軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真実のかけら 1

ユリウスは一瞬、切れ長の目を驚いたように見開いたものの、やがて形の良い唇で孤を描いた。

「むしろその逆、ってどういう意味?」

「……そ、それは、そのですね」

「教えてよ」

先程までの悲しげな様子はどこへやら、ユリウスは余裕たっぷりの笑顔で私を見つめている。

この感じ、察しがついているのにとぼけて聞いている気がしてならない。そもそも傷付いたような表情や声色も、すべて演技だったのではと思えてきたくらいだ。

「な、何でもないです! 間違えました!」

「レーネに嘘つかれるの、悲しいな」

「うっ……」

逃げられそうにない状況とは言え、うっかり本音を話し、学祭直前に気まずくなるのは避けたい。とにかく今は黙秘を貫くことにする。

「ふうん? だんまりなんだ」

「…………」

「それにしても意外だったな。本気で避けられてるのか、そういう感じなのか半信半疑だったから」

「えっ?」

やはり私がユリウスを異性として意識していると、バレていたのかもしれない。けれど、それにしては嬉しそうな様子で内心戸惑ってしまう。

──もしかすると、私がユリウスのことをそういう風に見てしまっていても嫌ではないのだろうか。

「でも、正直安心した」

ほっとしたように笑う姿に、また心臓が跳ねる。そして不意に、ユリウスとの距離がさらに縮まった。

「俺の勘違いじゃないって、ちゃんと教えて」

「……っ」

「そうしたら、俺も──」

耳元でそう囁かれ、思わず正直に白状しそうになっていた時だった。

「うおっ、何だこれ! すげーな!」

「本当ね。教室だったとは思えないくらいだわ」

がらりとドアが開き、ユリウスの声に重なるようにヴィリーの元気な声とテレーゼの声が室内に響く。

「……あーあ、残念」

ユリウスはそう言うと、ぱっと私から離れた。ナイスタイミングで来てくれた二人に、心の底から感謝する。

このままでは、洗いざらい吐かされるところだった。

「続きは後夜祭の時に聞かせてもらおうかな」

「つ、続きとか大丈夫なので」

「ごめんね、俺が大丈夫じゃないんだ」

私の頭をぽんと撫で、ユリウスは立ち上がる。一番を取ると確信しているようで、流石の自信だ。

「さて、準備頑張りますか。あ、おはよう」

「おはようございまーす! うわ、先輩なんか今日は朝から一段とキラッキラしてますね」

「そう? いいことがあったからかな」

何より「そうしたら俺も──」の続きは、一体何を言おうとしていたのだろう。気になっては落ち着かない気持ちになりながら、準備を進めた。

「……よし、こんな感じかな?」

「すごく良い感じだね」

「うん! 二日限りなのがもったいないくらい」

全員が集まってくれたことで無事に1日で準備が終わり、学園祭前日である明日は自宅で休むこととなった。

「みなさんのお蔭で準備も終わりました。ありがとうございます。本番は優勝目指して頑張りましょう!」

改めてお礼を言えば、口々にありがとうと返してくれて笑顔がこぼれた。この出店がきっかけで、少しでもみんなにとって楽しい学園祭になれば嬉しい。

下校時刻も近づいており、後は当日の朝に最終確認をすることにして、今日はこれで解散となった。

「俺達、ちょっと教室に顔出してくる」

「分かった! 待ってるね」

「うん。なるべく早く戻ってくるよ」

ユリウス達は2年生の教室へと向かい、待っていることにした私は帰っていく一年生組を見送る。

一日中必死に準備をしていたことで、朝のドキドキも流石に落ち着いていた。

そしてふと、棚の上にある調理器具に気が付く。もう使わないものだし、返却しておいた方がいいだろう。

「あ、調理室にこれ返してくるね」

「手伝う」

「ありがとう、吉田!」

ちょうど帰ろうとしていた吉田は、私が持っていた8割くらいの量をさっと持ってくれる。そのイケメンムーブに感謝しつつ、二人で調理室へと向かう。

既に窓の外は赤く染まり始めているけれど、学園内にはまだまだ生徒が残っているようだった。みんな気合を入れて臨んでいるのだろう。

やはり負けていられないと、気合を入れ直す。

「なんだかあっという間の準備期間だったね」

「そうだな」

「明後日、すごく楽しみ! でも緊張してきちゃった」

「来年や再来年だってあるんだ。あまり気負うな」

「そうだね。その時も一緒に出店やってくれる?」

「まあ、気が向いたらな」

「ありがとう! 来年は何やる?」

「俺の話を聞いていたか?」

いつものように他愛のない話をしながら歩いていき、廊下の角を曲がって調理室が見えた瞬間、だった。

大きな爆発音が響いたかと思うと、頭と肩に痛みを感じる。気が付けば私の身体は思い切り床に叩きつけられていて、ぼんやりと真っ白な天井が見えた。

すぐに吉田が駆け寄ってくれたものの、あまりの痛みに指先ひとつ動かせず、声も出ない。視界もだんだんとぼやけてきて、これはまずいやつだと悟る。

「おい、しっかりしろ! レーネ! おい──」

そして少しずつ吉田の声が遠ざかっていき、私の意識はぷつりと途切れた。

◇◇◇

「……っいった……吐きそう……」

ゆっくりと意識が浮上し、目を開ける。頭が痛む中、頬に触れているひんやりとした床の感覚が気持ち良い。

少しずつ思考がはっきりしてきて、爆発的なものに巻き込まれて頭を打ったことを思い出す。吉田は無事だっただろうかと慌てて身体を起こした私は、息を呑んだ。

「……な、んで……」

つい先程まで学園の廊下にいたはずなのに、目の前にはゲーム機の詰まった棚やテレビがあったからだ。見覚えのある光景に、だんだんと心臓が早鐘を打っていく。

だって私が、この場所を分からないはずがない。

「私の、部屋……?」

そう、この場所は間違いなく私が暮らしていた、元の世界の自室だった。