軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夜空に咲いた恋心

二日間の自由時間が終わり、後夜祭の時刻となった。

校庭での表彰式を終えた私は、ユリウスと共に東塔の最上階にある空き教室へとやってきていた。

バルコニーに並んで立ち、すっかり夜の色に染まった空を二人で見上げる。こんな時間まで学園にいることは滅多にないから、なんだか新鮮だった。

「それにしても、余裕の優勝だったね。おめでとう」

「ありがとう! みんなに何かお礼をしたいな」

「いらないんじゃない? あいつらも楽しんでたし」

予想通りたった1日の営業にもかかわらず、私達の出店は見事優勝を果たした。

過去に類を見ない売り上げだったらしく、集計する際には騒然となったらしい。その上、お客さんへのアンケートでの満足度も1番だったとか。

元々はランク試験の加点を狙った参加だったけど、今となってはそれがどうでも良くなるくらい楽しかった。

私だけでなく、全員が優勝をとても喜んでくれて本当に本当によかった。

「それにあの絵、すごく良い出来だったし」

「でしょ? 前からお願いしたいなと思ってたんだ」

──後夜祭の前に私はみんなにお願いをして、全員が集合した絵を描いてもらった。

この世界には写真がないため、学祭期間は美術部が有料で絵を描いてくれるという企画をやっていたのだ。

そして私は前々から廊下に飾られた絵が素敵で気になっていた子を指名し、描いてもらった。本当に全員がいい笑顔をした素敵な絵で、最高の思い出になった。

「帰ったらすぐ額に入れて部屋に飾らなきゃ。どこがいいかな、机の近くとかベッドの近くもいいなあ」

描いてもらった絵の複製は魔法でできるらしく、みんなも持ち帰っていて、また嬉しくなった。きっとこの絵を見るたび、私は幸せな気持ちになるのだろう。

「学園祭、楽しかったなあ。すっごく楽しかった」

「……うん。俺も楽しかった」

「そっか! よかった!」

準備から今まで、ずっとずっと楽しかった。最初から最後まで笑ってばかりで、私は周りの人達に恵まれていると改めて実感したイベントだった。

「なんというか、学生気分を味わえたなって」

「変なの、思いっきり学生なのに」

小さく笑ったユリウスはやがて、空を見上げた。

「ここ、花火がよく見えるんだ。去年、女の子達から逃げてきた時に偶然知ったんだよね」

去年の後夜祭では女子生徒からの誘いが絶えず、姿を隠していた時にこの場所を見つけたらしい。

「一年後はレーネと花火を見てるよって言っても、去年の俺は絶対に信じないだろうな」

「半年前の私ですら信じないと思う」

「あはは、そうだね」

レーネとして目が覚めたばかりの頃は、ユリウスが何を考えているのか分からなくて、性格や意地の悪い人間だと思っていたのだ。

「ユリウス、変わったよね」

「そうだね。自分でもそう思うよ」

話をしているうちに、不意に大きな音がして視線を上げる。学園祭のラストである花火が始まったらしい。

「わあ、綺麗……! 本当にここ、よく見えるね!」

空には大輪の花火が次々と打ち上がり、その美しさに感嘆のため息が漏れる。思い返せば、こうして花火を見るのも子供の頃以来かもしれない。

それからはお互い無言のまま、花火を見つめ続けた。たった一瞬の儚い美しさに、目を奪われてしまう。

「……え」

そんな中、右手が温かい手のひらに包まれ、私は隣に立つユリウスへと視線を移す。すると美しい二つの碧眼と目が合って、私は思わず息を呑んだ。

その表情はいつになく真剣なもので、同時にふとユッテちゃんの言葉を思い出す。

『レーネちゃん、知らないの!? 後夜祭の花火を手を繋ぎながら一緒に見ると、結ばれるって話!』

ジンクスを信じるなんてユリウスらしくない、といつものように笑おうと思っても、言葉が出てこない。

戸惑う私の手を握ったまま、ユリウスは柔らかく目を細め、再び夜空を見上げる。

「俺さ、レーネといると楽しいんだ」

その整いすぎた横顔を見つめながら、黙って次の言葉を待つ。不思議と心臓が、少しずつ早鐘を打っていく。

「……俺はずっと何かを楽しむことで、復讐への気持ちが薄れてしまう気がして、裏切りになると思ってた」

私はユリウスが抱える事情や「復讐」について何も知らない。けれどきっと、そんな風に考えて生きていくのはとても苦しくて悲しくて、辛いことに違いなかった。

「でも、何でも全力で楽しもうとするレーネといると、そんな考えが馬鹿らしくなってくるんだよね」

「…………」

「眩しいレーネのお蔭で、俺の世界まで明るくなる」

ユリウスはそう言って、困ったように微笑む。ユリウスがそんな風に感じてくれていたと知り、嬉しくて切なくて、胸がぎゅっと締め付けられる。

そんな気持ちを込めて大きな手を握り返せば、ユリウスの瞳が揺れた気がした。

「……記憶が戻って拒絶された時、目の前が真っ暗になったよ。自分の気持ちがようやく分かった気がした」

熱を帯びた眼差しを向けられ、心臓が大きく跳ねる。繋いでいない方の手が、そっと私の頰に触れた。

まるで宝物に触れるみたいに優しいその手つきに、何故か少しだけ泣きたくなる。

「好きだよ」

やがて耳に届いたのは、今までに聞いたことがないくらい、ひどく優しくて甘くて、切なげな声だった。

いくら鈍感だと言われる私でも、この「好き」が家族愛でも友愛でもないということは分かってしまう。

頭の中が真っ白になり、息をすることも忘れ、色とりどりの光に染まる瞳から目を逸らせなくなる。

「うん、言葉にするとしっくりきた。すごく好きだ」

「………っ」

胸の中に様々な感情が溢れて、ぐちゃぐちゃになる。

『私は本当に、お兄様のことが好きなんです……!』

『悪いけど、俺はそういうのよく分からないんだよね』

だって私はずっとユリウスは恋愛感情というものが分からず、それに対して嫌悪していると思っていたのだ。

けれど、まっすぐに好きだと告げられた瞬間、私がきっと一番に感じたのは「嬉しい」だった。

「好きだよ、レーネ」

夜空できらきらと輝き、降り注ぐ火の粉を被ったみたいに全身が熱い。花火の音が、どこか遠くに聞こえる。

私の知っている「兄」はもう、どこにもいなかった。