軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋のお話 2

前世では20歳を超えていたし、今15歳の私にとって歳下は流石に厳しい。後はとにかく一途で優しくて、一緒に頑張っていける人なんかが理想かもしれない。

「年上で優しくて、私をすごく好きな人がいいな」

「うんうん」

「あとは健康で私より長生きしてくれると嬉しいかも」

「レーネちゃんの好み、少し変わってるね」

こうして口に出してみると、なかなか恥ずかしいものがあるけれど、ユッテちゃんは何度も頷いてくれる。

「ごめんなさい、遅くなって」

「ううん! お疲れ様」

そんな中、先生に呼ばれていたテレーゼは用事を終えたようで、私達の間の椅子に腰を下ろした。

「とても楽しそうだったけれど、何の話?」

「恋バナをしてて、好きなタイプを聞いてたの」

「そうだったのね。私もレーネの話が聞きたいわ」

「でも、悲しいくらいに浮いた話はないんだ」

「あんなに美形に囲まれてるのに、不思議だよね」

確かに周りはみんな美形だけれど、大切な友人であって恋愛する相手として見たことはない。

向こうだって私にそんな風に見られても困るだろう。吉田辺りは「は? 気色悪いな」と一蹴してきそうだ。

「でも、レーネちゃんって今まで一度も恋をしたことがないんでしょ? 自覚してないだけかも」

「確かに恋がどんなものなのか、さっぱり分かってないのはあるかもしれない」

「あ、そうだ。いきなりだけど、もしも二人きりで一緒に旅行に行くとしたら誰がいい?」

「旅行? うーん、それならユリウスかな」

頼りになるし気を遣わず楽しめそうだと思い、そう答える。するとユッテちゃんは「ふむ」と首を傾げた。

「心理テストなんだけど、実は好きな人なんだって」

「げほっ、ごほっ」

予想もしていなかった答えに、ティーカップに口を付けたばかりの私は思わず咳き込んでしまう。

「レーネちゃんのお兄様はすっごくかっこいいし、好きになってもおかしくはないと思うけどなあ……間違ってドキドキしちゃったりしないの?」

「ええと、それは……」

正直なところ、最近はドキドキしっぱなしだ。時間が経てば自然と落ち着くと思っていたのに、むしろ悪化するばかりで困っていた。

テレーゼもユッテちゃんも信用できる大切な友人だということもあり、まだ吉田にしか話していない秘密を打ち明け、相談してみることにした。

「……実はユリウスと私、血が繋がってないんだ」

「えっ!?」

「まあ」

顔を寄せて小声でそう話せば、二人はひどく驚いた表情を浮かべた。テレーゼは口元を片手で覆っており、ユッテちゃんなんて椅子から転げ落ちそうになっている。

「全く似ていないとは思っていたけれど……まさか妹さんだけじゃなく、お兄さんとも繋がっていないなんて」

「我が家、本当におかしいよね。怖いもん」

冷静に驚くテレーゼの隣で、ユッテちゃんは何度か大きく深呼吸をした後、ふうと息を吐いた。

「待って、何故か私がドキドキしてるんだけど、レーネちゃんのお兄様もそれ、もちろん知ってるんだよね?」

「うん、知ってると思うな」

「それであんなにレーネちゃんのことを大切にして独占欲たっぷりなのって、絶対に恋愛感情を抱いてるよ!」

ユッテちゃんはそう断言したけれど、私としてはやはりそうとは思えない。仮にユリウスが私のことを好きだとして、それを隠す理由がないからだ。

まさかあの完璧超人でいつだって余裕たっぷりの兄が好きだと言えないなんてことも、あるはずがない。

「でも私は血が繋がってないって知ってから、いちいちドキドキしちゃって困ってるんだ。どうしたら落ち着くかな? 今まで通り兄妹として仲良くしたいのに」

