軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真実のかけら 5

「ユリウスが、ってどういうこと……?」

「お姉様が飛び降りた後、すぐにお兄様に『医者が来るまでの間、治療をしてほしい』とお願いされたんです。それでも自ら飛び降りたわけですし、お姉様もそんなことは望まないのでは? と言って断ったんですけれど」

流石ジェニー、血も涙もない回答だ。とは言え、自業自得と言えばそれきりだし間違ってはいない。

「頼むから助けてくれないか、とお兄様が頭を下げるものだから、仕方なく治療しただけです」

「……っ」

「あんなにも取り乱しているお兄様、初めて見たわ。本当に人騒がせで腹立たしい人ね」

ジェニーは私をきつく睨むと、大きな音を立てて追い出すようにドアを閉めた。

私はしばらくその場に立ち尽くしていたものの、やがて自室へと戻りベッドへと倒れ込んだ。

「そんなこと、一言も言ってなかったのに」

私のためにジェニーに頭を下げたユリウスのことを思うと、胸の奥が痛くて、苦しくなる。身体の奥底から込み上げてくるこの感情が何なのか、私には分からない。

「……ずるい」

ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめ、無意識にそう呟く。

──ひとつだけ分かるのは、さっき別れたばかりだというのにもうユリウスに会いたい、ということだけ。

それから自然と眠りにつくまで、胸が締め付けられるような感覚も早くなる鼓動も、収まることはなかった。

◇◇◇

翌朝、学園祭当日。体調に問題のなかった私はばっちりと身支度を整え、ユリウスと共に登校している。

『ねえユリウス、色々とありがとう』

『何が? 俺は何もしてないのに』

ちなみに昨晩、一緒に夕食を食べながらそれとなくお礼を言ってみたものの、そんな返事が返ってくるだけ。

私もそれ以上は何も言わず、今後しっかり恩返しすることを誓った。本当に兄には助けられてばかりだ。

朝食は両親やジェニーと一緒で、飛び降りたのは「頭を強く打ったことで気が動転していたせい」と適当な説明で誤魔化しておいた。三人からの冷ややかな視線は気にせずお腹いっぱいご飯を食べ、今に至る。

「それにしても、あまりにも元気で驚いたよ」

「私の数少ない取り柄だからね」

「レーネにはいいところ、たくさんあると思うけどな」

「あ、ありがとう! ユリウスもいっぱいあるよ!」

「そうだといいな」

色々と気になることはあるものの、今気にしたところでどうにもならないし、何かが分かるわけでもない。

くよくよせず怪我だけはしっかり気を付けて、いつも通り元気に全力で学園祭を楽しむつもりでいる。

「吉田、おはよう! いよいよ学祭だね!」

そして少し早めに登校した私は、吉田がやってくるなり思い切り飛び付いた。

「おい、大丈夫なのか?」

いつもならすぐ引き剥がされるのに今日はむしろ支えるような手つきで、そんな仕草や声音からは心配してくれていたことが伝わってくる。

あまりはしゃぐと後ろで見張っているユリウスに怒られるため、大人しく離れると吉田に向き直った。

「心配かけてごめんね。この通りすっかり元気だから」

「本当に何の問題もないのか? ……頭から大量の血を流している姿を見た時、寿命が縮まるかと思ったぞ」

「吉田……」

やはり心配するようなまなざしを向けてくる吉田に、申し訳なさは募っていく。

吉田は大きな溜め息を吐くと、メガネを押し上げた。

「お前は本当に目が離せないな」

「ごめんね吉田、一生側で見守ってて」

「うるさい、バカめ」

ようやく小さく笑ってくれて、ほっとする。それからは一人で出歩くな、人の側から離れるなと幼児のような注意を受けているうちに他のメンバーも登校してきた。

私の事故についてみんな知っていたらしく、かなり心配されてしまった。

「事故を起こした生徒は死罪でいいと思うな」

「わ、わざとじゃないし私も無事だから! ね?」

「だって、レーネちゃんに何かあったらと思うと……でも、本当に無事でいてくれて良かった」

特にラインハルトはそれはもう怒っていて、宥めるのに苦労をした。本気で闇討ちをしそうな勢いだ。

それほど心配してくれたことはもちろん嬉しいし、今後はもっと気を付けると約束してある。

事故を起こした生徒の家は我が家より家格が下だったらしく、昨晩ご両親と共に土下座の勢いで謝罪に来てくれたため、気にしないでほしいと伝えてあった。

それからは男女に分かれ、着替えをした。裏方の女子はお揃いの黒いワンピースで、ユッテちゃんが結んでくれた髪は可愛いゆる巻きツインテールになっている。

「すごくかわいいわ。指名したいくらい」

「ま、待って……テレーゼこそ格好良すぎて苦しい……休憩入ったら、絶対に指名するから!」

「ふふ、ありがとう」

テレーゼの男装姿があまりにもイケメンすぎて、本気で恋に落ちそうだった。超絶美人は何でも似合ってしまうのだと、思い知らされる。

テレーゼだけは一緒に買い物に行った後、カフェで軽く接客練習をしたけれど、間違いなく同性ファンが爆発的に増えると確信した神対応だった。

「ユリウス、着替え終わっ──うっ……眩し……!」

そろそろ男性陣の着替えも終わっただろうと、仕切られたカーテンの向こうを覗いてみる。

「うん、終わったよ」

そこにいたユリウスは白と金を基調とした華やかな正装を身に纏っていて、まさに絵本から飛び出した王子様のようだった。目が合うだけで、心臓が大きく跳ねる。

「う、うわあ……」

異次元の格好良さに、ついじっと見惚れてしまう。

神様に一体どれほど愛されたら、こんなにも美しく生まれてくることができるのだろうと本気で思った。