだと思う。

「元々、誰かを好きになるつもりなんてなかったし。レーネだけが特別で、大切なんだ」

こんなまっすぐな愛の言葉に、心を動かされない人がいるだろうか。私は大量の血を吐きそうになりながら、ユリウスの手を小さく握り返す。

「あれ、いつもみたいに兄妹なのにおかしいとかシスコンがなんとかって言わないんだ?」

「血が繋がってないの、知ってたので……」

「は? 本当に言ってる?」

もう黙っている必要はないだろう。ユリウスだって、それを話すつもりで私に好きだと告げたはず。

もしかすると、今ここに来たのもそれを伝えるためだったのかもしれない。

「それ、いつ知ったの?」

「エレパレスで、セシルに聞きまして」

「あー、あの辺りから様子が変だったもんね」

嘘は言っていない。流石にアンナさんから聞いたとは言えないし、セシルから「血が繋がっていない」と聞かされたのも事実だった。

「なんで今まで黙ってたわけ」

「その、ユリウスは恋愛感情を持たずに自分を慕ってくれる『妹の私』が好きなんだろうと思っており……」

「流石だね、すごい勘違いしてくれるじゃん」

ユリウスは可笑しそうに笑い、何故か感心したように誉められたものの、全く嬉しくはない。

「逆にユリウスは、どうして今まで黙ってたの?」

「レーネは家族に 拘(こだわ) ってるみたいだったから、兄妹ごっこをしてあげようと思って」

「……え」

「でも、もうお兄ちゃんの顔をするのに限界がきた」

そして、ようやく理解した。

『なんだか兄妹みたいだね』

『……私ね、こういう家族にずっと憧れてた気がする』

何もかも、私のためだったのだ。私が家族の存在に浮かれていたから、言い出せなかったのだろう。

同時に優しい兄を演じてくれていたユリウスは、私が思っていたよりもずっとずっと優しい人なのだと知り、胸が締め付けられた。

「とにかく俺はお前と血は繋がってないし、妹だと思ったことは一度もないよ」

過去にも、同じセリフを言われたことがある。当時は私が不出来すぎるが故だと思っていたけれど、本当に血が繋がっていないからこその言葉だったのだろう。

「これで俺達の間に障害はなくなったね」

「そ、そうなんですかね……」

更に距離を詰めてくるユリウスから逃げるように後ずさると、余計に追い詰められてしまう。

じりじりと後退する中、私は一番気になっていたことを尋ねてみることにした。

「それで、告白はどういう意図で……?」

「意図って?」

「その、私とどうしたいとか……つ、付き合うとか」

こんなことを口に出すのは予想上に恥ずかしく、だんだんと声が小さくなってしまう。

けれどユリウスは「ああ」と納得したように呟くと、にっこりと微笑んだ。

「結婚しよう?」

信じられない言葉に、私は再び言葉を失ってしまう。

「え? けっこ……えっ? 本気で?」

「うん。元々は卒業後にレーネと籍だけ入れて、あいつらを追い出した後はお互い好きに生きていく感じにしようと思ってたんだけど、もう手放してあげられないし」

「?????」

「俺はレーネの全部が欲しい。一生分」

「だから、ちゃんと俺を意識して、好きになってね」

そのために告白したのだというユリウスに愛おしげに見つめられ、するりと頬を撫でられる。

「これからは俺、本気出すから」

交際の申し込みだなんて可愛らしいものではなく、まさかのまさかで人生を賭けた重い告白だったらしい。

何もかもが予想を超え、全てのキャパを超えてしまった私はもう、小さく頷くことしかできなかった。