そう尋ねると、二人は顔を見合わせた。

「それは仕方ないんじゃないかしら? レーネは記憶がないんだし、兄というよりただの異性だもの」

「うん、そうだよ! 誰だってそうなると思うし、あんなお兄様にドキドキしない方がおかしいよ!」

強くそう言ってくれて、ほっとする。やはりこれは不可抗力なのだ。私ではなくユリウス・ウェインライトという、誰でもときめいてしまうような人間が悪い。

あんなにも格好良くて自分にだけ優しくて、困った時にはいつだって側で助けてくれる異性にときめかない可能性なんて、天文学的な確率である気がしてきた。

「でも、レーネちゃんは他の誰にもドキドキしたりしないんでしょ? ヨシダくんやヴィリーがお兄様と同じことをしたとしても、ドキドキしないよね?」

「確かに、どうしてだろう」

確かに吉田やヴィリーに抱きしめられても「暑いね」くらいの感想しか出てこない自信がある。

アーノルドさんの距離感バグも心臓が悲鳴を上げるものの、ユリウスの時とは違う。胸の奥がぎゅっと締め付けられるような、あの感覚になることはなかった。

「そのドキドキが恋の始まりかもしれないよ?」

そんな言葉に、はっと顔を上げる。私がユリウスのことを好きになるなんて、考えたことがなかった。

今まで何度もドキドキしてしまっていたけれど、つい最近までは兄だと認識していたし、私が男性に免疫がないからだと思っていたのだ。

「私がユリウスを……えっ、私がユリウスを!?」

「ふふ、本当にレーネちゃん恋愛初心者なんだね。まだわからないけど、とにかくありのままでいいと思うな」

「ええ。レーネの気持ちはレーネのものだもの。誰かを好きになったとしても、絶対に悪いことじゃないわ」

もしも私がユリウスを好きになってしまったら、私達の関係はどうなるんだろう。ユリウスにそんなつもりがなければ、避けられたりしてしまうのかもしれない。

それでも、先ほど自分の気持ちを大切にすると約束したばかりなのだ。何よりまだ恋だと決まったわけではないし、心配しすぎていた気さえしてくる。

「それに、レーネちゃんのお兄様は絶対もう──」

「あ、レーネ。まだ時間かかりそう?」

「わあああああああ!」

ユッテちゃんが何かを言いかけたのと同時に、突然ユリウスの声がして、口からは大きな悲鳴が漏れた。どうやら今日も一緒に帰ろうと待っていてくれたらしい。

「あれ、お取り込み中だった?」

「う、ううううん!」

「どっちなの? それ」

どこまで会話を聞いていたのか不安になったものの、何も聞いていなかったようで安心する。

「ちょうど話が終わったところだったので、ぜひレーネちゃんを連れて帰ってください!」

「えっ、ユッテちゃん!?」

「そうね。お兄さんを待たせるのも悪いし」

二人は私をぐいぐいとユリウスの方に押した後、ひらひらと手を振った。謎の気を遣われている気がする。

「そう? じゃあお言葉に甘えるね、帰ろっか」

「ハ、ハイ……」

手を繋がれ、心臓が早鐘を打っていく。やがてユリウスはもう一方の手で、するりと私の頬に触れた。

「どうしたの? なんか顔、赤いけど」

「こ、紅茶にアルコールが入ってたのかもしれない」

「あはは、それが本当なら大問題だよ」

動揺する私に冷静なツッコミをするユリウスは「ほんと最近のレーネは変だよね」と言って笑う。

その無邪気な笑顔に、やっぱり胸の奥がぎゅっと締め付けられたのが分かった。

──このドキドキがいつか「恋」になるかもしれないのかと思うと、どうしようもなく落ち着かなくなる。

それでも不思議と嫌ではないと感じながら、私は温かな手をほんの少しだけ握り返し、歩き出した。

「……あの二人、絶対にもう始まってると思うんだ」

「奇遇ね。私もそう思っていたところよ」